第六百九十二話
ポリーナです。
あれは一ヵ月ほど前の事でしょうか。
ラターニアの打ち合わせを終わらせ歩いていると、クロノス王陛下がやって来ました。
そしてダイビング土下座。
「仕事手伝ってください!」
「は、はい!」
思わずその場で即答。
これは後から知ったのですが、文官不足はここまで来てたのです。
ラターニア人の私にまで頼み込むというからにはよほどのことでしょう。
わけもわからず返事してしまってからは怒濤の展開。
直後に二等兵に降格されたレオ様が予算の使い込みを発見。
使い込みという程度なら少数が処分されて終わりでしょう。
ラターニアですらも数年に一度はあることです。
ですが規模が違いました。
予算丸ごとが私物化されて配分すらされてませんでした。
とうとうレオ様が牙をむきました。
レオ様は、あれほどまでに敵対的だったパーシオンを瞬く間に平定。
地方文官たちの首を切っていかれました。
どうやらスイッチ入るまでに時間がかかるタイプのようです。
それからは一切の容赦なし。
パーシオンの滅亡とクロノス併合を宣言。
移行期間なくクロノスの法律を押しつけ、それを根拠に中央地方問わず権力者をガンガン摘発していきます。
プロパガンダ得意と仰ってますが、「パーシオン人は劣等種族」みたいなものは決してしません。
普通はやると思いますし、実際ラターニア人は何百年もやられてきました。
プロパガンダは「親や子どもを大切にしろ」「法律を守れ」「人に迷惑かけるな」といった当たり前のものばかり。
暴れん坊大公などの勧善懲悪もののドラマを放送し、子ども向けのコンテンツを流してます。
これに聞く耳を持つくらいなら苦労は……。
……実際にレオ様が悪党を滅ぼしまくった映像も放映されたためか人気が急上昇。
当初低かった支持率はうなぎ登り。
クロノスの一部になってよかったとパーシオン国民が言い出すほどになりました。
当然、内戦が起こりますが、そこは戦上手のレオ様。
なにもさせずに敵を失脚させ、力を削ぎ、蹂躙して鎮圧。
被害をほとんど出しませんでした。
国民の生活も安定。
もともと集団農場の改革はやってましたが、一気に組織を解体。
ほぼ農奴状態とはいえ、一気にやると混乱が……起こりませんでした。
クレア様の改革がうまくいったようです。
我々ラターニアにこれができたのか……。
いえ無理でしょう。
我々は他国を統治するとなったら私怨が優先しそうです。
先祖代々の恨みをはらす好機と考えるものも多いでしょう。
やはりレオ様のお人柄なのでしょう。
ギリギリまで話し合いはしますが、ダメだと思った瞬間に豹変。
粛清の嵐を発生させました。
ただし私情を挟まず、多大な情熱を持って。
どうやらパーシオンはレオ様を気弱な為政者と侮っていたようです。
いきなりの大粛清、多彩な謀略、蹴散らされる兵。
自分たちが何を相手にしたのか理解したときにはもう遅かった。
気がついたときには彼らは文明のない惑星へ追放されることになりました。
……やることが極端から極端に移行してる!
こうしてレオ様は二等兵としての研修期間の大半を王の執務で終わらせてしまったのです。
そして銀河帝国からの警察官の補充が来ました。
クロノス、パーシオン、レプシトールも研修を受けてクロノスの警察機関を拡充する計画です。
一段落ついたのでラターニア本国へ報告。
レオ陛下本人から「スパイでもなんでもお好きにどうぞ」と言われてるので堂々と報告させてもらいます。
通信相手はラターニア王。
私の父です。
「国王陛下。レオ様はパーシオンを完全掌握。次の段階として内部の裏切者の調査に入りました」
職務なので実の親でも敬語です。
ここはちゃんと線を引いてます。
「……あまりに速すぎないかな?」
「ご安心ください。秘書として横で見守ってた私にすらわかりません」
「はははは……我々は首の皮一枚で滅亡を免れたのかもしれないね……」
それはプローンの一件のことです。
我々は銀河帝国とプローンの戦いの最後に介入し、プローンを滅ぼしました。
あのまま銀河帝国が勝利するのはわかってました。
ですが、我らは侮られてはならない。
だからプローンを滅ぼしました。
銀河帝国が我々と敵対してもかまわないとの判断でした。
いま考えると恐ろしい事をしていたなと思います。
クロノス、マゼラン、オーゼン、レプシトール、パーシオン……の中にラターニアが入ってた可能性はあったでしょう。
我々のやたら理屈っぽいという悪癖が良い方に転びました。
話し合いは重要です。
特に相手が銀河の覇王であれば。
そんなことを考えてると父が言いました。
「ところでレオ陛下とはどうなんだ?」
またか。
レオ陛下は女性には困っておられないお方。
それも妻の方々は学生時代からの恋人たちで、しかもゾーク戦争を生き抜いたお仲間です。
付け入る隙がどこにありましょうか。
「無理です。誘惑どころか秘書に抜擢されただけでも過分な扱いかと」
「だよね~。銀河帝国皇帝による婚姻政策であって、本人は嫌がっていたと聞く。やはり本性は堅物か」
あの花柄エプロンが堅物かと問われればノーである。
だが誠実なのは間違いない。
ちゃんとヴェロニカ様を一番大事にしてるし、他の妻の方々への気遣いも忘れない。
おそらく……そのうち太極国も手にするだろう。
それも征服ではなく穏やかな手段で。
「堅物……と言われると言葉に困りますが……化物です」
「外交官も商人も潜入させた工作員もみんな同じこと言ってるよ。それでローザリアとの国交は?」
「罪人を宇宙港建設に動員しました。大規模計画なので多少テロをされても困らないそうで」
「それと例のパーシオンを滅ぼすために作ってる移動要塞は?」
「それも同時に建造してます。おそらくローザリアとの航路上に砦として設置すると思われます」
……言えない。
伝達ミスからの建設規模の増大。
それがたまたまローザリアの訪問で使う機会に恵まれたなんて言えない!
「ま、まさに深謀遠慮ですネ」
「うむ……恐ろしい男だ」
と、強引に納得したが……まだレオ様を理解できてない。
誰に聞いても「レオだし……」で終わりにされるのである。
ああ……次はなにをされるのだろうか?
秘書のポリーナは頭痛が止まりません。
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