第七百五十八話
レンでございます。
私もとうとう母になりました。
ビースト種は頑丈です。
赤ちゃんが小さいため出産のダメージも少なく、翌日には戦闘すら可能とのこと。
これは小さく産んだ赤ん坊を危険生物から護るためとされてます。
赤ちゃんは猫の子どもくらいの大きさで生を受けます。
生まれたときは獣の姿。
体温調整のためとの説が有力です。
さわると柔らかい毛の中に硬い毛が混じってます。
この硬い毛は中が空洞になっていて、断熱効果が高いもの。
そこから一年かけて人間の姿になります。
この小さな命を見て恐怖のあまり逃げ出す普通種の男は後を絶たないと聞いてます。
最愛の旦那様、クロノス王レオ・カミシロ・クロノスがそうだったら嫌だなと思いましたが……それは杞憂だったようです。
たいへん喜んでおられました。
「パパもうちょっとレンと子どもたちといたいよぉ……」
「ダメです。退室時間です」
「ふえぇ……」
パパは追い出されました。
識別のために子どもたちの足にタグが巻き付けられてます。
産まれた順番と生体データのバーコードが書かれたものです。
私は我が子を見てにやけました。かわいい。
まだ目も開きませんし、鳴き声も出せません。
目や声帯は出産後に最終調整がされるためです。
生きるための最低限の装備で生まれ、それ以外は出産後に作られる。
これがビースト種です。
我々を作った科学者は生命への冒涜を恐れなかったのでしょう。
これほどかわいいというのに。
そんな幸せいっぱいの家族ですが問題が浮上しました。
予定日よりかなりはやく産んでしまいました。
そのせいで長子が私の子どもになってしまったのです。
もう政略の道具にされてます。
本来ならヴェロニカちゃんやクレアちゃんの数日後になるはずでした。
ところが長子に。
あと少し気合で抑えれば……いえ……こればかりは無理でしょう……。
実は旦那様の嫁たちで会議をしたことがあります。
あれは私の妊娠が発覚した直後でしょうか。
誰の子が銀河帝国の次代皇帝になるか、誰の子が次代のクロノス王になるのかという話です。
壮絶な押し付け合いが始まりました。
銀河帝国皇帝はヴェロニカちゃんの子どもですが、当のヴェロニカちゃんがそれを回避したいようです。
「トマス兄様の子を皇帝にするぞ」
……無理だと思います。
銀河帝国でもレオ・カミシロ・クロノスは救国の英雄。
しかも無法はびこる外宇宙に法を敷き、秩序と正義をもたらしたとされてます。
表現方法に異論はあるものの間違ってません。
そんな英雄の子を皇帝にしないはずがありません。
血統とかそういうものは関係ありません。
ゾーク戦争を勝利に導いた皇帝ヴェロニカとゾーク戦争の英雄にしてクロノスの王レオ・カミシロ・クロノスの子です。
皇帝にならないわけがありません。
「ヴェロニカちゃんの話は無理として」
クレアちゃんは相手にしませんでした。
「まさかのスルー……」
「だってどうやっても回避できないし」
「ふえぇ……」
「それよりもクロノスの問題の方が深刻よ」
「クロノス王はクレアさんのお子さまにするべきでは?」
「嫌よ。だって銀河帝国から頂戴した本家を継がせなきゃいけないでしょ。軍に就かせなきゃならない子もいるでしょ。するともう一人……三人は難しいでしょ。平均出生率から考えても」
クレアちゃんが客観的データと法制度で殴ってきました。
反論が難しい。
「ぐぬぬぬぬぬ……め、メリッサはどうじゃ」
「そもそも妊娠してないし。することしてるのに現状妊娠してないんだから、最終的な子どもの数も期待できないわけでさ~」
こっちは論理が飛躍してる。
そこまで悲観しなくても……。
メリッサちゃんは繊細なのです。
「リコちゃんはどう思う!」
場が暗くなるのも嫌です。
そこでムリヤリ話を変えてみました。
「ノーコメントで。うちは子どもできても領地継がせる子だけでいいかな。どうせ軍に入るだろうし」
「私たち軍閥だもんね……」
そうなのです。
みんな軍閥なのです。
軍に入りさえすれば問題ありません。
だから旦那様とカミシログループを分けてるクレアちゃんだけは領主が必要なのです。
「なにか勘違いしてるけど……カミシログループはレオが死んだら創業家として経営から手を引くつもりよ」
「はい?」
クレアちゃんからの爆弾発言です。
「私とレオが持ってる株は子どもたちに平等に分けるから」
それはつまり……莫大な財産が転がりこんで来る。
自分の家に一人子どもが必要になるということだ。
「子どもが最低で二人必要!」
公爵が確約されてる本家領地というだけでも面倒ですのに!
「私……クロノスの妃に専念しようかと」
私がそう言うとヴェロニカちゃんたちが一斉にこちらを見る。
「レンだけはダメだぞ」
「なぜに!」
「差別撤廃のためにもビースト種の指導者が必要じゃ!」
「それ冗談じゃ……」
「大真面目じゃ!」
なんということでしょうか。
私の愛する子ネコたちは生まれながらに指導者になる運命に……。
そしてさらに問題が持ち上がりました。
それは産んですぐのこと。
ルナちゃんからの連絡でした。
「レンちゃんたいへん! 獣人族がレンちゃんの子どもを王にしてくださいって!」
「……ぶっ殺す」
自然と低い声が出ました。
私の愛する子ネコたち。できれば自由に生きてほしい。
というか父親が父親です。
あのレオ・カミシロ・クロノスなのです。
どう育てても自由を求めて暴走するさだめだと思われます。
獣人族の勝手極まりない言い分についキレてしまいました。
我が子たちも心配そうに私を寄りそいます。
そう私はもう母親なのです。
我が子に責任があります。
「十歩譲ってビースト種の指導者は我慢します。ビースト種の未来のために必要でしょう。ですが獣人族には貸しも借りもないでしょう。お断りいたします。少なくとも現時点では」
私はエゴと言われても断りたいと思います。
よく知らない国の王になって首を斬られる。
そんな悲劇だけは避けねばなりません。
そもそもクロノスの王ですら旦那様は嫌がっていたのに。
あれは旦那様が異常個体……怪異クラスの政治能力の持ち主だから可能だったのです。
普通なら無理です。
できるはずありません。
母は子ネコたちを守らねばなりません。
できればクロノス貴族か銀河帝国の文官あたりになってくれればいいなと思います。




