第七百三十話
公安第十一課。
特殊犯罪捜査課。
いわゆる秘密警察に私、詩・館花は所属してる。
任務はレオ・カミシロのクローンの護衛。
クロノス王レオ・カミシロ陛下のクローン計画は公爵会だけではなく、軍部でも行われた。
当前の話ではあるが……皇帝陛下ヴェロニカ様の怒りを買い、関係者は処分された。
その中でも最悪の案件がレオ少尉、彼の件だ。
彼を作ったのは軍部。
その中でもヴェロニカ派かつ愛国心の強い集団が極秘裏にレオ陛下のクローンを作成。
記憶改ざんを施して実戦投入していた。
実際、とてつもなく優秀だったようだ。
だが超能力の引き継ぎはなし。
そのほとんどが死亡した。
レオ陛下は特殊系統の超能力者。
やはり超能力がなければゾークに勝利するのは難しいのだろう。
かといって人為的にクローンへ超能力を引き継がせるのは不可能である。
そんな中、一人だけレオ陛下の特殊系統の能力を引き継いだものがいた。
それがレオ少尉である。
いまや公爵家になったカミシロ家は特殊系統の超能力者の一族のようだ。
検査で兄のサム・カミシロ公爵閣下にも特殊系統の能力が確認された。
サム公爵閣下の能力は支配領域の市民に希望を与える能力である。
『未来は明るく自分の人生は確実に良くなる』と錯覚させる能力である。
本人はこの能力を自覚していなかった。
本来は禁止されてる精神系に作用する能力であるが、検証したところ無害と判定。
むしろ脳に関する病気が7割減。
老人の認知症すらナノマシンと併用することでほとんど発症しない、益しかないものだった。
統治者として非常に有益な能力だ。
能力の封印をする必要はないと皇帝陛下自ら決断された。
惑星カミシロの異常なほどの経済成長率はサム公爵閣下の力によるものだろう。
本来なら銀河統一すら可能な能力であるが、サム公爵閣下に野心はなし。
そもそも弟はいまや銀河の覇王と言われるクロノス王。
しかもクロノス王は銀河帝国皇帝陛下の婿なのである。
サム・カミシロ閣下が下剋上をするとしたら、なにかしらの戦争に敗北しそうになったときだろう。
監視する必要すらない。
そんな特殊能力者の家系の最も異常な能力を引き継いだクローンがレオ少尉である。
レオ少尉が生まれたのはゾーク戦争末期。
公安の突入時に培養槽にいたところを発見された。
ヴェロニカ皇帝陛下は『作られたクローンの側に罪はない』と記憶処理後に普通の生活を送らせることを命じた。
レオ少尉も『地方の国立士官学校の実習中ゾークに襲撃され生存した』という記憶処理をし、身の振り方を自分で選ばせた。
レオ少尉にはいくつかの選択肢があった。
名誉除隊をして軍の奨学金を受給しながら大学進学する道。
名誉除隊をして民間で就職する道。
パイロットなのだから職には困らない。
彼は軍に残ることを選んだ。
一番監視が楽な道を選んでくれたようだ。
そこで彼は少尉に昇進。
護衛兼監視役として私が下士官として配属されることになった。
私がいないときは、バトルドームの獣人やレプシトールのくノ一が交代で監視してる。
私は宮殿に向かう。
週に一度の報告だ。
廊下を歩いてると元気そうな少女と言ってもいい若い女性に話しかけられる。
「よ、姉ちゃん」
メリッサ・館花。
私の妹だ。
現在、クロノス王の妻の一人だ。
「メリッサ様、詩・館花まかり越しました」
膝をつく。
「姉ちゃんさ~、そういうのやめろよ~。家族だろ」
メリッサは私が大学在学中に惑星を取り戻した英雄だ。
しかも婿さんはあのレオ・カミシロだ。
当主の父親と比べてももダブルスコアくらい引き離して偉い。
もはや雲の上の存在だ。
「それで~。姉ちゃんのダーリンの状況は?」
雲の上の存在にピキッとした。
「だ、だ、だ、だ、だ、誰がダーリンじゃ!」
たしかに少尉はいいやつだ。
だがなんでも恋愛にするんじゃねえ!
「いいから執務室行こうぜ」
サンドバックが置いてある執務室に入る。
メリッサは座るとヘラヘラ笑う。
「まさかさー、姉妹で同じタイプの男を好きになるなんてね」
ピキピキ。
「だからそう言うんじゃねえって……」
「それにしてもさー、刈り上げた短髪も似合うのな。うちの旦那も今度髪型変えてもらおうかな」
ぶちり。
「メリッサてめえ喧嘩売ってんのか? ああん、コラァッ!」
我ながら大人げない。
だが小さなころからデカ女と笑われてきたコンプレックスに手を突っ込まれた気分だった。
すると妹がゲラゲラ笑う。
「あははははは! 喧嘩なんて売ってないよ。姉ちゃん、アタックしちゃえば? たぶんうちの旦那と同じで性癖の魔人だし。好みのタイプだよ」
「なんだ性癖の魔人って!」
「だってうちの旦那そういう人だもん。自分より大きなレプシトール人も嫁にしたし」
わけがわからない。
こう余の男はもうちょっと小柄でかわいいのが好きなのではないだろうか?
というか……自分の妹の嫉妬心の無さよ。
それはそれで少し心配だ。
「メリッサ……お前、一人占めしないでいいのか?」
「いいのいいの。自分は四六時中ベタベタするタイプじゃないって自覚あるし。姉ちゃんは独占欲全開だろうけど」
……いいのか?
それでいいのか?
かなり心配になってきたぞ。
「それは……いいとして。これが報告書だ」
「はいはい。特に変化なしね。海賊は?」
「偵察してるが意図がわからん。なにやら運んでるようだが……」
「もう麻薬も流通してないし。人身売買も禁止されたし。なに考えてるのかな?」
どう考えてもクロノス王陛下に従った方が賢い。
自由はあるし、教育も受けさせる。
不満なんてないはずだ。
「こっちも新型機の開発難航してるししさ。面倒そうなの頼んだわ」
「あ、ああ。仕事だからな」
「ところでさー、レオ少尉のかわいいとこ教えて? ほら、うちの旦那の兄弟みたいなもんじゃん」
「……教えてやらねえ」
誰が教えるか!
特にこの妹にだけは教えてやんねえ!
「ほら独占欲!」
「お前は自分の旦那のことだけ考えてろ! 帰るぞバカ!」
「へいへーい。結婚するときは教えてな~。結婚式まで年単位でかかるから」
「お前にだけは教えねえ!」
「あははははははははは!」
外に出る。
部屋の外まで笑い声が響いてた。
あのバカ妹め!
憶えてろ!




