第八百四十五話
薬物汚染問題は有識者会議で議論後、執務室で悩む。
まー、どうやっても、宇宙系兵隊の人でなし薬の投与は続くだろう。
夜間のシフトで眠気を飛ばす薬がないとキツいし。
カフェインじゃ限界あるだろうし。
手足吹っ飛んだ状態で痛みと恐怖を取り除く薬も必要だ。
わかってんのよ。
俺も嫁ちゃんも理想主義の寝言をほざいてるわけではない。
問題は「少し手加減しろボケカス」という話なのである。
ハードランディングは社会不安や混乱を招くのである。
銀河帝国はもう平時の気分なんだからさ!
文官側もそれをわかっててあの苦言。
現在の嫁ちゃんの周りなんて『わかってる』人材しかいないもん。
わかってて後退ラインを削ろうとしてるわけ。
つまり、半分は出来レース。
減薬という台本はあるけど、そこまでの過程でどれだけ削るかみたいな話でしかない。
しかもどさくさ紛れに陸軍の軍縮も混ぜてくるという地獄。
その分の予算を復興に当てろと。
それを嫁ちゃんを応援してる軍閥が許すはずもなく……。
あっちを立てればこっちが立たず。
もうね、もうね、クソめんどう!
とりあえずイソノのお義兄さんの問題を最大限利用させてもらうしかない。
あれ……ちょっと待てよ。
つまり大佐も軍縮派か?
いやでも……陸軍いないと責められたら終わりだし。
……うむ、わからん。考えるのやめよう。
俺が頭を悩ませてるとクレアとメリッサが執務室に来た。
クレアはアークちゃんを連れてきてる。
「あなたー。少し休んだら?」
時計を見たら、かれこれ二時間くらいうなってた。
わからんのである。
「そうだな……アークちゃんパパですよ~♪」
「あうー!」
アークちゃんが身を乗り出した。
パパの方じゃない。
飾ってあったハロウィン用のカボチャにだ。
「それは食べられないやつかな」
クレアが困った顔をする。
「あぶー」
そしてごまかすように変顔。
まさにミニカワゴン。俺の血である。
つうかさ……だんだん俺と顔の系統が似てきたな……。
嫁ちゃんやレンの子どもは母親似なのに。
日系だからそう見えるのだろうか?
「クレア、用事あるんだろ。預かってやるよ」
メリッサはそんなアークを抱っこした。
「はい、アークちゃん。メリッサママって言ってごらん」
「あぶ?」
困った顔をするアーク。
なんか話が通じてそうなんだよなあ……。
クレアはメリッサに容赦のないアイアンクローをお見舞いする。
「あんたどさくさ紛れに何してんの!」
「いや子ども欲しいなあと」
「あんたねえ! 治療もうすぐ終わるんでしょが!」
「ち、痛い! 痛いから! 冗談だって!」
そんな心が温かくなるやりとりを経て、本題。
「レオ、カレンちゃんは?」
「入院中。薬は抜けたみたい……なんだけどさ。常用してる薬がね……」
リストを送る。
もうね、アホみたいに薬飲んでるわけ!
「うわぁ……睡眠薬と痛み止めだらけ……」
メリッサがドン引きした。
俺もすでにドン引きしてる。
あと脳の血流を増やす薬などもある。
思考能力ブーストするんだって!
それコレステロールとかで脳の血管詰まったら一発で死ぬやつじゃね?
さらに気分をブーストするやつとかシャレにならないのもたくさんある。
「子どもの頃から飲んでて効かなくなったら種類増やしたみたい!」
もうね!
なに考えてんのよ!
「う、うわぁ……」
クレアもドン引きである。
「よ、よく生きてたね……」
「レプシトールの医薬品はそれだけ安全なんだろうけどさ~。それでも寿命を短くしてるよね」
ということでカレンさんは教育入院。
薬に頼らないようにする。
ケビンに「ぼく、精神科は完全に専門外だよぉ……」って嘆かれた。
ですよねー。
完全に薬が抜けたらどうなるかはわからない。
いや現在は抜けてるんだけど、そういう意味じゃなくて依存が抜けたらって話。
「イソノくんのお義兄さんは?」
「あっちは優秀な軍人だからね。大人しく入院してるって」
それにしてもイソノの野郎……。
お義兄さん来るまで家燃えた話すら俺にしやがらなかった。
あの野郎……水くさいじゃねえか。
「イソノは怒らないでやってよ。たぶん隊長の邪魔になりたくなかったんじゃねえかなあ。ねえアークちゃん」
「あぶー」
メリッサがアークをあやしながら言った。
アークの目線はカボチャに釘付けだ。
だから食えないって。
においでわかるのだろうか?
それよりもイソノだ。
「俺の邪魔になりたくないって?」
「足引っ張ろうって連中がいるだろ」
確かにその通りではある。
敵ではないが味方でもない勢力がいるからね。
俺の人気があるうちは黙ってるんだろうけど。
世論に飽きられたら叩こうとネタを集めてるに違いない。
いまだにクロノスですらゼン神族との講和を主張する連中いるからね。
どうやって?
なるべく具体的に言ってみ?
何度も聞いてるが答えてくれない。
俺たちがローザリアに到達できれば勝手に使者を名乗って外交しはじめるつもりだろう。
そしたらゼン神族は俺は違法な統治者であって、民主主義を守る講和派こそクロノスの正当政府って言い出すのだろう。
もうやりかたはわかってるんだな。
そんなのは歴史が証明してる。
それに対抗するには民の結束……なんて言う連中もいるが、まったくの嘘である。
単に法律上の正当性をガチガチに固めりゃいいだけだ。
辞めろって言われたら辞めるし。
夜逃げの準備はしておこうと思う。
だいたいさー、周辺諸国が俺を元首と認めてるんだから通らないよねえ。
だからこそ、こういう細かい問題で揺さぶってくるのである。
これは俺たちの周りにスパイがいるって話じゃない。
スパイし放題のレプシトールの国内事情や戦争中ってことを考慮すれば当然予想できる状況だ。
要するにすでに情報戦はバチバチに起きてるし、相手の場所がわからない以上、ゼン神族のやりたい放題。
ずっとゼン神族のターンってわけ。
でも俺たちは宇宙港作りまくってプレッシャーかけ続けるから差し引きゼロと。
……というのが情報部の分析だ。
だとしたら俺だったらどうする?
無能な文官リストアップして厚遇からの裏取引かな?
銀河帝国の公爵会や侍従みたいにね。
ちょっとずつ蝕んでいく。
そういうの得意な俺のターンは来ない。
だとしたら、遺跡の調査とローザリアへの航路の確立をするしかないね。
やればやるほど嫌がらせになるし。
俺に心理戦で勝てると思うなよ。
「ねー、アークちゃん。パパがアークちゃんを守るからね」
「私たちもね。パパ」
パパガンバル!
あとさ、メリッサ。
そろそろアークちゃん返してあげなさい。




