一つのベッドに四人は狭いです
この作品は『ノベルアップ+』にも掲載しています。
シルスとナルミが風呂から上がると、マティル達四人が夕食の準備をしている最中だった。
「あっ、上がったんやね。ぬるかったやろ?夏場はアレでちょうどいいんよ。ね、シルスちゃんは味付け濃いのと薄いのどっちが好き?」
「わたしは……どっちかと言えば薄い方が好みかな?」
「おー。シルスちゃんわかってるねえ。やっぱ薄味やんねえ。アルシーアは濃い味やないと食べてる気にならん言うんよー」
「マティルさんのは美味しいけど、食ってやったぜ!ってカンジが薄いんすよー。薄味だけに!」
「ウマイこと言うたつもりかー?サムい!サムいでー!」
テーブルに置かれた大きな鍋に、色んな具材を放り込んで煮ただけのシンプルな料理。
トリ肉は入っているがその量は少なく、野菜中心のヘルシーな鍋料理『マティル製ごちゃ煮』である。
見映えはしないが、とにかく空腹なシルスにはなんでも美味しそうに見えてしまう。
「いい匂いですねえ!トリ肉と野菜からいいエキスが出てるカンジです!」
「肉は一人三切れな。野菜はいっぱいあるからなんぼでも食べてもええよ」
「なんぼ?」
「いくらでも、っていう意味だよ。シルスちゃんには馴染みの無い言葉かな?」
マティルの言葉遣いはシルスには馴染みが無いどころか初耳である。それを察したナルミが通訳となり、シルスに解説をしてくれた。
「イントネーションとか変わってて面白いです!」
「あ、ちゃう。ちゃうでシルスちゃん。ウチの故郷からしてみたら、コッチの言葉遣いの方が変わってるて思えるんやで?」
「マティルさん、ハラ減ったっす!食べましょうよー!」
「ハイハイ、もうちょい待ちいなー」
アルシーアが急かすがマティルは軽くいなす。普段からの関係性が垣間見えるやり取りだ。
「アタシもお腹空いたっ」
「ルメちゃんもお。早く食べたいなあ。シルスちゃんに、あーんてしてあげたいなあ」
待ちきれない!そう思っていたのはシルスだけでは無かったようだ。ルーフェリカとルーフェルメも、美味しそうな鍋を目の前に目を輝かせていた。
「じゃあ、アルシーア達は食べてから風呂に入ってもらう事にしようか。大人数で食べるの久し振りだねー」
皆で食器を用意し、協力しあって夕食の準備。狭いキッチンはちょっとした戦場のようだ。
ワイワイと準備を終えて、ようやく皆が席に着きナルミが仕切る。
「では頂きましょうか。今日もお疲れ様でした。はい、召し上がれ」
「「いただきまーっす!」」
と、皆での夕食。
「あっ!シアさん取りすぎですよう!」
「野菜ならまだいっぱいあるだろー?」
と、アルシーアが口いっぱいに熱々の野菜を押し込む。
「熱うないのん?」
「熱いっす」
「あ、これ、ウマー。めっちゃ味染みてて美味しいですよマティルさん!」
「トリ肉もモチモチしてて美味しいよお?」
と、ルーフェリカとルーフェルメ。
ワイワイわちゃわちゃと喋りながらも、みるみる内に鍋の具材が減っていく。
食べ盛りの腹を空かせた女子が四人もいればこうなる事は明白である。
「はーっ。夏場に鍋はさすがに暑いっ。また汗かいちゃったよっ。シルスは鍋食って汗出ないのか?」
と、アルシーアが手でパタパタと顔を扇ぐ。
「わたしは大丈夫ですよ?そう言えば汗かいてないですねー」
「先に風呂入ってさっぱりしたからちゃう?今が丁度いい塩梅なんよ、きっと」
「あんばい?」
「『いい具合』ってコトだよ。私も汗かいてないからね」
と、ナルミも汗一つかかずにいる。
「もうシメかー。やっぱ人数多いと早いなあ」
と、マティルが鍋のシメに白い太めの麺を入れてもう一度火にかけた。
火にかける、といっても物理的な炎では無く、炎を封じ込めた石《魔法石》がセットされた台に鍋を乗せる簡単な手順だ。
「それ、なんですかっ?」
「小麦粉練って伸ばしたもんやよ。ウチの手作りなんやでー?おいしいでー?たんとあるからお腹いっぱい食べてなー」
「へえー。手作りですかー」
小麦粉を練って丸めたものなら珍しくも無いが、伸ばしたものは初めて見る。
鍋の中でゆらめく白く輝くような太めの麺が、野菜と少々のトリ肉では物足りないシルスの食欲を誘った。
「ちょい煮たたせた鍋に放り込んだらいい温度になるんよー。おいしいでー?美味しいんやでー?」
なんで二回も言うんですか、とはシルスは言わない。
――うわ、早く食べたいっ!
