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第八百四十話

 意味がわからない。

 俺は熊のうなり声をあげた。

 俺はグルダス。

 熊のビースト種だ。

 なぜ?

 クロノスに追放されたのに軍に不採用。

 ここまではわかる。

 なぜならクロノス王に喧嘩を仕掛けたからだ。

 ただ理解できないのは不敬だから軍に不採用ではなく弱いからと言われた。

 は?

 クロノス王とその兄貴がおかしいだけだろ!

 なんだあの兄弟!

 兄貴はまだわかる。

 とんでもなく強い。

 だが弟はなんだありゃ!?

 少なくとも人間じゃねえだろ!

 そもそもだ。

 兄貴の方にへし折られた足は軍用のナノマシンで休息回復。

 軍用ナノマシン怖ッ!

 でもそっちはまだわかる。

 想定内とまでは言わんが、ケガとしては想像できる。

 だが弟は……なんだあれ?

 まずは頭蓋骨。

 ぶちかまして喰らった頭突きのせいでヒビが入ってた。

 は?

 熊のビースト種に頭突きして骨にヒビ入れて自分は無事?

 なに言ってるかわからねえ。

 そして張り手で肋骨を何本も骨折。

 は?

 えっと……俺、戦車と戦ったんじゃねえよな?

 さらに持ち上げられて短パン破けたときに尻とタマタマの横に擦り傷……これはまあいいや。

 で、最後!

 ボディスラムで地面に投げられ、俺の首の骨が折れた!

 嘘だろ!

 熊だぞ!

 首だぞ首!

 熊の首の骨折るか!?

 っていうか人間に可能なのか?

 そりゃ俺も受け身取れなかったのは悪かった。

 でも普通種だろ?

 しかも貴族だろ?

 体重が何倍もある相手をボディスラムっておかしいだろ!

 すでに武術の技って領域じゃねえぞ!

 ちょっとした宴会の余興で殺されるところだった……。

 いや冗談ではなく。

 それをきれいに治した最新の軍用ナノマシン怖ッ!

 で、反逆罪が原因ではなく能力不足で軍に不採用。

 あまりの理不尽さに怒りすらわかない。

 武力の上位層……バケモノしかいねえ。

 むしろなに言ってるかわからない。

 あの場にいた全員がこれを笑ってられる猛者ぞろい……嘘だろ!?

 ゾークって……相手が悪すぎただけなんじゃねえか?

 だって……救急搬送される俺の目に飛び込んできたのは酒飲んで王様と相撲を始める若い男たち。

 俺と違って勝負になってた……。

 嘘だろ……。

 で、ここからがさらに意味がわからん。

 軍がいらんって言うから海賊にでもなろうかなって思ってたら、相撲部屋に売られた。

 お前ら、人権って言葉知ってるか?

 なんでも銀河帝国宇宙海兵隊からの出向という扱いらしい。

 なに言ってるか最初から最後までわからねえ。

 ライオンのビースト種のジャディーンも売られてきた。

 なんでも初日にヒューマっていうおっさんに喧嘩売ったら半殺しにされてここに売られたらしい。

 怖かったって泣いてた。

 尻尾が股間に挟まってた。

 鼻をピスピス鳴らしてた。

 よほど怖かったようだ。

 こっちは怖いと思う前に首の骨折られたわけだが。

 他にも仲間たちがこの相撲部屋に売られてきたようだ。

 蛇のビースト種が俺たちを見て「かわいそうに」って顔してた。

 こっちのレプシトール人って種族らしい。

 なんでも機械で体を改造してたのに全部元に戻されて生身で相撲をさせられてるらしい。

 銀河帝国の最新医療技術怖ッ!

 え? 機械化手術まで元に戻せちゃうの!?

 スポンサーの入れ墨だけは消さないでくださいってお願いしたら、それだけは許してくれたんだそうだ。

 ……スポンサー……入れ墨入れようとしてくるんだ……。

 ちょっと、この銀河の常識怖すぎない?

 あ、レプシトール人だけ?

 レプシトールってちょっと……その……おかしくね?

 クロノスに併合されてからだいぶマシになった!?

