第七百八十二話
女になって数年。
そうか……もう何年も前の話か……。
人生とは何が起こるかわからないものだ。
ゾーク戦争の末期、俺は高熱で倒れた。
インフルエンザだったら密閉空間じゃあっと言う間に広がる。
足手まといにはなりたくなかった。
医官に言ったらすぐに医務室に隔離された。
全身が痛い。
朝になるとこの体だった。
後になって知ったが、敗北が迫っていることを予感したゾークマザーはゾーク因子を持つ者を一機に覚醒させた。
ケビン様みたいに時間をかけて洗脳を行い厳選した女性型ゾークじゃねえ。
おそらく洗脳できなかったため選別落ちしたのが俺らだった。
苦し紛れの一手だろう。
だがこの作戦の効果は高かった。
中央にはワンオーワン様やケビン様がいたから混乱は少なかったようだ。
なにより皇帝陛下とレオ陛下、当時は大公様が洗脳されてない女性型ゾークを保護した。
だが地方はそうじゃなかった。
疑心暗鬼になり変化した兵や民間人の処刑が相次いだ。
俺は自分から処刑を申し出た。
「た、隊長! あんたなに言ってやがるんだ!」
当時の副隊長が涙ながらに叫んだ。
「俺だっていつ裏切るかわからねえ。領地を守るためだ。外で処刑しろ。自爆ドローンを使えば証拠も残らねえ。頼んだぜ。悪いが地方軍互助会と寡婦年金の申請頼むわ。ガキどもは士官学校入れたから大丈夫だろうが、嫁の生活は守らねえとな」
「あんた自分がなに言ってんのかわかってんのか!」
「わかってる。俺はこれでも牛込一族として禄を食んだ身。一族のためにも腹を切る時が来たってだけだ」
「クソ!」
「ガキと嫁には戦場で死んだって言ってくれ。勇敢だったとかそういう余計なのはいらねえ。爆発して体のどこも残らなかったって言ってくれ。あとクローン処理は絶対にやめろ。またゾークになるかもしれねえ。頼むぜ」
「隊長! てめえってやつはよぉ!」
副隊長が肩をふるわせていた。
……なんて格好つけたのにすぐに終戦を迎えた。
家族には縁を切られ、牛込家からも放逐された。
俺はいつもタイミングが悪いのだ。
だがしかたがない。
ゾークは銀河帝国の敵だ。
ゾークが銀河帝国に恭順したとしても粛清は免れない。
だが運がよかった部分もある。
女性型ゾークは新しい身分を与えられ、一度死んだことになった。
元家族に地方軍互助会の死亡弔意金が支払われた。
これで牛込剛としての最後の役目は終わった。
元家族とも二度と会うことはない。
「気持ち悪い! もう二度と顔を見せないで!」
元嫁に最後にかけられた言葉を噛みしめる。
その通りだ。
俺はあいつらの前から消えるべきだ。
受け入れられるはずがない。
そして俺はワンオーワン様の一門として受け入れられ、ケビン様の統治する元公爵級惑星に居住することになった。
残念ながら俺は女として人生やり直すには年を取りすぎた。
ケビン様のお年でギリギリだろう。
俺はそこでも軍に入隊した。
残念ながら俺はこの生き方しか知らない。
その後、ケビン様のもとでドローン部隊の育成をしてたら医者になることになった。
なに言ってるかわからなかったが、女性型ゾーク、それも中継機は医師向きなんだとよ。
45歳で医学部の通信教育……。
どう考えても無理だろ。年考えろよ。
……と思ってたが10代の脳味噌のせいか難しいはずの学問がスルスル頭に入ってくる。
人生ってのはわからないものだ。
生活が安定したころ、子どもを育てることにした。
家族から縁を切られた三人のチビたちだ。
兵士には帰る家と責任ってのが必要なのさ。
ケビン様の惑星にいるのは、ほとんどが同じ境遇のものたち。
みんなゾーク戦争の孤児や親に捨てられたゾークの子を育ててる。
周りはみんな優しい。
それでも開き直って女性の生活を謳歌するってのはごく一部にしかできねえ。
あれは心が強くなきゃ無理だ。
チビたちは小さかったせいか女性としての自我が芽生えてきた。
俺は男を捨てられずにいる。
髪の毛もミリタリーカットにしたいくらいだ。
なぜみんな反対する!
髪くらい好きにさせろ!
チビども! なぜお前らまで反対する!
……とにかく俺も新しい人生になれてきた。
未来がどうなるかなんて誰にもわからねえ。
だから目の前のことをこなすだけだ。
「ドローン部隊作戦開始!」
俺たちの役目は屍食鬼をさらに混乱させること。
レオ陛下の作戦は単純にして悪質だ。
屍食鬼は単純な生き物が集まった集団だ。
ゾークよりももっと単純。
意思決定は速いが個々の意思はないに等しい。
そこに処理しきれない量の情報をぶち込む。
かく乱し、かく乱し、かく乱しまくる。
もちろん屍食鬼側も人間に側をかく乱してくるはずだ。
だがトータルの処理能力は人間側が有利。
この戦いを相手に押しつけられれば、俺たちは確実に勝利できるだろう。
同士でも討ちはじめれば最高。
そうじゃなくても動きが徐々に緩慢になってきてる。
そして情報が飽和したとき、敵の本体が出てくると予想してる。
俺たちは敵中継機の破壊を優先する。
敵の中継機を破壊しつつ、生きてる中継機にも大量の情報を送りつけて情報を飽和させる。
なにもさせない。一方的に叩き続ける。
……レオ陛下ってたしか名家のボンボンだよな?
喧嘩上手すぎじゃねえか?
なーにが、戦術苦手だ。
命令違反からの総崩れからここまで持ち直しやがった!
それができるやつがどれだけいる!
やはり時代に愛された英雄ってのは存在する。
「行くぞドローン隊! 皇帝陛下、レオ陛下、ケビン様に恩返しするぞ!」
「押忍!」
俺たちは自爆ドローンで中継機を破壊していく。
囲むように。
囲むように進撃。
陣取りゲームってレオ陛下が仰ってた。
その通り進撃していく。
だが屍食鬼だって反撃する。
順調だったドローンが突如として消えた。
「信号ロスト! 巨大なエネルギー反応あり!」
「ケツまくって逃げろ! 来やがったぞ!」
とうとう誘い出せた!
本当に出てきやがった。
そうそこに現われたのは……門番。
惑星を守ってたはずの巨大な屍食鬼が前に出てきていた。
レオ陛下、あいつ本当にやりやがった!
相手の陣形崩しやがった!
俺たちより圧倒的に数が多い相手をとうとう動かしやがった!
「惑星級要塞と新型機でぶちのめす! ドローン隊は援護しろ!」
「はっはー! レオ陛下、最高だぜ!」
「ラターニア艦隊! この隙に惑星を制圧! 制圧後背後から攻撃せよ!」
「了解!」
おい、見ろよ!
これがレオ・カミシロ・クロノスだ!
銀河帝国最強にしてフレンドリーな悪魔と称される軍略家だ!




