第七百六十二話
クレアの赤ちゃんは大きな男の子だった。
嫁ちゃんの子は少し小さかった。
低出生体重児というやつだ。
ただナノマシンがあるので低出生体重児は問題にならない。
……嫁ちゃんは幼生固定されてたのでそうなったと思ってたが。
いや……なんか違うような気がする。
クレアと俺の共通項を考える。
俺は半分平民だ。
いや実家が貴族になった経緯を考えると、ほぼ平民と言っても差し支えない。
俺を置いて失踪した実の母親が平民なのだ。
クレアも貴族の養子で平民の血筋だ……たぶん。
というか見た目が純和風なので貴族家の娘が平民との間に作った子ども。
それが原因で捨てられた可能性が高い。
メリッサの母親はリコちと同郷。
平民って言ってたけど、リコちの地元はほとんどの住民が貴族の子孫だそうだ。
まだ出生率が高かったころに貴族の庶子が移り住んだ惑星とのことだ。
つまり皇族の血も入ってないわけがなく……。
やっぱりか……。
俺は盛大にため息をついた。
誰に相談しようか。
悩みを共有するんじゃない。
この問題を誰かに押しつけたい。
妖精さんは当然巻き込むとして、ここが医学的な権威が必要だ。
「妖精さん、会議室予約して。ケビンと三人で重要な話がある」
「レオくん……声がガチトーンなんですが……」
「うん、俺、嫁ちゃんの婿だから知っても殺されないけど……正直知ったら命が危ない案件。杞憂だったらいいんだけど……俺の妄想でさえあれば……」
「本気で怖いんですが。わかりましたケビンくんと一緒ですね。レオくんとケビンちゃんの仕事のスケジュールがあいてるときを……」
「ごめん。すぐに呼んで、スケジュールはリスケお願い」
「そこまでぇ!」
「俺が気づくくらいだから、すでに何人も気づいてて……それこそ大量に消されてると思う案件」
「……ガチで?」
「ガチッス。確定しないと嫁ちゃんにも言えない」
「うわぁ……」
ということで会議室にケビンを呼び出す。
「……レオ。顔が怖いんだけど」
ケビンが俺の顔を見て嫌な顔をした。
ついゴ●ゴ顔になってしまう。
「すまんケビン。緊急で産婦人科の先生と遺伝子の専門家でチーム組んでくれ」
「どうしたの? ちゃんと説明して」
「銀河帝国の少子化の原因。貴族……というか王族の遺伝子が原因かもしれない」
そうなのである。
王族は一見すると子どもが多いイメージだが、数打ちゃ当たる方式なのだ。
嫁ちゃんの爺ちゃんだって手当たり次第手をつけたようだ。
子どもは多いけど嫁一人当たりの妊娠率は低い。
麻呂は血の繋がった姉妹を中心にばら撒いたせいでハーレムなのに実子はそれほど多くない。
皇位継承者は多いが手を出した人数を考えれば驚きの少なさだ。
食っちゃ寝して子作りしてるだけのゴミカスなのに生産性が低いのだ。
俺だって現時点で子ども8人やぞ!
だいたいさ、うちの実家は本妻の間に二人、愛人の間に一人だぞ。
つまり限りなく平民に近い我がカミシロ家だからこそ嫁ちゃんを妊娠させられたと。
そしてやることやってるメリッサに子どもができにくい原因は……。
「……ヤバい」
ケビンがつぶやいた。
「ですよねー。女の子どうしの秘密よ」
ケビンが無言で俺の頭にチョップ。
「こういうのはヴェロニカちゃんにちゃんと言いなさい! 夫でしょ!」
「心配させたくないじゃん!」
「いいから! ボクから言うから! ヴェロニカちゃん!」
それでいま、床に正座させられて嫁ちゃんに怒られてるってわけ。
「婿殿! そんな大事なことは言え!」
「いやだってさ、知ったらヤバい最重要シークレットな話だし」
「隠すな! ゾーク……いやゼン神族の工作かも知れぬ案件ぞ! 超能力者狩りと同じじゃ!」
「あ、それだ!」
「なぜ余計な気を使うかな!」
ケビンもカンカンだ。
カナシイ……。
というわけで名付けでいまだに大混乱中なのに案件が降りかかった。
まずはみんなを食堂に集めて発表。
「銀河帝国の不妊症の原因がわかりました。皇族の遺伝子が原因です。有志の協力者を募集してます」
殴られるかなって思ったら全員沈黙。
思い当たりがありすぎるようだ。
すでに結婚してて不妊に悩んでる女子がケビンのところに集まった。
検査の申し込みが殺到。
嫁ちゃんも銀河帝国から大規模予算をつけてくれた。
なぜか無言で調査に協力してくれることになった。
貴族名鑑で士官学校の連中に皇族の血が入ってるかを大チェック。
イソノやアマダの野郎は違うみたいだな。
「嫁ちゃん……国民にはどう説明するの?」
すると嫁ちゃんは悟った顔で言い放った。
「こういうときのクロノスじゃろ? 『クロノスで判明した新事実! 許さんゼン神族!』でいいと思うぞ」
「ですよねー」
俺も汚い笑顔で応じる。
明確な敵がいるって政治的に楽だよね。
「さて子どもを迎えに行くか」
ババアとおばちゃん軍団、あと連れてきた乳母軍団に預けてるようだ。
クレアの子どもも母親が疲れないように預かってる。
寝られないとどうしても体力で劣る嫁ちゃんにはつらい。
クレアでもきついって。
俺も手伝ってるけどチームがあるのは楽である。
レンの子どもたちはビースト種のチームがいるが、母親がくっついてた方がいいみたい。
レンはカゴに入れて持ち運んでる。
雑なようだが母親のにおいがないと不安になるらしい。
そして数日後、命名会議でクレアの子どもの名前が決まった。
えーっと神社関係者20名、僧侶20名、クロノス教神官20名が負傷して病院送りに。
同じ宗教内でも殴り合いになるカオス。
最期は会議参加者全員で大乱闘になったようだ。
嫁ちゃんの子どもはまだもめてるらしい。
とりあえず、将来クロノスの国王になりそうなクレアの子はアーク。
『光』とか恒星を意味するみたい。
これ将来のクロノス国王内定だわ……。
すまぬ我が子よ……父は無力だ。
父には隙を見て民主制に移行するくらいしか思いつかない。
レンの子どもたちは政治家も交えて大会議中。
帝国標準語にしろ派とクロノス語にしろ派が大乱闘中。
会議に鉄パイプ持ち込んだアホを逮捕。
お前ら宗教家だろうが!
ヤンキーじゃねえんだぞ!
容赦なく逮捕して反省してもらってる。
なぜか自分のところの宗教にも容赦しない姿勢が支持率上昇に拍車をかけた。
……戦争より平時の方がピンチになるのは平常運転である。




