初めての路上ダンス!
この作品は『ノベルアップ+』にも掲載しています。
シンディに別れの挨拶を済ませ建物を出ると、ルーフェリカが唐突に話を切り出した。
「さっき打楽器のパフォーマーいたでしょ?あの音聴いてたら踊りたくなっちゃってさー。シアシアはどうだった?」
「わかる!あたしもさーなんつーかこう、な!血が騒ぐっつーか、な!シルス!」
「な!って言われてもわかんないですよ?」
「コラボしてくんないかなー。今後の為にもさっ」
ルーフェリカが何気無く放った一言に、アルシーアが前のめりになってノってきた。
「いいな、それ!熾炫復活のノロシ!ってヤツだ!あのキツネヤロウに吠え面かかせてやるぜっ」
悪巧みをする小悪党のようにニヤリと口の端をつり上げるアルシーア。
――これはシアさん、これはシアさん。どんなに顔が似ててもファルナルークさんじゃ無いっ!わたしのファルナルークさんはそんな歪んだ笑みは浮かべませんよっ!
シルスは心の中でいつものように『わたしのファルナルークさんは尊い』と呪文を唱えるのだった。
「行ってみようぜっ!まだやってるかも!」
言うと同時にアルシーアが駆け出した。
「ルメも行くよっ!ほら、シルスちゃんも!」
ルーフェリカもアルシーアの後を追い駆けていく。
「シアシアは行動派だよねえ。それがイイ所なんだけど」
「わたし、シアさんに振り回されてばっかりなような……」
「でもでもぉ、こんなのも楽しいでしょ?シルスちゃん!」
そう言って微笑むルーフェルメに、シルスは思わず本音を口にする。
「いえ、そうでもないです」
「クールな一面もあるのねぇ。そういうのもステキよシルスちゃん!」
◇
大通り近くに戻ると目当ての打楽器パフォーマーが片付けをしている途中だった。片付けといっても、楽器をケースに仕舞い、折り畳み椅子を片付けるだけの簡単な手順だ。
「あの、お片付け中にスミマセン!お願いがあるんですけどっ」
「んん?何だい?」
アルシーアの声にやんわりと振り向いたのは、パッと見、冴えない中高年といった印象の地味な服装の五十歳くらいのオジサンだ。
「あたしはアルシーアって言います。あたし達、踊りをやってるんですけど!」
「ああ、熾炫のアルシーアちゃん?赤毛じゃないと雰囲気が――おっ!そこにいるのはポニテリカちゃんじゃないの?」
話しかけたのはアルシーアなのだが。
オジサンはアルシーアを素通りしてルーフェリカに歩み寄っていった。
「今日はオフなのかい?ポニテリカちゃん」
「わ!オジサマ、アタシの事ご存知なんですかっ?うれしいですう!」
「……なんだこのデジャヴ感はっ」
アールズ王、ヴェンデルヴァイツと面会した時のルーフェリカの対応を再び目にする事になろうとは。
だがオジサンがルーフェリカに食い付いた以上、これを利用しない手はない。
――ここはリカに頼んでもらう事にすっか!
アルシーアがオジサンの背後からルーフェリカに向かって目配せをする。
――リカっ!頼むぞっ!
アルシーアの意図をアイコンタクトのみで理解し、ルーフェリカもアルシーアに目で合図をを送る。
――リョーカイっ!
「あのねオジサマ。アタシ達、新しい踊りを求めてるんですけどね、なかなかこう、イイ感じの踊りが思い浮かばないんですヨー」
「へえ、ポニテリカちゃんでもそういう悩みあるんだねえ」
「同じパフォーマーですもの、解ってくれますよねえ?」
あからさまに可愛いフリで上目遣い。
それに加えてルーフェリカは自分と同じという言葉を使う事で、オジサンに親近感を持たせる作戦に打って出た。
そしてそれは見事に功を奏し、オジサンの心を鷲掴みにしたのだった。
「オジサマの伴奏で踊ってみたいな、って思ってお声掛けしたんですけど……お願いしてもイイですかあ?」
「ポニテリカちゃんの頼みなら全然大丈夫!あ、その代わりと言っちゃなんだけどぉ、サイン欲しいなあ。ブロンさんへって書いてくれたら嬉しいっ」
オジサンがルーフェリカの真似をして胸の前で手を組み、甘えるような表情で小首を傾げてみせた。
――キモっ!
もちろん、皆、口には出さない。
が、アルシーアは顔に出ていた。
「シアシアっ!笑顔笑顔っ」
「あ?ああ」
「あ、ポニテリカちゃんのだけでいいから。他はダイジョブでーす。じゃあ準備するからサインは後でお願いするよ、ポニテリカちゃん!」
すいっと再びアルシーアをスルーして、ブロンおじさんが演奏の為の準備を始める。
――うわ!腹立つなコイツっ!
