第六百九十九話
詳しい話は割愛しよう。
我らは健康で若い男女。
ある程度慣れてから……性欲は爆発した。
某釣りバカ風に言うと『合体』である。
それ以上は語らない。
だいふくときなこを女官さんに預けて……細かい話はいいや。
で、排卵の周期だのなんだのっていうのが立ちはだかる。
そんなの関係ない!
すぐだったね。
やっぱ年齢ってのが重要なのね……。
嫁ちゃんは毎日検査を受けてた。毎日である。わかるな? 毎日検査しなきゃならんことしてたのだ。
検査は晩婚化が進みまくった銀河帝国ではよくあることである。
本当に妊娠の初期の初期でわかるわけ。
すると妊娠の兆候があった。
あとは超少子化の銀河帝国の超技術。
ナノマシンによるエラーの防止と生存確率の上昇である。
煙草や大気汚染、食物などの有害物質の除去なんかもしてくれる。
これにより胎児の生存率が飛躍的に上がった。
特に若い男女なら、よほどのことがなければ。
生存率上がったのに……なんで少子化だったんだろうね?
やはり社会の風通しの悪さ、不況、未来への展望の無さが原因だろうな……。
銀河帝国は社会の停滞を作り出してた連中を排除した。
クロノスは上流階級層が市民の盾になったという神話を作り出すことに成功した。
これで少子化は解消。
両国ともベビーラッシュの最中である。
さーて……問題は……。
「銀河帝国皇帝陛下が妊娠。侍従長はノーコメントの模様です」
もうね、銀河帝国の速報で流れてる。
おかしいよね!
妊娠わかって三十分後には銀河中で速報流れてたけどさ!
だれだよリークしたやつ!
「現在、クロノス王国は歓喜に包まれてます!」
宮殿に市民が押し寄せてる。
なんでぇ!?
「まずいことになった……」
いつもの食堂で頭を抱える嫁ちゃん。
「なんで?」
「結婚式やるの完全に忘れてた……」
俺も忘れてた。
仲間の結婚式はやらなきゃって予算の都合とタイミング見計らってるのに、自分たちのは完全に忘れてた。
やらなきゃやらなきゃ……で、タスクが上積みされて下の方で忘れられてたのである。
国家元首、私生活を忘れがち問題。
そしたらクレアさんも手を上げる。
「あのさー、その、このいタイミングで非常に言いにくいことなんだけど……」
「あ、はい。どうぞ」
「私も妊娠した」
ニコッ。
俺は汚い笑顔になる。
別に嫁ちゃんは怒らない。
だって「体力の限界じゃ! クレアのところに行け!」って許可出たもん!
すると男子に囲まれる。
「お前なー! いくらなんでもこれはシフトが崩壊するぞ!」
シフトの心配だった。
クレア様がいないと俺たちの仕事が崩壊しかねない。
「大丈夫だから! ギリギリまで仕事するわ。それより乳母どうする?」
クレアの発言を聞いて嫁ちゃんが頭を抱える。
「わ、忘れてた……妾は乳母がいなかったから完全に忘れてた」
「乳母……いなかったの?」
俺が驚く。
俺もいないんだけど。実の母親は逃げたし。本妻であるおかんは長男すら子守ロボットに一任だ。
でも存在は知ってる。
「う、うむ。そのピゲットや近衛騎士がおしめの交換まで……妾を殺そうとする輩はいないが、実の父親から守らねばならなかったからな……乳母に誘拐されて父上の愛人にされる可能性まであったからの」
闇が深すぎる。
嫁ちゃんにとっては実の父親だから複雑な心境だろうけど……麻呂の野郎……死んでよかった。
本当に、心の底から、あいつだけは死ぬべき存在だった。
サイラス義兄さんナイス!
たとえ義理の親父でも許せないものは許せない。
嫁ちゃん悲しませるやつはみんな死ね!
それにしても乳母問題である。
完全に俺が悪かった。
俺が気を利かせてセッティングすべきだった。
少なくとも俺は乳母の概念は知ってたもん。
「ごめん……至らない夫で……」
「いやほら妾はこんなんじゃし、クレアは……」
「私は一歳まで乳児院いたから……乳母とかよくわからなくて……」
さらなる地雷を踏み抜いた。
そうだよ! クレアは養子だよ!
今日の俺、何やらせてもダメである。
ということで乳母問題が浮上したのであちこち聞き回る。
まずはメリッサ。
「うち? 子爵の娘に乳母なんかいるわけないじゃん。だいたいさ~、うちはテーマパークの経営に公安に領主のトリプルワークじゃん。忙しいからさ。一門のおっさんおばさんが、領内のガキどもまとめて面倒見てたね。夜だけ家に帰るみたいな感じ」
おおらかである。
次にレン。
「うちは本妻に命狙われてましたので。完全放置でしたね。なので家畜番のビースト種のおじさま夫婦に育てられたようなものですね。おばさんは本邸でメイドもやってましたし」
や、闇が深い。
さらにリコち。
「うちは普通に親に育てられたけど。あ、でも三歳からは地域の幼稚園に学童に……地域ぐるみで育てる体勢だったよね」
ようやく普通の家庭の子がいた!
うちみたいにロボットに子育てさせるのって、帝都じゃ虐待判定されかねないんだからね!
ということで冷静になってみれば、だれも乳母を見たことがない。
男子もザワザワしてる。
「乳母って実在するのか?」
「そういや見たことねえぞ」
「イソノ、お前んとこは?」
「年離れた姉ちゃんがいたから、姉ちゃんに育てられたようなもん」
「え、エディは?」
「いたぞ」
ようやく貴族社会の標準が出現。
「分家で代官やらせてる家の人でマーヤさんって言ってな、ちょうど同じ時期に妊娠してな。乳児期はマーヤさんの子どもと一緒に育てられたんだ」
「その一緒に育てられた子、えっと乳兄弟ってやつはいまなにやってるの?」
「ジョンは頭よくてな。終戦後から帝都の大学通ってるよ。ついでにアルバイトでアンハイム本家の仕事もさせてる。帝都でやる仕事も多いからな。新興貴族は他の貴族と仲良くしないといけない。そういうのをまかせてる」
政治家の秘書一年生みたいな仕事か。
やだ……エディくん……最高に貴族してる……。
俺の代わりに王様やらない?
あ、『死ね』。はい。あきらめます。
「つまり……俺たちから乳母って発想出てこなかったのは仕方なかったんじゃ……」
「それなー!」
男子どもが一斉に指をさしてくる。うぜえ!
当たり前か。
軍人の家でもない限り、士官学校なんて行くのは次男三男。
家督を継がない子どもなのだ。
うわー……今さらだけど、自分が正確な意味で貴族じゃなかったって思い知らされてきたぞ。
とにかくこれからがたいへんなのである。
「ところでイソノ……乳母は?」
「……わかるか。この俺の焦りが! ハナコさんに土下座する覚悟だけはキメたぜ!」
俺と同じレベルでダメなやつがいて本当によかった。
一緒にイソノ家の乳母も決めようっと。
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