第六百九十五話
男はフェンと名乗った。
「パーシオンの国営企業の代表と聞いてますが」
「ああ、これ」
フェンは名札をピラピラ振る。
その間にフェンを近衛隊が囲んだ。
「殺して成り代わったわけじゃないんでご安心を。陛下の改革のおかげで賄賂が通用しやすくなりましたのでね」
賄賂の取り締りが必要だな。
「逮捕してもいいですよ。無駄でしょうが」
あー、この野郎。
言葉で不信感をばら撒くタイプの詐欺師だ。
拘置所の中に仲間がいるって言ってやがる。
俺は無理にでも仲良くして距離詰めてから「ね、ね、お願い」ってやるタイプだからわかる。
ただし俺の場合は相手に損をさせない。
持ちつ持たれつを大事にしてる。
契約と義理を大事にしてる。
だから詐欺師じゃないわけよ。
で、こいつ。
こいつ逮捕するじゃん。
それはこいつもわかってる。
いくつかのシナリオを用意してるはずだ。
そしたら拘置所か刑務所で暴動起こす用意をしてるはず。
もしくは反国王派の残党をまとめてるかもしれない。
それで一気に俺の権威を貶めてやるのだ。
国民からの不信を買わないように暴動の責任を俺をなすり付ける準備もしてるだろう。
俺ならやる。
もちろんすべてが計画通りに行くわけじゃない。
確率の問題で、そういう意味じゃギャンブルだ。
つまりフェンはそういうギャンブルやっちゃうタイプのやつだ。
脳味噌ゲーマーだから執拗に計画を練ってるはずだ。
別に世の中をよくしたいとか、ゼン神族に勝利をもたらしたい……なんて考えてるタイプじゃない。
ただ単にゲームに勝ちたいだけのやつだ。
俺は少なくともクロノス国民の幸福追求という使命がある。
一方、フェンはゼン神族自体はどうなってもいい。
だってただの詐欺師だもん。
結果がどうなろうが引っかき回せればフェンの勝ち。
俺はクロノス国民が不幸せになれば負け。
つまり余計な勝利条件がある俺の方が不利ってこと!
あー、クッソ!
面倒なの送り込んできたな!
ここで一番有効なカードは「今すぐ殺せ!」なんだけど、晩餐会の会場で殺すわけにもいかない。
おそらく逃走経路も確保してるだろう。
晩餐会の警備を突破された時点で初戦は負けか。
俺は頭を切り替える。
はっはっは。残念だったな!
こちらもゲーマー。
ゲーマー脳で取り返す。
「さて今日のお話ですが」
「委任状は?」
「はい?」
フェンの顔が曇った。
「代理人というからには委任状の一枚くらいあるでしょ」
こちとら行政の長である。
詐欺師は見慣れてるんですわ。
「ではパーシオンの国営企業の代表ですね。国営企業は基本的に解体、以上です。では失礼」
レプシトール忍法!
完全スルーの術!
説明しよう。
完全スルーの術とはそもそも話を聞くから惑わされる。
少なくともこちらのリソースを削ってくるつもりだ。
だったら話を聞かなければいい。
正当な権限と正当な資格で正当な窓口に連絡して来ないかぎり相手にしない。
バカめ。
敵国のスパイと直接話す元首がいるものか。
「いいのですかレオ陛下。なにが起きても」
「テロなら摘発するし。反乱なら鎮圧する。戦争を望むなら外務省を通せ。近衛隊。お客様がお帰りだ」
フェンはつまみ出される。
「レプシトールニンジャ隊に連絡。監視させろ」
「御意」
さーて、仕掛けてきやがった。
一セット目敗北からの二セット目で引き分けに持ち込んだ。
全面戦争だろうがなんだろうが、すでにこっちは覚悟済み。
ただの揺さぶりだろう。
あとはレプシトールニンジャ隊がジャンク情報を持ってくる。
そこから敵の正体がわかればいいなって感じか。
フェンは泳がせておいて最大限に利用しよう。
バカだね。
フェンはゼン神族にとっても俺にとっても捨て駒になったことをわかってるのだろうか?
「警備体制を見直せ。同時に全国営企業の監査をせよ」
「は!」
ゼン神族くん、公営企業への合法的監査の口実を与えてくれただけだな。
リソース削ったつもりなのか。
それとも使い捨て要因の一人なのか。
ま、なんでもいいや。
すると嫁ちゃんがニヤニヤしてる。
「婿殿成長したのう……」
「惚れる?」
「ずっと惚れてる」
はっはっは!
俺は勝ち誇った。
だけどねー。ここからのシナリオはもう予想できる。
パーシオン中のバカかき集めて代理人にして俺のリソース削ってくるのだろう。
疲弊したところでゼン神族の外交部が来ると。
で、ここから推理のお時間だ。
なんでこんなしょうもない手を使ったのか?
「嫁ちゃん。敵は動けない?」
「どういうことじゃ?」
「だって殺し合うのは確定じゃない。それを代理人詐欺でリソース削ってくるって。少しでも遅延したのはゼン神族かも?」
「うむ……」
とはいえ、実際の戦争なんてボードゲームみたいに最適化された思考で行われるものじゃない。
甘い見通し、内部の政治闘争、経済の混乱、内政の失敗で戦争するしかなくなったパターンはいくらでもある。
俺も向こうが攻めてくるからしかたなく応戦したら領土増えただけだしな。
たいていはタイミングも時期も選べないものである。
むしろ冷静にリソースが充分ある時に計画的に戦争する方が異常まである。
ゾークの場合は外宇宙での敗戦からの生存が目的か。
高い戦闘力と引き替えに外交能力を失ったから戦争というカードしか使えなかったわけだ。
今回のゼン神族も同じだろう。
ラターニア文化圏からは追い出され、手を組んだクロノス連合がローザリアとの航路を建設中。
ゼン神族も包囲網を作られる寸前だ。
こりゃ焦ってるな。
それとも隠し球があるか。
今回の件でそこまではわかる。
最近、俯瞰視点で考えるの上手になってきたな。
「ゼン神族への嫌がらせでも考えるか」
俺は笑顔になる。
「ふ、フレンドリーな悪魔が本気じゃ……」
嫁ちゃんが驚いてる。
いつものこと、いつものこと。
嫁ちゃん……あなたの夫は今日も元気です。
「嫁ちゃん、夜食何食べたい?」
「うーむ、この時間だからラーメンかの~」
「ですよねー」
ステージではパーシオンの伝統音楽の楽団が演奏していた。
俺は思うのだ。
ゼン神族、なんでこんなに必死になってちょっかいかけてくるんだろうと。
2巻大好評発売中
3巻続刊します
今月ですが、とりあえず6日と15日の更新が危ないかも。
とくに15日。
ベトナム大使館のイベントのお手伝いで帰りが何時になるかわかりませぬ。
難しかったらまた資料回にします。




