第八百七話
地獄ちゃん「やあ、久しぶり! 元気してた?」
ど畜生がああああああああああああああッ!
まずは俺のやらかしから説明しよう。
銀河帝国槍術連盟と銀河帝国杖術協会。
連盟と協会は目立った違いはない。
組織運営上の違いだ。
細かい話だからあんま気にすんな。
とにかくリコちの実家の武術なんかはローカル商店。
テキトーに運営されてる。
それと比べて軍や警察にねじ込んでるのが連盟とか協会だ。
槍なんかは練習場所が少なすぎて失伝しまくってる。
ほら……体育館……床が傷つくから長物の練習だと貸してくれないのよ……。
正直言って、イソノん家の薙刀みたいに家伝の武術でもないと習得できない。
そこで銀河帝国の文化担当のところが保護してるわけである。
すると公金ラブ注入により団体は権力を持つ。
その被害者は軍の儀仗隊、つまり軍の式典の専門家や士官学校生である。
式典では必ずねじ込まれるのだ。
特に士官学校生は毎回式典前にあわてて練習するのである。
儀仗隊でもなければ、士官学校生はたいてい槍術や杖術を憎んでる。
たいてい式典は銃剣の試験日と近い。
銃剣の試験だけで頭いっぱいなのにそこに槍と杖の稽古まで加算される地獄である。
そんな印象の悪い団体どもがやって来た。
『カミシロ流はワシが育てた!』をやりたいだけではるばる旅客船でやって来た。
お前らさあ、お前らが最低限の護衛で旅客船で来られるようになったのもさー、俺たちがプローンに海賊ギルドに屍食鬼と戦ったからだぞ。
その辺わかってる?
ここは本来ならバトルフロントどころか『法律なにそれ美味しいの?』なヒャッハー地帯だからな!
俺たちと友好国で多大な犠牲を払いながら苦労して平定したんだからな!
お前の護衛やってるアマダ警備の皆さん。
中の人、海賊ギルドだからな!
そんな彼らがやって来た。
老人が多い。
というか軍の儀仗隊出身者ばかりだ。
軍から金出せばいいのに文化関連から金が出てる。
いいや。観光させて追い返そう。
嫌がらせで鬼神国の試合とレプシトールのアーマードリキシの取り組みも見せよう。
少しでも遅延させて俺との謁見は三十分未満にしたい。
ところがクソジジイども、宇宙港に到着するなり俺に会わせろとダダをこね始めた。
「クロノス王陛下に拝見を!」
軍の儀仗隊は軍人のていであるが、ほぼ文官である。
官庁のビルの中にオフィスある。
そのせいか文官がやりそうな遅延戦術を見破るのはお手の物。
すっかりバレてた。
そんな混乱の中、何十人もいた添乗員。
半分くらいコンパニオンを兼ねたセクシー添乗員が一人いなくなった。
メリッサの母ちゃんである。
メリッサの母ちゃんは旅行会社のセクシーお姉さんのリーダーをしていた。
つまり、そういう船旅ね。
この旅セッティングした団体関係者、ガチでぶっ殺すぞ!
後に嫁ちゃんもブチギレ。
この会社は潰れることになる。
だがこのときはまだ会社は健在。
脱走者も普通なら全方面から不審者扱いで捕まってもおかしくない。
でも中途半端に偉い団体関係者が問題だった。
アマダ警備も団体関係者が優先。お偉いさんだもん。
本来ならいなくなったコンパニオンはただの脱走者。一ヵ月後には不法滞在者になる。
優先度は明らかである。
報告書の提出だけ行われた。
だいたいレプシトール人に騙されて犯罪組織に売られるオチである。
その辺の産業も海賊ギルドの子分、俺に耳に入るはずだった。
海賊ギルドから独立した犯罪組織のやらかしでも情報は必ず入る。
だって情報料払ってるもん。
俺を殺しに来た場合も同様である。
武器を手に入れようとした瞬間、必ず情報が入る。
だけどその脱走者は出稼ぎ目的でもテロ目的でもなかった。
なぜかクロノス王都をヒッチハイクで移動。
それができちゃうのは翻訳機の高い精度が悪いんだ……。
後に『金のない太極国からの観光客にしか見えなかった』との証言が調査委員会の報告に上がってくる。
そうなんだよ……見た目じゃわかんないんだよ……。
ヒッチハイクで宮殿へ。
彼女は宮殿の俺たちが住むエリアに入れないことを知らなかった。
まずはオープンにしてる庭園エリアに進入。
そこで趣味で管理してるプランターのオクラに水をあげてた俺や近衛隊と鉢合わせ。
でも俺も近衛隊も気づかずスルー。
報告書来てないし、メリッサの母ちゃんの現在の顔なんか知らないのだ。
現地の庭師と思ったのかメリッサの母ちゃんは素通り。
みんな若いからね。
俺の威厳がなさすぎる件は気にしたら負けとして……。
宮殿の中に住んでる連中とは思わないだろう。
さて、ここで不運が起きる。
メリッサの実家のことなんてまったく知らないカレンさんが護衛と一緒に宮殿に入る。
メリッサも母親の話なんか俺くらいしかしないもの。
あと母親が同郷のリコちくらいかな。詳しい話知ってるの。
メリッサは母親を探してたんじゃなくて、見つけたら余計な事しないように見張ってほしいって頼んでたみたい。
でもリコちの実家の惑星には住んでなかった。
そのせいで居場所すら把握してなかった。
なにも知らないカレンさんにメリッサの母ちゃんが話しかける。
護衛は止めようとしたが、メリッサの母ちゃんは客商売の達人。
笑顔で言った。
「あの……カミシロ隊に家族がいるのですが。面会したくて……」
そう言われてもカレンさんじゃ判断に困る。
カミシロ隊に詳しくない。
俺の嫁たちやいつメンのことはよく知ってる。
でもそれぞれの家庭事情は知らないのだ。
でもカレンさんは優秀。
凄く優秀なので妖精さんに報告した。
おそらく一番正しい行動である。
「ルナ様、カミシロ隊の家族を名乗る方が面会を申し込まれてます」
「予定はありませんね……うーん、どなたに面会ですか?」
カレンさんはおかしいなって思ってたようだ。
だってこっちに仲間の家族が来ることあるけど、全力で良い格好してくるし、一門の護衛を引き連れてくる。
士官学校の連中の家はゾーク戦争の功績が認められ平民でも貴族になった。
その全力なので当然のように洗練されてる。
だからカレンさんからすると「汚いおばさんだな」という印象だったようだ。
カレンさんは笑顔で応対する。ただし絶対零度のブリザード。
「どなたにご面会でしょうか?」
「メリッサ館花……いえメリッサ・カミシロ・クロノスに面会を!」
ここで予感は的中。
クロノスの武妃に汚い格好のおばさんが面会。
ありえない。
「問い合わせますので応接室でお待ちください。さ、ご案内して」
カレンさんの護衛はニンジャ隊である。
ニンジャ隊はもうヒザがガクブルしてたらしい。
「カレンさんが怖かった」ってあとで聞かされた。
そして応接室という名の取調室に案内してた最中……これはマニュアル通りね。
だって俺の執務室がある階の防犯シャッターが下りてたもん。
問題は伝達ミスでメリッサに話が伝わらなかったこと。
メリッサは護衛の館花流の門弟とカミシロ流のアスレチックコースでの稽古を終えて移動中だった。
そこに鉢合わせちゃったのよね……。
俺は後でその話を聞いてる最中「きゅーん」と鳴くことしかできなかった。




