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第八百六話

 巷でとある噂が流れてる。

 まずは子どもの方。


「クロノス王が作った私塾では軍の特殊部隊レベルの教育が受けられる」


 私塾じゃないですぅッ!

 ただの道場ですぅッ!

 なんて思ってたら噂が加速する。


「士官学校や大学に優先入学できる」


 え?

 俺そんな発言してないよ。

 そもそも宣伝すらしてないわけださ。

 ここで血走った目の子どもたちが殺到。

 正確に言うとその親。

 ほとんどがクロノスの惑星や都市の市長や知事の子弟。

 つまり新しいクロノス貴族の子どもたちがこぞって入門を希望。

「武術ですぅっ!」って言うと残念そうな顔された。

 あんれぇ?

 勉学まで教えないといけない雰囲気になってきたぞ。

 しかたないので教師もたくさん呼ぶ。

 施設も別棟を増築。

 すると講師やらせろって博士号持ちのゲーミング坊主やら神社やらの調査団に言われる。

 クロノス含めて現役の大学教授たちもこれに参加。

 生活の安定のためにも講師収入が欲しいんだって。

 まー、いいかって安請け合いした。

 そりゃねー。各種調査なんかは俺たちが頼んでるプロジェクトだし。

 生活くらいは面倒見ないと。

 ほら、イベントで講師呼ぶのは普通だし。

 それに俺の個人プロジェクトだし。

 講師の給料なんて俺の個人資産でどうにかなる程度だ。

 どうせ使った分なんて回り回ってカミシログループに来る。

 そしたら税収やカミシログループからの給料や配当金で俺のところに戻ってくるのだ。

 はっはっは!

 この事業の収支がマイナスでも全体で見ればプラスなのよ。

 むしろ税金が安くなるまである。

 どうせ俺や家族の消費なんてたかが知れてるんだから、これでいいの。

 なんて思ってたら「体育会と文系ばかりずるくね?」って工兵の教官のおっさんたちに直訴された。

 ですよねー……。

 理系も学べる塾ね。

 いや武術の道場……。

 ……これ、予備校どころか大学じゃね?

 って冷静になったらとんでもないプロジェクトに発展したことを自覚した。

 そこで怖くなってクレア様に泣きつく。


「ぴえーん! クレアたしゅけて!」


「もう大学にしちゃえば?」


 愛するクレアは冷たかった。


「どうしてぇ……どうしてぇ……」


「少しは自分の影響力を考えなさい!」


 理想は一回の教室で二十人くらい集まればいいと思ってたのに!

 弟子の育成とかそこまで期待してないし。

 いいのよ。史上最強の流派になんかならなくて。

 超人育成塾どころか総合大学になりそうな勢いである。

 あたいもう知らないわ!

 てめえら道場だっつってんだろが!

 大人は大人で好きなことを言い放題だ。


「門人になるには最低でも精鋭部隊レベルじゃなきゃダメだ」


 え?

 別に初心者歓迎だけど。

 サラリーマンが週一で通う教室もあるし。

 だからさー、裾野は広い方がいいのよ。

 十年やっても上達しない人って大事なの。

 道場の隅で先生の言うこと聞かないで消火器いじってるガキは敵だけど。

 あれはパブリックエネミーね。

 安全ピン外したら戦争だから。

 前回は師範なんだから恥かかせちゃダメでしょ。

 だから普通の稽古を見せたんだっての!

 入門してからいじめられたって言われたら嫌でしょ!

 俺たち銀河帝国士官学校同期はみんなできるけど、普通じゃないことは理解してる。

 最低限これくらいできないと死ぬから必死に訓練したわけでさ。

 体力ない子でも死ぬ気で訓練して、吐く勢いで食事したわけ。

 無理しすぎたせいで、たぶん寿命は数年縮まったんじゃないかな。

 そのくらいの内容。

 でも他流派の出身者に「これやって!」って言うのはおかしいでしょ。

 その程度の常識は俺にもあるわけ……。

 俺はやるけどお前らはやらんでいい。

 自他との境界を明確にする。これ重要。


「た、たいへんです!」


 文官があわてた様子でクレアの執務室にやってきた。


「入門希望者が殺到してます」


「は? 子どもの親?」


「いえ、大人です」


 マゾしかいねえのかよ!

 鬼人国民を中心に猛者たちが集う。

 今度は女官さんがダッシュしてきた。


「か、カレン様からご報告です! レプシトール軍の特殊部隊がこちらに向かってるそうです! 入門希望者です!」


「なじぇッ!」


 さらに別の女官さんも来る。


「か、銀河帝国剣術連盟から入門希望者が押し寄せてます!」


「どうしてぇ!」


「皆一様に『入門試験を受けさせろ!』と主張してます」


「試験なんてないよぉ!」


 だからゆるい流派だっての!

 なんで片眉剃って山ごもり上等みたいな勘違いが蔓延してるのぉ!


「て、帝国槍術と杖術協会からも人が来てます!」


 別の文官さんが来た。

 もうやだぁ!


「縁もゆかりも無いの来た!」


「ゾーク戦争で槍を使ったことがあると主張なされてます!」


「式典用の最初の型しかできないですけどぉ!」


「まだ何もできてないよぉ! ……そうだ。カトリ先生に投げよう」


 一番の元凶に投げればいいのだ。

 そうすべて悪いのはカトリ先生!

 なんて考えてたところでシャーロットのケアまで考える余裕がなかった。

 シャーロットも俺が死ぬほど忙しいのをわかってかなにも言わない。

 お互いに気を使ってた。すれ違い状態だったのだ。

 問題は私生活でも山積みだ。

 とても子どもが欲しいメリッサ。

 もはや誰も止められず好き放題開発をしまくる京子ちゃん。

 きなこに狩りを教わるマイベイビー。

 ソワソワする神籬ちゃんと座敷童ちゃん。

 そしてもう一人……。

 そうなのである。

 俺は日常が一番危険なのだ。

 押し寄せる団体の添乗員に紛れ込んでた最大の疫病神が一人。

 槍術協会がチャーターした旅行会社に勤務してたスタッフの一人がクロノスで消えるなんて誰も想定してない。

 いやたまにいるから想定はしてるんだけど、「あとで逮捕すればいいよね」程度の認識だった。

 それがメリッサの行方不明になった母ちゃんなんてわかるはずもない。

 この状況じゃ無理よ!

 さあ、いつもの地獄が戻ってきました。

 しかも筋肉で解決できないやつ。

 さらにもう一つ。

 そう言えば、日本神話で最後まで抵抗してた神がいたよね。

 古事記じゃなくて日本書紀の方。

 でもそのときの俺は読んだ内容をまるっと忘れたわけ。

 というか誰もツッコミ入れなかったのね。

 たぶんどこかで主張してる人はいたんだろうけど、少なくとも俺には届かなかった。

 さすがに神社関係の学術誌までは読んでないもん。

 そもそもこの状況で誰もそこまで考えてるはずないですよねー。

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― 新着の感想 ―
天津甕星ですかね? 日本の神話で唯一、星の神という特徴がありますよね。
きなこ猫吸い腹の匂いかがせおですね
日本神話で最後まで抵抗してた神> 相撲の始祖とか言われてる武甕雷によく間違われるアノお方かな? それとも別の神? 大学にするなら、そのまま大学へと方針転換して、代わりに幼年学校か幼年組用のカミシロ…
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