第七百五十一話
「詩姉ちゃんは男との距離感がバグってる」
メリッサが心底嫌そうな顔でそう言った。
「ほう」
レオニダスくんである。
ほら、どうなってるかなって気になるじゃん。
「柔道一筋で野郎どもや武道家の家族にテキトーに育てられたせいか恋愛レベルが異常に低い。高校は柔道のスポーツ推薦で奨学金もらって全寮制の私立だったし」
「女子校?」
「違う。けど鉄道の線路挟んで男女別校舎の実質女子校」
「それで大学でも柔道選手か……って柔道どうなったの?」
「ゾーク戦争の帝都防衛戦で中止。ほら、エディの剣術大会も中止になったじゃん。それでタイミング悪くて就職。当時仕事やりながら柔道って言うと軍に警察に公安に……いまだったらカミシログループの各社あるけど、公爵会がいたころは柔道選手も公爵会の派閥で占められてたし」
カミシログループは社会人スポーツに多額の投資をしてる。
だってスポーツコンテンツの輸出はカミシログループの主要部門の一つだし。
柔道やレスリングもこちらに輸出して全銀河大会開く予定である。
というかレスリングはプロレスからすでに流入済み。
ザウルス先生、学生の頃に全銀河帝国選手権出場したんだって。
鬼神国に一瞬で広まって、クロノスでも大人気。
全銀河大会を開く会議をしてる最中だ。
なおタンク師匠は大相撲で小結まで行ったとか。
レプシトール人のアーマードリキシを指導してる。
というか無改造でアーマードリキシを投げ飛ばしてるので化け物だと思う。
「厳しい稽古もせずに体を改造しようって輩は心の時点で負けてるんですよ!」
ほんとそれ!
タンク師匠の発言を聞いて「そういや相撲ってちゃんと教えてもらえる場所知らないな」って思った。
俺も習ってる。いつもけちょんけちょんにされてる。元プロ強すぎる……。
と余計なことを考えながら、ウタ義姉ちゃんは柔道一筋だっただなと理解した。
「男っ気がなさすぎて、はたから見ても距離感がバグってるんだ……それと焼肉タカりすぎなのが実家で問題になって……姉ちゃんデートしてるだけだってほざくし……」
ほろっとメリッサが涙を流した。
さすが人妻。
男の扱いの解像度はウタ義姉ちゃんよりわかってる。
レオニダスくんの給料には領地からの収入名目でカツアゲ分の補填をしてる。
だってかわいそうじゃん!
「おうちデートにしろに言ったら『やだー! だって家庭用じゃ火力足りねえじゃん!』だって。そうじゃねえ! そうじゃねえんだよ!」
「家庭用は肉を料理酒に美味しいタレにおろしニンニク混ぜて一晩漬ければたいてい解決しない?」
安くても柔らかく美味しくなる。
「そうじゃねえよ! ねえねえ、愛しい旦那様。あなたも世間からズレてるって理解してる?」
眉間を指でウリウリされた。
「あなたはバーベキューセット持ってるタイプの人でしょ! あなたが詩姉ちゃんとつき合ってたら無限に料理させられるでしょ!」
「あ、はい……それはそれで理想の生活」
メリッサに両手でこめかみグリグリされた。痛い。
「そこが問題なんだよ。隊長もレオニダスも基本ドMじゃん」
「ひどい!」
ドMじゃないもん!
ただ俺がひどい目にあえばギャグですまされる展開が多いから我慢してるだけだもん!
最近は気持ちよく……いやねえわ。
骨折とか普通に痛いし。
「武術家なんてみんなドMだしな」
「ぼくパイロット! パイロットだもん!」
「パイロットも地獄みたいな勉強と訓練をこなしてやっとなれるもんだろうが! そこに弁護士になるんだって意味不明な勉強足してる時点で最初からドMなの!」
「なん……だと……」
ジェスターの呪いかなって能力のせいにしようと思ってたのに……原初からドM……だと……。
地獄みたいな話になってきたぞ。
「それでウタ義姉ちゃんはどうするんだ?」
レプシトール忍法「都合の悪い話はスルー」の術。
「お手伝い名目でうちから人を派遣した。館花家のおばちゃん軍団」
「ほう……」
「姉ちゃん家事できるけど雑だからさ……部屋をお汚屋にしてて……毎日怒られてるみたい」
「そりゃ俺たちとは違うだろ」
軍人、特に士官候補生は死ぬほど『生活』を叩き込まれる。
アイロンから始まって掃除に洗濯、炊事もだ。
そもそも銀河帝国自体が日系文化なので義務教育時点で整理整頓と掃除はさせられる。
士官学校は義務教育の上位版だ。
だからタチアナやワンオーワンだってそこらの中高生よりは家事が得意な方だ。
料理だってできるし。
なんだかんだで部屋を維持してるし。
偉い!
でもウタ義姉ちゃんは軍人のフリしてるけど、民間育ちだからな~。
俺たちほどできるわけじゃない。
「でも体育会ならやるんじゃないの? 柔道着洗ったりとか」
「洗濯はできるよ。洗濯だけは」
メリッサの表情に影がさした。
親代わりの姉の残念な姿にダメージを負ってるようだ。
「なんかすまん……」
「いいって。とにかく親父たちも心配しててさ……」
気がついたら手遅れだったパターンだったのか。
「一族の威信にかけて根性を叩き直すって」
おや……空気変わってきたな。
級に体育会系理論に。
「女子なら家に入れとかそういう時代錯誤なことを言ってるんじゃない。ゴミ屋敷を作る、メシはたかる、酒の空瓶を床に置く……そういうズボラ根性を叩き直すって」
「お、おう……大丈夫か?」
そもそも誰かが面倒見ればいいのでは?
レオニダスくん領主だし。
人雇えるでしょ。
「地雷だと思われないように仕上げるって!」
「そっちかー……」
もう手遅れだと思うのよ。
むしろレオニダスくん地雷を楽しんでるんじゃないかな?
我らジェスターはそういう業を背負った生き物……。
あたいも気を付けねば……。
ほら気がついたら地雷原でタップダンス踊ってるのがジェスターだし……。
「それで~。どうするの?」
「姉ちゃんはデートしてるつもり。じゃあレオニダスくんは?」
そういやレオニダスくんがなに考えてるか聞いてないな。
「放っておけばいいんじゃない?」
するとメリッサに頬をぶにぶにされる。
「結婚して何年放置されたと思ってるのかな~。ねえ、隊長がそれ言う? ねえ、そろそろ赤ちゃん欲しいんですけど」
ぶにぶにぶにぶに。
「それに関してはたいへん申し訳なく……」
おかしい。
レオニダスくんがやらかしたことが全て俺に返ってくる。
いや双子の兄弟みたいなもんだからしかたないんだけど……。
しかたないんだけどー!




