女子四人とおっさん二人のお買い物
この作品は『ノベルアップ+』にも掲載しています。
翌朝、眠い目を擦りつつ朝靄の中を歩くシルス達四人。
ナルミとマティルも用心の為にと途中まで同行する事に。
くれぐれも失礼のないようにねとナルミが何度目かの注意を促すと、アルシーアはいつもの返事で応えた。
「はーい!わかってますっすよー!」
「オマエの返事は中身が無い!」
と、ナルミもいつものように返したのだった。
宿泊所に到着すると、部屋の鍵を忘れたとあたふたするアルシーアだったが、それはルーフェリカが持っていた。
「なんでリカが持ってるんだっ?」
「シアシアが『持っててくれ』って言ったんじゃん」
「アレ?そーだっけ?」
おっちょこちょいなのは遺伝するのかなとシルスはアルシーアを見てふと思う。
――ファルナルークさんは、そんなとんちんかんじゃ無かったよねっ。遺伝じゃないハズ!
そういうシルスもけっこうなうっかり屋さんなのだが、そんな自覚はあまり無いようだ。
部屋に戻り退室の準備と荷物の整理。舞台公演中にアルシーアが散らかした部屋を皆で片付ける。
「シアシアは散らかし過ぎだよう」
「何が何処にあるか解ってるからいーの!片付けちゃったら『アレどこいった?』ってなるだろー?」
それはちょっと解るかも。と思うがシルスは黙っておく事にした。
シルスの荷物は、ノートと着替えと綿ボコリの精霊が押し込んであるリュックのみ。
「シルスのその汚いリュックは要るのかー?」
「要りますよう!大事なものが入ってるんです!なんと!精霊です!」
「へえー。精霊ねえ?」
「あ!信用してない顔してますよっ!ホントですよ!ホントに精霊さんがいるんですよっ?」
「じゃあ、見せてもらおうじゃあないの精霊ってヤツを」
シルスがリュックから取り出したのは、ペタンコに押し潰された綿ボコリ。既に綿では無く、ただの圧し固められたホコリと化していた。
「あれっ!?二つだったのに一つになってる!?のててちゃん!?れててちゃん!?」
精霊からの返事は無い。だがシルスは感じる。精霊はここにいると。
「……それなに?シルスちゃん」
と、ルーフェリカも訝しげな顔をする。
「精霊が宿った綿ボコリなんですよー。なんか、寝てるみたいです」
「そこまでペッタンコのでかい綿ボコリは逆に珍しいけどな」
と言うアルシーアは、汚いゴミでも見るような目をしていた。
――うーん。太陽の光と熱で戻るレベルじゃないかも。のててちゃんとれててちゃん、お引っ越しできないかなー?
◇
宿泊所のロビーでしばらく待つと、昨日と同じようにラズラットが馬車の手綱を握り、ディロンと共にシルス達を迎えにやって来た。
「おはようございます、お嬢様方。今日はお手柔らかにお願いします」
「おはようっ、ズラさん!デロンデロンさんも今日はよろしく頼むよ荷物持ち!」
シルス達も朝の挨拶を交わし、シルス、ルーフェルメ、ルーフェリカ、アルシーアの順に馬車に乗り込む。
その際にディロンがアルシーアに何気なく声をかけた。
「今日も元気だな、お転婆アルシーアは」
「担がれてケツ叩かれたコト忘れた訳じゃないからなっ!オンナの恨みは怖いって事を思い知るがいいぜっ!」
「シアシアは過激だねー、あっははー!」
皆が乗り込みラズラットが馬車の扉を閉め、二人も御者台に座した。
「ディロン様」
「なんだ」
「お転婆は余計な一言かと」
「……そうか?」
「多感なお年頃の娘さん達ですから、少しは言葉を選んだ方が良いですよ」
「じゃじゃ馬の扱い方は指導されなかったからな」
「あたしはウマじゃねえっ!さっさといこうぜっ!」
と、小窓からアルシーアが顔を出し一喝する。
ラズラットは肩をすくめて苦笑いしたのに対して、ディロンは無表情のままだった。
「では、まず。君達の装備品を買い付けに行こうか。武器や防具だよ」
と、優しい感じでラズラットが皆に言い馬車を走らせた。
カタンコトンと石畳を馬車が行く。
馬車の中では女子四人がワイワイと今日の買い物についてお喋り中。
「武器防具だってぇ!楽しみだねぇ」
