七百四十話
予想通り屍食鬼はなにもない闇へと消えた。
渡ってきたローザリアから提供された地図を見ながら嫁ちゃんとシャーロットと会議を重ねる。
嫁ちゃんの後ろには御典医に女官さんがずらりと待機。
シャーロットも妊婦さんだから配慮してる。
「ヴェロニカ大丈夫か?」とか心配してる。
かなり仲良しになったようだ。
嫁ちゃん……あなたの夫は嫁ちゃんのお友だちが増えるの大賛成です。
報告書を見てシャーロットが口を開く。
「何度も調査したがなにもない場所だったぞ」
シャーロットが困った顔をする。
周辺を探索しながら来たとのことだ。
「そうなんだよね……俺たちがやって来たゲートとかは?」
「見つかってない」
「ドローンは?」
「ケビンは妾とクレアの出産で忙しい。AI探索船で探索させておる」
AIと言っても妖精さんのコピーみたいに人格が宿ってるものじゃない。
レプシトール製の従来型AIだ。
それを何十台も運用してる。
こういうのはサイバーパンク社会のレプシトールが得意なんだよな……。
銀河帝国製より性能が高い。
なのでロボット掃除機式に巡回してるはずだ。
撃ち落とされたら近くにいるなってわかる。
だけど出ないんだよねえ。これが。
撃ち落とされたドローンもなし。
デブリに激突した機体すらなし……うん?
デブリに激突してない?
……うううううううううううううん?
「嫁ちゃん、デブリのとこ見て」
「なんじゃ、追跡用にわざとシールドつけてないのじゃ。デブリや岩石に衝突するなんぞ日常茶飯事……一機たりとも破壊されてないじゃと……?」
そうなんだよね。
逆におかしいよね。
「そりゃスカスカ空間だからこういうこともあるんだろうけどさ……でもおかしくない? ここ昔の戦場だったわけでしょ。戦艦の残骸の一つや二つ浮遊しててもおかしくないと思うんだよね。ゼン神族って、うちらみたいに戦闘終わったらゴミ片付けするみたいな文化なさそうだし……」
「婿殿……相変わらず日常生活に落とし込むの上手じゃの……」
「え、なにそれ?」
「事前情報に気を取られすぎて損耗なしの異常さに気づかんかったわ。婿殿掃除好きじゃからの」
「レオ王は国王なのに掃除するのか?」
「うむ、我が国の士官学校では身分差なく掃除当番あるからの。特に婿殿は洗剤のブランドまでこだわりがあるようでの……タチアナがよく怒られてるのう」
タチアナどもは部屋でお菓子食べやがるからな。
最近はちゃんと食べかすを片付けるようになったが……。
その毛足の長いカーペットちゃんと洗え!
奥にカスが入り込むんじゃ!
がるるるるるるるる!
「それは素晴らしい……我が国でも見習いたいな」
「うむ」
言えない……公爵会や侍従どもに中抜きされすぎて掃除スタッフが雇えなかっただけ……なんて真相は口が裂けても言えない。
寮の害虫駆除まで自分たちでやってたもんな。
業務用の燻煙剤使ってさ。
自室でお菓子食べるバカがどうしても出るんだよね。
片付ければいいもんじゃねえぞと。
あと食堂と倉庫は避けられない運命。
害虫殺す慈悲はない。
あとトイレ清掃の塩酸入りの洗剤を動画見て別用途に使って一時期出荷停止に追い込んだどこかのバカ。
顔も知らんお前を俺は絶対に許さない。
混ぜるなとさんざん言われてる塩素系洗剤と混ぜてガスを吸って入院したとか言われても同情しない。
あれがないと汚れが落ちねえんだよ!
こっちは死活問題なんだよ!
がるるるるるる!
「このように婿殿は生活感があふれてるのじゃ……」
「うむ……王としては珍しい性格じゃの……きれい好きすぎての……」
ゴミ、汚れ、カワゴン許さない。
「ローザリアでも兵の教育プログラムに入れるか……それでクロノス王はどこがあやしいと思う?」
「この辺」
俺は図に点をつける。
「ここ。激しい戦闘の記録が見つかったとこ」
ベルガーさんが遺跡で見つかったデータを解析した結果だ。
惑星級要塞から少し離れた場所。
ここで激戦があったようだ。
「婿殿がそう言うのならそうなのじゃろうな」
「なんなのその信頼感」
「クロノス王は最強の道化じゃからの」
みんなの信用がつらい。
一番俺を信じてないの俺だと思うのよ。
嫁ちゃんが真面目な顔になる。
「婿殿。レオニダスを連れて行け。新型機を乗りこなす天才じゃ」
「了解……でもいいの? なるべく接触しないように自重してたけど」
「せっかく親戚になったのじゃから仲良くなっておくのじゃ」
「了解」
真実が発覚しても構築した人間関係で許してもらおう作戦かな?
それはそれで不誠実かもとはと思う。
軍が勝手に作ったから俺は知らなかったんだけど、それでも許されるものじゃない。
俺がレオニダスくんだったら軍を内部から崩壊させる。
で、俺と嫁ちゃんを事故に見せかけて殺して自分が王になる。
……は、難しいか。
ジェスターだと生死がかかってしまう。
刺し違える覚悟が必要だ。
でもクローンの自殺率から考えると「ない」とは言い切れないのよね。
それだけの罪だとちゃんと理解しろよ! 軍の連中!
ホクホク顔で「軍が育てた」じゃねえぞ!
ホント反省しろよ!
責任者しか処罰されなかったの絶滅かかった戦争だったからってだけだからな!
知ってて放置した連中とか干されたの恨んでるらしいけど、お前ら本当だったら死罪だからな!
俺は軍人だから上層部の決定に従ってるだけ。
本当はかなり怒ってるからな!
俺はいい。
俺は困らない。
だがクローンとして作られた側の苦悩はタチアナを見てればわかる。
あいつ笑ってるけどたまに眠れないときあるからな!
親や兄弟と連絡取るの嫌がるし。
「オリジナルの家族だから……」って言うんだぞ!
本当に何度軍本部にカチこもうかと思ったことか。
本当に、パーフェクトに、ぶち殺すぞ!
レオニダスに謝れ!
しかも隠してるだけでまだいるだろ、俺のクローン!
こう……なんか良い手ないかな?
爺さん悪者にして「実はうちの親父、こんなに兄弟が多かったんだー!」とか。
で、そっくりな顔の連中に大量にある領地を分け与えるとか。
……いや、情報の近くにいない方が幸せか。
やめとこ。
レオニダスくんだけは弟のように尊重しよう思う。
こうして俺は密かに悩みつつ従兄弟ちゃんと探索任務になったのだ。
明日の投稿ヤバいです……。




