第七百九十三話
ラターニアが占領した惑星の地下遺跡。
そこに考古学者が集まった。
私ベルガーはそのチームのリーダーに就任した。
レオ陛下にはまだ隠してることが数多くある。
そろそろ打ち明けるときがきたのだろう。
それでも彼は私を信頼してくれた。
地下遺跡はドーム状の地上施設とその地下に広大な施設があった。
地上部は採掘物の精錬工場のようだ。
地上部は過去文明の遺産クラスの年代物だ。
動くものはない。
地下は作業員が住む街と採掘場になっている。
照明すら稼動しない。
安全を確保しながら調査する。
年単位でかかるだろう。
遅いと思われるかもしれない。
だがこれに関しては危険を回避できる運動神経を持つレオ陛下たちがおかしいだけである。
普通はこんなものである。
施設が崩落しないように補強と足場が組まれる。
ラターニアの建設会社をカミシロ建設がまとめる形だ。
わざわざ大規模事業の資金をラターニア銀行に借りた事業だ。
保険もラターニアのもの。
ラターニア人は上から下まで笑顔である。
レオ陛下恐るべし……偏屈なラターニア人を使いこなしておられる……。
レオ陛下は生身で戦艦の支柱を斬ったのが話題になっていた。
剣豪にして英雄王。
弟子入り希望者が宮殿に列を成している様子が報道されてる。
だが彼の本当の恐ろしさは単純な武力ではないだろう。
彼は敵対さえしなければ関わったどの国へも利益をもたらす。
なめられもしなければ、恐れられることもない。
その外交的バランス感覚は天性のものだろう。
野心は強くない……少なくともそう見える程度に隠している。
屍食鬼の戦いもそうだ。
パーシオン、マゼラン、オーゼン……そして太極国の独断専行からの総崩れ。
そこから持ち直したとの評判だが……それは違う。
おそらくレオ陛下は戦う前にはすべてを終わらせていた。
軍勢総崩れすら計算のうち。
理性で理解していたわけではないだろう。
だが本能が理解してはずだ。
空気のおかしさを。
そして最善の手を選んだ。
おそらくパーシオンを救うことは不可能だった。
そちらの方がよほど恐ろしい。
もちろんレオ陛下個人の戦力も化け物ではあるが……。
いや個人戦力を考慮しなくても陛下は化け物である。
私たちは安全が確保された部分を調べる。
カチヤがルナ様と古いコンピューターを調べる。
私は専門外のため時間が余ってしまった。
報告書に日報、研究ノートを書く。
おそらく……そろそろだろう。
この施設からゼン神族の正体がわかる資料が発掘されるのだろう。
じきに我々古代人の罪が暴かれるだろう。
私もカチヤもそれを恐れてない。
もう半ば公然となった事実だ。
我らは遺伝子操作で様々な種族を作った。
頭脳労働用のラターニア人。
上級戦士用のレプシトール人。
肉体労働・中級戦士用の鬼神国人。
下級戦士用のパーシオン人。
それらの雑種の太極国人。
奴隷用のビースト種。
失敗作のゾーク、プローン、獣人。
屍食鬼はゾークよりも扱いやすかったのだろう。
それらを陰から操って、自分たちは存在すら知られずに君臨する。
まさに悪魔の所業だ。
星の神。
ゼン神族の神。
私はよく知らないが……おそらくゼン神族を自称する連中の信仰している神だろう。
その正体がこの遺跡にあるのではないかと予想してる。
世界の神と星の神の代理戦争。
そう考えるとスケールが大きい。
私もレオ陛下の力にならなくてはと気合を入れた。
施設の補強と足場の工事が進む。
そんなある日、調査の許可が出た。
浅い階層なら調査してもいいとのことである。
地下一階から十階までは住民の生活空間だった。
採掘場はその下とのことである。
地下一階は商店街になっていた。
かつての住民はここで買い物をしていたのだろう。
ほとんどが地下の湿気で朽ち果てている。
樹脂製品も崩壊してる。
金属看板の文字は錆びて判別できない。
ただここに住民が暮らしていたのだけはわかる。
「ベルガー教授。遺体を発見しました」
遺体が残っていた。
おそらく住民のものではないだろうか。
遺体は商店の中にあった。
服らしきものはボロボロになって散乱している。
錆びた棒のようなものが置かれている。
鉗子で朽ちた布の破片ををつまんで保存用のガラス容器に入れる。
「教授。紙片を発見。回収します」
ラターニア人の研究者が興奮した声で言った。
学術的意味は大きい。
私も普段なら大喜びしただろう。
だが今回はゼン神族との戦いだ。
レオ陛下の助けにならねば。
「崩れてしまいます。丁寧に扱ってください」
「はい!」
遺体はいったんそのままにして、テントに帰る。
錆びた棒と布の破片を解析する。
棒を非破壊検査装置に入れる。
内部は……銃だ!
あの遺体は兵士!?
屍食鬼と戦ったのか?
布も古代人が使っていた戦闘服のものではないだろうか?
あの程度の破片では推測しかできないだろうが……。
「教授。コンピューターと思わしきものが見つかりました」
民間用だろう。
おそらく、この施設の保存状態では中のデータは失われているだろう。
銀河帝国人の考古学者が朽ちたコンピューターを運んできた。
ハンドヘルド型。持運び用の端末だ。
外装は割れ、中の電子基板も腐っている。
これは専門家にまかせるしかないだろう。
私は通信回線で呼びかける。
「ルナ様。ベルガーです。古代人のものと思われる端末を発見しました。ただ朽ちていて修復は不可能と思われます」
妖精さんとレオ陛下が呼んでいる存在。
体を持たない神のような存在。
それがルナ様だ。
「お疲れで~す。面白そうなものを発見しましたね」
「面白そうですが……なにぶん専門外でして」
「そこはまかせてください。このルナちゃんが無責任に解決しましょう」
不安しかない。
ルナ様は神話の神のように気まぐれ。
だが、その力は国を滅ぼすほどのもの。
『彼女を殺害した銀河帝国が許されてるのは妖精さんが寛大だから』
レオ陛下のお言葉だ。
人間の生み出す文化への興味もあるのだろう。
銀河帝国が滅んでればこちらの大国もそう遠くない未来に屍食鬼のによって滅ぼされていただろう。
それを考えれば薄皮一枚で我々は生かされたということだろう。
何度聞いても冷や汗が出る話だ。
「そんなに緊張しないでください。私はレオくんとヴェロニカちゃん、それに子どもたちの味方ですよ」
ルナ様はほほ笑んだ。
私の心には畏怖しか残らない。
ルナ様の強大さ、恐ろしさは、わかるものにしかわからない。
だがわかるものからすれば、いつ最凶の祟り神になるかわからない存在である。
「端末の調査グループを派遣しますね~。それまで調査よろしくお願いします」
「はッ!」
レオ陛下はすでに何度世界を救っているのだろうか……?
私は額から流れる冷や汗を拭った。




