第七百六十一話
クロノス王宮の女官はある意味ゆるかった。
俺は当然として嫁ちゃんも軍育ち。
身の回りの世話は自分でもある程度できた。
さらに嫁ちゃんは戦艦で「妾も当番やるのじゃ!」と喜んで掃除やら洗濯当番をやってた。
やはり同年代の友人たちと同じことをしたかったのだろう。
「ご成長なさって」とピゲットが漢泣きしてたのを何度か目撃してる。
料理は俺の手伝いをよくやった。
目玉焼きくらいは作れる。
士官学校名物アイロンがけも上手だ。
つまり俺も嫁ちゃんもスタイリストが必要な夜会とかでもない限り世話はいらない。
女官さんいるけど、実際のお仕事は連絡係とか進行管理役だもの。
第一秘書は書類の山を整理してるポリーナさん。
そこにおかん襲来。
なんかキレてた。怖い。
忍び足で逃げる。
すると妖精さんが焦った様子で現われる。
「ちょっとレオくん! レオくんのお母さん、元女官、しかも第三等官の長だったんじゃないですか!」
実働部隊の隊長だ。
軍だと少尉から中尉かな?
ちょっと待って、お偉いさんじゃん。
「はい? 初耳なんだけど。え、じゃあ兄貴たち実は麻呂の子どもとか……」
皇帝のお手つきで侯爵家に押しつけた……だから両親の仲が悪い。
可能性はないとは言えない。
長兄はありえるかも……。
麻呂と似た系統の顔だし。
……ただ運動不足で太ってるだけか。
「それはないから安心して。ほら昔のお母さん」
おかんの若いころの写真が表示される。
ものすげえキツい顔の美人。
背が高くて細いけど気の強さが顔に出てる。
あ、麻呂の好みと真逆だわ。
麻呂は自分が好き放題できそうな小さくて可憐なタイプが好きだし。
「女官さんに全力で連絡。『気を付けろ、本物のプロが来た』」
俺はようやく理解した。
だからか!
だから嫁ちゃんと結婚しても夜会やら式典で恥をかいたことなかったのか!
軍に入っても階級章曲がってて殴られることもほとんどなかったし!
「階級章さんに謝れ」とか上級生から意味不明なこと言われて腕立て伏せとか、班の連帯責任以外でさせられたことなかったもん!
ロボットに丸投げも上位貴族のマナーコースの学習だったのか!
宮殿レベルでマナーとか立ち振る舞いを教え込んでたのか!
そういやサム兄もバカでヤンキーだけど、領主として恥かいたことないって言ってたもの!
俺の士官学校での懲罰なんて勝手に芋作ったのくらい。
あと白兵戦演習で木の銃剣持たされて「誰でもいいから襲いかかれ」って言われたから、同級と戦うと見せかけて一番隙だらけだった上級生に襲いかかって全員ノックアウト。
それに呼応した全員で今度は教官どもを数の力でボコボコにして病院送りにした程度だ。
追加で止めに来た教官も病院送りにしてやった。
うむ、隙を見せた方が悪い。怒られたうちに入らないな。
普段から信頼関係を構築しない教官どもが悪いのである。
それはいいとして……つまり我が家は腐っても侯爵家……やだ怖い……。
俺……教育だけはちゃんとされてたのね!
あ、そうか。そうじゃなきゃ帝国士官学校に合格できねえのか。
……待って侯爵家の力でねじ込んだんじゃなくて?
……実力なのか。嘘だろ。
とにかく怖い現場監督が来てしまった!
みんな逃げてぇ~!
国王は、国王は……無力なのだ!
「よ、嫁ちゃんに報告!」
「しました!」
「おばちゃん軍団の世話だけさせて」
「すでに赤ちゃんとヴェロニカちゃんが疲れる前に撤収させました。今はティーパーティーで歓待してるとのこと」
ババア……恐ろしい子……。
あたい……完全に後手に回ってるわ!
「あれ……俺顔出さないとまずくね?」
だって国王だもの。
ケツ持ちの銀河帝国の重要人物たちだ。
俺が顔出さないなんてありえない。
「まずいですね」
「スタイリストさん呼んで~!」
あわてて礼服に着替えて頭整えてお茶会襲撃。
どことなく疲れた顔でお茶会に顔を出す。
「義母上様方。レオ・カミシロ・クロノス。ご挨拶申し上げます」
歯をキラン。
立礼。
厳密には俺の方が位が上なんだけど、家族だしお客様なのだからこれでいいはず。
首を動かさず目だけおかんに移すとキレてない。
合格点はとれたと思う。
「あら~、やっぱりいい男ね~」
おかん軍団が来てぺたぺた触られる。
「やっぱりヴェロニカちゃん面食いだわ~」
「キャ~!」
黄色い声に「助けて」とおかんにアイコンタクト。
「我慢しろ」……あ、はい。
なんで「我慢しろ」なんて指令を出すのかなと思ったら、その答えはすぐにわかった。
「神様、神籬様、末松神祇祐様、到着いたしました」
神籬ちゃんの鉢を持った末松さんが座敷童ちゃんを連れてやってきた。
俺も含めて立礼。
だけど座敷童ちゃんは空気など読まない。
俺のすそを引っ張る。
はいはい抱っこね。
抱っこする。
「いま見ました。レオ様なんのためらいもなく抱っこしましたわ」
「いい父親になりそうね」
なによそれ。
末松さんは膝をつき神籬ちゃんを掲げる。
「世界樹ちゃんが『祝賀』だって」
すると全員で礼。
たぶん俺の子どもの誕生のことだろう。
「あのね、あのね、お兄ちゃん。お兄ちゃんとお姉ちゃんたちの国はこれからどんどん強くなるよ」
おそらく銀河帝国とクロノス王国のことだろう。
「ゼン神族はどうなるのかな?」
「わからない……星の神も準備を進めてる」
「だろうね」
なんとなく準備期間なのかなって思ってた。
だって俺にクロノスからパーシオンまで取られて、防衛ラインを発見されたわけである。
向こうも建て直しの準備が必要だよね。
こっちが動けない間にやるしかないよねって話。
もう謀略でどうにかなる段階はすぎた。
力と力のぶつかり合いである。
やだー、怖い!
「平和な話で解決は?」
「ない」
ですよねー!
できれば話し合いで解決したいんだけど。
「お兄ちゃんなら乗りこえられるよ」
「ありがとう……」
やはり戦いは回避できないか。
本当は超自然の存在とか戦力が測れない存在と戦いたくないんだよね。
落とし所もわからないし。
屍食鬼がそうだ。
話が通じない有害な存在だから滅ぼすしかない。
せめてパーシオンくらい話し合えればいいのだが。
悩む暇もなく間髪入れずに放送が鳴る。
「クレア様出産の徴候あり。手術します」
はい、今度はクレア。
前を見るとうちのおかんがニヤついてる。
それはわかる。
おばちゃん軍団もキュピーンしてる。
なぜに?
「クロノス国王陛下ご準備を」
おかんが俺に「さっさと行きやがれ」とうながす。
へいへい。
座敷童ちゃんを降ろす。
もう三度目だ。
俺もなれてきた。
すぐに終わるさ~。
神籬ちゃんがピカピカし、座敷童ちゃんが踊り始める。
さあ、8人目……ってすげえ大家族だな。
うむパパがんばる!




