第八百話
ローザリア帝国本国との通信が途絶してからかなりの月日が経った。
私、シャーロットは報告書を書いていた。
クロノス宮殿の食堂では宴会が行われてる。
報告書を書き上げてさっさと合流したい。
私も彼らを好ましく思っているのだ。
レオ・カミシロという男は意味がわからない。
私と同じ道化であるはずだ。
だが……同じ超能力者とは思えぬほどの強さである。
化け物。
たしかに化け物ではある。
だが……話は通じるのだ。
『フレンドリーな悪魔』と呼ばれてるのは伊達ではない。
嘘ついているわけでもない。
損をさせられたわけでもない。
むしろクロノスは与える側だ。
だが……どの場面でもちゃっかり利益を手にしてる。
先ほどの屍食鬼との戦争でもそうだ。
冷徹な見方をすれば、クロノスは国王をおとりにして併合地域の独立派をまとめて始末できたと考えられなくも……。
屍食鬼への勝利という新たな神話により、クロノスは一つの国としてまとめることができるはずだ。
いや考えすぎか。
レオ王はそういう人間ではない。
その妖怪じみた交渉力には……もはや腹も立たない。
本人は基本的に善人なのだが……。
それでも老獪すぎる。
いくつもの才能を持つものというのはいるのだな……。
うむ……。
さて、そんなクロノスでは王の信任選挙の時期が近づいてる。
実態は戦争により王を追放しようとする勢力は消滅。
雇われ店長を自称するレオ王と王に逃げられたくないクロノス国民の戦いとなってる。
レオ王の支持率は少なく見積もった世論調査でも八割以上。
反対派は占領地域に少数存在するようである。
というか占領地域の市民に選挙権持たせてる異常性よ……。
だがパーシオン国民すら圧倒的にレオ王を支持してるようである。
レオ王は本人も「戦術レベルの用兵運用は苦手」と言ってるとおり、今回もかなり危ない橋を渡った。
それを国王反対派、民主化勢力は叩きたい。
「パーシオン軍の被害の大きさを説明しろ!」と迫っている。
レオ王本人はその意見に素直に謝罪。
「私に苦手な戦術レベルでの用兵運用をさせないでください」と発言してる。
さらに続けて言った。
「私は兵士を人じゃなくて駒として見るのが苦手なんです!」
人気あるのはそういうところじゃなかろうか。
「彼らにも生活があって仕事してる。戦争だって本当はしたくないんです!」
そういうとこやぞ。
人気あるのはそういうとこやぞ!
というわけで報告書も書き終わり、食堂へ行く。
トウモロコシを焼く王がいた。
「よ、シャーロット。食べる?」
「う、うむ」
焼きトウモロコシをくれた。
王の威厳とは?
「ふんふんふん♪ 焼き鳥焼き鳥~♪」
焼き鳥も作ってるようだ。
「レオくん、焼きおにぎりできたよ~」
「ウッス、ニーナさん配って」
「はーい♪ みんなお願いね~」
この謎の光景ももう見慣れた。
レオ王や皇帝ヴェロニカの仲間たちは常にこうだ。
普通なら同じ組織内の人間だから権力に萎縮して友人ではなくなるものだが……。
妾もかつての友はもう部下でしかない。
あまりにもレオ王の威圧感がなさすぎて維持できてる関係だろう。
……これ……可能なのか?
本当にできるのか?
もはや人徳というレベルではないのだが?
「レオ王、どうして部下と友人でいられる?」
「雇われ店長でいつか追い出されるからじゃない?」
「いや無理だろ」
「戦友だからかな?」
「戦争終わったら部隊の連中と二度と会わないのが普通だぞ」
これは統計でもわかっている。
死線を友に乗りこえた戦友であっても戦争後に連絡を取ることは珍しい。
戦場という異常な状況で培った絆は平和では維持できぬもの。
「じゃ、みんなの性格がいいんじゃない? 俺、基本的にダメ人間だし」
あきれ果てて言葉も出なかった。
人間力の怪異がいる。
「ま、俺はみんなにおんぶに抱っこね……感謝せねば」
「もうあきらめよ」
私が口を開けてわなわなと震えてると、子どもを抱っこした皇帝ヴェロニカに声をかけられた。
「なにを言っても無駄じゃ。そういう生き物だと思った方がよい。考えるだけ無駄じゃ」
「あーうー」
永遠ちゃんがこちらを見る。
かわいい顔だな……。
レオ王も整った造形だが……。
「あぶぶぶぶぶぶ!」
トウモロコシを見るや変貌。
激しく「よこせ!」と要求する。
「こ、コラ! やめてたもれ! お前はまだ食べられぬ!」
「あぶぶぶぶぶぶぶ!」
かなり心配になるくらい食い意地が張ってる。
が、顔面詐欺だ……。
中身は完全にレオ王そのものだ。
「や、やめ! 誰か!」
「こ、皇帝陛下!」
皇帝ヴェロニカが困ってると乳母が来た。
子どもを抱っこしてあやす。
「あぶぶぶぶ!」
それでもトウモロコシをどうにか手に入れんとする永遠。
く、食い意地が張ってる……。
いや食べてないはずだが……それでもあの優しそうな顔でこれか……。
そして次はアーク。
クロノス正妃クレアの子どもだ。
「あぶぶぶぶぶ!」
「だ、誰か止めて! アークが脱走した!」
こちらは脱走。
レオ王そっくりだ。
恐ろしい速さでハイハイしてる。
「あぶぶぶぶぶ!」
追手をまこうと滑りながら急旋回!
ドリフト走行……だと!
レオ王は目を逸らす。
「……自転車を与えて行動範囲が広がったらどうなるんだろう?」
レオ王はそうつぶやいた。
……本当にどうなるのだろうか?
そして本命。
もう素早く動けるようになったレン殿の子どもだ。
「にゃーん!」
「にゃにゃにゃにゃにゃ!」
「レン様の子どもたちがきなこと追いかけっこをはじめました! 追いつけません!」
猫と追いかけっこをはじめた。
銀河帝国のビースト種は体は小さいが運動性能は普通種の人間よりも何倍も速く成長する。
これは危険生物に狩られないように……と聞いてるが……。
それにしても素早すぎないか?
「にゃーん!」
「にゃにゃにゃにゃにゃ!」
「きなこストップ! きなちゃんお願いだからあああああああああッ!」
「あぶぶぶぶぶぶ! きききききき!」
「アーク様ああああああああああッ! お待ちに!」
「永遠様! だから食べられません!」
「あぶばー! あぶー! あばーッ!」
私はレオ王を見た。
「げ、元気でよろしい……」
冷や汗を流しながらの汚い笑顔。
よろしくない。
私は道化のあまりの性能差に悩むのであった。
とうとう800話……遠くまで来たもんだぜ……




