ヘンタイ騎士!?ラズラット
この作品は『ノベルアップ+』にも掲載しています。
四人の防具はお揃いの物に決定し、胸の部分に特殊な塗料で『熾炫弐式』と入れる事に。
アールズの騎士団副団長補佐ディロンは、なるべく目立たず小さめに入れるのなら、という条件付きでそれを了承したのだった。
「あたしは赤文字で!なんたって『赤髪のアルシーア』って舞台名だしなっ。リカとルメはどうするよ?二人とも栗色にする?地味じゃないか?」
「そうだねえ。アタシは白にしよっかなー。ルメは?」
「リカが白ならルメちゃんは黒かなあ。シルスちゃんは?」
「わたしは翠色で!わたしの目の色と同じにして欲しいです!」
――彗星の色と同じ色って言うより、こっちの方がいいよね、きっとね!
「じゃあ、赤、白、黒、翠で!頼むよ、オヤッサン!」
と、元気よくアルシーア。
防具にユニット名を入れてもらっている間に、今度は四人の武器選びの時間である。
ラズラットは片手剣を二振り購入し、早速帯剣していた。腰の左右にやや短めの一振ずつの剣。
ラズラットは二刀流の使い手なのだ。
店の裏手で抜剣の動作と試し斬りを済ませ、新しい装備に満足そうにニコニコと少年のような表情を浮かべご満悦のようだ。
「お嬢様達は決まったのかい?」
「えー?武器なんて要るかな?重いし疲れるだけじゃん?」
と、アルシーアはまるで乗り気では無い。
アルシーア達に武器を扱うスキルは無い。だが、丸腰で竜退治《竜調査》に赴く訳にもいかない。
一部例外を除き、多くの若い娘達は刀剣に興味を示さない。アルシーア達もその例に漏れず刃物に興味は無かったが、大剣は無理でも小剣かナイフくらいは持った方がよい、という事で各々が扱い易いナイフを購入したのだった。
ちょっとした旅の経験があるシルスだけは、真新しいナイフの軽さと美しさに目を輝かせていた。
「このナイフ、軽いですねー。グリップもいい感じですよー」
そのシルスの元にラズラットが近付き、おもむろに声をかけた。
「シルス君」
「はいっ?」
「シルス君の服にはこの店のものより高度な魔法がかかっているね。非常に珍しい。それに……君の身体の魔法紋様は今までに見たことの無いものだ」
「えっ!見えるんですか!?」
シルスがこの時代に来てから魔法紋様が『見える』者に出会うのは、魔女シャン、シンディに次いで二人目である。
「実は……初めて会った時に気付いていたのだけど聞けなくてね。君の身体の魔法紋様に興味があるんだよ。その……言いにくいのだけど、見せてはもらえないだろうか?」
ラズラットが恐縮しながら低姿勢でシルスにお願いを申し立てる。その態度は紳士的で騎士然としており、シルスにはとても好印象に思えた。
ラズラットに対して悪い印象を持たないシルスはそれを快諾したのだが。
「あ、ハイ。いいですよっ!どこをみせればいいですか?腕とか足とかですかっ?」
「本当は全身をまんべんなくと言いたい所なのだが、流石にそれは無理だろう?それで、だ。脇、を見せてくれないだろうか?」
「はえっ!?」
――わき?えっ?聞き間違いかなっ?聞き間違いかなっ?
「あの、脇って、脇腹のコトですよね?ここですよね?」
と、あばら骨の辺りを指差すシルスだったが。
「いや、脇腹では無く。脇の下、を見せてもらえないだろうか?」
ラズラットから飛び出した思いもよらない言葉にシルスは思う。
――ヘンタイさんだっ!
「少しだけ、いや、ちょっとだけで良いのだが」
――うわ!出た『ちょっとだけ』!ヘンタイさんはみんな『ちょっとだけ』って言うってホントだったっ!
