第七百四十四話
「婿殿。意味がわからぬのだが」
クロノスの宮殿で嫁ちゃんが困惑した顔で聞いてきた。
「えーっと……、俺も頭の中グチャグチャだから整理しながら説明するね。惑星クラスの巨大な屍食鬼がいてバカデカいレールガンぶっ放してきたのよ」
「話の冒頭から意味がわからんな」
惑星級の巨大屍食鬼のレールガン?
主砲だろうか?
「たぶんさー、俺たちが奥に来ないようにしてる万里の長城なんだと思う」
またわけのわからないことを……。
「どういうことじゃ?」
「えーっと、俺たちが遭遇したのは防衛用のユニットだと思う。それで、古代人はそいつを倒すために惑星級移動要塞こさえてたのよ」
「……待て、どういうことじゃ。移動要塞は防衛用じゃないのか!?」
いままで聞いてた話と違う!
「たぶん攻撃用。そのあと古代人の軍勢はイナゴテロか政治工作で壊滅させられたんじゃないかな?」
あいつら搦め手も使ってくるからな。
「ジェスターは味方に倒される運命か……」
「協力プレイ特化型だから味方との相性は必ずつきまとうよね」
これは仕方ない。
運命だ。
俺はパーシオンくんと相性悪いけど味方だもん。
「でー、向こうの攻撃を俺とレオニダスくんで逸らして逃げてきた」
「パーシオン、マゼラン、オーゼンの半壊は?」
「負けた側の軍人ってかわいそうだよね……敬意持ってくれないもの」
市民は残酷だ。
とてつもない犠牲を払ったとしても勝ちさえすれば英雄だ。
だけど負けたとたんに石を投げてくる。
パーシオンにマゼランにオーゼンの軍は故郷を守れなかったと永遠に指さされ続けるわけだ。
侵略者である俺はあまり怒られない。
だってフリー素材だから。
もともとなに言っても許される存在に石投げてもつまらない。
反応ないもん。
俺も相手にしないし。
だから常に大喜利状態。
俺の悪口はよほど面白くないと世間に相手にされないのだ。
社会の風通しの良さって重要だな……。
思ったよりも効果あるぞ……。
という話は嫁ちゃんとしてたわけよ。
軍人の悲哀もね。
勝てなきゃ世間様にフルボッコだもん。
災害救助とか犯罪捜査で必死に稼いだポイントも一度の敗戦でゼロどころかマイナス。
俺、同情しちゃうわ。
「国のために犠牲になってもその有様か……せめて我らは敬意を持って弔ってやらねばの……」
「部下だしね」
今回の戦いでの犠牲者の合同葬の予約をする。
各宗教団体をお呼びして合同葬の準備っと。
「ところで婿殿……顔色が真っ青じゃが?」
「うん?」
そういや熱っぽいな……。
ジェスターのアレか!
「嫁ちゃん!」
俺はあわててハンカチで口を押さえる。
まずい、これはまずい!
これ感染症だったらヤバい!
いま気づいた。
のどがいがらっぽい。
「医師チーム! 緊急事態じゃ! 超能力の反動じゃ! 婿殿が倒れる!」
「皇帝陛下! レオニダス少佐が倒れました! 発熱してます!」
医師チームから連絡。
「聖女様もお倒れに! 症状から風邪と思われます! すぐにインフルエンザの検査をいたします」
「頼んだ! 妾も接触した。隔離せよ!」
もうね、ジェスターに鬱展開は毒飲ますのと同じ。
俺にレオニダスくんにタチアナがぶっ倒れた。
アリッサは防衛班に回ってて作戦参加してないため元気。
シャーロットは作戦参加してたが、本人からすれば顔も知らん外国の連中でしかない。許された。
俺も担架に乗せられたあたりで一気に発熱。
幸いなことにいわゆる風邪の中でも特効薬のあるやつだった。
特効薬なんかいらんグループよりは重いけど、特効薬あるから心配するほどじゃないって程度。
風邪でも特効薬ないし症状も激しいやつだと命に関わるわけである。
尻に注射されて病室に。
密閉された戦艦では病気が蔓延しやすい。
作戦に参加した乗員の一斉検査と予防措置がとられた。
嫁ちゃんも俺に会ったせいで注射。幸いなんの症状もなし。
なんかごめん……。いやほんと。
病室で起きるとクレアがブチ切れてた。
レンも後ろにいる。
「もう! ヴェロニカちゃん予定日近いんだよ! 気を付けて!」
そう言う君もそろそろ予定日である。
大丈夫なんかいって思ったら俺の周りが透明なビニール素材で覆われてた。
感染予防ですよね~。
完全にバイオハザード扱いだった。
これ排気をビームで焼いて洗浄するやつ。
そこまでされますよねー。
「クレア……もし、俺がダメだったら王位を誰かに押しつけて実家に」
「そういうブラックジョークやめろ」
「あ、はい。スンマセン……」
「旦那様。しばらくごゆっくりされてください。激務ですので」
レンがニッコリほほ笑む。
あ、これキレてるやつだ。
ごめんね。
「そうね、レオは働きすぎ! 今度文句言おう!」
クレアはホルモンバランスのせいかキレやすくなってるかも。
……心配かけてごめんね。
「そういやタチアナとレオニダスくんは?」
「タチアナちゃんは隔離。比較的軽傷でゲームやって遊んでるって」
相変わらず得なやつである。
「レオニダスくんは詩義姉様がいるから大丈夫よ」
……たぶん、「あは! 隊長、焼肉食えないんすかぁ? ゲラゲラゲラ~!」ってやられてると思う。
メリッサもそうなんだけど、館花家の女子はコミュニケーションがヘタクソすぎるんだよ。
「そういやメリッサは?」
「男子たちとカトリ先生のところに行ってる。みんなとっさに動けなかったのショックだったみたい」
「あれは仕方ないと思うのよ」
レオニダスくんが動かなかったら俺も動けなかっただろうし。
でも納得できないんだろうな。
みんな武力に自信持ってるし。
「ラターニアは? ちょっとだけ喰らってたけど」
「戦艦大破で怪我人多数。死亡者なし。ラターニア王も『あれほどの攻撃を喰らって生き残るとは見事!』って褒めてたよ。壊れた戦艦の乗組員に勲章を授与するって」
「よかった」
これ以上の鬱展開は免れた。
それにしてもラターニア王……俺の『褒めるだけなら実質無料』戦術を完全に取り入れたな……。
クロノス軍も逐次褒めてるし、勲章とか授与しまくってるもん。
褒められてキレるヤツなんて少ないだろ!
俺、部隊見捨てたりしないし。
今回だって救えるなら救ってたし。
あーあ……気持ちは理解できるんだよな……。
だから次は勝たないと。
レプシトール人みたいに気持ちを切り替えなきゃ。
あいつら強メンタルだよな……国が滅びても「次がんばろう!」だもんな。
素直に見習おう。




