第八百四十二話
イソノの姉ちゃんの旦那さん、要するに義理の兄さんは軍艦の独房に入れられてた。
お薬自体は切れてる。
専用の急速透析装置があるのだ。
もちろんナノマシンでも修復可能。
だけど、お薬の効果を繰り返し学習してしまった脳を元に戻すのは難しい。
だからお薬を使わないように精神をコントロールする術を学習させるとのことだ。
「レオくんもこうなってたかもしれませんね」
他人事みたいに人でなしの妖精さんが言った。
「思い出したんだけどさ。ケビンより俺へのキルレート高いのいたわ。妖精さん! お前だ!」
君、お薬使って俺のこと殺しかけたよね?
「な、なんだってー! 確かに廃人になりそうなお薬とか投与しましたけど! 生き残ったからいいでしょ! 神経も強化されましたし」
「待って。あの薬、そんな効果あるの?」
「そりゃ昔のスーパーソルジャー作るための薬ですし」
「寿命縮むとかの副作用は」
「あのとき即死しなきゃ大丈夫です」
「待って、即死する可能性あったの?」
「だってヴェロニカちゃんの生存が優先ですし! それに今ほど信用ありませんでしたし!」
なんたる人権軽視!
そりゃ妖精さんにとっては嫁ちゃんはクローンの系譜だから優先するのはわかるけどさ!
「あー! そういう態度!」
「いいじゃないですか! 将来の嫁ですよ!」
「結論が飛躍しすぎて意味わかんねえよ!」
「またまたー。共に死線をくぐり抜けた相棒と燃え上がる愛。これ絶対の真理です」
「あー、うん。クレアとは結婚したね」
「私の体も完成したらレオくんの意思とは無関係に嫁になりますんで。あ、子どもたくさん欲しいです。拒否したら全人類絶滅で」
「俺、とんでもねえヤンデレに愛されてる!?」
「わかってんじゃねえですかー!」
ビースト種、ゾーク、ジェスターに続く新勢力「妖精さんと愉快なクローンたち」。
人類はこうやって進化するのだろう。
ネアンデルタール人的な文法で。
鬼人国人、ラターニア人、太極国人、クロノス人とのカップルや子どもはすでにいるしね。
どう完成するのかは知らん。
完成を見とどける前に俺は死んでる。
うちの子見る限り優秀そうだ。
はっはっは、人類の未来は明るいな!
なお妖精さんを嫁にするのに抵抗はない。
殺されてかけたこともあるが大事な仲間だ。
一緒にいて退屈な思いもしないだろう。
なるようにしかならんな。
イソノとお義兄さんが収容された病院に行く。
なんで俺までいるのだろうか?
イソノの野郎に「来てくれ!」って頼まれて、つい来てしまった。
判断誤った!
大佐が朱華ちゃんを見てくれるようだ。
病院内のゲートは通常のカードキーなんだけど、この病棟だけ油圧ドアだ。
看護師さんに案内されて病室に入る。
「義兄さん生きてるか?」
「はははは……すまないねえ」
ガリガリに痩せた男性がいた。
眼鏡で真面目そうな印象だ。
「薬の依存症だって」
「お恥ずかしい。帝都防衛戦で自走砲が攻撃されて、その爆発に巻き込まれてね。両手両足がなくなっちゃって……ナノマシンでくっつけたんだけど痛みだけが残っちゃったんだ」
かなり再生箇所が多かったんだろう。
脳が「手足ないよ!」って勘違いしたまま痛みを発してる状態だ。
よく見ると顔や頭部に古傷がいくつもついていた。
手足の再生を優先して傷跡を消さなかったのだろう。
俺の体のあちこちにもある。
「酒と痛み止めで抑えてたらこのザマだよ。あははははは……」
「脳の正常化処置は?」
技術的にはあるんだけど効果あったりなかったり。
安定しない技術だ。
難しいんだよね。
「したんだけど脳が痛みと痛み止めの快楽を憶えちゃったんだろうね。はははは……情けないね……」
情けないって思うのが一番よくないのだが……これはどうしようもない。
自身が乗りこえねばならないものだ。
「それで、そこの彼は……ってレオ陛下!」
「ああ、ダチのレオ」
イソノがそう言うとイソノのお義兄さんが立ち上がって直立不動で陸軍の敬礼。
「特将閣下! 銀河帝国軍フグタ中尉であります!」
俺は私服なので胸に右手を置いて礼。
なお手は開いて親指だけ隠して胸にくっつけない。クロノス式返礼。
一応クロノス国内で俺はクロノス王だしね。
これでいいはず。
だいたい俺って銀河帝国特将だけど、一般人扱いなのかな?
皇族扱いかな?
それとも外国の高官?
よくわかんないのよね。
なのでわかるやつで対応。
なんとなくでやってる。
お互い細かいことは言わない。
そのうち礼式のすりあわせもしないとね。
「イソノの友だちのレオ・カミシロ・クロノスです」
「ということ、お義兄さんが暴れたとき用に呼んだ」
「暴れないよ……お酒が抜けた先月からはね……」
「お義兄さんさあ、火消さないで酒飲んで寝ちゃって家が火事になっちゃってさ~、いま離婚の危機なんだわ」
思ったより深刻なの来たぞ。
物理のやらかしはダメだ。
「ほんとごめん。君に賠償金払ってもらって……」
あ、借りてた家なのね。
それでイソノの野郎が賠償金肩代わりしたと。
うーん厳しい。
また風邪引きそう。
やはり兵士の精神状態は厳しいものがある。
勝ってるからまだ問題化してないだけなんだよね。
「とりあえずこっちで静養しなよ」
「すまないねえ……」
二人で病院の外に出る。
近衛騎士と合流して外でお茶タイム。
「ま、そういうことですわ。国王陛下」
クッソ、イソノの野郎……わざと連れてきやがったな!
こういう現状がありますよって見せつけやがった!
「俺は責任取らなきゃいけない立場なんだけど」
「責任取るべき状況を知ってよかったじゃねえか。クロノスも同じだし誰も教えてくれねえだろ。だいたいさー、鬼人国人とレプシトール人がおかしいんだって。あいつら心が強すぎだろ」
本当にそれである。
こうしてまた一つ悩みが増えたのである。
また潰瘍できそう。
王様業難しい……。
おかしいな。
王様ってもっとイージーな仕事じゃないの?
「やれ!」
「はい!」
な仕事のはずなのに!
なんか根回しと調整役ばかりしてるんだが!?
……嫁ちゃんにも情報共有しとこ。
こうして俺はさっそく嫁ちゃんへ根回しするのだった。