「冒険者みたいだよねっ!アタシら踊り娘だからさー、やっぱビキニアーマーとかなのかな?」
「あんな露出度の高い防具なんてヘンタイなだけだろー?大体、あれって防具なのかー?」
「えー?シアシアだって舞台で踊る時はエッチな格好してるじゃん!」
「エッチじゃねえし。動きやすい格好してるだけだし。筋肉の動きを美しく魅せる為だってナルミさんも言ってるだろ?」
シルスが初めて見たアルシーア達は、面積の小さい布切れにヒラヒラの飾り付けときらびやかな装飾品を少し付けただけの露出度の高い衣装を纏っていた。
全身にタトゥーシールを貼り付けてある、はた目にはあられもない姿がシルスの記憶に刻み込まれている。
――うーん、確かにちょっとエッチだったかもっ。
「でも確実にそういうの目当てのファンの人っているよねえ」
「ルメはおっぱいでっかいからなー!そりゃー見られるわな!」
「でっかい声でおっぱいとか言わないでよぅ」
「アタシ達も武器持つのかなー?演舞用の剣とか薙刀とかなら持ったコトあるけど、本物なんて重くて持てないよね、きっと」
「持っても護身用ナイフくらいじゃねーかあ?剣術はキョーミあるから習うつもりだけどなっ。シルスはハーフエルフなんだから、やっぱ弓とか得意なんだろっ?しゅぱぱぱっ!て連続射的百発百中!みたいな!」
アルシーアがさも当然のようにシルスに問うが。
「弓なんて持ったコト無いです」
あまりにもあっさりと肩透かしを食らい、珍しく不機嫌そうな顔をしているシルスにアルシーアはからかう事すら忘れてしまう。
「え?あ、そーなんだ……」
「エルフだからハーフエルフだから弓上手いとか言うのは短絡的すぎますよじゃあなんですか体格のいい人はみんな大食いなんですか華奢で細いのにめちゃ大食いの人とかいるじゃないですかそれはヘンケンてゆーんですよ」
「……なんか悪かったよ」
どことなく不機嫌なシルスの気持ちを汲んで、アルシーアはそれ以上突っ込まなかった。
◇
シルスは武器防具と聞いて、旅の始めの事を思い出していた。
アールズの街へ向かう前段階での出来事である。
シルスは護身用のナイフすら持たずに旅をしようとしていた。
何の武器も持たずに歩くのは流石に危険とシュレスが判断し、
「エルフと言えば!やっぱ弓矢でしょー!生まれながらにして天才的なセンス持ってるって言うし!シルスちゃんも半分とはいえ、その血を受け継いでるんだしね!」
という事でシルスも護身用の武器、弓矢を持つ流れになったのだった。
冒険者御用達の店に入り、数種類の弓矢を吟味し選んだのが持ち運びに便利な短弓だった。
弓矢など持った事のないシルスだったが、エルフの血が流れてるんだったら大丈夫でしょうと店主の薦めもあり、それを選んだのだが。
試し打ち出来ますよと連れられて行った店の裏手の射場にて。
――弓矢なんて初めてなんですけどっ!ホントにわたしに射てるのかなー?
シルス自身さえも期待半分、疑問半分である。
記念すべき一射目。
弓を持つ腕の脇辺りまで弦を引かなければ矢は勢い良く飛ばないのだが、まだまだ力の弱いシルスは肘までしか弦を引けない。
それでも、ぐぐぐ、と弓を引き絞る姿はなかなか様になっている。
「おっ!カッコいいぞシルス!」
ガヤるファイスを無視して的に集中!
かひゅ!
ひょろひょろひょろ、ぽとっ。
まさかの的に届かず。
勢いを失い力尽きて落ちた矢を慌てて拾いに行くシルス。
歩いて十歩程度の所だ。
ファイス、ルディフ、ファルナルーク、シュレスと店主の五人が固まった。
皆の期待が大きかっただけに、その反動の落胆度合いが計り知れない。
「いっ、今のは練習です!」
「だよねっ!初めてじゃあしょーがないっ!もう一回挑戦!どんまいだよシルスちゃん!」
シュレスの明るい励ましに救われたが、シルスは恥ずかしくて誰の顔も見る事が出来なかった。
「……初めてならば、的に近付いてみるといい」
「あっ!そうだね。そうしてみよう、シルスちゃん!」
ぽそっとファルナルークが提案し、シュレスが後を押す。
半分に距離を詰め気を取り直して、二射目。
ぐぐぐ、と弓を引き絞り今度こその一射!
