第八百十話
すべてぶちまけたらメリッサは落ち込み、ルーちゃんママは耳を塞ぎながら「聞きたくなかった!」って繰り返してた。
はっはっは!
俺の優勝!
「た、隊長……それでいいの? 母親の名前も知らないで」
「うーんとね。たぶんね。最初は実母が『汚らわしい子どもに名前を教えないで!』って言ったんだと思うのよ~」
説明しながらも俺はなにかに引っかかってた。
なんだろうねノドに刺さった小骨というか。
「でも俺が知らずに逃げた先の家ごと潰したからさあ。たぶん都合悪くなって名乗り出ようとしたんだよね。でも嫁ちゃんに『契約を守るなら生かしておいてやる。名乗り出たら家族ごと始末する』って言われたんだと思うよ。いや正確には嫁ちゃんが直接会うわけないから軍部の怖い人」
実母に言い渡したのはピゲットの関係者か。
それなりに偉い人だよね。
高倉前大将閣下か。
いや……どちらも罪人に会うには偉すぎる。
イソノん家やメリッサの実家の誰かかも。
アマダは警察だから違うか?
うーん、誰に借りを作ったかだけは把握したい。
あとで嫁ちゃんに聞いて礼状とお酒でも送ろうっと。
こういう貸し借りって重要なのよ。
借りを返せばいいってもんじゃなくて、細かい人間関係が重要なのである。
少なくともクロノス王レオ・カミシロ・クロノスが感謝してると本人へ伝える必要はある。
なんの件かまでは言う必要ないけどね。
そこは空気読んでねって話。
持ちつ持たれつ。これ重要。
「聞きたくない! これ以上聞きたくなーい!」
ルーちゃんママが叫ぶ。
「ほーらメディアの大好きな汚い現実だよぉ」
俺は汚い笑顔で笑う。
そうなのである。
だって実母に捨てられた話なんて俺がコントロールできる問題ではない。
オープンにしたってダメージはない。
そもそも俺がどこの馬の骨かわからんのはいまに始まったことではない。
陰口? 知らねえよ。そんな雑魚どもの言葉。
「うわああああああああああ! 自分が世界で一番かわいそうな気がしてた自分が恥ずかしい! 隊長の話がヘビーすぎる!」
メリッサは顔を隠してジタバタした。
「メリッサ……ぜんぜんヘビーじゃないよ。だって俺にはコントロールできない事柄で、俺に責任ないもん……」
見て見て! この清い目!
「だってさー、『おかんに実子と比べて少し雑に扱われてたかも?』って疑問が解消したわけでさ。クッソ不器用なだけで守ろうとしてくれたわけだし。親父はあらためてダメ人間なのがわかったけど」
宮廷女官やってたおかんが親父なんかと結婚した理由もこれで判明。
本来なら公爵会や侍従に取り込まれてたはずだ。
おそらく能力は高いけど生き方が不器用すぎて煙たがられたんだろう。
バカのフリして遠回しな暗殺命令回避するって……タヌキムーブの極みだろ……。
確実に公爵会に恨み買ってるわ。
「ど、どうやって報道すれば……い、いや、そもそも報道しないって手も」
ルーちゃんママが頭を抱えながらブツブツ言ってる。
「『実母の嫁ぎ先を知らずに踏み潰した戦下の悲劇』でも『暴君のスキャンダル』でもご自由にどうぞ。いっそいつものコメディでもいいですよ」
「ぶ、部長……いえ、社長に問い合わせても」
「どうぞどうぞ。こちらの関係者には圧力かけないように伝えときます」
ノーガード戦法こそ最強なり。
特に報道に対してはね。
俺はなに言われようが困らないもんね~。
ただし嫁や子どもたちの悪口言ったやつは殺す。
宇宙の果てまで追ってぶち殺す。
「メリッサは自分の母親どうしたい?」
「殴りたい」
「わかるー!」
思わず同意。
それもそうか。
俺の場合、納得したら怒りも会いたいとも思わなくなったけどね。
いまでも殴りたいとは思うけど、正直言って『めんどくせえ』っていうフラストレーションで殴りたいってだけ。
恨みはない。
自分のルーツに関する興味も薄れた。
だって追い打ちする余地がないくらい破滅してるもん。
赤ちゃんプレイは少し前に堪能したし。
それになー、いまの自分はパイロットとしても武術家としても満たされてる。
自己肯定感は揺らがない。
「捨てたなら捨てたでスジ通せって思う」
メリッサがぷんすかしてた。
それもそうか。
メリッサは繊細だからな。
俺はテキトーだけど。
そして俺はほほ笑む。
ああ、かわいそうな生まれてくることもできなかった兄貴。
うん?
なんか引っかかる。
なんで兄貴って断定したんだ?
さっきからおかしい。
「うううううううううううううん?」
急に頭の中が黒く塗りつぶされていく。
俺は立っていられず膝をついた。
「ど、どうしたの隊長! ねえ! あなた!」
『あなた』なんてえっちー!
などと言う余裕はなかった。
なんか急に頭の中がごちゃついてきたぞ。
なんだ。いきなり触れてはならぬものに触れたというか……。
禁忌のようなものに触れたような感覚が……。
鼻血が出た。
なんだこれは!?
口からも黒い血が出てきた。
潰瘍?
いや待て、こないだの検査で異常はなかったはず。
なぜだ?
「医者呼んで! こちらメリッサ! 陛下が倒れ……レオが倒れたの!」
なんだ?
なにがあった。
そのときだった。
座敷童ちゃんが現われた。
「あ、神様! うちの旦那が!」
「お兄ちゃんは星の神の禁忌に触れたの。いま助ける!」
禁忌?
どこに禁忌が?
だらしない女が破滅しただけの話のどこに?
かわいそうな子……。
そうか……俺は本来のレオじゃないのか……。
本来のレオは亡くなった子。
俺は転生したと思いこんでる狂人……。
などではなく、いや転生を証明することは不可能だからいったん置くとして。
座敷童ちゃんたちの仕込んだバグキャラ。
そうだ。最初からおかしかった。
本来のレオは成績を親の権力で良くしてもらってる傲慢なキャラ。
だがうちの家にそんな権力はないし、そもそも俺は成績優秀だ。
だが……子が生まれてうまいこと公爵会と渡りをつけたとしたら。
それも可能だ。
俺がゲームだと思い込んでるものの実態は不明だ。
それは俺には解明はできない。
だがわかるのは、俺がレオになったという因果の変更があったから……嫁ちゃんは救われた。
つまり俺がジェスターなのは……。
神の計画か?
いや……そこまで計画的に運命をいじってるはずがない。
不確定な要素をばらまいて、そのうち成功したのが俺ってだけなんだ!
「うッ!」
結論に到達した俺は大量の血を吐いた。