これが本音である。
「そろそろええかなー?シルスちゃんからお先にどうぞー」
と、マティルが器によそってくれた盛り付けの無い麺とスープだけのシンプルな一品。
「いただきますう!」
初めて口にするマティル製麺は、野菜とトリ肉から出たエキスとの相性が抜群だった。
ずるー、と麺をすするとスープと麺が絡み合い、モグモグと噛むと口の中でとろけ合う。
「うわ!これ、おいひーです!」
「せやろー?言うたやろ、おいしいでー?って」
「ハイ!おいしいでー!です!」
「あっははー!シルスちゃんが言うとなんか変!」
アールズの貧民街の一角の古びた建物の中。
シルスの慣れない方言に皆が笑顔になった夜だった。
◇
アルシーアが入浴前、明日の予定をナルミに伝えていない事をふと思い出した。
「そうそう。ナルミさん。あたし達、明日は騎士のおっさん二人と買い物行くコトになったんすよ。ホラ、竜退治、ってアレの準備っす」
「へえ。騎士が二人も?お金はどうするの?」
「それが!全額出してくれるんすよー。しかも王様のポケットマネー!」
「全額!それはまた太っ腹だねえ。じゃあ、失礼の無いようにしないとね」
「ういっす!」
「で?迎えに来るの?まさかここじゃないだろ?」
「宿泊所っす」
「あんた達がここにいるって知ってんの?」
「知らないと思うっす」
「……お前の糸の切れた凧っぷりには感心するよ」
「いやあ、それほどでも無いっすよー」
ヘラっと笑うアルシーアに、少しイラッとするナルミ。
「あのな……褒めて無いからね。呆れてるからね?明日は早起きして時間に遅れないようにねっ」
「はーい!わかってますっすよー!」
「オマエの返事は中身が無い!はー。やれやれだな」
◇
マティルとアルシーア、ルーフェリカとルーフェルメの順で入浴をする間にナルミとシルスとで夕食の後片付け。
「シルスちゃんは意外と手際良いね。三バカ娘も見習わないとね」
「年上のおニーさんおネーさん達とで旅してたから、こういうの慣れたのかも知れないです」
「へえ。カワイイ子には旅をさせろ、って言うからね。シルスちゃんは旅しながら色んな事を学んでるんだね。エライよ」
「えっ、そうですかねー?」
エヘヘとシルスはいつもの照れ笑い。
「アイツらも小さい頃は素直で可愛かったんだけどねえ。どこでひねくれたんだか」
「ひねくれてるのはちょっとだけで皆さん優しいですよ?」
「あははっ!シルスちゃんは正直だねー」
「ハイ!それだけが取り柄ですから!」
片付けを終えると各々が自室に戻り、就寝前の寛ぎ時間。
ナルミはキッチンテーブルで、次の舞台の構想を練る為のインプットを兼ねた読書中だ。
◇
アルシーア達の寝室には左右の壁側にベッドが一つずつ。入り口の脇にハンモックが一つ。
小さなテーブルがポツンと一つのシンプルな部屋だ。
もっと散らかっているかとシルスは思っていたが、意外と片付いている。
「このハンモック使ってるのシアさんですよね?」
「おっ!なんでわかんの?」
「なんとなくデスヨー。はははー」
どう考えてもハンモックはアルシーアが使っている、と何故かシルスは確信する。
うりゃっという掛け声と共にぴょんと飛び乗って、意外と大きなお尻をハンモックにゆらゆらと揺らしているのだと想像する。
「窓開けて寝んと暑いからなー。これ、置いてくでー」
と、マティルが焚いてくれた虫除けのお香はシルスには馴染みが無く、鼻がむずむずして暫くの間くしゃみが止まらなかった。
それでもしばらくすると慣れて気にならなくなった。
「右がリカの、左がルメのベッド。どっちでもいいから座ってなよ」
「じゃあ、ルーフェリカさんので」
シルスは迷わずルーフェリカが使っているベッドに腰掛けた。
「シアさん、今って動写真って持ってますか?持ってたら見せて欲しいんですけど……」
「ああ、持ってるけど。いきなりどうした?あたしの魅力に気付いたのかー?」
