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第八百十五話

 帰って一通り弁償案を考えて提出。

 あとは関係者各位に同意書が送られるだろう。

 金銭での賠償はするとして、神に勝利した記念品を新しく作ろうという感じだ。

 すると顔を真っ赤にしたタンク先生が松葉杖つきながら殴り込んできた。

 予想通りの展開である。


「コラ! テメエ王様! こりゃなんだ!」


 怒る人、一人くらい出るかなあって思ってたのよね。

 品そのものよりも経歴にプライド持ってる人。

 小結くらいになると優勝争い圏内だもんね。


「賠償案です」


「テメエコラ! 俺の四股が神に通じた! 化粧まわしは名誉の傷を負った! それでいいだろがボケ!」


「いやホントそうなんですよねえ。武術家としては神に自分の技が通じた。それだけで満足なんですよねぇ。特に関取は神とされる存在。現役を引退してもなお四股が通じたなんて、それだけで孫の代まで自慢できる話ですよねえ」


「なんだわかってんじゃねえか」


 そうなんだよ。

 わかってるんだよ。

 神事が神に届いた高揚感。

 そしてそれを汚そうとするなって怒る気持ちは。

 カトリ先生も刀弁償しろなんて言わないし。

 むしろ高揚感で手が震えてた。

 神に届く、少なくとも上位存在に届いたのだ。

 俺だってうれしい。

 でもさー……。


「でも王様の立場的には神に勝ったことを宣伝しないといけないんですわ。特に俺は」


 もうね、本音で話す。


「例えば俺が死んでレオニダスくんが神を倒したとするじゃないですか。それなのに褒められないって前例があったらまずいじゃないですか~。俺が兵士だったら確実にやる気なくしますわ」


「お、おう……そうだな」


「というわけで化粧まわしは神器としてクロノスが責任持ってレンタルして飾るとして……これが腹案」


 もう一つの書類を見せる。


「クロノス大相撲協会?」


「ようこそ理事長。神を調伏する四股、タンク親方」


「……俺は小結ですぜ。本場所の優勝経験もない。しかも何年もいられずに角界を引退してますぜ」


 タンク先生はもともと中卒で入門。

 そこで頭角を現して二十歳近くで三役に。

 当時は取材殺到してたみたい。

 だが運が悪かった。

 ドーピングと八百長疑惑に巻き込まれ疑惑の目を向けられ引退。

 なんの救済措置もなく角界を放り出された。

 実際ドーピングをしてたか不明。

 八百長の方はいまになっては闇の中。

 だけどタンク先生なら断っただろう。

 関取で徴兵は免除されてたはずなのに二十歳そこそこで軍へ。

 ほとぼりがさめるまで軍にいたのだろう。

 軍の検査パスしてるんだから問題になるようなドーピングはしてないはずなのにね。

 そこで仲間にプロレスに誘われて、いったん軍を辞職。

 プロレスラーをやってたがゾーク戦争で仲間の敵討ちのため復帰した。

 現在はクロノスでプロレス興行やプロレス教室をやってる。

「俺はフラフラした人生送ってるいいかげんなやつです」なんて言ってるが、そうそうマネできるものではない。

 関わったすべての職種でかなりの功績を挙げてるのだ。

 義理堅いんだろうな。

 おそらくドーピング疑惑も義理立てして真相を話さなかったのだろう。

 それで巻き込まれて処分された。

 損な男である。

 ザウルス先生もそうだけど、俺たちと会うまで運がとことん悪いのよね……。


「神に一撃を与えたのはタンク親方です」


 俺は断言する。


「クロノスのプロレスがようやく軌道に乗って楽になってきたと思ったら今度は相撲ですかい?」


「相撲お好きでしょ」


「ま、そりゃ思うところはありますがね……まあ、一度は人生かけようと思いましたからね。でも追い出されたのも事実でしてね」


「嫁ちゃんがドーピング疑惑の再調査を命じました」


「そりゃ逆に困るんですがね……」


「公爵会にはめられたんですよ。タンク先生は」


「は?」


「当時の大関のタニマチが公爵会でしてね。それで横綱にするんで邪魔になりそうな力士を排除したんですよ」


「は?」


「いったん軍に入ったのは正解でしたね。そのままプロレスラーになってたら圧力かけられて干されてました」


「はい?」


「権力って怖いですよねえ。よくそんな力を振るおうとするのか」


「つまり……あーた……いや陛下」


「俺と嫁ちゃんはね。人を権力で踏み潰すのが嫌いなんですよ。なるべく気を付けてる」


 パーシオンとオーゼンくらいだろうか。

 俺が自覚的に干してるのは。

 そのくらいしないと反省しないんだもん! あいつら!