と、不満が再び顔に出てしまうアルシーア。
「まあまあシアシアっ!イヤー、人気者はツラいねえ、あっははー!」
ルーフェリカが明るく笑うと、オジサンが振り向いてとても嬉しそうに笑っていた。
シルスは、こういうファンもいるんだな、と思うと同時にアルシーアの何処に不満があるのかと一考してみる。
――見た目はファルナルークさんそっくりで金髪碧眼の美人さんなのに何でかなー?……やっぱり、にじみ出てるのかなー
「性格悪いところが」
と、ポロっと言っちゃうシルス。
「あ?」
アルシーアがじろりとシルスを見やる。
「あっ!いえ何でもないですぅ!」
「決定。シルスにはケツでっかくなるマッサージをプレゼント」
「えっ!?巨尻はイヤですよっ!?」
「ルメちゃんも手伝う!お願いだから手伝わせて!ね!?是非に!」
「おう!存分にもみしだくがいいぜっ。あたしが許す!」
「えー!?なんでシアさんが許可出すんですかあっ」
「今夜が楽しみぃ♡うふふふう」
「ひ……っ」
ルーフェルメの目が妖しく光ったような気がして、シルスはぞぞぞと背中に寒気を覚えた。
「ルメがヘンタイなのは今に始まったこっちゃねーからなっ!ますますヘンタイになれ!あははははっ」
「あははじゃないですよシアさんっ」
「フツツカ者ですが末長くよろしくお願いね、シルスちゃん」
「あっははー!なにそれルメ、シルスちゃんに嫁入りする気ー!?」
「あのう、準備出来たんだけどどうしようかねえ?」
準備を終えたブロンおじさんが、きゃいきゃいと騒ぎ出した四人に向かって声を掛けてきた。
「あっスミマセン、オジサマっ!」
ルーフェリカが少しだけ申し訳なさそうにブロンにそう告げてから、アルシーア達に向き直る。
「じゃあ、どうしよっか?なんにも決めずに声掛けちゃったからねー!まさかオッケーしてくれると思わなかったからさー。よっぽどヒマなのかなー?あっははー!」
「ポニテリカちゃん、せめて聞こえないように言ってくれないと。でも、そこが……イイっ!」
歯に絹着せぬ喋り方と明るい笑い声。それがルーフェリカの人気の一つである事は間違いない。
ブロンおじさんは、自分の存在が少しでもルーフェリカの意識下にあるという事が少々の失言なら許せてしまうほどに嬉しい。
それがファン心理というものなのだろう。
実際、ブロンおじさんはニコニコ笑顔である。
「オジサマっ『炎の姫と氷の姫』のリズムって叩けますかあ?ラストシーンの所だけでいいんですケドー」
「モチロンだよ、ポニテリカちゃん!スローテンポからのファーストテンポは観てる側も演奏する側も楽しくなるからねえ!」
「踊ってる側はもーっと楽しいんですよお?オジサマも踊ってみますう?」
「それじゃあ誰が演奏するんだい?叩きながらは踊れないよー?」
「ソレモソウですねー!あっははー!」
「よく見とけ聞いとけシルスっ。アレがリカの小寒い営業トークとスマイルだっ」
「……シアさんはひねくれすぎですよう。そんなだから『他はダイジョブ』なんて言われちゃうんですよっ」
「今夜のケツでかくなるマッサージは二倍に決定」
「えー!?なんでそうなるんですか、もうっ」
「そしてそこには!シルスちゃんのお尻があるところには必ずルメちゃんがいるのですう!」
「あ!アタシはナレーションやるー!」
「えー!?ルーフェリカさんまでっ!?」
「ルメはねっとりネチネチが大好物だからなー。楽しみだぜっ」
「うふふふふぅ……」
「ひ……っ」
再びわちゃわちゃし始める四人にブロンおじさんが呟いた。
「なかなか話が前に進まないねポニテリカちゃん……でも、それもイイっ!」
「あっ!スミマセン、オジサマっ。じゃあ『炎の姫と氷の姫』のラストシーンでお願いしますっ」
「よし、いっちょやるかっ!ここまで走って来たから、いいウォーミングアップになったろっ!身体は温まってるからいつでも踊れるぜっ!一緒に踊ろう、シルス!」
「あ、それいい!ルメちゃんもシルスちゃんともう一回踊りたいなぁ!」
「えっ!?無理ですよ!!だって、シアさん達はプロじゃないですかっ!わたしなんてずぶずぶのど素人なんですよっ?」
「あのなー、踊りなんて簡単だよ。オマエが今まで見てきた中で一番、心の残ったコト、感動したコトをイメージしながら手足バタバタすりゃいーんだよ」
事も無げにアルシーアは言うが、ど素人のシルスは全く踊りのイメージが掴めない。
――感動した事かあ……
うむむと思案し、シルスが思い浮かんだのは……
アールズの大花火。
右手にファルナルークの手の温もりを。
左手にシュレスの手の温もりを感じながら見た、魔法の大花火。
二度と見る事の出来ない、奇跡の、一夜限りの大花火。
――これだっ!でも、花火を体で表現する、ってどうやって!?