「いえ、違います」
「即答かよっ」
アルシーアが動写真を渡す際にふと気付く。
「アレ?シルスの包帯取れてるじゃん。すっかり治ったみたいだな」
「え?いつの間に……」
――マジックの時かダンスの時かな?いつの間にか取れちゃった……
右手の切り傷はすっかり癒え、赤い筋がうっすらと残るだけだった。
だが本命の包帯、ファルナルークが巻いてくれた包帯はしっかりとキープしてある。
シルスはアルシーアから動写真を受け取り、まじまじとそれを見つめてみた。
指で表面に軽く触れると写真の中のアルシーアが動き出しニコっと微笑んだ。
何度見てもアルシーアである。ファルナルークでは無い。
――この動写真がきっかけで、過去に飛んで来たんだよなあ……
シルスは邂逅する。
ファルナルーク、シュレス、ファイス、ルディフと共に旅をした日々を。
二度と会えない人達との思い出の日々を。
そしてそれは、今現在も同じ状況であるという事にふと気付く。
――未来に帰る事が出来たら……当然、皆とは二度と会えないんだ……
シアさん、ルーフェリカさん、ルーフェルメさん、ナルミさん、マティルさん、シンディさん、ディロンさん、ラズラットさん、王様とも……みんなと……会えなく……
未来に帰ると皆とは会えなくなる。
考えずとも当然の事であるのだが、シルスはそれをとても寂しく思うのだった。
――一日一日を、一瞬一瞬を大切に、大事にしたいな……
長寿命のハーフエルフである、という実感は今のシルスには皆無だ。
ハーフエルフでの13歳という年齢は、まだまだ赤子のようなものである。
この先、幾度もの出会いと別れを繰り返していくのかなと、シルスは初めて、漠然とではあるが、例えようの無い不安感を覚えた。
「ナルミさんが言ってたよ。カタチあるものなんていつかは壊れて無くなるんだってさ。その写真だっていつかは無くなるんだろうな」
黙って真剣な表情で写真を見つめるシルスに何かを感じたのか、アルシーアが優しく言った。
「えっ?」
アルシーアの言う通り、この写真は無くなる。
シルスがファルナルークにこの写真を見せようと手渡した際に、ファルナルークが触れただけで一瞬で燃えて無くなった。
あの時、写真が燃えてしまった謎は今も解っていないが、それは今はわからなくてもいい、とシルスは思う。
この写真は今はアールズの街に在る。今から82年後にシルスに発見されるまで、この写真は存在するとシルスは知っている。
どんな経緯でシルスの自宅の離れの二階に眠る事になったのかと思いを巡らせると、言い様の無い不思議な感じを覚えるシルスであった。
――少しずつだけど、未来に帰る方法に近づいてるんだよね……皆と、お別れする日が……
「さてシルス」
「はいっ?」
「何を物想いにふけってるのか知らんが、忘れて無いよな?」
「えっ?なんですかっ?」
「とぼけるなっ!ケツでかくなるマッサージ二倍の刑だっ!」
「えーっ?シアさん台無しですよっ!」
「なーにが台無しだっ!あたしはやるっつったらやる女だっ!覚悟しやがれっ!うりゃあっ!」
アルシーアがシルスをいとも簡単にルーフェリカのベッドにねじ伏せた。
うつ伏せになったシルスの背中にアルシーアが逆向きに股がると、シルスの小さなお尻が目の前になる。
「プニプニでなかなかもみごたえのある尻だよなー!」
「あっ!ちょっとっ!ぱんつっ!ずらさないでえっ」
「いーい半ケツっぷりだなシルスっ!今朝のマッサージでちょいでかくなったんじゃねーかっ?」
「ええー!?」
「たった今ぁ!シルスちゃんのイケナイ声が聞こえたのぉっ!」
風呂から上がり、どたどたとやかましい足音で部屋に飛び込んで来たのはルーフェルメだ。
ツインテールをほどいて赤みがかった栗色の長い髪を背に流している為、ルーフェリカとの区別はし難い。
