第七百八十八話
さーて、内政の前に大きな問題が立ち塞がった。
……風邪治んない。
タチアナも来ねえなと思ったら寝込んでた。
レオニダスくんも風邪で寝込んでるらしい。
ウタ義姉さんが世話してるみたい。
なんだろう?
おかしいな。
アフロを被ったミイラ男状態で首をかしげてるとクレアと嫁ちゃんが書類を持ってきた。
二人とも椅子に座る。
「本当は握りつぶすつもりだったんだけど……レオ、あなたの調子が戻らないから……」
パーシオン軍の状況だった。
マゼランとオーゼンもとんでもない被害が出てる。
壊滅……。
まさに壊滅だった。
「待ってくれ! どうして!? 俺の加護があるはずだ!」
「パーシオンは……仲間じゃなかったの。いいえ、マゼランとオーゼンも」
「どういうこと?」
「レオ、あなたの加護はあなたの主観で味方だと思ってることも必要だけど……相手も味方だと思ってることも必要なの」
「俺は……王として認められてなかったと……」
「ええ。それと……」
すると嫁ちゃんが立ち上がってクレアの肩に手を置く。
「ここからは妾が話そう。これを読め」
電子版の新聞記事だ。
一面は自殺記事だ。
自殺したのは……あの元大佐。パーシオン軍大将だ。
頭を銃で撃ち抜いたとある。
「どういうこと?」
「あの命令違反はパーシオン軍の総意じゃ。あの男はその責任を取って自死した」
つまり……あれは計画された集団自殺だった。
俺たちだけが知らなかったのだ。
「どうして……」
「敗軍の兵として生きるのに疲れたのじゃろう。婿殿には理解できぬことじゃ」
「なんで……俺が理解できないって思うの?」
いやわかるよ。
負けた兵士なんて世論にフルボッコだもの。
相当なストレスだろう。
「婿殿は負けそうなら迷わず逃げて次に賭けるじゃろ? 妾はゾーク戦争に勝つために父上が殺害されるのを知ってて見殺しにした。やつらはそれができぬ。我らとは根本的に違う生き物じゃ」
「そりゃそうだけど……それもマネジメントや兵法なわけで……」
嫁ちゃんは非情と言われるかもしれない。
でもあのときは麻呂を排除するしかなかった。
麻呂と公爵会では銀河帝国は滅んでただろう。
サイラス義兄さんの判断は正しかったと思う。
最終的には妖精さんが介入してどうにかしただろうけど……たぶん被害者数は数倍にはなってただろう。
麻呂一人の犠牲で多くの人が助かったと考えると……いやこの考え方は危険だ。
その場その場で考えた方がいい。
とにかく邪魔な石をどかしただけだ。
嫁ちゃんは悪くない。
「つまりそういうとこじゃ。我らはパーシオン人と比べてレプシトール人に近い。あやつらはそれに耐えられん。婿殿は未だに海賊ギルドのイーエンズのことを理解できぬじゃろ。うまくやれたルートがあると思ってるじゃろ?」
イーエンズ。
俺に勝ち逃げした海賊ギルドの大幹部。
シーユンを守るために死んだ宦官。
俺がもっと上手く立ち回れば救えたはずだ。
「うん、もっと上手く立ち回れば救えたと思う」
「いいや。救えなかった。婿殿がなにをしようともイーエンズは死ぬことを選んだはずじゃ。それに……イーエンズは幸せだったはずじゃ。シーユンを守ったのじゃからな。妾や婿度には理解できぬがな……」
俺がイーエンズ大人なら……。
もしくはパーシオン軍のトップなら……。
俺と表向き対立しながら仲間を売り渡す交渉をしてただろう。
屍食鬼の目を誤魔化しながら裏で手を結ぶ。
これだけでも安全性は高まっただろう。
「誇りってこと?」
「わからぬ。人の誇りなど実の父の慰み者になるはずだった妾にわかるはずもない。産まれながらの兵法者の婿殿にも理解できぬよ」
「とりあえず手厚く葬るかな」
「いいや、先に軍法裁判じゃ。厳しく粛清するのじゃ」
「裁判官に丸投げだけどね」
裁判所に圧力をかける気すら起こらない。
俺の知らないところでやってくれ。
「それで~。俺いつ治るの? のどの痛みが強いんだけどさ~」
「それは詰まってたお菓子出すときにのどが傷ついただけじゃ」
「なんてことだ……」
のど痛いのそっちか!
一人で納得してるとケビンが来た。
「起きてる?」
「起きてるよ~。どうしたん?」
「血液検査」
「……健康診断じゃ異常出たことないけど」
「ストレスを測るんだ。レオニダスくんの血ももらったよ」
「待って。俺が日常的にストレスに晒されてると?」
わりと好き勝手生きてる印象なのだが。
「うん。無意識にお菓子口に詰め込むくらいには」
「なん……だと……」
「肝臓の数値悪かったら休みかねて入院延長ね」
「んなー! 子どもと触れ合いたいのに!」
あと病院食は圧倒的に量が少ないのだ!
しかもだ!
俺が間食すると予想してたせいか、売店も冷凍食品の自販機も営業休止してる。
いや入院患者、俺の仲間たちだけなんだけど!
するとピコンピコンとケビンの端末が鳴った。
通知を見るとケビンの顔が青ざめる。
「たいへん! タチアナちゃんとシャーロットちゃんが運ばれたって!」
「え、なんで?」
「インフルエンザ」
すると嫁ちゃんがほほ笑む。
「ジェスターを隔離せよ。妾たちは子どもに病気を移さぬうちに帰るぞ」
「ふえーん!」
結局、入院は延長になったのである。
どうして……どうして……。
そして一週間ほどで軍事法廷が終わり……って速いな。
……容疑を認めてるし争う気がないからか。
主立ったパーシオン、マゼラン、オーゼンの軍関係者は再雇用なしの除隊処分。
不名誉除隊までは行かないやつ。
会社の懲戒解雇とかヤクザの破門じゃなくて、あくまで辞任。
年金や互助会は残した。
ゲリラとか野伏せりになられたら困るもの。
アマダ警備で雇うか……。
レプシトールは本人たちの希望で併合。
レプシトールという国家が消滅した。
今回大活躍したからね。
とうとう「嫌でゴザル」と言えなくなった。
カレンさんを行政長官に据えて面倒な仕事をしてもらってる。
パーシオン、マゼラン、オーゼンも消滅。
こっちは罰ね。
違いはレプシトールは軍を残し、命令違反の三カ国は軍は消滅。
クロノス軍に完全統合した。
「お前らのことなんか知らん。俺たちのやり方押しつけてやる」ということである。
将来の独立もなし。
レプシトールは同格のパートナー。三カ国は吸収合併である。
だから三カ国のお偉いさんは辞めてもらう。
ハハ! 会社と同じだね!
本当は国境を接してる太極国と惑星を分割して統治しようと思ったんだけど、「いらない」って拒否された。
軍法裁判が数日で終わったあたりで俺は退院。
タチアナは疲れもあってもうちょっと入院。
レオニダスくんは先に退院してた。
シャーロットは隔離されてる。インフルエンザに耐性がないみたい。
世間ではうちの子たちがしきりに特集されてた。
ベビー用品が売れまくり、産婦人科は妊婦さんでごった返してた。
俺はそれを見て、パーシオンはなぜ幸せを受け入れられなかったのかに思いを馳せたのだった。




