第七百五十四話
ウタ義姉ちゃんをワンオーワンが運んでいく。
さすが看護師資格持ちの衛生兵。
手際がいい。
看護師さんと「うちの子ご迷惑おかけしてると思いますが……」なんて保護者トークしてたら「力持ちで助かってます」と言われた。
どうやら思った以上に活躍してるようだ。
ウタ義姉ちゃんはストレッチャーで運ばれて行った。
メリッサより心が弱いのかな?
いやこっちが普通なわけだ。
そりゃそうか……ゾーク戦争の激戦を生きぬいたうちの嫁たちは傑物か……。
レオニダスくんの手術は半日、ヘタすると十時間かかる。
うまくいけば三時間だって。
極小のドローンで進入して自爆装置を取り外す。
内側から開頭して最期に傷を塞ぐ……。
……って大手術だわ。
俺も祈ろう。
あ、はい。次俺の脳ドックですか……本当にやるの?
やるんだって!
廊下を移動してると「ひーん!」というレンの声が聞こえた。
健康診断を極限までサボったせいで医師にお説教されてるようだ。
レン……病院嫌いなんだよな……。
健康なんだろうけど。
脳ドックに行くと銀河帝国公安の黒服がいた。
公安とか言ってるけど対外活動もやってる。
どうやらレプシトールニンジャ隊の健康診断で公安が俺の護衛になったようだ。
なぜ安心してるかって?
だって公安はメリッサの実家が所属する組織だもの。
メリッサの身内ってことは俺にとっても身内みたいなものである。
「ども~♪」
ご挨拶。
後ろには近衛騎士も控えてる。
近衛騎士は別の日なんだって。
会釈。
いつもそうなんだけど任務中はニコリともしないんだよね、彼ら。
本当にプロだわ。
「クロノス王陛下。末松神祇祐、クロノス教司教到着いたしました」
黒服が無線の内容を伝えてくれる。
「了解。女官総責任者が現在医者に怒られて動けないので、女官さんにお茶を出すように言ってくれる?」
「かしこまりました」
宗教の皆さんは念のため。
なにが起こるかわからんからね。
そりゃ政治的思惑もあるよ。
「従兄弟の一大事だから祈って」ってちゃんと頼れば悪い気はしないだろう。
ちゃんと報酬も払うし。
宗教だって関連企業含めて雇用の受け皿って考えると使いようだよね。
古代からある伝統産業だし。
と考えながら装置に入れられて脳マッピングを作る。
神経やら脳細胞のダメージやらを判定する。
軍人はナノマシンあるから脳細胞の方は大丈夫だろう。
頭蓋骨骨折したことはあるけど脳がこぼれたわけじゃないし。
問題はパンチドランカーだよね。慢性外傷性脳症ってやつ。
アメフトの選手とかだと大昔は十七歳で発症してたらしいし。
俺もツッコミで拳骨落とされまくってるし。
人型戦闘機で死にまくってるわけだし。
人体へのダメージは深刻である。
うーん、怖い。
ボケ老人にはなりたくない。
いや銀河帝国の医療なら治療可能なんだけど、発覚が遅れて手遅れはあるあるなのだ。
本人が手遅れになるまで治療を拒んだり……いや本当に本人の選択ミスは多い。
さらに言うと脳の萎縮は治しても予後がよくないのよ……。
記憶のバックアップも最新版を保存してるわけじゃないし。
だからレオニダスくんの「脳が物理的に壊れたから記憶喪失」ってカバーストーリーも成り立つわけ。
レオニダスくんの脳の爆弾も心配だ。
研究所ごと潰しちゃったからテクノロジーの詳細は行方不明。
特にゾーク戦争末期は「非人道的手段でも勝利せねばならぬ!」なんて主張してる連中が幅きかせてた。
卑怯千万なのは嫁ちゃんの活躍で勝利が見えてきたから主張してるんだからね! これ!
信じられる!? 人間ってここまでカスになるんだよ!
戦争後は「ワシが勝たせた」って顔してたんだからね!
本当に勝たせようとしたんだったら俺のクローンに爆弾仕掛けたりしないよね!
