第七百九十二話
地化施設の探索をしていたラターニアから連絡が入った。
ベルガーさんたち古代人の考古学チームを派遣してほしいとのことである。
そりゃね~。
ベルガーさんたちもゼン神族が暴れてた時代を直接知ってるわけじゃない。
だからベルガーさんたちにも調査させてくれと頼まれてた。
さらに銀河帝国の考古学チームもせっつかれて……正直小うるさかった。
面倒な案件が一つ片づいたわけである。
はい。どうぞどうぞ。
嫁ちゃんがスペース・レイダースに。
俺がレプシールのニンジャ隊に護衛を頼む。
ラターニア人がすでに入ってるのだ。
俺たちが行かなくても問題ないよねって話。
嫁ちゃんは「一人くらいジェスターが必要じゃろ」と言ってレオニダスくんを現地指揮官として派遣した。
「俺、少佐の仕事なんてできませんよ!」
そりゃそうだわ。
幹部研修すら終わってない。
なので誰かいないかなと探してたら西条くんと目が合った。
嫁ちゃんもほほ笑む。
「西条、頼んだぞ」
「御意」
西条くん承諾しながらも全力で嫌そうな顔してる。
あー、これは納得してない顔だ。
西条くんって近衛騎士団で女装してるだけあって、かなり我が強いんだよね。
「西条、お前は未来の近衛騎士団団長じゃ。国際協力任務の経験を積むがいい。期待してるぞ」
「過分なお言葉、ありがたく存じます」
頭を下げた。
エサをあげるか……。
「あ、そうそう。西条くん。カミシロ化粧品の新商品が届いたんだけど、モデルお願いできる?」
俺はほほ笑む。
カミシロ化粧品の高級化粧品セットだ。
西条くんはこちらではモデルとしても有名だ。
野郎なのはみんな知ってるがもうどうでもよくなってる。
こっちには西条くんもニッコリ。
「しかたないですね~♪」
なお俺は考えるのはすでにやめた。
本人が幸せならどうでもいい。
ユリちゃんとも結婚したみたいだし。
西条くんは任務に向かう。
俺たちは安心してため息をついた。
「あやつはなあ……納得しないと動かぬからの」
「そこだけ軍人向きじゃないんだよね」
俺たち士官学校組は変人ぞろい。
男女関係なく能力は高いのに命令に公然と逆らうタイプが多い。
原因は俺なんだろうけどさ。
なに言っても怒らないフリー素材が上に立ってるからね……。
みんな軍人としても自信と自負があるし。
そんな問題児どもを使いこなしてる嫁ちゃんもまた化け物である。
そんな俺であるが……ここからが問題だ。
「よし、食後の運動だ。レプシトール忍法『屋根裏の散歩者』」
そう言って通風口に侵入。
気配を完全に遮断する。
ほふく前進で移動。
下ではカトリ先生の気配がする。
「皇帝陛下! レオはどこに?」
「通風口から逃げたぞ」
「ふむ」
あ、ぶんぶん長物振り回してる音がする。
急いで逃げようっと。
あたいは空気。
ただ流されるままな大気。
「そこだあああああああああああああああああッ!」
惜しい位置から槍の穂先が出てきた。
ヨシ!
詳細な場所まではわからない!
俺の勝利だ!
ススススススと音も立てずにほふく前進。
野生動物よりも気配がないだろう。
完全勝利のお知らせ。
ふふふふ。はははははははは!
いつまでも俺が進歩しないと思うなよ!
よしダクトの先に下りられるところが……。
フタを外して下に……しゅるり。
……はて?
俺の身体に巻き付く縄。
投げ縄だと!
「ふはははは! バカめ! 槍で逃走経路を誘導してやったのだ!」
カトリ先生がいた!
ずっとカトリ先生の手の平で転がされてただと!
不覚! ニンジャカワゴン破れたり!
「ぐ、ぐう!」
「なあ、レオ。聞いたぞ。お菓子禁止の反動でお前、太ったんだって?」
「な、なぜそれを!」
医師であるケビンには守秘義務があるはず。
「ルナ様が教えてくれたぞ」
「裏切ってたの妖精さんだった!」
ふえーん!
妖精さんの裏切者~!
「さ、痩せるまで稽古するぞ」
「遠慮するでゴワス。拙者レプシトール相撲の大会にエントリーするゆえ」
「なんだ素手の稽古がしたかったのか。そうかそうか。そういやまだ古流柔術は教えてなかったな」
「ガッデム!」
嗚呼……なんということだろうか。
銀河帝国の絶滅危惧種。
遙か昔から細々と伝わる古流柔術や伝統武術の触り部分を延々稽古させられる。
古流は剣と地続きだから剣術にも戻る。
「お前が毎日やってるアレな。ずっと気になってたんだ。ちゃんと教えるべきだよなって」
余計なことをしてた元凶は拙者でござった!
丸太を太い枝でボコボコに叩いていく。
無駄な力を使わないで前進をバネにして真下へのベクトルに力が集中するように。
「おし」
一度できたらあとは癖になるまで。
考える必要もない当たり前の動きになるまで振り下ろす。
力を抜くんじゃなくて力まない。
剣の邪魔をしない。
それだけでいい。
これを繰り返してれば勝手に筋力がつく。
そしたら脱力した状態でも敵の剣ごとぶった切れるってわけ。
そこまでの境地には立ってないけどね。
何度も繰り返してると打ち付けたときの跳ね返りがなくなってきた。
なんかおかしいなと思ったら丸太が真っ二つにへし折れた。
「いつもの木刀の方がいいんじゃないですか?」
重量もあっちの方があるし。
「……うむ、お前を人間と思ってたのが間違いだった。すべて俺が悪い」
そしたら、いつもの超圧縮木刀を渡された。
さらに戦艦に使う特殊なH形鋼を運ばされる。
ゾーク加工されてるやつ。
「そこに置け」
二つの岩が置いてあるところにH形鋼を置く。
「よしやれ」
「えー、さすがに無理ッスよ。これ斬れたら人型戦闘機と同じ戦闘力じゃないですか。やだー」
人型戦闘機は大げさとしても人型含めた重機相当だ。
息を吐くとなにかが見えた……ような気がした。
「せいッ!」
気合一閃。
なんて言えば格好いいが、宇宙怪獣カワゴン怒りの木刀振り下ろしである。
ガーンってうるさい音が響くと思ってた。
でも音すらしない。
気がつくとH形鋼がバランスを崩してこちらに倒れて……危な!
「危ないっすよ! バウンドしたじゃねえですか!」
ところがカトリ先生の様子がおかしかった。
なぜか拳を握りしめブルブル震えてる。
「おいおい……この野郎……斬りやがった……」
「え? 斬り……? おう……真っ二つ……」
そうかこの重量の剣になると刃がついてるとかは関係ないのか。
先が多少鋭角になってれば斬れると。
ほほう。
「おいレオ……今からカミシロ流宗家を名乗れ。俺が許す。他の流派に直談判もしてやる。免状でも何でも書いてやる」
「なに言ってるんですか。ただの偶然……」
「馬鹿野郎。お前はここに到達したんだよ!」
そんなこと言われても俺に教わりたい人もいないでしょが。
一代限りの宗家。それを個人商店と言う。いらん。
……いや待てよ。
「ほ、ほう……つまりダイエットはしなくても」
「そっちは続行な」
人生は実にビターだった。
拙者。動かないでメシだけ食べてたいでゴザル。




