第八百五話
おかしい……。
何もかもおかしい。
ビラもチラシもまいてない。
宣伝なにもしてない。
教室開始日すら決まってない。
なのに……。
「たのもー!」
筋肉モリモリマッチョマンが宮殿にやってきた。
なお複数。
丸太を担いでそうな顔だ。
「拙者、クロノス獅子王流師範! レオ陛下の一門に加えていただきたい!」
おかしい……想定ではハーさんの児童養護施設の子を紹介してもらって、宇宙一ゆるい子どもクラスからはじめるはずだったのに……。
今度はリコちみたいに腰だめで軽機関銃射ちそうなマッチョマンだ。
ツノ生えてるから鬼神国人だな。
「我は鬼神国小具足師範! どうか入門のお許しを!」
なんか紹介状まで持参。
いやさー、だからさー、子どもクラスをだな……。
カトリ先生に押しつけて俺は何もしなくていいやつ!
そもそもおかしんだよね。
「流派作るにゃー」
って正式に侍従に言ったら、宮殿の誰でも入れる国立公園部分の未開発の雑木林に大きな道場が建設された。
環境への配慮は問題ない。
むしろ未管理の林の方がよくないそうである。
三階建て。地下有り。
.
宮殿の道場じゃなくて立派なイベントスペースだ。
一階は事務室と普通の体育館。剣術は屋内ならどこでもできるからいいよね。
二階は柔道など投げ技に使える防音部屋。クッション性能抜群。
なぜか地下にはリコちやアーマードリキシ用に土俵と土の部屋も完備。
もはやどこに向けての施設かわからん。
三階はクレア様のプロレス会場ががががががが……。
わかるね……嫁さんに逆らえなかった経緯が。
リソース不足のはずなのに超高速で完成。
もう知らん。
一階はエディ先生の帝国剣術教室に西条くんの西条流教室にメリッサの館花流教室が週一で開かれてる。
部屋はいくらでもある使いたい放題である。
二階にはタンク先生のレスリング教室やウタ義姉ちゃんと銀河帝国軍有志による柔道教室も開かれてる。
おかしい……?
三階は週一でいろんな団体が興行してる。
たいていタンク先生&ザウルス先生の関連団体だ。
地下はアーマードリキシの興行もすでに組まれてる。
タンク先生が銀河帝国の大相撲も呼ぶんだって!
その結果……初年度からいきなり黒字の計算だ。
なんだこの稼働率。
公共施設としてありえない数値だろ。
イソノが私費で建てた球場も笑いが止まらないくらい儲かってるって話だけど……。
ま、いいや、それで筋肉モリモリマッチョマンの変態に話を戻そう。
マッチョが弟子入りを懇願する。
さすがに名の通った武人。
俺が直接会う。
「あのー……まだ子ども向けカトリ流剣術教室しか募集してないんですけど……というかカミシロ流派まだ技術体系の整理すらできてないので……」
「技術体系の整理! お手伝いいたします!」
えー、まあいいっすけど。
なお、施設のお外には弓道場と俺の個人用稽古場がある。
弓道場は屋根付きで想定通りのまともなもの。
俺の個人スペースは水はけだけよくした芝生に丸太が積んであるだけ。あと木刀置き場。
宮殿の道場に置いてたものだが追い出された。
お前しか使わない。
変な癖がつく。
そもそも、お前とリコちにしかできない。
など散々である。
さらに兵士の訓練場をこっちに移設。
もとのアスレチックコースは管理された自然公園に変更される。
野生動物用のビオトープまで完備。
俺が勝手に芋畑を作らないようにね!
ちゃんと畑あるから作らないもん!
「さあ、普段の稽古をやりましょうぞ!」
カトリ先生に助けを求めた。
すると二人に耳打ち。
二人はやる気があふれてた。
「なに吹き込んだんですか?」
「いいから、普段の稽古しろ」
「えー……」
まずは軍のフル装備で軽くアスレチックコースをランニング。
え、なに?
なんなのその表情。
「垂直の壁登りだけは気をつけてね。倒しちゃダメよ(一敗)」
走って、ロープ伝って、ロープで壁登って……。
堆土地帯で銃持って尻つけない横ほふくに尻つける横ほふくに肘つける横ほふくに……普通のほふくに体を起こさないでのほふくと。
最後のは体や頭や肘上げたら怒鳴られる。
堆土の隙間をシャカシャカ動いていく。
シャカシャカ違うか。
音も立てずに動いていく。
「そこ! 肘を立てるな! そっちのは体を浮かせるな!」
弟子入り希望が教官役の近衛騎士に怒鳴られた。
体起こさないやつ難しんだよね。
なお近衛隊もほぼ同じスピードでこなしていく。
ダッシュして垂直壁をよじ登って……。
「ビクトリー! はい準備運動終わり!」
「準備運動ぉ!?」
「うん準備運動。さーて、稽古するぞ~い」
ここから俺たちの基礎練習見て麦茶飲みながらゲラゲラ笑ってたカトリ先生が教官。
「ほれ、そこに放置してある好きな棒を取れ」
「これは丸太では?」
冷静なツッコミが入る。
「剣よりは少し太いが握れるだろ。あとは何も考えられなくなるまでそこの丸太叩け」
一応、枝と丸太の中間というか、間伐材の太いのをカットしたものである。
これじゃないとすぐ折れるからコスパ悪いのよ。
「はぁ?」
「それとも軍の装備一式つけたままプールで水泳がよかったか」
宇宙海兵隊でよくやるやつ。
もしくは銃を水没させないように立ち泳ぎ。
あれキツいんだよね。
「はあああああああああああああぁッ!?」
「鉄骨持ってプールの底を往復でもいいよ」
「それはなにかの刑罰ですか?」
二人がまるで異常者を見るような顔をする。
「いんや日常のトレーニング。やだなー。スペース・レイダースもやってる普通のトレーニングですよ」
鉄骨と打ち込みは俺専用メニューらしいけど。
さてさてやろうっと。
「いやあああああああああああああああああぁッ!」
気合を入れて……って大声ってバカにされがちだけど、初見だと確実に動き止められるからね。
結構重要。
慣れてる相手には効果ないけど。
で丸太を叩く。
丸太か棒が折れるまで叩く。
ボクサーがハンマーでタイヤ叩くのと同じ。
握力と背筋に効果あり。
あとは体の使い方は回数こなせばそのうちわかるでしょ。
頭で理解してなくても、力の使い方は体が覚える。
これ野蛮に見えるけど意味あるからね。
サンドバッグ叩くのと同じ。
普通の格闘技と何一つ変わらない。
剣だからわざと高反発素材でやってるだけ!
だから頭真っ白にして打つべし、打つべし。
突如、スッと入る感覚があった。
反発がない。
棒が丸太置き場の土台のコンクリートに触れる。
土台壊すと怒られるので切っ先はそこで停止。
真っ二つになった丸太が崩れて倒れた。
「先生。丸太斬れました」
「……斬ったな」
カトリ先生まで目を丸くしてる。
今度は鋭角じゃない素材でもいけたぞ。
あー、でも斬ったんじゃなくてへし折ったのか。
丸太の断面がボコボコしてるわ。
でも手応えは斬った感じだ。
確実に斬ったと思う。
うーん、怪奇現象。
最後にカトリ先生はいい笑顔になる。
「ようこそカミシロ流の世界へ!」
二人は驚きすぎてアゴが外れるほど口を大きく開けてた。
こうして数百人の筋肉モリモリマッチョマンの群れが宮殿に押し寄せることになる。
意味わからん。




