第六百七十六話
「え、俺も出るの?」
俺、エディは妻のミネルバとコース選定にかこつけてパーシオンに遊びに来てた。
そしたらレオが「エディ、レース出て」といつもの思いつきで言った。
殴りたい。このゆるんだ笑顔。
「出ない。俺はバイクはヘタだ」
そう言うとレオはポスターを渡してくる。
ほう……自動車レース。フォーミュラカーか。
「レオ……無茶振りしやがって!」
と言いながら表情が崩れていく。
もー、レオの野郎。
男の子の好きなものをわかってやがる。
「ま、最初からフォーミュラカーは死ぬから最初はこっちな」
スポーツカーの公道レースだ。
すでにスポンサーと参戦企業が……。
「待て……全宇宙規模じゃねえか」
「エディきゅん。聞いて。バイクレースも同じ規模になっちゃったの。軍事企業から自動車企業。宇宙産業まで参戦しまくり。俺のバイクをめぐって熾烈な競争がだね……エディきゅんにも悩みを分けてあげようと思って」
「……なあ、お前の友だちやめていい?」
「うわあああああああああん! 見捨てないで! お願いだから!」
「イソノでいいだろが! あいつ車好きだし!」
「もう4日間のラリーの方出るって」
「バカなのかな? いや本当にバカだろ!」
「だってエディ免許持ってるじゃん! 戦略軽装甲車の免許!」
戦略軽装甲車。
要するにレース用の車両を軍事転用したものである。
装甲貼り付けただけの超高速で走る棺桶である。
レオが免許取得しないからおかしいと思ってたが、実態はこれだ。
なにが時給で1000クレジット昇給するだ!
昇給が高すぎると思ったんだ!
あの野郎……こういうところの回避能力が神がかってやがる。
これもジェスターの能力だろうか。
そのくせバイク好きなんだよな!
自動車に比べて事故時の死亡率高いのに!
「とりあえず妻に相談する。いいな! ミネルバがダメって言ったら出ねえからな!」
こんなの一人じゃ決断できるはずもない。
もう俺は責任ある領主だし、一族の本家当主。
クロノスの領地も含めて数億人の領民を抱える責任ある身。
……末松さんがいなければとっくに破綻してただろう。
さらには妻もいるのだ!
ミネルバに連絡。
「レオがレースに出ろって……俺の愛する奥さんは断ってくれるよね?」
「出れば? レオくんが大丈夫って言うんだから大丈夫でしょ。あなた自動車好きじゃない」
たしかに家族用の自動車のカタログを見てたことはある。
ちょっと出かけるのにいちいち近衛騎士に送迎してもらうのも面倒だ。
……いや、その……正直言うとイソノがうらやましくてスポーツカー欲しいなと思ったことは。
いや……現在進行形で欲しい。
その……俺だって男の子だもの。
でもだ。レースは……。
「……嫌な予感しかしないのだが」
「なにかしらあるでしょうね。レオくんのやることだし。でも……もしレオくんが倒れたら……」
いままで積み上げてきたものが一気に崩れる。
ルナ殿下すら敵に回るかもしれない。
いやワンオーワンとケビンが手を組んでゾークの復権に走るかも……。
そのときはプローンの残存勢力と手を組むだろう。
銀河帝国、クロノス王国、レプシトールにパーシオンまで滅亡するかもしれない。
いやレオ・カミシロがいなければ、民族最大の理解者と認識してるラターニア人も敵に回るかもしれない。
そのときは鬼神国もだろう。
ローザリアはわからないが……。
いやどさくさ紛れにクロノスを獲りに来るだろう。
全勢力が覇権を競い、全宇宙を巻き込んだ大戦国時代に……。
レオの異常なほどの運の良さを考えるとありえない話では……。
「あががががががががが……」
悪夢のような未来を思い描いて変な声が出た。
「でしょ、だからレオくんには最大限つき合ってあげた方がいいと思うのよ」
「で、出る!」
こうして俺は宇宙を守る騎士のような覚悟でレースに参戦することになった。
ぜったいにレオを守り切らねば。
ジェスターが動けばなにかが起こるのは必然。
あらかじめ陰謀を刈り取らねばならない。
俺は末松さんと通信する。
「末松さん、お庭番の用意を」
「御意」
とうとう使うときが来たか。
アンハイム家のお庭番部隊。
ミネルバの実家のカリ家も編成に参加し、元国軍の特殊部隊が中心に編成されている。
そこにさらにレプシトールの優秀なニンジャを雇った。
さすがにやりすぎだろという部隊である。
統括するのは歴代最優秀団長と名高い末松さん。
末松さんはパンパンッと手を叩く。
するとお庭番が現われる。
どう考えてもノリノリの演出だ。
末松さんは指示を出す。
「ヴェロニカ皇帝陛下とレオ陛下をお護りせよ」
「は!」
お庭番が影に消える。
最新式の光学迷彩ユニットだろう。
透明ゾークの技術を転用したものだ。
渡したら40超のおっさんが目を輝かせて喜んでた。
これでどうかなるか……。
勘の鋭いタチアナやワンオーワンも護衛に回ってくれれば楽になる。
……ところで俺も年取ったらああなるのかな?
レオやイソノみたいにいまのうちに全力で遊んだ方がいいのかな?
悩みどころである。
……俺も歌のレッスン受けようかな。
剣以外の趣味を見つけようと本気で思う。
人生の取り返しがつかなくなる前に。
ぐ、真面目こそ至高と思ってたが、権力を手に入れたいまそれだけでは通用しないのだ。
特にイソノ!
プロレスに野球にと人脈が幅広い。
それが役に立っている部分が多い。
カトリ先生にすら「多少脇道にそれてもいい頃合いだな」と言われた。
もう一度ミネルバと通信する。
「ミネルバ……俺はつまらない人間なのだろうか?」
「私は好きよ。飽きないし」
どういう意味だろうか?
「レオくんたちって、みんな落ち着きがない人ばかりなんだから。あなたみたいに落ち着いてどっしりした人が必要とされてるのよ。自信持って」
自信がわいたような気がする。
「じゃ、がんばってね!」
ミネルバは笑顔で手を振る。
通信が終了したところでスケジュール帳を開く。
スケジュール帳にはレースに備えた練習がびっしり書込まれていた。
ミネルバ……キミの夫はギリギリまでがんばろうと思う。
キレてレオを殴ってしまうかもしれないけど。
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