ぴょんと跳び跳ねて両手両足をぱっと広げる自分の姿を想像してみる。
――……これ、は……っ
もう一度、満面の笑顔でぴょんと跳び跳ねて両手両足をぱっと広げる自分の姿を……
――バカっぽいっ!無しっ!
シルスの心は瞬時に折れた。
「無理です。わたしにはっ」
「サポートしてやるから大丈夫だって!ホラ!最初に出会った時のアレだよ!」
「最初の、って、えっ!?」
と、無理矢理アルシーアがシルスを引っぱり、手を取り合い輪になる三人の真ん中に立たせた。
「いつでもイイですよっ、オジサマ!」
ルーフェリカの声音が弾んでいるのがシルスにも解る。
踊る事が楽しくて楽しくて仕方がない!
そんな感情が溢れ出ている。
そしてそれは、アルシーアとルーフェルメからも感じ取る事が出来た。
――えー!?いきなり過ぎだようっ!
動き出したら止まらない。そんな娘達なのだ、アルシーア達は。
やんわりとブロンおじさんのカウントが入る。
「オッケー!いくよー。1、2、3、4!」
トン。ト、トン。
トン。ト、トン。
トン。ト、トン。
導入は緩やかなリズム。
アルシーア達は目を閉じて呼吸を合わせる。
「1、2、3、4!」
アルシーアのカウントでシルスを中心に三人の輪が回り出す。
シルスは思い出していた。
舞台に飛び出してしまった時の事を。
――そう言えばっ、こんなだったかもっ!確かあの時はっ!
汗が光る半裸に近いアルシーアの姿が脳裏に思い浮かぶ。
燃えるような赤毛がスポットライトに照らされて鮮やかに浮かび上がって見えていた事を思い出す。
――あの時はシアさんに腕を掴まれて振り回されたんだったっ!
緩やかなリズムから。
タン!と転調を知らせる強い音。
そのタイミングでシルスはアルシーアに手を伸ばし、見事に三人の輪に入ってみせた。
「!」
「!」
「!」
文句のつけようの無いタイミングで輪の中にに入ったシルスに、アルシーア達は一様に驚きそして。
満面の笑顔になった。
シルスは右手にアルシーアの手を。
左手にルーフェリカの手を取って。
――やったっ!成功っ!次は確かっ!
タタン、タン!タタン、タン!
スッと手を離し、くるりとターン。四人の息はピタリと合い、フォーメーションに一切の乱れは無く最後の動作へ移る。
シルスの右から左へと流れるアルシーア。
左から右へとルーフェリカ。
向い合わせで手と手を繋ぎ、くるりとターンするルーフェルメとシルス。
ドン、タタン、タン、タン!
足を踏み鳴らし、手拍子でリズムを取るルーフェリカ。
――ここでフィニッシュのハズっ!
「3、2、1、ハイ!」
三人が手と手を取り合い輪をつくり、その中心にシルスが立ち、鮮やかにフィニッシュを決めた。
おおーっ!といつの間にか集まっていた観客から感嘆の声と拍手が響き渡る。
拍手と歓声は舞台上に突然飛び出したあの時と比べれば少ないが、意味合いが全く違う、とシルスは感じていた。
「おおう、大成功!やるじゃんシルス!」
「シルスちゃん、あの時の動き覚えてたんだねー!スゴい!」
「ステキだったよう、シルスちゃんっ」
アルシーアは手荒くバシバシとシルスの背中を叩き褒め讃え、ルーフェリカとルーフェルメはシルスの手を取って感動しきり。
「あの時の事を思い出してみただけですよう!」
と、シルスは謙遜するが、表情に出ている。
どや!と。
再び輪になって肩を組み。
三人は、いや四人は『今日一番』の笑顔になった。
その後、気を良くしたアルシーアがブロンおじさんにもう一曲リクエスト。
しかし今度は即興曲。ど素人のシルスが即興で踊れる筈も無く、ボロボロのダンスとなってしまった。
調子に乗るとしっぺ返しがくる。と、シルスは一つ学び、初めての路上ダンスは幕を閉じたのだった。
思わぬ所で、舞台に飛び出た時の踊りを再現!楽しそうで何よりですね!
次話『誕生!?熾炫弐式!!』
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