「おう!さっすがヘンタイルメっ!敏感だなー!」
「ルメちゃんはヘンタイじゃないのっ!シルスちゃんのお尻と戯れたいだけなのっ」
「それをヘンタイって言うんですよおっ」
「薄暗い部屋の中で、イタイケなハーフエルフの美少女の小さなお尻を料理する魔女が二人……ぱんつを半分ずらされて、ふっくらと美味しそうなお尻が見えている。『ああ、これからわたしはどうなるのっ?ああ、こわいっ!でもこの胸の高鳴りはなんなのかしらっ?』と、ハーフエルフの美少女は未知なる体験を前にドキドキするのであった……」
ルーフェリカもポニーテールをほどいて長い栗色の髪を背に流し、濡れた髪の水分の吸収と保湿を兼ねて頭にタオルを巻いていた。
「ルーフェリカさんっ!変なナレーション入れてないで助けて下さいよおっ」
「イヤー、無理!シアシアとルメはそうなると止めらんないからねー!観念しよう!シルスちゃん!」
「えー!!」
「まずはもみしだきのコースからなっ!うりゃうりゃうりゃあっ!」
「あひゃあああっ!やめっ!やめてええ」
アルシーアが、がしっとわしづかみにシルスの小さなお尻をもてあそぶ。
シルスは両手両足をバタバタするがアルシーアの大きなお尻が背中に乗っている為に逃げられないでいた。
「ほうれ、ルメっ!やっちゃいなっ!気持ちいいぞうっ!」
「あはあっ!シルスちゃんの、モチモチのっ!すべすべ……っ!」
「ひぃ……っ!」
ルーフェルメが息遣い荒くぴとっ、とシルスのお尻に頬を寄せたときだった。
「……オーマーエーラー……」
地の底から這い出た悪魔が発するような低い声に、びくっ!とアルシーアが肩を震わせて振り向くとそこには。
腕組みをして無表情に立つナルミの姿があった。
舞台に使うゴゴゴという怒りの効果音が聞こえた気がして、アルシーアは背筋が凍るような恐怖を感じていた。
「……イイカラ、ネロ」
「……ハイっ」
と、アルシーアはおとなしく従った。
わちゃわちゃとやかましい時間はナルミの低い声に一瞬で終了し、シルスは『お尻が大きくなるマッサージ二倍の刑』から逃れられたのだった。
◇
「さて寝るかー。ナルミさんブチ切れなくてよかったよ。シルスはどこで寝る?」
「わたしは床でいいですよ?」
「ダメダメ!そのカワイイ耳、ネズミにかじられちゃうよ?」
とルーフェリカが冗談半分に言う。
「じゃあ、あたしと一緒に寝るか?」
「ハンモックに二人は無理ですよう」
「じゃあ、ルメちゃんとっ」
「身の危険を感じるので却下です」
「じゃあ、アタシと一緒に寝ようかっ?」
「一番安全なような気がしますね!じゃあ、ルーフェリカさんとで!」
「なーんだよつまらーん。あー、つまらんっ」
「ずるいなあ。リカ、ずるいなあ。いいなあ。リカ、いいなあ」
と二人からのブーイングを浴びるルーフェリカ。
「じゃあ、皆で一緒に寝よっか?」
「一つのベッドに四人は狭いですよ?」
「一つじゃないじゃん。二つあるんだからくっつければいいんだよ。ホラ、ルメっ!手伝って!なるべく静かにねっ」
ルーフェリカとルーフェルメで片方のベッドを寄せてくっつけると、一人用ベッドが三人程度なら寝られる大きさに早変わり。
部屋の中が片付いている事が幸いし、すんなりとベッドを移動する事が出来た。
「シルスちゃんはコンパクトサイズだからねー。これなら皆で転がれるでしょ?」
「たまにはいーよな!こーゆーの!」
ごろん、と横になるルーフェリカに続いてアルシーアもベッドに横になる。
「明日は早起きしないとなー。騎士さん待たせると、さすがにナルミさんに怒られちゃうからなー」
「騎士さん待たせるのは何とも思わないんでしょ?」
「当然!ナルミさんの方がよっぽどコワイ!」
あっははー!と、ルーフェリカが手で口を押さえて声が漏れないように笑う。
「ほれ、シルスも来なよ」
「あ……ハイ」
――……アレ?なんかドキドキするんですけどっ?
