第七百六十話
「レオ、孫はどこですか?」
ババアがクロノス宮殿に来襲。
しかも後宮のロリおばちゃん軍団つき。
孫見たさに来やがった。
「カミシロ夫人にはたいへんよくしてもらいました」
「やだ~、褒めすぎですわ~」
ロリおばちゃんたちもおかんも上機嫌。
すでにズッ友である。
さすがカミシロ領を一人で仕切ってた化け物。
VIPの旅行の手配をなんなくこなしやがった……。
しかも友だちになってる。
血は繋がってないのに絆を感じる。
俺は確実にこの母親の息子なのだと思う。
「えーっと一応確認なんスけど、孫という認識で?」
ノーモーションで拳骨。
「げぶらッ!」
「なにを情けないことを言ってるのですか! 私が兄たちとお前を区別したことが一度でもありますか!」
「差別されたことないです……兄弟全員雑に育てられました!」
そう……下振れしてるが平等ではある。
「そうです! お前の父という共通の敵がいるから我が家は安定していたのです!」
親父ぃ……。
嫁に嫌われすぎだろが……。
たしかに年齢が離れてる長兄とはあまり仲良くないけど、サム兄とは同じ条件で雑に育てられた。
子守ロボットに丸投げだ。
喧嘩しても俺が理不尽に怒られることは少ない。
というかガキのころサム兄に勝てたためしがない。
俺をボコボコにしたサム兄が怒られる方が圧倒的に多かった。
「その証拠に父は孫に会いに来ませんでした。暇なのに!」
「あんのジジイ……」
血の繋がった孫だろだが!
てめえは前当主として、一門当主に会いに来る義務あるだろが!
「毎日甘い酒と甘味をとり続けてナノマシンでも治療したはずの糖尿病が再び悪化。肝臓も一気に悪化して……入院しました。もう知りません!」
「あー、はい……」
銀河帝国では糖尿病は治療可能。
ナノマシンでランゲルハンス島を作り直すだけ。
そんなに難しい処置ではない。
ただしⅡ型で生活習慣に問題があり、ナノマシンで治療でも改善できない場合は依存症として精神科に入院する。
アルコール中毒と砂糖中毒の治療である。
当主から蹴落とされたことを言い訳に使うだろうが、その前から貴様は糖尿だ。
アホめ!
そこまでやって足が腐る患者がいまだに多数いるのだから闇は深い。
「兄貴たちは?」
「二人とも忙しく職場から離れられません」
そりゃそうか。
エンジニアになった長兄は、俺の兄貴ってだけで期待されて死ぬほど仕事させられてるらしい。
サム兄は領地がウハウハなせいで死ぬほど仕事が増えて動けず。
いまや領主系情報誌や経済誌の常連。
次の宰相候補とまで言われてる。
実物を知ってる俺も嫁ちゃんも大反対なのだが……。
いやアホの子なのに超能力が異常なほど強大という見える地雷なのだよ!
冗談ではなく超能力一本で皇位簒奪狙えるからね!
惑星カミシロに封印せねばならない。
妖精さんにレオニダスくんにサム兄に!
なんで俺の周りはラスボスクラスが集まってるのー!
さて、それはいいとして嫁ちゃんところにゾロゾロ押しかける。
「ヴェロニカちゃん来たわよ~」
「は、母上! なんで!」
知らせてなかったんかい!
女官さんにアイコンタクト。
すると耳打ちしてくれた。
「驚かせたいからって口止めされていたのです」
「ごめんね。指揮命令系統の混乱は俺の責任だわ……」
まずは女官さんに謝罪。
嫁ちゃんにも素直に謝る。
「ごめんね嫁ちゃん。俺の確認ミスだわ」
「婿殿はよくやってる。悪いのは母上たちじゃ」
「まー、これが私たちの孫! かわいい~!」
聞いちゃいない。
おばちゃんの耳には都合の悪い情報は入らないのだ。
おかんはカミシロ家の女主人として背筋を伸ばしている。
「おかん、孫見ないの?」
「私が一番地位が低いのです。ご案内することが臣下の役目です」
この人ちゃんとしてるんだよなあ……。
言ってることが正しいもの。
雄々しいし、俺とは距離感あるけど。
親父なんかと結婚しないで軍人になったら幸せだったんだろうなと思う。
だからクソババアとは思うけど、親ではあるんだよな……。
背中で語るタイプ。
親になったいまならなんとなく理解できる。
このタイプの親にはなりたくないけど。
「うむすまぬな。銀河帝国皇帝ヴェロニカじゃ」
「皇帝陛下にご挨拶申し上げます。乳母総責任者リサ・カミシロ参上つかまつりました」
「う、うむ。はげめよ。孫見るか?」
「は! 皇子様にご挨拶申し上げます!」
赤ちゃんを見て、一瞬だけニマァっとした。
なんだその顔……。
一礼して再び壁に控える。
すると同じく壁に控える俺におかんがあてつけがましく言った。
「ところでレオ……六つ子ちゃんはどこですか」
ニッコリ。
俺も汚い笑顔で応じる。
遅延工作だ。
俺の子ネコは守る!
だけど嫁ちゃんはため息をつく。
「母上たちの相手は妾がする。婿殿は侯爵夫人をレンのところに案内せよ」
「えー……」
「いいから孫見せてやれ!」
追い出された。
宮殿を移動してレンの部屋に。
子ネコがニャーニャー鳴いてる。
「旦那様?」
「レン、うちの母です」
「お、お義母様!」
「はじめまして、クロノス第三王妃様。乳母総責任者の栄誉を賜わった。リサ・カミシロにございます」
おかんが膝をつく。
「ひ、膝をつかなくてもいいですから! あのこちらがお孫さんですが……」
抱っこひもに入れてた子ネコたちを見せる。
「まあまあまあまあ! なんてかわいい!」
「旦那様、お義母様はビースト種になれてるのですか? 普通種との婚姻では子どもを見てもめるって聞いてたのですが……」
そうなのである。
実家ともめるのはあるあるなのである。
本当にビースト種への差別は根深い。
うちは問題ないようだ。
「あれは単に細かいことは気にしないタイプです」
そうなのだ。
うちの母親は「細かいことを気にするな!」ってタイプだ。
おそらく「男だから」とか「帝国貴族だから」ではなく、本人が細かいことを気にしないタイプなのである。
貴族としての生き様や様式にはこだわるけど、それ以外はテキトーである。
「まあまあまあまあまあ!」
テンション爆上げしてる。
「あー、おかん。においかがせて憶えさせて。体ができてないからまだお触りは厳禁ね」
「そうなの~。おばあちゃんですよ~」
においをかがせる。
普段は常に仏頂面のババアであるが、今まで見たことない表情になってる。
俺が王になったときも見たことない顔してたが……。
今回は「誰だコイツ」レベルだぞ……。
なんだこの締まりのない笑顔。
「えらいでしゅねえ~。疲れちゃいましゅね~。おばあちゃんは帰りましゅね~」
本当に誰だコイツ。
「では第三王妃様。失礼いたします」
こうしておかんは嵐のように出て行った。
「レン……なんかごめん」
「い、いえ、旦那様もたいへんですね」
うん……。ありがとう。




