第六百八十九話
「国王陛下逃亡しました!」
「なんで目の前にいたのに消えたのおおおおおおおおおぉッ!」
ヒューマさんが叫んだ。
「ニンジャ隊に連絡、『くくく、カワゴンはニンジャの奥義を究めた史上最強のニンジャ。捕獲は不可能』とのことです」
「あいつバカなのおおおおおおおおおおおおッ!」
ちなみに俺はレプトール忍法『屋根裏の散歩者』でフロアとフロアの隙間に潜伏中だ。
そのまま隙間を移動して地下駐車場に到着。
ここに隠した俺のバイクを……あった。
アメリカンバイク!
さーて行くベ。
「あー! 陛下!」
「あばよ~! ヒューマのとっつあん!」
「てめええええええええええええええええええッ!」
ぶいーん。
アメリカンバイクで走り出す。
ヘルメットはフルフェイスでドクロがプリントされたやつ。
トゲ付き革ジャケットは用意できなくて二等兵の軍服。
ま、いいか。
「ちょっとレオくん! 調査を待たなくていいんですか!?」
俺を心配するのは相棒の妖精さんだけだ。
「うちの情報部はそんなに無能じゃないよ。不釣り合いに贅沢してるアホはピックアップ済みだもん。ただ単に借金してるだけか、賄賂なのか、それとも横領なのかまでの調査が追いついてなかっただけで。なにせ件数多すぎなんだよね」
「ちょ、じゃどうするんですか!」
「もちろん片っ端から乗り込んでボコボコにするに決まってるじゃん! やだなー! まずは一番近い首都の知事邸宅ね」
「ぎゃあああああああああああああッ! そうだリコち! リコち止めて! あなたの旦那が空腹で壊れた!」
オレ、メシ奪ウヤツ。許サナイ!
フルスロットルで知事邸宅の窓ガラスからバイクでダイナミック侵入。
「ちわーっす! ピザの配達です!」
がしゃこーん!
当然、パーシオン首都軍の兵が来る。
俺はドクロヘルメットを脱ぎ捨てる。
「俺の名を言ってみろ!」
「れ、レオ・カミシロ・クロノス……へ、陛下……な、なぜここへ」
「横領したのお前らか?」
俺はボキボキと拳を鳴らす。
「に、逃げろ! ドアを閉めろ!」
あ、逃げた。
ああ、そういう態度。
俺は壁をコツコツ叩く。
ふーん、中にコンクリ入ってねえでやんの。
中腰になって両手を腰に。
拳は握るが力をこめすぎない。
力を入れるのはインパクトの瞬間。
背筋は水のように。
尻の筋肉を締めて固定砲台のようになりながらも、股関節はサスペンションのように柔らかく。
息を吸って。
息を爆発させるように吐く。
「だりゃあああああああああああああああッ!」
拳を連打連打連打連打連打……。
力は入れない。
ただ機関銃のように拳を撃ち出す。
腹筋が揺れ、股関節が拳の射出衝撃を受け止める。
すべての連打が一呼吸で壁に撃ち出される。
その拳の前に壁は形を保てなかった。
「ふう……」
崩れた壁からゆっくり廊下に出る。
「ば、バケモノが壁を壊したぞ!」
「し、しかたない! う、撃て!」
当たりませんもんねー!
レプシトールで習ったニンジャの動き。
跳んで天井を蹴ってダイブ!
クロスチョップ!
「な! 狙わせてくれない!」
「面制圧しろ! 小隊支援火器を使え!」
あ、個人に向けて軽機関銃使う?
そういう態度。
一人をつかんで持ち上げる。
「レプシトール忍法! 人間ミサイル!」
「や、やめ! ぎゃあああああああああああああッ!」
機関銃持ってきたアホどもに投げつけてやる。
「く、クソ! 野郎、忍法って言えばなにやっても許されると思ってるぞ!」
「ふざけんな! あんなのと戦う方法なんて知らねえ!」
「ドローンだ! ドローン使え!」
「手裏剣!」
手裏剣って言ってもクナイだけどね。
いっぱい持ってきた!
ドローンをクナイを投げて撃墜していく。
「もうやだぁ! この王様やだぁ!」
「知事はどこじゃあああああああああああああああッ!」
刃向かった者は全員その場でボコボコ。
「あははははは! 二等兵からやり直せ!」
ある程度の人数をボコボコにすると降参して襲いかかってこなくなった。
うーん根性ないな。
知事用の食堂に行くとそこに並ぶのはフルコース。
いや他の惑星の知事と会談したり、そういうのは禁止してないよ。
ショボい会談やると国がなめられる。
こういうのは必要経費だ。
俺たちも夜会とかあるし。
でもあまり食べられなくて終わってからなんか作るパターン多いけど。
夜会終わった後のカップ麺はなぜあんなに美味しいのだろうか?
……ってそうじゃない!
許せぬことにこの知事、豚は! 一人でコースを食べてたのだ!
はぁ?
一人で食うもんじゃねえだろ?
バカなの?
いや横領したんじゃない、自分の金でレストラン行くんだったら怒らない。
なんで公邸の料理人にフルコース作らせて食ってんの?
しかも完食しねえの。
「お前さぁ、なにやってんの?」
俺はややホラー映画チックな顔で言った。
「い、いや、その……」
「へえ、クロノス王の俺よりいいもの食ってるじゃん」
ペロッとソースに指突っ込んで味見。
へえ、銀河帝国の味付け。
俺は別にグルメが悪いなんて言ってない。
自分の金ならね。
「あの……その……へ、陛下これは! そ、そう! 昨日の会談の余り物でして」
「妖精さん知事がこう言ってるけど」
「嘘ですね。昨日は休日……というかまともに活動してませんね。この人」
「ふーん……」
「そ……その……」
「なあ知事、ガキども養う金どうしてる?」
俺は児童福祉を重要視してる。
いくら大人がカスでも子どもに罪はない。
将来を担う人材だ。
冷たい言い方をすれば国家で一番重要な資源だ。
だから栄養状態の悪いパーシオンに金ぶっこんでるわけである。
「い、いや、それは」
フォークを手に取る。
握ってテーブルにドンッと突き刺した。
「ねえ、言って」
するとドアからスペース・レイダースが入ってきた。
「やめろ二等兵! 殺すな!」
なんでみんな俺に銃口向けてんのよ。
「殺さないって。ちょっとお話ししてるだけだって」
「嘘つけ! ここの警備隊半殺しじゃねえか!」
ヒューマさんがやって来る。
「ヒューマさん……わしゃのう! 横領すんなっていってるわけじゃねえ。てめえら、いくらなんでもやりすぎだろがってキレてるんですよ!」
ヒューマさんが嫁ちゃんに泣きつく。
「皇帝陛下。完全にキレてます。しかも主張が正しいので論破できません」
「わかった! ヒューマ全員逮捕! これから誉れある精鋭部隊スペース・レイダースに命令する! 婿殿と一緒に悪を一掃せよ!」
「さすが嫁ちゃん! 愛してる!」
こうして「芋を奪われた宇宙怪獣が知事公邸に殴り込んだ事件」、もしくは「上様大暴れ事件」と後に呼ばれる大粛清が始まったのだ。
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