 嫁ちゃんが干してるのは公爵会だろう。

 これは俺や嫁ちゃんが許しても周りが許さんからな。

 嫁ちゃんが理不尽な裁定下したのは俺の実母……はしかたないとして、俺の父親違いの弟やら妹くらいか?

 他の公爵会の末裔ともども開拓惑星送りだもんな。

 それすらも名乗り出てこられたら困るという切実な問題がある。

 自由にさせてあることないこと言われても困るし。

 実母に会ったことすらないんだからさあ。

 殺さないだけマシか。


「公爵会の過去の犯罪の再検証してるんですわ。その過程で出てきた話ッス」


 俺たちがしてるわけじゃないけどね。

 アマダに丸投げ。

 政争に負けた側の粛清はどうやったって避けられない。

 ましてや腐敗しまくってたらそれを暴いて罰を与えるしかない。

 国民は喜んでるが俺たちは胃が痛くなってる。

 身内だけ見逃すってわけにはいかないからね。

 別に俺たちだって清廉潔白というわけではない。

 かなり解消されたとはいえクロノスと銀河帝国の会計がごっちゃになってる部分はどうしてもあるし、クロノス復興に銀河帝国からとんでもない額が投入された。

 そうなると額が額だけにアホやってる身内はどうしても発生する。

 親兄弟なら直接グーパンして土下座謝罪からの座敷牢行き。

 表向きは病死ですむが、親戚なら腹を切らせる必要がある。

 結構、ワシら身内も粛清したんだよね……。

 ほら、うちやクレアのとこは寄ってくる親戚がそもそも存在しないから大丈夫なんだけどさ。

 レンなんかは実家が公爵家だから親戚を容赦なく粛清しまくってる。

 特にレンは身内に容赦ない。

 長年レン姉弟を軽く扱ってきたツケだろう。

 ゾークや外宇宙の戦争で活躍した人は評価してるから賞罰のバランスは取れてるんだけどね。

 こういうとき一門の結束が強いメリッサのとこや軍閥のイソノや西条君の家はいいよね。

「俺はカミシロ一門だぞ!」なんて言いながら海賊行為をするウルトラバカは少ない。

 行方不明になった人や身元不明の死刑囚いるみたいだけど。

 それはよほどのパターン。始末するしかなかった。

 京子ちゃんの実家なんかだとその場でサメのエサだって。

 ニーナさんのお姉さんは指詰めるだけで許してるって。偉い。


「陛下……疲れた顔してますね」


 骨折がまだ治ってないタンク先生に心配された。


「それなー。過労からの胃潰瘍をいまだに疑われてて薬飲んでますし」


 なんか歯磨き粉と石膏混ぜたみたいな味で液体のやつ。

 そもそも食いすぎなんだと。


「あ、はい。なんかそんなときにスマンス。頭に血が上っちまって」


「いや、武術家として気持ちはわかるんで。化粧まわしは飾らせてもらいますけど、大相撲の件はよろしく」


「……すでに関係者引き抜いてます?」


「まあ神事なんで。俺たちにはわからないこと多いですし。詳しい人で理不尽に干された人を中心に集めてますよ。はい予算」


 ファイルを転送。


「予算……? 嘘だろ!」


「そりゃその程度の予算つきますよ。現在、神への対抗手段が神事しかないんですから」


 アーマードリキシじゃダメなんだよね。不思議なことに。

 彼らはなにもできずに昏倒した。

 そしてこれが一番重要なのだが、あの戦いで唯一育成方法が確立されてるのだ。

 クロノス教や仏教神道の祈りも効果あったけど、育成が難しい。

 効果があった聖歌隊と効果なく蹴散らされた聖歌隊との比較から研究せねばならない。

 その点、お相撲さんは育成方法が確立してるのだ。

 お金使い放題になるのも当然である。

 野球応援団?

 一番不安定だろが!

 あっちはなんで効果あったかすらわかんねえの!

 モメにモメまくったここ数日間を思い出す。

 これが数年後にこっちの力士が銀河帝国の横綱倒しちゃって……。

 大規模暴動にまで発展するなんて誰が予想しただろうか。

 ぼく知らないもん!

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― 新着の感想 ―
思った以上にタンク先生の半生が波乱万丈だった。 これはもう映画化待ったなしでしょw レオと違って隠さないといけないことも少ないし。 そして相撲は神事になるのか。 まあ、元々相撲は奉納相撲が起源らしいか…
聖書にも書かれた天使を倒した格闘技だもの。
外宇宙からの刺客が銀河帝国の横綱を倒す… マスとヤマメの差かも知れない
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