第八百十二話
ぺぽぺぽぺぽぺぽ。
原チャで俺は走る。
うーん、やっぱり原チャでもペダルを踏んでギアを変えるタイプのもいいよね。
それにしても……ここはどこだろう?
風景は俺がガキの頃の惑星カミシロっぽいんだよね。
いまは徹底的な開発で緑の惑星だもんな。
こないだ風景見てびっくりしたよ。
野生動物に影響出るかなって思ったんだけど、あいつら人間にフレンドリーでむしろ増えてるみたい。
病気も寄生虫も持ってないしね。
なんてどうでもいいこと考えながらしばらく荒野を走ると、座敷童ちゃんが親指を立てていた。
目の前で原チャを止める。
「ヒッチハイクですか?」
「うん」
「乗る?」
「うん!」
座敷童ちゃんを後ろに乗せて走る。
「座敷童ちゃん。俺いまどうなってるの?」
血吐いたところまでは憶えてるんだけど……。
そこから先の記憶がない。
「禍つ神の呪いで死にかけてる」
「呪いねえ」
まーた非科学的なの出てきたな。
でもここまで科学が進歩してると、科学も魔術みたいなもんか。
呪いもなんかしらの感染症や寄生虫だろうな。
そのうち解明されるさー。
「俺、死ぬの? 二十年くらい先だとうれしいんだけど」
人間死は避けられない。
これは運命だ。
でもさー、せめて子どもが大きくなるまでは生きたい。
「死なない。末松たちが神と戦ってる」
「ふへー。悪いことしたな」
末松さんは戦闘向きじゃない。
かなり無理をさせてしまった。
「末松は神に恐怖を与えた」
「すっげぇ……やるじゃん末松さん」
「第二陣のイソノ隊が来た」
ちゃんとローテーション組んで交代制でやってるのか。
さすが士官学校の成績優秀者たち。
「いまイソノお兄ちゃんが帝都の球団が優勝したときのホームランバットで神を殴った」
「なにやってんのぉ!?」
何十年も帝都リーグで優勝できなかった球団が優勝したときのアレか。
ガチのお宝じゃねえか!
「それぞれが御利益がありそうなもの持ち込んで殴ってる」
発想が天才的すぎる。
イソノって喧嘩がうますぎるよね。
「折れた」
かわいそうに……。
「でも神に効果あった」
やはりイソノって天才なのでは?
「中島お兄ちゃんが川に沈んでた像を投げつけた」
例のアレである。
鬼神国の市民が川に放り込んだ呪物。
ラウンドワンツースリーのマスコットキャラである。
「かなり効いてる」
「効果あるんかい!」
「イソノお兄ちゃんが気絶した」
それでも届かないか。
うーん……。
「そろそろ俺の出番だな」
「まだ」
「そうなん?」
「中島お兄ちゃんが球場の土投げつけた」
例のヤツね。
全帝国高校大会で負けたチームが持ち帰る土。
御利益あるのかな?
「かなり効いてる」
「すっげー」
野球への信仰すげえ。
さすが師匠なしで達人と呼ばれる地位まで来た漢。
説明不可能なわけわからん強さだ。
「タンクおじさんが来た。すごいの! 四股踏んだら禍つ神の動きが止まった」
「正統派の神事!」
タンク師匠は元小結だ。
その資格はある。
順調にギャグ展開になってきたようだ。
「じゃ、そろそろ……そうだ。聞いていい?」
「そのためにお兄ちゃんの中に来た」
なるほど。ここ俺の中か……。
だから故郷そっくりなのか。
ま、聞きたかったことあるし。
「本当のレオくんさ。俺のせいで殺しちゃったの?」
いくらなんでも残酷だなと。
その……罪悪感のようなものがチクチクしてる。
人のもの盗むんでもやりすぎじゃないかと。
「いま、お兄ちゃんはそれで悩んで弱ってる。だから教えるね。ゾークに襲撃された実習船でクロノス王じゃないレオ・カミシロにお願いされたの」
うん?
前のレオ、兄貴の望んだこと?