「ラズラットよ」
「はい。何でしょうか、ディロン様」
「騎士として、上司として、友として。仲間の変態行為を許す訳にはいかんのだが」
二人のやり取りを端で見ていたディロンの表情が珍しく険しい。
「まさかそんな。お言葉ですが心外です、ディロン様。私は真剣に脇の下を見せて欲しいと言ったまでです」
「真剣に?お前が真剣にと言うのなら……ならば、シルス君」
「はいっ!?」
「私に免じて、彼に脇の下を見せてやってはくれまいか?」
「イヤですよっ!オトメの脇の下見たいだなんてフツーにヘンタイさんじゃないですかっ!そんなコト真顔で言わないで下さいようっ」
「そこをなんとか」
と、ラズラット。
「えー!ダメですよっ!」
無論、シルスは即答で拒否。
「じゃあアレだ!コイントス!コイン様にお願い!ってね!シルスちゃん、やってたでしょ?」
ルーフェリカは面白そうな事にはとても敏感だ。するるっとシルスの元に近づき、当たり前のように話の輪の中に入ってみせた。
「ええー!?コイン様にオトメの脇の下を見せるかどうか決めてもらうんですかっ?わたしの脇の下ってそんなに安いんですかっ?」
「じゃあ、10エイン硬貨じゃなくって500エイン硬貨にしようか?」
「そういう問題じゃ無いですようっ」
「うだうだうるさいなあシルスは。いーじゃん脇の下くらい。ノースリーブシャツなんだから腕挙げるだけじゃん。なんだよボーボーなのかあ?」
「ツルッとしてますよっ!ファルナルークさんの顔でボーボーなんて言わないで下さいよっ」
「この顔はあたしのだっ。ファルナルークなんて知らんっ。いーからやろうぜ、コイントス!表だったら『見せる』裏だったら『見せない』で!さっさとやるぞっ!うりゃ!」
「えっ!?ちょっ!シアさんっ!?」
アルシーアが有無を言わせず話を進め、ピン!とコインを弾く。
くるくるキラキラと舞い上がったコインをピタッと手の甲でキャッチしたのは。
ルーフェリカだった。
「どこに向かって弾いてんのさシアシアは」
「ナイスキャッチ、リカ!で?どっち?」
「んー?オモテかなー?ウラかなー?どっちかなー?んんんー?おおっ?これはっ!」
ルーフェリカは勿体ぶってコインを見せずに期待感を煽る。
すぐに結果を見せないのは、舞台や路上パフォーマンスで培った『魅せる楽しさ』を知る者ならではの焦らしテクニックの一つである。
「じゃじゃん!オモテー!さあ!潔く脇の下を見せようシルスちゃん!恥ずかしいって思うから恥ずかしいんであって、恥ずかしく無いって思えば恥ずかしく無いんだよ!」
「えー!?男の人に脇の下見せるの恥ずかしく無いワケないですよー!」
「コイン様は絶対!だろー?いーじゃんボーボーじゃないんだから」
「ボーボーから離れて下さいよっシアさんっ」
「脇の下くらいいくらでも見せてやるよ、ズラさん!ほれほれっ」
と、アルシーアが両手を挙げてみせるが。
「イヤ、アルシーアのではなく、シルス君の脇が見たいのだよ」
ラズラットのこの一言にシルスは思う。
ガチのロリコンのヘンタイさんだ、と。
「ではシルス君。ここでは恥ずかしいだろうから、店の裏手に行こうか。先ほど剣の素振りをした場所だよ。あそこなら人も来ない」
「人気の無いトコロへシルスちゃんと二人きりなんてダメですよおっ!」
声高らかにシルスを庇うようにラズラットの前に立ち塞がったのはルーフェルメだ。
「ルーフェルメさんっ!」
――庇ってくれたっ?ちょっと嬉しいかもっ!
「ルメちゃんも行きます!そしてじっくり眺めますシルスちゃんのつるスベのカワイイ脇を!それならいいでしょ?シルスちゃん!」
「良くないですよっ!身の危険度が倍増ですよっ!」
「なんだよ往生際が悪いなシルスはよー!コイン様の言う通りなんだろー?これだからイイトコのオジョーサマはよー!ビビってんじゃねえっつーの!あーあっツマンネーヤツだなー!なーんかがっかりだなー!」
とアルシーアが挑発めいた口調でシルスを煽る。さすがにこれには、普段穏やかで温厚なシルスもムッときた。
「わかりましたっ!見せますよ脇の下くらいなんともないですよっ。それにわたしっ、別にイイトコのオジョーサマじゃないですよっ。ウチはそんなに裕福じゃないですっ」
「おっ!なーんだノリいいじゃん!そうこなくっちゃなー!」
とアルシーアは、したり顔をする。
――あ!あれっ!?しまったっ挑発に乗っちゃったっ!?
と思っても後の祭り。
「では、こちらだよ。シルス君」
「えっ?あ、ちょっ、ココロのずんびがっ」
戸惑いを隠せないまま、ラズラットに手を引かれシルスは店の裏手へと連れて行かれたのであった。
◇
「両手を頭の後ろに回してじっとしていてくれればそれでいいよ」
薄暗い店の裏手の片隅で、アールズの騎士とハーフエルフの少女が一人。
ここでごねても時間の無駄と判断し、意を決して両手を頭の上に乗せるシルス。
潔く頭に手を乗せてはみたもののそこはやはり13歳の女の子。羞恥心という大波がシルスにざっぱん!と覆い被さる。
――うわあああっわたしはなんでこんなハズカシメを受けてるのおっ!?そんなにコイン様って絶対なのおおっ!?