 王様あれなのに!?

 お前らが王様だと思ってるの、たぶん宇宙怪獣とかそういう存在だぞ!

 え、知ってる?

 宇宙怪獣カワゴン?

 ……王様人間扱いされてねえじゃん。

 ここで普通に会話ができてることに気づいた。

 勝手に脳内に端末を埋め込まれたようだ。

 最新型で翻訳機がプリセットらしい。

 ……銀河帝国宇宙海兵隊の最新人でなし技術……怖ッ!

 相撲部屋の親方は……おい、あれ有名なプロレスラーじゃねえか!

 おかしいだろ!

 と思って文句言いに行ったらぶん投げられた。

 強い!

 ちょ、強すぎんだろ!

 俺、自信なくなってきたぞ!

 こっちに来てからビースト種より強い普通種にしか遭遇してねえぞ!

 しかたないので大人しく練習する。

 下半身の鍛錬が足りてない?

 あ、はい。

 四股踏みます。

 えっと回数は?


「いいと言うまで」


「お、押忍……」


 ドスコイドスコイ……。

 逃げたいがおそらく逃がしてくれないだろうな……。

 実力に差がありすぎる。


「さあ、準備運動は終わったな?」


 へばってる俺たちに親方が声をかけた。

 え、いまの準備運動だったの!?


「特別講師をお呼びしてる。きなこちゃん!」


「にゃーん」


 猫だ。

 やたらでかい猫だ。


「今日はご飯食べすぎて太ってしまった先生の相手をしてもらおうと思う」


「は?」


 思わず声が出た。

 よく見たら俺たちはポカーン、レプシトール人はおびえてた。

 なにこの空気?


「グルダス、いい度胸だ。まずお前が行け」


「はあ……なにをすれば?」


「相撲に決まってんだろ!」


 決まってんの?

 頭がバグりながらも猫と対峙した。

 猫だ。

 動物虐待は趣味じゃない。

 とりあえず組み付くか……。

 と思うじゃん。


「にゃう!」


 べしん。

 音は可愛いが土俵から部屋の壁まで吹っ飛ばされた。

 え?

 ちょっと何も見えなかったんですけど!


「にゃにゃん♪」


 そのままゴロゴロ転がされる。

 や、やめ!

 まわしが! まわしが破け!

 ぎゃあああああああああああああッ!

 こうして全裸二回目にして俺の相撲人生が始まった。

 なに言ってるかわからねえと思うが相撲取りにさせられた。

 さんざん猫のおもちゃにされたら兄弟子のちゃんこを作り……。

 公爵軍にいてよかった……最低限の料理はできる。

 肉切って、野菜切って、練り物切って……。ドバー。

 鍋の味はカミシロ物産の鍋の素……そのままじゃ味が薄いからアレンジしろ?

 あ、はい。

 これ実質出汁ベース扱いね。

 昆布ねえのか? グルタミン酸でも入れとくか。

 なんで化学調味料! 業務用のストックあるんだよ!

 あ、はい、こっちの昆布は微妙に残念な味?

 銀河帝国産の昆布養殖プラントが動き始めたけどまだ高い? あ、はい。

 さしすせそっと……。

 砂糖に塩に……酢はいらんから醤油に……今回は味噌はいいか。

 最後に化学調味料入れてっと。

 入れすぎるといつまでも舌に味が残るから適量。

 ふう……。


「お前料理上手なんだな」


 手伝いのジャディーンに言われた。

 そりゃなー。

 一応、ゾークと戦ったからな。

 ゾーク戦争も地方の前線になると冷食や戦闘糧食が手に入らない。

 だから調理スキルを手に入れる必要があったってわけ。


「モロダシなのに?」


「うるせえ!」


 殴るぞ!

 こんな俺たちがクロノス大相撲の人気力士になるなんて、そのときは思いもしなかった。

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― 新着の感想 ―
未来は子猫たちの下僕?
こんなんもうグルダスじゃなくてモロダスじゃねえか
これはもしかして旧公爵軍の調理ができるビースト種のお姉さんが長兄の嫁さんになるフラグか?
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