かひゅん!と先程よりは良い音だがしかし。
へろへろへろ、ぺち、からん。
「……的に当たってハジかれる矢って初めて見たよシルスちゃん。的に当たったのはスゴいけど……ワザと、だよね……?」
「……今の、が、全力……ですっ」
うっすらと涙を浮かべ、シルスの肩がふるふると小刻みに震える。
「ウソだろシルス!?全力ー!?だーっはっはっはっ!シルスっ!サイコー!面白すぎるぞ!?だーっはっはっはっ!」
「笑いすぎだバカ者」
ごづ!という鈍い音。
ファイスはファルナルークに剣の鞘で脳天を殴られた。
「痛っ!いったー!アタマ割れちゃうでしょー!?」
「初心者を笑う者への戒めだ」
そうファイスに冷たく言い放つファルナルークの凛とした姿勢に、シルスは心からファイスへのイマシメをありがとうございますと思ったのだった。
その後、長弓も試してはみるものの、背の低いシルスには到底扱える代物では無かった。
腕が短すぎたのだ。
結局、短弓も長弓もシルスには不向きと結論が出て、シュレスから借りたナイフがシルスの唯一の護身用の武器となったのだった。
そのナイフもシュレスに返した為に、今現在のシルスは丸腰である。
――あの時は恥ずかしかったなー。弓矢はわたしに向かないよね、きっとね!
◇
「シルスちゃんはナイフとか持ったコトあるの?」
と、窓の外を眺めていたルーフェリカがふとシルスに問いかけた。
「ありますよー!夏休みの間一緒に旅したおネーサンから借りてた物だけどっ。なんと!サカナも捌けます!三枚下ろしだって出来ますよ!」
「えー?魚捌けるのか?ハラワタとか気持ち悪くないかー?手とか臭くなるじゃん?」
「全然平気ですよー!いただきます、っていうのは、命への感謝を込めて『命を』いただきます、ていう意味なんですからっ!それに!おサカナは美味しいじゃないですかー?」
「シルスちゃんは食べるだけじゃなくて料理も出来るんだねえ。スゴーイ」
「料理ってほどでも無いですよお?」
ルーフェルメに褒められシルスはエヘヘと照れ笑い。
ややもして到着した店は、大通りから少し逸れた場所にあるラズラット御用達の武器防具屋『竜の牙と鱗』だ。
騎士達が使用する武器や防具は専属の鍛冶屋がその全てを担っている。
このような裏町の武器防具屋はディロンも来た事が無い様子で、物珍しそうに展示されている品々を見定めていた。
「なかなかに興味深い品が多いな、ラズラットよ」
「ディロン様には見慣れない武器が多いかも知れませんね。ここで製造された物だけでは無く、海を渡って来た武器や防具もありますよ」
「ほう。外来品まであるのか。それは興味深い」
「こうして見てるとなんか『男の子』ってカンジですねー」
と、二人の姿を見ていたルーフェリカに言われ、ラズラットが振り返った。
「そうかな?どうしてそう思うんだい?」
「んー、宝探しとか、これから遊ぶおもちゃを物色してるようなカンジに見えるから、かな?」
「そうか。まあ、武器を品定めするのは楽しいものだよ。君達だって買い物やお菓子屋巡りは楽しいだろう?」
「まあ、そうですねー」
ルーフェリカは騎士であれ、無名の路上パフォーマーであれ、誰に対しても物怖じすることなく会話をする。そこが双子であるルーフェルメとの決定的な違いである。
ルーフェルメはシルスにピタリと寄り添い、魔法のかかった装飾品を眺めてはこれが似合う、いやこっちの方がと女子らしく買い物を楽しんでいる。
アルシーアは何にも興味を示さず退屈そうに店内をぶらつき、それに飽きるとディロンとラズラットに絡み始めた。
「なー、デロンデロンさんとズラさんよー。あたしらの武器防具買いに来たんだろー?それなのに放ったらかしってどーなのよ?」
「ん?ああ、すまないなアルシーア。もう少し待っててくれないか」
店主と片手剣についての話をしていたラズラットが振り返りアルシーアに応えはしたものの、再び店主の方に向き直り話し込み始めた。