ホントぶち殺すぞ……ってもう殺したのか。
しかも、こういう表に出しちゃいけない研究に限って革新的な技術なわけよ。
倫理規定なしで好き勝手やってるからね……。
この技術、ワンオーワンや執事さんだってわからないわけ!
リバースエンジニアリングが必要なレベル。
だから大丈夫だろうけど、事故る可能性は残ってる。
それがウタ義姉ちゃんの絶叫ってわけ。
そりゃ彼ピならそうもなるか……。
俺の脳の検査が終わって診察。
今のところ大丈夫。
喧嘩と戦争は控えるようにだって!
喧嘩も戦争も好き好んでやったわけじゃないもん!
控え室に帰る。
手術はまだ続いてる。
みんな雑談してた。
イソノに中島。エディもいる。
「レオ、産婦人科行ったか?」
「なんの話?」
「男性の生殖機能検査」
「はい? だって嫁ちゃんもクレアも妊娠してるじゃん」
「隠れた問題を検査するんだってよ! ほれ行ってこい!」
近衛騎士団を見たら笑顔。
なんてこった……。
あたい恥ずかしいわ!
羞恥心まみれで男性の生殖機能検査。
詳しいことは黙秘する。
これは時間かかるみたいで結果は後日。
なお血液検査だがタンパク質の摂取過剰でちょっと数値が悪いくらいだ。
これは端末のデータログとも一致するので「休め」って話でしかない。
あと疲労も数値で危険水域だそうだ。
というかさ!
目下最大のストレス要因のレオニダスくんの手術に専念できないのだが!
書類上は従兄弟だけど、双子の兄弟みたいなもんなんだからよ!
俺これでもかなり心配なんだからね!
で、イライラして歩いてたのね。
そしたら廊下がやたら明るい。
すげえ明るいのよ。
嫌な予感がして下を見たら中庭で儀式してた末松さんの周辺が光ってる。
神籬ちゃんがノリノリでピカピカしてる。
ほう……なにかいいことでもあったのか?
そんなことを近衛騎士と話してたら、控え室前で血相変えたエディたちに遭遇した。
「なんかあったん?」
「なにボケッとしてんだよ! さっさとレンのところに行け!」
「なに!? 頼むから説明プリーズ!」
「いいから!」
わけもわからずレンのいる産婦人科へ……って戻るのか。
まあいいか。
戻るとクロノス教の神官さんたちに囲まれる。
めっちゃいい笑顔。
揉み手しそうな勢いである。
「ささ、どうぞどうぞ」
なぜか診察室にご案内。
モジモジするレンに眼鏡の女性医師がいた。
女性医師は満面の笑顔である。
「国王陛下おめでとうございます。ご懐妊です!」
「やったー!」
バンザイ!
それと同時に嫁ちゃんから通信が来る。
「レンおめでとうなのじゃ!」
やはり宇宙一のいい女。
先にレンに声をかけた。
そう主役はレンなのだ。
「婿殿……レオニダスのことで疲れてると思うが……あとでレンと話し合うぞ」
統治者の顔だ。
たしかにそうなのである。
ここで対応を誤るとビースト種の反乱フラグになる。
いやうまくやればビースト種全体どことか帝国の利益になって千年安泰なのだが……。
あ!
神籬ちゃんのピカピカこれね!
最近、座敷童ちゃんも神籬ちゃんもやたらテンション高かったのも……レンが妊娠したからか!
「じゃあ、レンが健康診断から逃げ回ってたのって」
「ビースト種は体調に変化があると医師から逃げ回る傾向が強いんです」
なんか納得した!
すべてが繋がった!
そして神籬ちゃんフィーバー効果はレオニダスくんにもバフをもたらした。
ドローンの達人、ケビンはサクッと手術を終わらせた。
これは表に出せない手術だけど、その場にいた研究者たちは衝撃を受けた。
だって銀河帝国軍最強のドローンオペレーターの業だもの。
今まで治療できなかった疾患のいくつかも治療できようになるのではという話にまでなったのである。
ケビンの操作を人工知能に落とし込むプロジェクトが発足することになる。
俺……今日の出来事だけで過労死しそう……。
そしてさらに少ししてレオニダスくんが目覚めた。




