第七百三十八話
イソノの野郎は出生前の性別診断を拒否。
古風な一族も「性別がどうでもあろうとも家族である」と拒否。
そこまで重い話じゃないと思うんだけど……たぶん過去になんかあったな……。
だから生まれるまでは性別がわからなかった。
医師が知ってるけど言わない。
俺たちも無理は聞き出したりしない。
本人たちが幸せならそれでいい。
子どもは女の子だった。
あー……うん、うちの子と結婚コースだわ。
セレネーちゃんの子に引き続き、我が子の売却先が決まってしまった……。
あとはどっちが銀河帝国の子かクロノスの子になるかだよね。
本当は自由恋愛がいいんだけどね~。
まー万物は流転する。
今のところは仮予約だ。
俺が無能ムーブでクロノス滅ぼす可能性だってあるわけだし。
そもそも向こうが嫌だって言えば回避できるはずだ。
我が子の立場になって考えてみる。
幼馴染みとか……幼馴染みとか……。……幼馴染み。最高じゃん。
過疎の惑星出身の俺には絶対に起こらなかったイベントだ。
うらやましい。
がんばれ! まだ見ぬ我が子!
性癖の赴くままに強く生きてくれ。
「なー、レオ、名前どうする?」
嫁ちゃんとクレアの付き添いで病院に行くと、イソノの野郎に呼び止められた。
「あー、それな~。俺の決定権なさそうなんよ」
銀河帝国皇帝にクロノス正妃の息子である。
政治的はもちろん、宗教的にも大きな出来事だ。
関係各所の協議で名前をつけねばならない。
そしてなにより……俺のネーミングセンスを誰も信用してない!
名前への関与から外されてる。
「だよなー……」
「イソノのとこは?」
「前に実家の風習に従って「珊瑚は?」って提案したらハナコさんが「ぶち殺すぞ」って低い声出して……秒でハナコさんの実家に通報されて、実家どうしの熱いバトルが勃発していまだに解決しねえのよ。俺は針のむしろでさ……妹が実家裏切ってハナコさんの側につくしさ……」
「地獄だな……」
どちらもネーミングセンスが優れてる家ではない。
地獄みたいな会議が開かれてるはずだ。
「ま、そういうことだ。ようこそパパの世界へ!」
「実家と嫁の家との板挟み!」
そこにエディがやって来た。
エディも嫁さんの付き添い。
「どうした二人とも……」
「子どもの名前をめぐる騒動が起きてさ……」
詳しく話したらエディも黙った。
エディの家も同じらしい。
家族だけならまだしも、遠い親戚の知らんやつまでしゃしゃり出てきてるらしい。
うちの嫁ちゃんだってネーミングセンスいい方じゃない。
だってワンオーワンの家名に元素記号101をつけちゃう人よ。
ワンオーワン本人がおおらかだから許されてるだけで、ゾークとの戦争が再燃しかねないほどだ。
「というわけで有識者の方をお呼びしました」
はい、クリエーターのリコち先生である。
原稿が一段落して一休みしてたところを拉致した。
「なななななな、なに!」
今日のリコちはジャージに半纏。
おうち仕様だ。
「いやさー、子どもの名前をめぐってイソノんちがバトルを繰り返しててさー、うちにも飛び火しそうだしさ~」
「へぇ~、偉い人は大変だねえ」
妊娠の徴候のないリコちは完全に他人事である。
「いやいやいやいや、リコちもすぐに当事者になるから!」
「え~……地元的には女の子ならアリシャ、男の子ならアレックスあたりじゃない?」
「それ実家はなんて言ってる?」
「女の子なら芽依。男の子なら大助にしろって騒いでるよ。無視するけど」
「やっぱりもめてんじゃん!」
「え~、じゃ、うちらの子も決めてもらう?」
これ聞いたのが間違いだったやつだわ。
妊娠したら急に真剣になるやつ。
「漫画家なんだから、なんかいい名前ない」
「キャラの名前なんてつけないよ~。普通の名前が一番だよ~」
どうして普段は壊れてるのに、こういうときだけまともなのだろうか?
うちの嫁がぜんぜんわからない。
「とにかくさー、文句言ってる人に考えさせれば? レオくんはダメ出しだけしてればいいじゃない。王様なんだし」
「なのその暴君!」
「そのくらい許されるでしょ」
許されるのか?
信長くんとか、秀吉くんとか、家康くんとかだったら断っても心が痛まないけどさ!
……やりかねない。
監視しよう。
あと妖精さんもブロック推奨。
悪意でとんでもないもの出してくるはずだ。
相棒だからわかる。やつはそういう生き物だ。
わざと古いAIにランダム出力とかさせそうだ。
診察が終わって嫁ちゃんがやってきた。
「どうしたのじゃ……雁首そろえて……」
「嫁ちゃん! 名前どうしよう! イソノん家大もめしてるって!」
「え……? 報告が来てないが?」
「プライベートな話だから」
「どうしていつも婿殿と周りは斜め上の騒動が起きるのじゃ!」
ほんとそれよね。
なんでだろうか?
「ねえねえ、うちはどうするの?」
「寺と神社が協議しておる」
「珍念とかやめてよ」
一生いじられる。
本当にやめてあげて!
「それは最初に言った!」
命名権……それは権力を持った組織の仁義なき戦い……。
またもやカミシロ一門のピンチ!
ガタガタ震えてるとクレアが来た。
「どうしたのみんな?」
「うん……名前でもめまくっててさ……」
「うちの子はクロノス教に決めてもらうんでしょ?」
「クロノスの王子だからね。入信しなくてもいいって言ってるし」
自分で決めてクロノス教に入信するならいいけど、そうじゃないなら座敷童ちゃんとこの氏子でいいよねって思う。
クロノスの神様はよく知らないけど、座敷童ちゃんは友だちだし。
銀河帝国式にかけ持ちチャンポンなんでもありなら、クロノス教とつきあってもいいわけである。
でも王子の命名権は渡そうと思う。
それだけで我が子のバックにクロノス教がつく。
俺が死んでも支えてくれるだろう。
頼れる相手を増やしておくのは親としての役目だ。
クレアも「こっちの名前の方がお友だち作るんでも有利でしょ」とのことである。
自分の名前への熱意だけじゃなくて、子どものことちゃんと考えてるクレア偉い!
超偉い!
冷静なクレアを見てエディもイソノもため息をつくのだった。
「そんな顔するな! 妾が仲裁してやる!」
「よ! 宇宙一のいい女!」
「ぬはーはっはっは!」
やはり嫁たちは頼りになるな。
ダメダメパパたちは本当にそう思うのだった……。




