第六百七十八話
レースの日程が決まった。
撮影しまくる。
有名選手のインタビューや写真集の販売。
電子チケットも発行しまくる。
事故ったら怖いので観客数は少なく見積もったが、地獄みたいな抽選倍率に「もっと席増やせ」と圧力がかかる。
ついにサテライト会場を複数設置して国ごとに分けることになった。
サテライト会場のチケットは安い。ワンドリンク制。
パーシオン人でも購入可能な額だ。
つうかね!
本来の計画じゃ!
普通のチケットも買えたの!
国民から昇給を拒否されただけで!
ということで子どものお小遣い程度で入れる場所を提供する。
俺はカミシログループ各社の広告だらけのバイクスーツで撮影される。
俺が乗るのは、カミシログループの軍事企業の開発したバイクである。
……大気圏突入した記憶があるデザインだな。
いやデザイン悪くないんだけど……。
銀河帝国軍とクロノス軍もロゴつけてる……。
待って、これ成績悪かったらぶん殴られるやつじゃね?
嫁ちゃんが笑顔でやって来る。
「婿殿わかってるな? 全力でやれ」
「あ、あれ? ポクちん、エンジョイ勢のつもりだったのですが?」
「全力じゃ」
クレアもやって来た。
ママー!
「レオ、全力でやって」
なんてこった……。
「なしてー!」
「クソ生意気なパーシオンをわからせるためじゃ」
嫁ちゃんは不機嫌を隠そうともしない。
「罰と苦役を望む国民に夢を見せるためよ」
クレアはほほ笑む。
その笑みはタマヒュンものだ。
やだ怖い!
その夢って『逆らったらこうなるぞ』っていう悪夢じゃないですか!
というわけでレース当日。
まずは予定通り、俺が出場するバイクレースだ。
エディ隊が警備してる。
なんかすげえ気合だ。
旧市街地、海に繋がってる大きな汽水湖を中心としたコースを三周する。
バイクスーツに企業ロゴだらけのヘルメット。
これバトルヘルメットじゃん!
一番頑丈なのがこれなのね!
スーツもデザイン違うけど戦闘服じゃねえか!
結局これが一番なのね!
「妖精さん、システムスタート」
「はいはーい」
「あふん」
エンジンの音で一瞬あっち側の世界に行きかけた。
いややっぱりいいわー。
この振動がいいわー。
レース出てよかったわー。
レース開始。
エンジンが唸りを上げる。
だいしゅきー!
よだれでそう。
「れ、レオくんの精神年齢が小学生男子になってる……」
「わーい♪」
そりゃね、バイクだからブレーキで減速しながら縫うように緻密な操作で。
そう、レース全体を見通した作戦を……。
「うわーい♪」
「レオくん! ブレーキ! ブレーキかけてないから!」
「うわーい!」
武術と同じだよね。
ヌルッと避けていく。
コーナリングだけ減速すればいいさー。
ヌルッとね。
「う、動きがおかしい!」
「あれは本当に人間か!?」
「翼でも生えてるのか!」
なんか実況がうっさいなー。
「あ、あはははははははは! 神の領域が近づいてきたああああああああああああああ!」
「誰か止めてー!」
軍用モンスターバイクをレース用にしたのだ。
「陛下くらいしか乗りこなせません」と言われたじゃじゃ馬だ。
楽しい。たのしすぎるうううううううううううううう!
「陛下とあのマシン……次回から禁止した方がいいと思いますが」
「そ、そうですね……」
ルーちゃんママにまで見捨てられたワイ。
トップを恐ろしい勢いで引き離していく。
アルコール燃料やゴミを直接燃やすディーゼルでは味わえないこの快感!
わかるか!
戦闘機乗りやめられない理由の大半が詰まってるぞ!
「ふは! ふはははははははははははー!」
「同じ条件のはずなのに命知らずすぎて誰も追いつけない……」
「ぎゃはははははははははー! ぐはははははははははー!」
「ちょ、レオくん脳内物質がとんでもな数値ですって! あんたなにやって、もう、ばかー!」
「む、婿殿! がんばれと言ったがここまで求めてない! 帰ってこい!」
「れ、レオ! ちょっと! そこまで求めてないから!」
嫁ちゃんたちの悲鳴も聞こえない。
脳内物質ダバダバ出しながら俺は突き進む。
「ぎゃはははははははははー!」
そして三周で何度もトップチームを抜かしてゴール!
ふ、ふへへへ。
ふへへへへへへへへ!
そしてガッツポーズしながらバイクを降りた瞬間……。
ぼん!
「あん?」
バイクが炎上。
「耐えられませんでしたね……バイクちゃん。レオくんの運転に……」
「のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「いや後半、もう温度がおかしかったんですけど、もうどーにでもなーれーって」
「のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
泣き叫ぶ俺。
消火器がかけられるがいきなり爆発。
ちゅどーん!
さようなら……ぼくのスレップニール……いま名付けた……。
なお完全なる事故……正確には俺の性能がバイクを上回ってしまった事故である。
「ぽくのすれっっぷにいいいいいいいいいいいいいるうううううううううううううううッ!」
俺はその場にひざをつき天をあおいだ。
爆発炎上したバイクから上がる炎はナパームの如く。
まるで爆撃を受けた宇宙海兵隊の如き絵面だ。
ちゅどーん!
明日のトップニュースのサムネイルはこれに決定だろう。
なお愛する嫁ちゃんにバイク禁止。
買い物はママチャリか近衛騎士の運転する車を命じられた。
軽トラすら取り上げられた。
あと優勝台には立たせてくれたけど、次回から出禁にされた。
俺が死ぬからダメだって!
カワゴン……涙が止まらない。
サンセットミサイルバイク事件と名付けられ、パーシオンの教科書に永らく記載される出来事となった。
教訓はイカロスの神話と同じく『身の丈に合わない欲望、無謀な挑戦の果てには破滅が待っている』というものである。
無謀じゃないもん!
身の丈は……合ってると思うのよ?
その……ちょっと張り切りすぎただけで。
あと裏の教訓として『クロノス王家はバカなので逆らわないこと』とささやかれてる。
おまえらさー、バカにバカって言ったら戦争やぞ!
ちなみにここまでやらかしたのに俺は無傷。
鬼神国人すらどん引きしてた。
「悲しい事故だったね」
「人災の極みですよね」
妖精さんが冷たい。
「がんばれっていったのみんななのにー!」
「やりすぎなんですって! 誰もここまでやるって思ってないでしょ! 私ら、レオくんがわざと負けると思ってたんですよ!」
その通りである。
民間に花持たせようと思ったのである。
でもバイク乗ったら頭が……その真っ白になりましてね。
悪い意味で。
というわけで最初のバイクレースが終了。
全宇宙の視聴率はぶっちぎりで一位だったという。




