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第七百五十六話

 ここでヤバい事実に気づいた。

 嫁ちゃん、出産により離脱。

 クレア、同じく離脱。

 レン、同じく離脱。

 ケビン、医師の職務に専念のため離脱。

 戦力がゴリゴリ削られてる。

 嫁ちゃんとケビンがいないと攻撃力が半分以下かもしれない。

 ここで戦闘になったらヤバい。

 レオニダスくんの加入で戦力が増えたけど穴埋めは難しい。

 というかそのレオニダスくんは故障者リスト入りである。

 戦争無理だ。

 だって俺じゃ艦隊の指揮できないもん。

 そうなのである。

 俺は盤面見ながら指揮するのが苦手なのである。

 司令官レベルの運用が本当にクソ無能。

 現場の隊長と国家君主レベルはいけるのだが、いま必要とされるプレイヤーではない。

 軍師タイプじゃねえのよ。

 逆に嫁ちゃんは艦隊指揮が得意。

 嫁ちゃんが艦隊指揮してくれたからこそ、俺は死なずにすんだ。

 いや俺と同じくらいのレベルの人ならゴロゴロいるわけ。

 当たり前のことを当たり前にできる人。

 でも嫁ちゃんみたいに圧倒的不利から勝利する人はいない。

 言うこと聞かない無能軍団を指揮して生き残った傑物、トマス義兄さんでも無理。

 やだ……詰んだ……。

 ちょっと後ろ向きな気分である。

 喧嘩売らんとこ……。

 こういうときに好戦的だと足元すくわれる。

 慎重に行こう。

 今日はクロノス教とともに感謝状の贈呈と共同事業の発表をする。

 まずは感謝状。


「我が従兄弟への祈念。たいへんありがたく思う。おかげで無事手術も終わりレオニダスも回復している」


 ヘラヘラすんなって言われたから偉そうにした。

 舌噛みそう。


「そこで共同事業の提案をしようと思う!」


 なんてことはない。

 資料漁ったらパーシオン教の葬儀の儀式を説明した本が出てきたわけ。

 おそらく昔の研究者がまとめたものだ。

 多くの学者の専門書と同じく忘れられ放置。

 どこかの大学の書庫で発見されたわけである。

 書庫は地下にあってイナゴテロを免れたようだ。

 その本をクロノス教に見てもらったら、微妙に言い回しが違うだけで互換性があった。

 仏教の宗派ごとの葬儀の様式的なやつか?