シルスの脇の下と二の腕の裏側を真剣な顔でまじまじと見つめているラズラット。
それは誰が見てもただの変態行為としか思えないが、ラズラットの目に映るのは『ハーフエルフの女の子の脇の下』では無く、あくまでも『初めて見る不可思議な魔法紋様』だ。
決して、13歳のハーフエルフの女の子の脇の下を舐め回すように見ているのではない。
十秒、二十秒、三十秒……
時間の経つのはこんなにも長いのかと感じるのはシルスにとって二度目である。
魔女シャン、シンディの前で全裸になった時よりも恥ずかしいと感じるのは、やはりラズラットが男性だからだ。
――まだですか早く終わって下さいよラズラットさんちょっとステキな人だなって思ってたのにゲンメツですよいつまでオトメの脇の下見てるんですかそれもう犯罪ですよ騎士なのにヘンタイですよー!ヘンタイ騎士さんですよー!
ラズラットがシルスの脇の下と二の腕の裏側を見る事、およそ一分。
「ふむ。ありがとう、シルス君。いいものを見せてもらったよ」
――そのお礼の仕方もなんだかヘンタイさんっぽいんですけどっ!
若い男に脇の下を観察されるというハズカシメから解放されたシルスの胸の鼓動は、早鐘を打つようにドキドキしていた。恥ずかしさのあまりに顔は真っ赤に染まり、耳の先端まで赤くなっている。
「あのっ……何か解りましたかっ?」
「うん、キレイだったよ」
「えっ!?」
「美しい魔法紋様だと思う。ただ、その魔法紋様は時にイタズラをするようだね」
――なんだっ魔法紋様のコトかっ。ビックリしたあっ。
「……イタズラ、ですかっ?どんなですか?」
「そうだね……君と血の繋がりのある人物と接触すると何らかの魔法が発導するような仕掛けがあるように見える。うーん、うまく言えないな……なんと言ったら良いのかな?」
「わたしと繋がってる人と接触……?」
シルスに思い当たるのは、アルシーアとファルナルークの二人だけである。
アルシーアとは、手を繋いだり抱きつかれたり一緒に風呂に入ったりとスキンシップが多いが、これといった変化は無かった。
ファルナルークとの接触と言えば、手を怪我した時に手当てしてもらった時と、ファルナルークにかかっていた呪いを解いた時、アールズの魔法の大花火を手を繋いで見た時くらいである。
「あっ、もしかして……」
アールズの街の宿屋で、ファルナルークが手を触れた際に原因不明で燃えてしまった動写真。
アルシーア、ファルナルーク、シルスの三人が時を超えて繋がった瞬間。
その瞬間に魔法紋様の『時守の力』が発導したのではないのか、と推察出来る。
血の繋がりという観点でみれば、魔法紋様のイタズラが発導したのではという推測にも頷ける。
――なんかヤヤコシイけど……写真が燃えちゃった理由って、それなら納得出来るかも……シアさんとファルナルークさんとわたしが繋がった瞬間、かあ……
シルスの胸に去来するファルナルークの春の陽射しのような柔らかな笑顔。
この時代に来てから幾度となく目にしたアルシーアの屈託の無い少年のような笑顔。
どんなに顔が似ていても二人は別人であると今更ながらにシルスは思う。
ファルナルークとアルシーア。
二人ともシルスにとっては大切な『おばあちゃん』と『ひいひいおばあちゃん』なのだ。
――シアさんのコト、ファルナルークさんの顔で、って、もう言わないようにしようかな。うん!シアさんはシアさんだもんねっ。ファルナルークさんにも、シアさんにも失礼だよね、きっとねっ。
「あのっ、ラズラットさん」
「うん?何かな?」
「わたしっ、ラズラットさんのコト誤解してましたっ。ありがとうございましたっ」
「イヤ、そんな。礼を言うのは僕の方だよ、シルス君。無茶を言ってすまなかったね」
破顔するラズラットに対して、エヘヘとシルスは照れ笑い。二人の間には、どこかしら柔らかな空気が流れていた。
その様子を物陰から見つめる六つの目。
無論、誰でも無い。アルシーア、ルーフェリカ、ルーフェルメの三人である。
「なんかイイ雰囲気じゃない?」
と、ルーフェリカ。
「心配して覗きにきたらコレだよっ。スミに置けねーなシルスはっ」
と、アルシーア。
「シルスちゃんっ!ルメちゃんというモノがありながらヒドイようっ」
と、ルーフェルメ。
「あっ!あーっ!覗くなんてヒドイですようっ!覗きはヘンタイさんの始まりなんですよっ!?」
「イヤー、チューでもしてんじゃねーかと思ってさー!」
「ダメだようっ。シルスちゃんの唇はルメちゃんのなのっ」
