第七百八十九話
うちの子どもたちはまだ赤ちゃんである。
レンの六つ子は成長が早い。
もう立った。
「あうあー」
宙ちゃんが俺を見て立ち上がった。
成長が早い。
ベビーベッドというか普通に柵で管理してる。
檻じゃないけど犬猫のゲージ的な管理である。
ビースト種の子どもは運動性能が高すぎる。
普通のベビーベッドでは柵を乗りこえて下に落下してしまう。
それもでほとんどケガしないのではあるが、見てるこっちが怖い。
なので、床に柵を設置するしかないそうである。
ベッドはふわふわのクッション。
そこで兄弟姉妹は団子になって寝るようだ。
天音ちゃんも俺に気づいて柵をつかむ。
そのままよじ登る。
というか、宙ちゃんは大人しい。
女の子の方が元気だ。
一斉に柵を登り始めた。
すごい……まだ赤ちゃんなのに柵をよじ登ってる……。
「ちょ!」
あわてて乳母さんたちが駆けよって抱っこする。
抱っこされると、今度は身を乗り出して俺に手を延ばす。
はいはい。
においにおい。
においを確認すると「きゃー」といって笑う。
においを確認したかったのね。
「陛下をとても大好きみたいです」
「なんかスンマセン……」
そしてレンのところに行ったら、嫁ちゃんがケビンとその指導医の診察を終えた。
永遠ちゃんは毎日健康診断をする。
銀河帝国皇帝の第一子だ。
過剰なくらい見守られている。
嫁ちゃんにできるのはケビンのゴリ押しくらいだろう。
権力者でも回避できないとはたくさんあるのだ。
そう、俺のお菓子禁止とかね!
……禁止期間終わったら反動で糖尿になりそうな気がする。
お酒飲む習慣ないんだからお菓子くらいいいじゃん!
ケビンに声をかけられる。
「次はレンのところね」
「もう行ってきた。クレアは?」
「クレアは病院に行ってるよ」
「え、病気?」
「違うよ。アークちゃんの検査。道具がないとできない項目」
骨とか臓器の発達とかである。
こっちはこっちで面倒だ。
普通の赤ちゃんならここまでしないんだけど、次期クロノス王だからね~。
検査に次ぐ検査の嵐よ。
くしゃみしただけで医師が飛んでくる騒ぎである。
赤ちゃんのときはしかたないか……。
少し大きくならないと本当に突然死しかねないからな。
レンのところもケビンが見てる。
とはいえビースト種の専門家というのがあまりいない。
体が強すぎて商売にならないのだ。
病気への耐性があって死ぬような病気でもちょっと熱が出る程度だ。
病気にかかって耐性を獲得するタイプらしい。
実は我が子たちも柵から落ちてもめったにケガはしない。
ケガするときは致命的になるパターン……やはり監視は必要だ。
だからか銀河帝国から生物学者が来てる。
病気の専門家じゃないけどビースト種の専門家だ。
この辺はもはや説明されても俺も理解できない世界なので省略。
とはいえレンもたまに寝込む。
死ぬときは死ぬらしい。
怖いからやめて! そういうの!
と、いうのが現状である。
永遠ちゃんにご挨拶。
「パパでしゅよ~」
「あ~う~」
まだ喜ぶほどじゃない。
これが普通なのだろう。
柵から脱走するのがすごいのだ。
すると嫁ちゃんの部屋のタイマーが鳴る。
「婿殿おしごとじゃぞ~♪」
いまの……タイマーの音ね。
「婿殿会議の時間じゃぞ」
パーシオン軍の処理の会議だ。
兵器含めた物資の扱いについてだ。
クロノス軍で「もったいないからしばらく使う」派と「いいから捨てちゃって新型配備しようよ」派のせめぎ合いである。
もったいない派は「もったいない」の裏にパーシオン独立運動からの反乱を危惧がある。
俺としては「独立したいならすれば? 俺は止めないよ」である。
新型配備派はゼン神族との戦争からの戦後の軍縮と予算削減を危惧してる。
新型配備すれば二十年は食えるもんね。
二十年経過すると新型も旧型になるので、さらに二十年食えると……。
もったいない派も新型配備派もズレた部分にこだわってる。
ゼン神族の戦力もわからないのに……なに言ってんのお前ら?
敵の勢力いかんでは永遠ちゃんやアークちゃんの時代まで続くぞ。
はっきり言ってクソ面倒だ。
「お仕事イヤ!」
「いいから、はよ行け」
ぴえーん!
パパカナシイ!
で、危惧したとおり会議は紛糾。
もったいない派がテーブルひっくり返す。
新型派は椅子を蹴飛ばす。
ヤクザの集会かな?
俺。なぜか茶菓子が入ってるクリスタル灰皿投げつけていい?
俺のとこだけお菓子禁止で空で置かれてるし。
笑顔でキレてるともったいない派が耳打ちする。
「国王陛下、焼きトウモロコシを準備しております」
おっと買収工作。
国王へやるには品目がショボいぞ。
だが心惹かれる。
「焼きトウモロコシ!」
トウモロコシに反応すると新型配備派も負けてはいない。
「陛下、スイカにメロン、焼き鳥と炭酸飲料をご用意しました」
「なにその天国!」
ぐ、こいつら……俺がお高い食べものじゃ買収できないのを学習しやがった!
こういう果物や屋台料理で買収しようとしてやがる!
後ろで控えるポリーナさんを見た。
笑顔、だが……こめかみに血管が浮かんでる。
「ごほん。あとで仲直りの印として皆で食事をしよう」
「陛下は間食禁止にございます」
カナシイ……。
「ポリーナさん……もう……口が焼きトウモロコシと焼き鳥になってしまったのです」
「クレア様。陛下が食事で買収されそうです」
ノータイムで通報された。
「陛下。お母さまにも通報しておきますね」
「おかんはやめて!」
俺の弱点が看過されてる!
俺……別にマザコンじゃないのに……。
「ごほん……とにかく今は決定するときではない。今までの計画通り無理しない範囲で置き換えて。新型にしても反乱はないだろうし、独立したいならすればいい焼きトウモロコシと焼き鳥」
「陛下、焼きトウモロコシと焼き鳥が漏れてます」
「おなかへった」
「我慢してください」
はいはい次。
その後も会議は続く。
マゼランとオーゼンの処理に、独立派との話し合いのセッティングなどの議題をこなす。
だからー、独立したいならしろよ!
一つの組織と会議すると今度は別の組織が立ち上がるの、あれなんなの!
勝手に独立すればって作ったパンフレット渡すと黙るしさ。
『国民投票して投票者の過半数の賛成で独立できます』
ってだけだろが!
最低投票数縛りのない投票者の過半数だぞ!
簡単にできるだろが!
さっさとやれよ!
なのに黙りやがるの。
めんどくさ!
こうして戦後処理は続くのだった。焼きトウモロコシと焼き鳥。