「お母さん。リサ・カミシロを助けて欲しいって」
「実母じゃなくて?」
実母……兄貴にまで切られてたのか。
どんだけクズムーブしたんだよ……。
そしておかんの頼もしさよ……。
「うん、リサを助けてって。運命が変わるなら自分は生まれてこなくてもいい。消えてもいいって」
「待って、つまり前のレオは……」
「前のレオは公爵会の血筋。ゾークにはなれてもジェスターになれない」
「そういうことか……」
なぜ俺が話を変えられたのか。
そうか、自分がジェスターなのがすでに運命の改変後だったわけだ。
「ゾークになった世界線でレオは失敗した。だから本来生まれてくるはずのない弟にすべてを託したの」
神の陰謀でもなんでもなかった。
兄貴が発端だったのだ。
実習船で死んだときに兄貴が願ったことだったんだ!
代償は自分の存在。
ゾーク化した世界でも自我は残ってないだろう。
それでも失敗した。
だから存在すべてを捧げたのだ。
「だったら俺もがんばらねえとな」
「うん! ちょっと待って。ザウルスおじさんがチャンピオンベルト持ってきたから」
とうとう御利益ありそうなものが尽きたか。
いくらなんでもチャンピオンベルトは効果ないだろ。
すると後ろに乗ってた座敷童ちゃんが背中を叩く。
「これ」
なにかを渡してきた。
刀?
「神刀。あ、チャンピオンベルト効果あったよ! 戻っていいよ!」
「あざっす。どうやって戻ればいい?」
「全速力」
「あいよー!」
俺は原チャを一気に加速させた。
道の先には光が広がる。
俺たちは光に溶けていった。
「……婿殿!」
びたこん!
嫁ちゃんに頬をフルスイングで殴られた。
さらに往復びんた。びたーん!
「起きんか婿殿!」
「ヴェロニカちゃん! 死んじゃう! レオ本当に死んじゃうから!」
ケビンの叫び声が聞こえた。
そこで目が開く。
「た、叩くなら夜お尻にして……」
「婿殿!」
いまなにか違う扉が開きそうになったわ。あたい。
「ただいま嫁ちゃん」
「おかえり婿殿」
さーて、兄貴に借りを返すかね。
「やっほー、星の神ちゃん」
「不敬不敬不敬不敬! 神に逆らう愚物め!」
俺の手には座敷童ちゃんの刀が握られていた。
「む、婿殿……その刀は?」
「座敷童ちゃんのプレゼント」
刀が光を放つ。
その光を見て星の神は顔を歪ませた。
「不敬!」
おっと衝撃波。
「ふん!」
気合バリヤー!
まーあれよね。
カトリ先生の気合よりマシだわ。
じゃあこっちも気合。
「ガオオオオオオオオオオオオオオッ!」
ビリビリと部屋が揺れた。
「百獣の王カワゴン……」
ひでえなイソノ。
なんだお前もダウンしてたのか。
……目から血流しちゃって。
「旦那様! 第三陣馳せ参じました!」
レンにメリッサにクレアが来た。
交代要員ね。
兵たちがまわし姿で昏倒するタンク先生を運び出す。
すまないッス。
あとでおごります。
「陛下来たであります!」
ここでワンオーワンと女性型ゾーク隊も到着。
「太極国神官隊。祈れ!」
そして第三陣の神官隊は太極国。
シーユンが指揮を執る。
シーユンは……ユニフォーム姿。……はい?
後ろの連中は……球団応援団んんんん!?
「応援歌斉唱!」
大音量で応援歌斉唱。
効果あるかなって疑問だった。
誰もが疑問だったから第三陣に組み込まれたのだろう。
だが効果は絶大だった。
星の神はたじろいでる。
さらに恐ろしい話をしよう。
おそらく第四陣で待機してた鬼神国の応援団が廊下で応援歌を歌い始めた。
我慢できなくなったのだろう。
神がヒザをついた。
「ふ、不敬なり……」
俺はゆっくり近づく。
正直言うと……こんなしょうもない手で追い込まれる星の神ちゃんがかわいそうになってきた。
「悪いな。神様」
「ふ、不敬」
ちょうど星の神は罪人座りになっていた。
俺はその首に刀を振り下ろした。
シリアスさん「ばいばい」
※一つ初期設定出し損ないました。また機会があれば出します。