肘枕でシルスを手招きするアルシーアの姿にファルナルークが重なり、シルスの胸がとくんと高鳴る。
おずおずとアルシーアの隣に寝転がると。
「屁ぇこくなよ」
「こきませんよっ。台無しですよもうっ。ファルナルークさんの顔でなんてコト言うんですかっ」
「この顔はあたしのだっ。ファルナルークなんて知らんっ。さっきのケツマッサージで血行良くなってるからなー。屁ぇこいたら犯人はシルスだっ」
「えー!」
「静かにしないとまた怒られちゃうよお?ルメちゃんはシルスちゃんの隣で嬉しいなあ」
と、ルーフェルメもやんわりとベッドに横になった。
ベッドを二つくっつけて大きくなったとは言え、四人はさすがに狭い。
寝返りを打つと端にいるルーフェルメが落ちるのは確実である。
自然と身体を寄せ合う形になり、シルスは危機感を覚え思わず本音を口にした。
「オカシナコトしないで下さいねっ」
「しないよう……ねえシルスちゃん」
「はい?」
「ルメちゃんはねえ、シルスちゃんと出会えて、こうやって一緒にいられる事が本当に楽しいし嬉しいの」
「それはわたしも……皆さんと、ルーフェルメさんと、シアさんとルーフェリカさんとナルミさんとマティルさんと出会えて良かったです。楽しい思い出が一杯ですっ」
「うふふっ。シルスちゃんはやっぱりカワイイなあ」
ルーフェルメの柔らかな笑顔に応えるようにシルスもニコッと微笑んだ。
ベッドの中で見つめ合う二人。
――いけるっ!これはいい雰囲気っ!
と、ルーフェルメは読んだ。
ルーフェルメの唇が、徐々にシルスの唇に近付き……
むにょ。
と、シルスの手がルーフェルメの顔を反対側に押し返し、首があらぬ方を向く。
「……ダメですよっ」
「もう……っ。でもぉ、夜はこれからだからぁ、ね?」
「いいから寝ろっ。リカなんてもう寝てるぞっ」
とアルシーアの声。
はあい、と返事をし仰向けになると、シルスは瞬く間に睡魔に襲われた。
動きっぱなしで疲れた身体。
ふわりと漂う虫除けのお香の香り。
温かい風呂と熱い鍋料理で心身共に癒され、すうすうと寝息をたて始めたのは、シルスが先だったか、ルーフェルメが先だったか。
夏の終わりに近いアールズの貧民街の一角で、四人の少女が二つのベッドを一つにして折り重なるようにして眠る。
ありふれた平和な日常。
これから始まる竜退治への不安など微塵もなく、四人は健やかな眠りに落ちたのだった。
一瞬、一日の儚さを漠然とですが感じるシルスでした。
シルスは未来に帰る事が出来るのか?
次話『女子四人とおっさん二人のお買い物』
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