第八百四十一話
孫の朱華ちゃんに会いにイソノ大佐がやって来ることになった。
イソノ大佐はものすごく扱いが難しい立場だ。
イソノ大佐の階級は大佐なのだが……上はすべて元皇族である。
つまりイソノ大佐は帝都惑星軍の事実上のトップ。
ただ組織図上では宇宙海兵隊や近衛騎士や警察とは別。
つまりどういうことかというと、軍閥という同じ派閥なんだけど、陸軍なので嫁ちゃんの派閥から微妙に遠い。
なのに息子はゴリゴリの宇宙海兵隊で嫁ちゃんの右腕。
しかも孫である息子の長女は、俺と嫁ちゃんが破滅しない限りは将来のクロノス王妃か銀河帝国皇妃がほぼ確定。
こんなのほぼ皇族扱いだよねって話である。
しかもイソノ大佐本人は極めて理性的に振舞ってる。
皇族風を吹かして派閥の拡大を狙ったり、将来の皇帝の祖父を自称して政治を操ろうとする……そういう徴候はない。
あくまで軍人として予算は強く主張し、他では聞かれたことに答えるだけででしゃばらない。
つまり嫁ちゃんも動向や理想を把握してないのである。
上に立つ人間だとあるじゃん。
「派閥を大きくしたい」とか「軍を強くしたい」とか「宇宙統一をしたい」とか。
強い主張じゃなくても、俺みたいに「軍人の食事を一品増やしたい」とか「前線の兵士の腹を満たしたい」とか「軍の奨学金拡充して軍から大学に進学できる人増やしたい」とかがある。
いいじゃん。身内の待遇改善くらい。
銀河帝国軍とクロノス軍はがんばってるんだから!
将校に贅沢させろって言ってんじゃないの。
兵士のメシと給料増やせって言ってんの。
文句ないでしょ!
というわけで俺も嫁ちゃんも、イソノですらなに考えてるかわからない存在。
イソノ大佐がやってきたのだ。
銀河帝国宇宙海兵隊の軍艦でイソノ大佐がやって来た。
クロノスの地方ニュースで一分ほどの枠になる歓迎式典をする。
こういうのの規模感は外交官の仕事である。
いまだに俺はわからない。
嫁ちゃんもわからない。
そもそも外交の経験値が低い銀河帝国の外交官もわからない。
というか外交のトップが俺とイソノだったりする。
俺とイソノはジャラジャラ勲章の礼服。
嫁ちゃんたちもドレス。
我ながら服の方に着られてる。
まだこういうのが似合う年齢じゃないのよね。
腹も出てないし。
まー、嫁ちゃんや俺が軍高官かつ身内として迎えに来たのだ。
悪い気はしないだろう。
たぶん……。
あ、はい。なにもかもわからないです。
イソノ大佐が降りてきた。
元吹奏楽部勢が演奏する。
なんとかマーチ。陸軍のテーマみたい。
俺たちが知らないのは単に海軍マーチが別にあるからである。
イソノ大佐もジャラジャラ勲章で出てきた。
イソノが挨拶をする。
なにやら話してる。
面白そうなので妖精さんと会話を盗み聞き。
「孫はどこだ?」
「ハナコさんが見てる。焦んなよ」
どこも第一声は同じなのね。
「ふむ」
「義兄さんは?」
イソノの姉ちゃんの旦那さんである。
「……その話もある」
「なんかあったのか?」
「帝都作戦で痛み止めを乱用するようになってな……」
おっと……思ったより深刻な話になったぞ。
「退官させてこっちで養生させようと思ってる」
「軍籍そのままでカミシログループで働かせれば?」
「なるべくなら皇帝陛下の派閥とは距離を置きたかったが……それも視野に入れねばならんな……」
「なんで距離取ってんのよ?」
「一つの派閥しか存在しないのではいつか破綻する。これからの世には烏合の衆が求められるのだ」
「ひでえ言い方」
「ふん、なんとでも言え。優秀すぎても次の公爵会になるだけだ。無能のための派閥も必要だ」
俺は渋い顔になる。
イソノ大佐はわざと悪者になるつもりかも。
俺も無能側の家出身だし気持ちはわかる。
嫁ちゃんたちは優秀すぎるのよ。
そこそこの人たちや残念な人々の声を汲み上げる派閥も必要だ。
社会のほとんどが無能なんだから!
俺も軍人じゃなかったら使い物にならなかっただろうし。
「政治なんざ文官にまかせた方がいいんじゃねえの?」
「文官だって自分たちの判断が正しい自信などない。責任はなるべく分散させるのが出太陽系より前からの人類の知恵だ」
「そういうもんかね」
「お前だってゾーク戦争で後悔の一つや二つ残してるだろう?」
「まあな。レオの野郎ぶっ殺して俺が上に立ったらって想像することはある。なあ、レオ、どうせ盗み聞きしてんだろ!?」
イソノさあ!
なんでそういうの口にするの!
やめてくれない!?
あとで方々から怒られるの俺なんだからさ!
しかたないので表では笑顔、心では渋い顔して二人に近づく。
イソノ大佐と握手。
「イソノてめえぶっ殺すぞ」
「うるせえ。お前じゃなきゃ負けてたって結論なんだからいいだろ」
「お前さあ、ケビンのとき見殺しにしなかっただろ? そこで分岐したんだと思うんだよ」
あそこがゾークの最後のチャンスだったと思うんだよね。
本当の意味で俺を殺しかけたのってケビンだけだし。
「嘘つけ。あの程度で死ぬタマかよ。ケビンの胸に挟まれりゃ生き返ってきただろが」
「ホントそういうのやめてくれないか」
「真顔になるなバーカ。いまさら抵抗すんな」
そのやりとりを聞いたイソノ大佐が笑った。
「なんだ。本当に親友だったのか」
え?
どういうこと?
「だから言ってんだろ。損得なしでこのバカとつき合ってるって」
「余計な心配をしてたようだな。ワシに気を使って征服王の部下をしていると聞いてな」
「それだけはない。損得勘定でこのバカとつき合ってたら命がいくらあっても足りない」
実際何度か死にかかったしな。
損得勘定だったら裏切って俺と嫁ちゃん殺して公爵会側についた方が効率いいだろうし。
そのときは、銀河帝国皆殺しだろうけどね。
「そうか。ならよかった。クロノス王陛下。息子と孫をよろしくお願いします」
「あ、ども。こちらこそ」
よくわからないけど陸軍問題が解決したようである。
宮殿に行きましょうかね。
あとイソノの姉ちゃんの旦那さん問題が浮上した。
兵士による痛み止めの依存症はクロノスでも問題なのだ。
依存症治療は銀河帝国やクロノスの技術でも難しいのである。




