第七百四十二話
メリッサの家は複雑だ。
というか貴族家庭出身の連中はたいてい複雑だ。
まずは兄貴たち。
で、館花流門弟も圧の強いマッチョぞろい。
その中でウタ姉ちゃんが生まれた。
ウタ姉ちゃんと兄ちゃんたちの母親は同じ。
ウタ姉ちゃんを産んでしばらくしてなくなったそうだ。
そこで後妻に入ったのがメリッサの母ちゃんだ。
メリッサの母ちゃんはどうも話を聞くかぎりリコちと同郷の平民だ。
貴族の生活に憧れてメリッサの親父殿の妻になったわけである。
ところが待っていたのは、公安の仕事で忙しい夫にかわって観光農園にテーマパークの女将として一門を差配する生活だ。
特に観光農園の無限干し草地獄、というかサイロでの作業は地獄だろう。
俺も通った道だ。
その結果、母親はメリッサを置いて夜逃げした。
俺の実の母親と同じパターンだわ。
貴族と言っても、ほとんどの家は家長が帝都で公務員やってるだけの農家や漁師である。
キラキラ生活を夢見てる人が耐えられるはずもない。
キラキラしたいなら帝都の医師や実業家じゃないかな?
地方惑星の平民が相手にされるわけないけど。
帝都の医師や実業家は逆に農業くらいしかない惑星の貴族の娘欲しがるのよ。
不思議なことに。
特に軍人への信頼感が強い。
だから婚活目当てで士官学校入ってる女子もかなり多い。
貴族どうしの婚姻外交狙いが一番、次にエリート婿かな?
というわけで地方惑星の女性が貴族と結婚するとたいては不幸になるわけである。
うちの実の母親も同じだ。
俺を追いて夜逃げ。
うーん……メリッサと運命的なものを感じる。
というか似たような境遇の家多すぎ問題。
かくして親に置いてきぼりにされた子どもたちによる婚姻ミスマッチの再生産がされまくり、銀河帝国は未曾有の少子化を迎えたのである……。
で、帝都で働いてる方の親が子どもの面倒を見るわけがない。
うちのおかんは昔ながらの子育てロボットに俺を育てさせ、メリッサはウタ義姉ちゃんが面倒を見たわけである。
つまりメリッサの親父さんが嘆いていた「女の子の育て方がわからない」とは二人のことである。
ウタ義姉ちゃんは立派でがさつな柔道選手に。
メリッサも内面に無限の暗黒を抱えるボーイッシュがさつ女子になったわけである。
そういやイソノん家も親が高齢で姉ちゃんに育てられたって言ってた。
かといって上流階級の公爵家くらいになるとレンのとこみたいに御家騒動で殺し合いになる。
貴族っていいことねえな……。
うちは強制的に仲良くさせよう。いや本当に。
そういう意味で、俺にとってウタ義姉ちゃんはメリッサの母親みたいなものである。
俺にとっても家族である。
さらに言うとメリッサに「子どもできたら習い事どうしたい?」って雑談中に聞いたのよ。
そしたら……。
「女の子ならピアノとバレエ」
ってガンギマリで言われた……。
あたい……あのとき本当に怖かったわ……。
もしも尻尾があったら股間に挟まってたわ……。
幼少期に自分が欲しかったものって大人になってから取り戻そうとするのね……。
男の子ならアホの子でもメリッサは許してくれそうだ。
男の子が生まれることを期待したい。
がんばれ俺!
で、俺たちはクロノスの戦艦に乗って例の地域に行った。
惑星級移動要塞カミシロはもうちょっとで完成しそうだ。
おかしい……年単位のプロジェクトのはずなのに……。
作業員のやる気がありすぎて早期に完成しそう……。
「デブリありません」
偵察担当のクロノス士官に報告されて我に返った。
お仕事、お仕事っと。
「ですよねー」
少しくらいはその辺漂ってるはずなんだよね。
惑星もないし。
「なにか巨大な物体の反応あり!」
「ですよねー」
デブリがどこ行ったかを考えれば……おのずと答えはわかる。
デブリを使って作った戦艦やら砦があるはずだ。
ないわけがない。
うーん、全艦に伝令。
「はーい、みなしゃーん。正体不明の物体を発見しました。戦闘配置についてくださーい」
ということで俺も人型戦闘機に乗り込む。
今回は専用機じゃなくて試作機二十八号の完全マニュアル操作版である。
余計な機能をごっそり削って一人乗りにした。
前に暴走したバージョンは無駄な機能が多すぎる!
なんで俺も開発に関わっていらない機能を削りまくった。
これで暴走しない。
座敷童ちゃんの神棚はあるけど神籬ちゃんはなし。
その代わりに神棚に盆栽を収納した。
別になんの装置でもない。
日用品用の小型ストレージを一つ潰して置いただけだ。
なんでもハードウェアやソフトウェアに組み込もうとするのやめようよ。
仕組みなんて何一つわかってないわけでさ。
そういうことやるから暴走するんだよ。
そりゃさー、変調と復調の仕組み理解してないと無線使えないわけじゃないけどさ。
誰も何もわかってないものをムリヤリパッケージ化するのはそれとは違うだろと。
技術班もただの上級工兵持ちに説教されるとは思ってなかったみたい。
いやお前らさー。ホントさー。
京子ちゃんも反省して!
「レオニダス少佐の部隊は俺の部隊と偵察。ドローン部隊の護衛をせよ」
ケビンは嫁ちゃんとクレアのお産でクロノスで待機してる。
本業医者だからな。
あいつ以上のドローンオペレーターはいない。
俺たちで証拠を持ち帰るサポートをするしかない。
「タチアナの部隊は簡易結界を設置せよ。他はタチアナを全力で守れ! 俺の代わりはいてもタチアナの代わりはいねえからな!」
「はッ!」
防衛ラインを作る。
……ところでみんな……なんで俺をジト目で見てるの?
「お言葉ながら陛下」
参謀役のレイブンくんがキレ気味のトーンでお説教をはじめる。
「陛下の代わりも存在しないことをご理解ください」
「あ、はい。つい冗談で」
「陛下。父親になるんでしょ? いい加減そのブラックジョークやめましょうよ!」
「あ、はい。たいへん申し訳なく……」
「やめましょうね」
「……へい」
ということで怒られてキューンと鼻を鳴らしながら出撃するカワゴンであった。
たぶんすべての原因は屍食鬼。
屍食鬼が何もかも悪い。
絶対に許さんぞ屍食鬼!