「わたしの唇はわたしのですよっ」
「なーんか結局どこ行ってもわちゃわちゃするよねアタシらってね!竜退治行ってもこんな感じだよ、きっと!あっははー!」
それはちょっと頭の痛い案件だ、とラズラットは一人静かに物憂げだ。もちろん、口にしたりはしないが。
「さーて!武器と防具は買い揃えたコトだし!次はナニ買ってもらおっかなー?」
「シルスちゃんは旅の経験あるんだよね?あと必要なものって何かな?」
色々とねだる気満々のアルシーアに対し、ルーフェリカはこの後の買い物は竜退治に必要な物資調達だけで良い、と考えていた。
シルスは旅の経験から必要な物は最小限に留めるべきである、と知っている。
「んー、日程にもよると思いますけど、日持ちする食料ですかね?乾燥させたお肉とか、パンとか。あと、着替えとか。旅って、重い物は極力持たず足軽に!が鉄則なのです!」
「おおー、なんか旅慣れてるっぽぉい!カッコイイねえ、シルスちゃん!」
と、二人で一つのセットのようにしてピタリと寄り添うルーフェルメが称賛すると、シルスはエヘヘと照れ笑い。
「日程かあ。ねえ、ラズラットさん。竜調査って何日くらいの予定なんですか?」
「竜退治、だよ、ルーフェリカ君。四日程度を予定しているよ」
「そう言えばそんなコト言ってたなー。これで夏休みは完全にツブれたなっ」
と、アルシーアは竜退治の日程よりも夏休みの方が大事だったようだ。
「四日って、それ、短くないです?」
と、ルーフェリカ。
「長々とした日程だと話題性に欠けるのさ。短期集中の方が注目度が高いんだ。アールズ王も仰っていただろう?街の宣伝の為だと。登山に例えると一日で登頂するのと、十日かけて登頂するのとではその価値が違うと思わないかい?」
アルシーアはアールズ王、ヴェンデルヴァイツの『集団登頂よりも単独登頂の方が価値がある』という登山と竜退治との比較話を思い出していた。
「また山登りに例えるの?あのチャラ王も山登りの例え話してたよなー。アールズ騎士団って山登り好きなの?」
「好き嫌いは関係ない。我等が騎士団は毎年数回の登山訓練をしているんだよ。それでついつい例え話に出してしまうんだ」
様々な事態に備える為にも、登山は騎士団にとって必要不可欠な訓練要項でもある。
市街戦訓練、野戦訓練、山岳戦訓等。
『想定外』を排除する為にもありとあらゆる訓練は必要不可欠なのである。
騎士達の様々な過酷な訓練の元にアールズの街は守られているのだ。
「へー。知らなかった。騎士って意外と大変なんだなー。毎日馬に乗ってウロウロしてるだけかと思ってたわー」
「まあ、とは言え、僕達も人間だ。家族や友人や恋人と一緒に過ごす時間は大切に思っているよ。君達のようなカワイイ娘達と買い物、というのもなかなか出来ない事だしね。実を言うと他の若い連中から羨ましがられてるんだよ。君達のユニット『熾炫』のファンは騎士団の中にもいるからね」
「おっ!わかってるね、ズラさん!あたしらみたいなオチョーシモノは誉めて煽てて持ち上げて!ってのが攻略法なんだよ!」
オチョーシモノはシアさんだけですよ、とは勿論シルスは言わない。
男前の騎士に『カワイイ』と言われて悪い気はしないのが乙女心というものだが、シルスはその言葉を鵜呑みにしない。
ラズラットの事を誤解していた、と言いはすれども脇の下を観察されたのはまごう事なき事実であるのだから。
「さて、立ち話もなんだから戻ろうか。この後は食料や衣類の買い付けの予定だよ」
「衣類っ!?服買ってくれるの!?」
「衣類といっても私服では無いよ。肌着や下着だ。これはさすがに一緒に買い物という訳にはいかないから君達に任せるよ」
「マジかっ!よし、新しいパンツ買おう!パンツは大事だからなっ!」
ラズラットはアルシーアの目の輝きを見て一人静かに思う。
女の買い物に付き合うという事は、人生の試練の一つである、と。
うら若き乙女達と屈強な騎士二人による竜退治。
その準備は朝から夕暮れ時まで続き、騎士二人は、きゃいきゃいとはしゃぐ四人の乙女達の荷物持ちとしてこき使われたのであった。
山岳訓練よりも疲労度合いが大きい、とも言えず騎士二人はそれを心の中に留めておく事にしたのだった。
竜退治の準備はなんとか完了!
シルスは恥ずかしい体験を乗り越えました!
次話『出立前夜 ~ナルミの想い~』
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