第七百二十九話
レオ少尉。
銀河帝国宇宙海兵隊少尉だ。
地方惑星出身の平民だ。
両親は小さなころ惑星への海賊の襲撃で死去。
その後、寮生の地方にある国立士官学校に進学。
在学中にゾーク戦争が起こり、学徒動員された士官学校軍は全滅。
俺だけが生き残った。
頭を損傷したらしくナノマシンで治療してもなお記憶は曖昧だ。
同級生の顔も思い出せない。
同じ名前のレオ・カミシロの英雄的活躍でゾーク戦争に勝利。
俺は士官不足により少尉に昇進した。
「少尉殿!」
女性に声をかけられた。
日系人で背が高くて筋肉質の女性だ。
ウタ曹長。
俺より少し年上。
俺の尻拭い担当の下士官だ。
「斥候隊配置しました」
「了解。そのまま監視しろ」
我々の任務は外宇宙での海賊の摘発。
バトルドーム加盟の小国の領域で活動してる。
国際貢献任務だ。
地元住民にも感謝される。
人類の絶滅を賭けたゾーク戦争よりはだいぶマシな任務だ。
ウサギの獣人、ビースト種ではなく本当に獣の姿の種族がやってきた。
現地採用のジュディ二等兵だ。ちなみに女性だ。
うちの小隊はなぜか女性が多い。
「ウタの姐さん。やっぱりクロノス王陛下の子分じゃありませんぜ」
「だろうな。少尉。攻撃しますか?」
「こんなところで何してるか知りたい。少し様子見だ」
「ウッス隊長、了解ッス」
ジュディが敬礼して去って行く。
ゆるんだ空気だ。
本当はよくないのだろうが……。
「それにしてもモテますね~」
ウタ曹長がニヤニヤしてる。
ウタ曹長は若い。
曹長はもっと年長じゃないとなめられる。
俺と同じで上官が死んで階級が繰り上がったタイプだ。
だから俺もつい同級生気分になる。
「あれがモテか?」
「え? だって少尉、老若男女関係なくたらしまくってるじゃねえですか」
「は? いつ俺がたらしまくった! 銀河帝国の少尉なんぞモテんわ」
「だって居酒屋のラターニア人の姉ちゃんが連絡先聞いてたじゃねえですか」
「お前らがなにかやらかしたときのために直通回線を教えただけだ」
「えー……酒飲んで暴れる訳ねえッスよ。ちゃんと外に出て喧嘩しますって」
「喧嘩自体すんじゃねえ!」
「もー、この、モテ男! バイトに教えても意味ねえじゃねえですか!」
「店長が教えてくれって」
「絶対違うっす!」
するとピロンッと音がした。
メッセージだ。
ラターニア人のアルバイトの子だ。
なになに……。
「あ、面白そうなやつ。見せて見せて」
「わかったから! 表示すりゃいいんだろ」
ホログラムで表示してやる。
『昨日はありがとう。今度一緒に飲みに行きましょう。二人っきりで』
……おう。
すると尻を蹴られた。
痛い。
お前なー、少しは手加減しろ。
「やっぱモテてんじゃねえですか」
ウタのバカが唇を突き出して不機嫌そうにしてる。
なんだその顔。
「モテてない」
「まったく、この天然たらしが……まるでレオ・カミシロ……」
「あんなのと比べるな」
レオ・カミシロで有名なのは婚姻外交だろう。
各勢力の姫を総ざらい。
銀河帝国皇帝陛下に公爵家の姫から秘密警察上層部の末娘、財界の有力者の養女、同級生でしかも出会ったときは不遇だったと宣伝してるが嘘だろう。
そんな露骨なプロパガンダを信じるものはいない。
クレア姫の豊富な資産をバックに権力闘争で皇帝派を勝利させたという噂の方がまだ信憑性が高い。
しかも外宇宙進出後は婚姻外交が加速。
外交関係のある勢力と次々と親戚関係になってる。
さらには、とうとう自分の護衛とまで結婚したとか。徹底してる。
ハーレムは男の夢と言うが……あれは違うな。
もっと冷徹で恐ろしい政治だ。
などと納得してるとウタが爆弾を落とした。
「そういや少尉。レオ・カミシロに似てますね」
「勘弁してくれよ……そう言われるのが嫌だから髪の毛短くしてるんだ」
「え? もしかして親戚?」
「カミシロ家は侯爵なんだからあちこちに子孫がいるだろうけど。でも俺は自分の出自なんて聞いてないね。親も死んじまったから調べようがない」
たとえ証明できても親戚なんて名乗り出られたらレオ・カミシロも困るだろう。
あまりいい結果になることはない。
野望があってもいいが、自分の実力でないのならそれに賭けるべきではない。
そして俺は野望もなければ、実力もない。
手を出しても危険なだけだ。
「『好奇心は猫をも殺す』ってこと」
「『しかし、満足がそれを生き返らせた』」
クソ、後半知ってやがる!
普段はアホのくせに!
「やめろ。リスクとリターンが見合わない」
「あらら、以外にチキン」
「チキンでなにが悪い」
ウタがツボに入ったのかゲラゲラ笑う。
「あはははは! そうですね! それが正解ですね!」
「そういうこと」
偵察が終わり二人で報告のためにバトルドームの事務所へ向かう。
海賊殲滅作戦で話し合いだ。
カメやウサギや猫の獣人とすれ違う。
彼らはビースト種よりも動物に近いらしい。
だとしても最大限の敬意を持って任務に当たれと厳命されてる。
小隊のメンバーも反ビースト種思想を持つものは、はじめから排除されている。
途中、鬼神国人にしては小柄な男性とすれ違う。
「レオさん……?」
「は? 銀河帝国軍レオ少尉にあります」
するとウタが男性と何やら小声で話してる。
「あれが……こんな近くにいていいんですか?」
「唯一の成功例です。我々がお護りしてます」
「ウタ曹長、その方をご紹介いただけるかな?」
「あ、ああ、はい。えっと……」
「バトルドーム会頭のサリアです。ウタさんとは海賊掃討のやりとりで少々顔見知りでして」
俺はあわてて膝をつく。
バトルドーム会頭と言えば鬼神国の大王だ。
「あ、そういうのは苦手なのでやめてください。ということでウタさん、海賊掃討任務引き続きお願いします」
サリア大王はまるで逃げるかのように足早に去ってしまった。
俺が立つとウタがニヤニヤする。
「もー、小隊長ったらヤキモチ焼いて~」
筋肉質の体でクネクネしてる。
「なに言ってんのキミ」
「うん、もー、冗談が通じないな!」
「なんなんだよさっきから……。まあいいや、大王が出てくるほどの海賊ってこと」
「あー、違うんですけどねえ。海賊がちょっと面倒なところにいましてね」
「それ、もしかして鬼神国とバトルドーム加盟国の国境?」
「そういうことです。いやーバカですねー。面白半分に勝負を申し込まれて潰されるだけなのに!」
「あー、そういうこと……つまり我々で逮捕できるようにサリア大王陛下にコンタクトしたと」
「本来なら鬼神国とバトルドームの加盟国は経済も軍事も共有で国境の概念が薄いんですけど、それでも地方の有力者だと未だにこだわってる人いますからねえ」
「根回ししたと」
「そしたら大王本人が出てきちゃって! もう笑うしかねえ!」
ウタがまた笑う。
なんだか先行きが不安になってきたぞ。