少し待ってという割には、片手剣を手に店主と店の裏手に行ってしまった。
その態度についイラッとくるアルシーア。
「なんっだよつまんねーなあ、もうっ」
「アルシーアは武器や防具を身に着けた経験はあるのか?」
放置され、頬を膨らませて不機嫌なアルシーアに声をかけたのはディロンだった。
「……あるわけないじゃん。前にも言ったけど、あたしらはただの踊り娘だよ。武器防具なんて初めてだよ」
「そうか。では、まず防具選びから始めようか」
「……防具から?武器じゃなくて?」
「いくら良い武器を選んでも、防具が動きを妨げては何の意味も無い。武器の扱いを妨げない、動きやすい防具を先に選ぶのが私のやり方なのだよ」
「へーえ。そんなモンなの?で?あたしみたいな細っこい女はどんなのがいいんだ?」
「アルシーアは上半身は細い割に尻が大きいからな。セパレートタイプがいいだろう」
なんでそこで余計な一言を言うんですかね。と二人を物陰から見ていたシルスは思う。
「なんだかいい雰囲気よねえ」
「ですよねー」
ルーフェルメはシルスにピタリと寄り添い、アルシーアとディロンの様子を観察しながらこしょこしょ話。
二人からの視線を感じ、ふとアルシーアが振り返るとシルスとパチッと目が合った。
「二人ともなんでそんなトコにいるんだよ?」
「えっ、いやあ。なんか、二人がそうやって並んでるとデートしてるみたいですねっ」
「は!?ナニ言ってんだシルスっ!」
「ねー、これ、どうかなっ?軽くて動きやすいし防御力も高い!」
と、弾んだ声で試着した防具を見せるルーフェリカ。
ルーフェリカが試着した防具は胸当て、肘当て、ナックルガード、膝当て、脛当ての5点セット。シンプルなデザインで機能重視の万人受けする売れ筋の5点セットだ。
ただ、違うのは。
「このインナーって魔法がかけられてるんだって!ケモノに引っかかれたくらいじゃ破けないスグレモノ!薄くて軽い!どうですかお客さん!」
「なんで売る側になってんだよっ。薄くて軽いってのはケーハクって言うんだっ。リカっぽいけどなっ」
「これ、魔法防護ってゆーんだってさ!開発段階だから高いらしいけど、お金出すのアタシらじゃないからねー!オススメだよっ!あっははー!」
「じゃー、もうそれでいいや。その5点セット4つとインナー4枚ね!あっ、ルメはー、おっぱいおっきいからー、別サイズでねー!」
「シアシアっ!声がおっきいようっ」
「わたしに合うサイズってありますかねー?」
シルスに合うサイズは最後の一点、という事だったが、アルシーアの『それでいいや』の一言で、四人の防具はあっさりと決定したのだった。
「防具って無地で味気無いよねー。アタシ達のオリジナルペイントでもしてみない?」
「あ、いいな、それ。素材の色だけって地味だからなー!」
「どうせなら派手派手に塗っちゃおっか!」
「黄色とか?」
「ピンクとかあ?」
「一つ忠告させて頂くとですね、お嬢様方」
ワイワイと騒ぎ出すアルシーア達にラズラットがやんわりと口を挟む。
「地味な色というのは魔獣や妖獣に見つかりにくいのですよ。我々騎士団の甲冑も本来は地味な色なんですよ?」
「あ、そうなの?じゃあペイントはナシかなあ」
「つまんないね」と、ルーフェリカ。
「じゃあ、文字だけってどうですかね?」
シルスの一言でアルシーアがパッと閃いた。
「熾炫弐式!これだな!」
「あ、それいいかもお」
「胸のトコに『熾炫弐式』って描いてもらおう!そうしよう!決定!」
再びアルシーアが決定権を発動し、四人の防具の胸当てに『熾炫弐式』と描かれる事になったのだった。
「……自由なお嬢様達ですね」
「好きにさせておこう。楽しそうでなによりだ」
ディロンとラズラットは、やや呆れ顔でそう呟いたのだった。
シルス達の防具はあっさりと決定。着々と竜退治の準備が進んでます。
次話『ヘンタイ騎士!?ラズラット』
続けて読んで頂けたら幸いです!