 俺にはわからない。

 思考停止してるんじゃなくて調べたうえでわからない。

 理解しろって方が無理。

 とにかく「うちでもできます!」って力強く言われたので試験的にパーシオンでやらせてみた。

 パーシオンの市民も遙か昔に失われた儀式のため「そういうものか」くらいで受け取ってくれた。

 それでパーシオン教式の葬儀を行う事業を立ち上げたわけである。

 パーシオン全土で行う予定。

 別にクロノス教に改宗しろなんて言わない。

 というか布教するなと厳命してある。

 いいんだよ……放っておけば増えるから。

 イベントするなって言ってないし。

 地域交流イベントはしてもいいと言ってある。

 神殿の前で産直マルシェとか朝市とかね。

 こういう宗教組織がやる宗教色のない商売のノウハウはゲーミング坊主たちの独壇場だ。

 クロノス教とコラボするんだって張り切ってる。

 あとは腐りきったパーシオン教がどれだけシェアを維持できるかなって話だ。

 完全に滅亡はしないだろうけど自業自得で減っていくと思う。

 ということで共同事業の発表も終わる。

 ふへー……疲れた。

 着替えて宮殿でミネラルウォーターを飲んでると「ぴんぽんぱんぽーん♪」と館内放送があった。

 あら緊急放送。

 嫁ちゃんの声がする。


「婿殿! レンが搬送された! 今すぐ向かえ!」


「どわああああああああああああああああああッ!」


 あわてて外に出る。


「陛下! ジャージ! ジャージですから! 着替えてください!」


 近衛と女官さんが叫ぶ。


「どわああああああああああああああああああッ!」


 急いで恥ずかしくない方の服を着て外に。

 靴も革靴だ。

 自動車の中でスタイリストがヘアセットしてくれる。

 いつもの病院。

 嫁ちゃんとクレアは宮殿で待機。

 病院に着くとケビンが案内してくれる。


「容態は?」


「問題ないよ。ビースト種の出産時期は大きく外れることも多いんだ」


「でもレンのお腹は大きくなかったぞ」


「ビースト種の胎児は小さいんだ。生まれてから成長する。戦える期間を確保するためにね」


 聞いてはいたけどそういうものなのか……。

 こういうの、士官学校じゃ習わないもんな。

 無知の極みである。


「自然分娩?」


「いや、安全な帝王切開を選択する。安心して。みんなベテランだから」


「ケビン……正直言っていいか?」


「なんだよ?」


「不安で死にそう。トイレで吐いてきていい?」


 なんかミルフィーユ状になった心配で気持ち悪くなってきた。


「キミが出産するわけじゃないだろうが!」


「そう言われても嫁ちゃんたちと違っていきなりこれよ!」


「いいから! でんと構えてて!」


 ふへー……。


「末松さんたちが向かってるって」


「大活躍すぎる!」


 そしたらまた頭がバグる。


「ラマーズ法とか練習してない!」


「帝王切開だから使わない! 落ち着け!」


 目がぐるぐるしてきた。


「ここに座って待ってて!」



「……はい」


 ベンチに腰掛ける。

 もうね、座った瞬間から貧乏揺すりがはじまったよ!

 子どものころ子育てロボットとおかんの拳骨で矯正されてやらなくなったのに。

 膝が超高速で揺れてるのよ。

 ウロウロしたい。

 無だ……無になるんだ……。


『ハッハー! ぼくカワゴン! おイモさんをもらうとうれしくなって踊っちゃうんだ! いえーい!』


 は! 違う!

 なんて正気に戻る。

 外では光がピカピカしてた。

 座敷童ちゃんに神籬ちゃんたちがフィーバーしてる。

 それを見て近所の住民も集まってくる。

 ……待て……なんかもう屋台出してるやつがいるぞ。

 クロノス人たくましすぎるだろ!

 え、ちょっと待って、カワゴン焼き芋にカワゴン綿あめ、カワゴンポップコーン。

 ……完全にお祭気分じゃないか。

 営業許可取ってるのか?

 いや冗談ではなく。

 集団食中毒が発生したらなぜか俺が怒られるんだからな!

 おいおいおいおいおい、なぜ遠くで花火が打ち上がってるんだ?

 ねえねえねえねえ、車道にまで人があふれかえってお祭り騒ぎしてるんだけど!

 ちょっと待って、これを予想して準備してたんじゃないか?

 楽しそうな雰囲気である……。


「陛下は民に愛されてるようです」


 女官さんがほほ笑む。

 ありのまま受け入れるには騒ぎが大きすぎた。

 だって特別番組を流してるし。

 うん……なんか逆に冷静になってきたぞ。

 そして俺は待った。

 どれほど時間が経過しただろうか。


「陛下こちらに」


 結果から言おう。

 俺の子どもは無事生まれた。

 説明してくれたのは年配女性だった。


「体重百グラムの元気な赤ちゃんです」


「……それ大丈夫なんですか?」


「ビースト種ですので。どうぞご覧になってください」


 カメラを写してくれる。

 あらまー、子猫だわ。

 男女の違いもわからない。

 でもかわいい。


「ビースト種は生まれたときは獣の姿ですが、一年ほどかけて徐々に人の姿になります」


「小さい方が隠れやすく生存率が高いから……ですか?」


「よくご存じで。お父様がご理解があるのはとてもいいことです」


「ご理解?」


「残念なことにビースト種との婚姻では、生まれた子を見て養育を拒否する親は珍しくありません。父親も産んだ母親もです」


 それを聞いて俺は問題の深刻さをようやく理解した。

 そこまでの問題だったなんて。

 そうか、俺は我が子のためにも問題を残してはいけないのか……。

 俺は冗談ではなく気合を入れた。

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― 新着の感想 ―
日系子孫のくせに猫が生まれて保育拒否するとは何事か! しかも成長していけば徐々にょぅι゛ょになり、更にはネコミミガール、猫耳レディになるんだぞ! …………オッサンの場合は微妙な気はするけど少年期までは…
生後間もない子猫……手のひらに乗っちゃうサイズだね!カワイイ!!
かわゆい子猫が生まれて喜ばぬ人類がいるとは。「可愛い嫁から可愛い子猫が生まれて最高では?」って日本人特有の何時ものあれな感覚なんかな。でも海外の方がケモナー多いような。
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