第六百七十七話
カレンです。
パーシオン特別総督とかという理解できない役職を与えられました。
クロノス正妃にしてパーシオンの独裁者クレア様の副官です。
えっと辞職したいのですが……だめ? ……はい。
世間では私はクロノス王の女と言われてますが、ぜったいに、完全に、万に一つもない、お願いだからやめて、レベルの誤解です。
『年下だから』とか『自分より背が小さい』とか『もっと渋い方が好み』とか……そういう好みの問題ではありません。
命がいくらあっても足りないからです。
レプシトール大統領だけでも危険なのに、パーシオン特別総督なんて……無理ですうううううううう!
もう二十回以上命狙われてますからね!
パーシオンはたいへんめんどう……難しい国家です。
国民は丈夫でバカな方がいい。
これを本気で言ってたのがパーシオンです。
実際、人件費を考えなくてもいいパーシオンに統治費用を考えなくてもいい我々レプシトール。
我々二国はともに発展する間柄でした。
こう、お互いに会計を誤魔化しあうといい感じに経済成長してる風になるわけです。
あとは酒に麻薬に異性を与えることで欲望を刺激し、需要を維持するわけです。
パーシオンの高官も実態は似たようなものです。
それが寄生虫や食品汚染問題で我々の張りぼて経済は破綻。
クロノスに併合されました……。
いえ、まだ正気を保ってた人々がクロノスに保護を求めました。
その責任を果たすため、私と旧革命勢力が泣きながらお仕事をがんばってるわけです。
クロノスが組織したレプシトール経済監視委員会が発足したことで不良債権問題は私の手から離れました。
この時点で十回は暗殺されかけたでしょうか……。はい。
粛清に告ぐ粛清。切腹、斬首、磔の日々。
ようやく死の恐怖に怯える日々から解放されると思ったら、パーシオンもやれと命じられました。
夜……一人で泣いてます。
パーシオンはもっと闇が深い国家です。
雑に説明すると、ごく一部の超優秀な特権階級が国家運営し、他の市民は家畜として扱われてます。
家畜、いわゆる経済動物ですので定年退職と同時に安楽死処分される国家です。
それ以前に密告が奨励されていて、退職まで生き残る市民はほとんどいません。
家族による密告は当たり前のように行われていて、子どもが親を告発する光景はパーシオンでは珍しくありません。
ですので家族ですら敵。
市民は無口で無気力。
言われたことしかやりません。
仕事のクオリティーも最低ランク。
優秀なものは告発されて処刑されます。
ですが彼らにとってそれは当たり前の世界です。
そこに幸せを見いだしてます。
弱者による弱者のための国家です。
我々は軽蔑しながらもそういうものだと思ってつき合ってきました。
ですがレオ陛下はそれをまったく理解できません。
あの人は人間として、個としてあまりにも強すぎる。
言わば光の存在なのでしょう。
責任を含めた自由の中で生きられる存在。
しばるものはしがらみと責任だけ。
我々とは何もかも違います。
我が友、京子による「レオくんはキラキラしてて嫌!」という発言に完全同意します。
我々にとってはあまりにも眩しい存在なのです。
今回もブツブツと不満をつぶやく市民の声を完全無視して工事を断行。
旧市街を復興しながら市民に文化的な住宅を与えました。
レオ陛下は「伝達で事故った」と発言されてますが、おそらく結果は同じだったでしょう。
市民は命令や強制を望んでいたのです。
というわけで私もヘルメット被って現地視察。
防滑繊維入り安全靴にも慣れました。
クロノスや銀河帝国は安全にうるさいんです!
ハイブランドのハイヒールで現場に入ろうものなら本気で怒鳴られます……。(二敗)
底が低けりゃいいだろと思って別の靴で行ったら泣くまで怒られました。怖い……。
なぜ銀河帝国人が鬼神国人やラターニア人と仲がいいのかわかったような気がします。
「カレン様。レース会場ですが……」
クロノス人の現場監督が図面を示しながら説明をしてくれました。
レースのエントリー車のコンペには我が社、マイク&ハマー社も参加してます。
カミシログループ末端と言えどもレプシトールの底力を見せつけねばなりません。
そうじゃないと下請けすら危うくなります……。
今回は初心者コースということです。安全に配慮せよと厳命されてます。
旧市街地を走るレースカーやオートバイ。
男の子じゃなくてもテンションが上がります。
「ではその通りでお願いします……レオ様は『予算を超過してもいいから安全に』と仰ってました。よしなに」
「厳命させて頂きます!」
ふう、お仕事が一つ終わった。
ちゃんと定期的に訪問しないとレプシトール人は手を抜きますからね。
クロノス人の現場監督は苦労することでしょう。
旧市街の整備もほぼ完了。
素晴らしい出来です。
あとはラリー用の用地です。
用地と行っても荒野ですが。
なんでも過去に化学戦が行われて荒野になった場所とか。
ゾーク戦争での使われた技術を転用して浄化したとのことです。
昆虫が増えたら緑地化に挑戦するそうです。
レース会場に着くとオフロード車がやって来ました。
停車すると中からヘルメットをつけてレーススーツを着た男性が出てきました。
イソノ様です。
「やっほー。カレンちゃん」
言っておきますがイソノ様は年下です。
なのに「ちゃん」です。
まるで新任の女性教師になった気分……少しイラッとしますね。
「イソノ様、ちゃん付けは奥様に言いつけますよ」
「あ、それはやめて。お願いだから」
あわててます。
イソノ様は愛妻家で有名です。
「すげえよこの車!」
スポンサーのマークだらけです。
なのにデザインが美しい。
我が社自慢のレースカーです。
「弊社の技術の粋を集めて作りましたので」
「同じの売ってくれない?」
勝った!
口の端が自然と持ち上がりました。
スポーツカーのコレクターとして有名なイソノ様がそう言われるのなら勝利は目前!
マイク&ハマーの時代が来るのです!
「ご用意いたします」
笑顔。笑顔。
「そういやレオは?」
「バイクで走られてると聞いております」
銀河帝国のアメリカンバイクというレース用のものではない二輪車で走ってるようです。
それが終わったら普段使ってるスクーターでも走るそうで……。
それが終わったら自転車でも。
とことん現場主義ですね。
つき合わされる近衛騎士の皆さんがかわいそうです。
こうして私が現場監督に怒鳴られながら命綱の付け方を憶えたころ、レースの日程が決まったのでした。
②巻4/20発売です
コミカライズしてえええええええええええええええええ(心の叫び)!




