第七百三十五話
翌日、なぜか正装でバトルドームの会議室に向かう。
なぜかウタは士官の正装してる。
中尉の階級章もつけてる。なぜに?
「隊長、隠してたことがあるんですが」
「なんでしょうか中尉殿!」
ビシッと敬礼。
「次やったら関節技な」
「へーい」
「まず、アタシの本名は館花詩。館花家の長女です」
「館花家ってあの『暴れん坊大公』のロケ地の?」
「ええ、あれが実家です」
とんでもないお嬢さまである。
「ってことは妹さんは……」
「クロノス王の嫁の一人で本家頭領の公爵です」
「ウタさん、あとでサインもらっていいですか……やめろ! ノータイムでアイアンクローするのはやめろ!」
ウタのアイアンクローが顔にめり込む。
痛い! 本気で痛い!
「それで本当は公安所属なんですよ」
前からやけに教養あるなとは思ってた。
「うんじゃ短大ってのも」
「本当は帝国大学ですね。二年ときに帝都崩壊で特例卒業。そのまま親のコネで公安に就職しました。柔道が評価されての学校推薦枠ですけどね」
「エリートじゃん……それで、なんで下士官のフリなんかしてたの?」
「あなたの護衛ですよ。レオ少尉」
「俺の護衛?」
「ええ、実はあなたの家族……貴族的価値観で言うと一門がわかってましてね。いまからリモート通信するのはいとこの方です」
「いや記憶だと平民だったはずだけど」
「あなたのお父様はとある貴族家を出奔したんです」
「嫌な予感しかしないのだが……」
会議室にはバトルドーム方面駐留軍の総司令官がいた。
少尉じゃ面会できない雲の上の人だ。
さらにはその下のお偉いさんがずらり。
「……えっと軍法裁判?」
「違います。館花中尉! レオ少尉をお連れしました!」
「館花くんご苦労! レオくん、そこに立ちたまえ」
「は!」
元気に言ったが、そこ軍法裁判で被告が陳述する場所。
とは言っても抵抗する大義名分はない。
大人しく従う。
すると大画面ディスプレイに軍服を着た男性が映し出される。
将官!?
「銀河帝国特将、クロノス王レオ・カミシロだ。やっほー、いとこちゃん」
軽い。
いやいやいやいやいや……それよりも。
俺がレオ・カミシロのいとこぉ!?
「いやさー、親父の兄弟みんな家出して行方不明になってるのよ。ほらカミシロ家って何百年も干されてたじゃん。だから逃げ出しまくっててさ、銀河中に親戚がいるみたい。完全にザリガニだよね~」
「え、えっと陛下。なにかの間違いじゃ?」
「いや、カミシロ家の特徴出てるし」
「特徴とは?」
「強力な超能力。しかも通常の検査をすり抜ける物理的に計測できない特殊なやつ。君の報告書にあった死に戻り能力がそれにあたるね。俺と兄貴もよくわからん能力持ちだ」
「は、はあ」
「ということで悪いけどさ、少尉はいまからカミシロ侯爵ね」
「は?」
「いさや、この伯爵級三つの惑星の統治者がいなくてさ。長兄も親父も「領主なんかやらねえよ死ね!」って言うしさ~。嫁たちの実家ももう有力な家臣は借りつくしちゃったし。クロノスの国王直轄地の代官もいないしさ~。頼むわ」
「はい?」
「あと昇進ね。俺の家族が少尉じゃまずいんだって。よろしく少佐」
「それはなにかの冗談では?」
「いや大真面目。それと俺と名前被ってると書類のミスが頻発しちゃうから、通称考えてくれない?」
「は、はあ」
俺もカミシロになった。
同じ名前になると俺を利用してバカやろうとする輩が出ないとも限らない。
カミシロ侯爵としての名前が必要だろう。
旧にめんどうになってきた。
「なあウタ。俺ウタんちの子になっていい?」
「婿養子ッスか? いいですけど、うちもカミシロ一門ですよ」
「じゃあ意味ないか」
「じゃ、隊長、なんかカッコイイ名前考えててください。あ、ちょっとアタシはクロノス王陛下に報告があるんで先に帰ってください」
「了解です。では国王陛下失礼いたします」
「はいはーい」
非常に軽い人物だった。
世間で言われてる評判と違いすぎる!
誰が公平かつ厳格な賢王だ!
こうして俺は、カミシロ家入りしたのである。
■
「それで、うちの子をいまさら取り込むなんてどういうつもりですかね。義弟くん」
わたしは少し不機嫌だった。
いままで監視してた少尉をいまさら取り込むなんて、虫が良すぎる。
そおれが妹メリッサの夫だったとしても機嫌は悪くなる。
「そりゃ義姉さん、銀河帝国を乗っ取れる人材だからですよ」
「自由にさせてあげるって選択肢はないんですかね!」
「残念ながら。私に与えられるのは能力に見合った地位と賠償金代わりの給料だけですよ」
「別に義弟くんが悪いわけじゃないのはわかってるけどさ!」
すると軍の高官が怒鳴る。
「館花! 口がすぎるぞ!」
「いいんですよ。これは家族の話です」
「じゃあ家族として言わせてもらいますけどね、なんで真実を伏せたんですかね!」
「誰も得をしないからですよ。義姉さん。クローンの自殺率は知ってるでしょ。うちのタチアナだって定期的にカウンセリング受けてるくらいですよ」
たしかにそうなのだが……でも……フェアじゃない!
「それでも!」
「クローンだからって私たちにとって彼は彼でしょ? 彼にわざわざそれを伝えて苦しませる気はありません」
「あとで知ったらどうするんです!」
「土下座して謝ります。嫁ちゃんも頭を下げるって言ってくれてます」
「義弟くんがやったことじゃないでしょ!」
「でも責任者ですので。謝罪はいくらでもしますよ」
どうやら義弟は悩んでこの答えを出したようだ。
「わかった……。納得はしないけど決断を尊重する」
「それで義姉さん、彼とはどこまで?」
「どこにも行ってない!」
「いやどう見ても『さっさと結婚しちゃえよ!』って感じなんですが」
プチッとなにかが切れた。
通信回線を開く。
「あ、メリッサ。あんたの旦那殴っていい?」
「ノータイムで当局に通報された!」
「いいよ~」
妹はヘラヘラ笑ってた。
「メリッサさん!」
「だって~、いつも一人でしんどい決断しちゃうじゃん。もっと力抜きなよ。どうせ姉ちゃんの旦那になるんだし」
「てめえメリッサ!」
どいつもこいつも!
シリアスな話が霧散していく。
軍の高官たちも「それがいい」「それなら問題解決だ」と笑顔だ。
ふざけんなジジイども!
ぶち殺すぞ!
まーったく! 私が守らないと!




