第八百八話
さて、まずは俺たちの話をしよう。
オクラの水やりが終わって執務室に戻ろうとしたらシャッターが降りてきて閉め出された。
こりゃまずいなと思った瞬間、マニュアルに従ってパニックルームに行くことになった。
壁の操作盤で近衛騎士が認証すると壁に偽装したパニックルームの扉が開く。
すぐに放り込まれて、俺の脱走を防ぐためか近衛隊全員の監視される。
しかたなく俺はミネラルウォーターを出す。
保管庫にあるの知ってるもんね~。
「飲む人、あとインスタントラーメンあるけど誰か食べる? たしかこの辺に電気ケトルが……」
そう言って部屋に備えてる電気ケトルを出す。
ラーメンはクレアの実家がやってるスーパーのプライベートブランドのやつ。
地方惑星との共同開発なんだって。
お湯を注げばいいだけのやつで、かなり美味。
「私がやりますんで陛下は座っててください!」
はい、監禁がはじまった。
「あ、乾燥わかめ大盛りにしたいから取ってくるね」
「大人しく座ってろ!」
何もさせてくれない……。カナシイ……。
一方、そのころのメリッサ。
メリッサの証言から。
メリッサが実の母親と鉢合わせた。
「メリッサ!」
「おばさん誰?」
わかるはずもない。
メリッサは物心つく前に母親に捨てられて、メリッサパパやウタ義姉さんや門弟のおっさんどもに育てられてる。
顔なんかわかるはずもない。
逃げた当時の顔は知ってるんだが、今の顔は知らないのだ。
あとで面会してわかったが……そのなんというか……普通よりだいぶ年取った見た目だった。
若作りが痛々しいというか……。
その厚塗りすぎて剥がれ落ちそうと言うか。
整形手術も不要に繰り返したようで、その……崩れかかっていた。
そこにダイエットを繰り返しタンパク質不足による筋力低下からの老化の進行。
皮膚はたるみ骨を削った場所は違和感の原因として不快感を起させる……。
ようするに……見てられない感じの老人になっていた。
糖尿病を繰り返すうちの親父の方がまだ健康的に見える。
いまさらメリッサの前に姿を現したのだから生活に困難も抱えてるのだろう。
これが娘を捨ててまで欲しかった人生なのだろうか?
俺にはわからない。
「私よ! ママよ!」
メリッサの母親がそう言った。
次の瞬間、メリッサが刀に手をかけた。
メリッサの近衛隊隊長はメリッサを羽交い締めにしながら宮殿の中へ。
こちらも別のパニックルームに押し込まれる。
隊長はメリッサのあまりに濃密な殺気に当てられ、少し必死になりすぎた。
パニックルームに押し込んだときにメリッサは転倒。捻挫した。
押し込んだというか羽交い締めから放り投げたようだ。
後に隊長の女性は手加減できなかったと証言してる。
処分? しないしない。
メリッサもしおしおになってた。
その……武術家の誇り的なものをひどく傷つけられたようだ。
完全に頭に血が上ってジタバタするだけ。
ペイッと抵抗もできずにパニックルームに放り込まれたのが心の底から痛かった。
他の隊員はメリッサの母親に持ってたライフルを向け、その場で腹ばいになるように警告。
「武器を離して腹ばいになれ! 抵抗すれば射殺する!」
で、運が悪いことに……いや当然なんだけど、緊急事態を受けてルーちゃんママが撮影クルーとライブ中継しに来ちゃったわけである。
内容なんかなにも知らずに……。
なんでみんなタイミングが悪いのぉッ! 俺も含めて!
さーて、この事件は面白可笑しく大きく報道され大問題になってしまった。
ルーちゃんママは「そんなつもりじゃなかったのに……」と落ち込んでた。
嫁ちゃんも今回の出来事で多方面からチクチク突かれた。
側に置く貴族の管理がなってないとかね。
嫁ちゃんはブチ切れ。
だって俺の実の母親も逃げた側だし。
貴族の離婚率の高さが本当に大問題に発展した。
俺もどうなのって言われたけど、俺本人がメリッサと同じような境遇なので追及はフェードアウト。
ただオクラの水やりでパニックルーム行きだったのは怒られた。
メリッサは本当に落ち込んだ。
だって結果的にやらかしたわけだ。
いや、本人がコントロールできない部分はいいの。
変な母親の存在とか。
ただ連絡が取れなかったことだけ謝罪した。
タイミング悪かっただけなんだけどね~。
メリッサの近衛隊長はこの責任を追及され辞職願を提出。
俺はその場で却下した。
俺はこの問題で処分者は出さないつもりだ。
嫌だね! 俺まで責任追及されるもんね!
なお、このとき一番運が悪かったのはエディである。
道場で他の剣術部員と共にカトリ先生に押しつけられた『子ども剣術教室』の先生をしていたところ、道場の防犯システムにより外に出られなくなった。
泣きまくる児童をあやすのに苦労したという。
実はエディってカトリ流じゃなくて銀河帝国体育庁制定剣術所属なんだよね。
カトリ流も体育庁所属道場なんだけど、独自のカトリ流でもある。
うっわ、めんどくさ!
とにかく被害者はエディと剣術部である。
さーて、世論は大激論。
家族問題どころか社会に一石を投じる事態に発展。
だってクロノス国民ってイナゴテロで親を失った子ども、子どもを失った親は数知れず……。
子どもを捨てるなんてありえないって空気である。
さすがにストリートチルドレンはいないけど、児童養護施設にいる子だってかなりの人数だ。
ここでメリッサの人気が爆発。
母親ゆるすまじって空気になった。
やだ怖い!
「あ、これまずいかも」
クロノスの裁判所でテキトーに判決出して入国禁止にすればいいやって考えてたがそうもいかない。
ルーちゃんママに俺が直接会うと報道してもらった。
だけど俺も捨てられた側だ。
嫌だけど……おかんと親父と話をするか。
「レオ。それとも陛下。どうしました?」
おかんの執務室に行って話を聞く。
「俺の実の母親の話を聞きたい。メリッサの母親に会うんでまずは自分の中で納得したい」
「……わかりました。父親を呼びましょう」
通信回線を開く。
繰り返す糖尿病で帝都の病院に教育入院中の親父と繋がった。
「どうしたレオ」
かなり肥えた父親が通話画面に出る。
そりゃ教育入院にもなるわ。
「俺の母親について聞きたい」
「あまり愉快な話ではないぞ……。だが……お前も親になったし……そろそろ話す頃合いかもな。お前の母親にはかわいそうなことをした……」
……あっれー?
おっかしいな~。
こっちも空気変わってきたぞ~。
実は運命の子とかそういう設定いらないからね!




