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魔女シャン、シンディの一問一答

この作品は『ノベルアップ+』にも掲載しています。


 先程シルスが矢継ぎ早に投げかけた質問にシンディは一つずつ丁寧に答え始めた。


「まず、時渡《ときわたり》の事から話そうかな」


 ――マジックショーで使用するネタに付ける名前だよ。


 始めシンディはそう答えるつもりだったが、シルスは貴重な魔法紋様を包み隠さず、裸になってまで見せてくれた。


 そんなシルスへの敬意を込めて、シンディは『時渡』の事をシルスに教える気になったのだ。


 時渡《ときわたり》は魔女連盟で研究してる秘術であり、まだまだ解明されていない事柄が多く実験段階にすら到達していない。

 彗星が持つ強大な魔力を何かに利用出来ないか?そこから始まった研究なのだと。


「まだ推測の域を出ないんだけどね。時空を超える事も可能かも知れないって考えてるんだよ」


「時空を……」


 シルスは『時渡《ときわたり》』とは何なのかを知っている。時渡の秘術を使って時空を超えた張本人なのだから。

 

 でもね、とシンディが続ける。


「たかだか80年程度の寿命しか持たない人間には、時渡の秘術は使えないだろうね。

 エルフや竜族、魔人族ならともかく、人間なんて問題外。シルスちゃんみたいなハーフエルフも時渡の魔導圧力に耐えられる可能性は高いかも」


 シンディの推測に、シルスはアハハと笑ってその場を濁す。


 ――時渡《ときわたり》の秘術で来ちゃいました!って、言っちゃダメだよね、やっぱり……


「時渡《ときわたり》の研究を続ける意味はあるのか?という内輪の声もある。

 時を超えた人物が歴史を歪めてしまうような重大な事件を起こすかも知れない、という懸念があるからね」


 しかし、シンディの懸念はシルスには当てはまらない。

 シルスが時を超えて過去にやって来たその理由、それは。


 一目惚れした写真の人物に会う為。

 

 なのだから。


 しかしシルスは話せない。時渡《ときわたり》の秘術で未来から来た事を。

 しかも二度目は、未来に帰れずにさらに過去に飛んでしまった事を。


「誰も成し遂げた事の無い時空超えに挑戦している。そんな今が一番楽しいのかもしれないね。時を超えるなんてそんなバケモノじみたコト出来るヤツがいたらみてみたいもんだよ!」


「はははー、ソウデスネー」


 シンディの目の前にいるシルスがまさにそ(・)う(・)であるのだが。

 シルスはカタコトの相槌を打ってぎこちなく笑って誤魔化すのが精一杯だった。


「えとえと、じゃあ、舞台に描かれた魔方陣て何ですか?デタラメに描いたって聞きましたけど……」


「アレねー。ああいう怪しげなものって、なかなか堂々と描けないでしょ?しかも広い場所で多くの人の目に留まるチャンスなんて滅多にない。皆にはデタラメって言ったけどホントはね、本気で描いたものなんだよ」


「え……どうしてデタラメなんて言ったんですか?」


「ただでさえ『魔女連盟』なんて怪しい組織に所属してるって思われてるからねー。本気で描いたなんて恥ずかしくて言えなかったんだよ」


 本気で描いた結果、デタラメだった筈の魔方陣はシルスが未来からやって来る扉となった。 

 だが、この事実をシンディは知らない。


「魔女連盟は秘密組織でも地下組織でもない。ちゃんと役所に申請書出してるし受理されてる。まあ、この部屋見たら怪しいって思われてもしょうがないかもしれないけど!悪口陰口には慣れっこだし!あはははっ!」


 シンディは明るく笑って言うが、言葉尻が少しだけ寂しそうに聞こえる。


 心無い陰口はいつの時代にもあるものだ。

 シルスにも思い当たる節はある。


 半分人間。半分エルフ。半人半妖。


 ハーフエルフを侮辱する様な言葉である。ハーフエルフの存在が珍しくないこの島でも、そういった悪口や陰口を叩く者は必ずいる。

 だが、そういったネガティブ要素を気にしていては人生においてマイナスになるだけである。


『いつもニコニコして明るく笑い飛ばしておけば気にならなくなるから引きずらない事!』とは母の教えだ。


「えっと、あと、マジックの呪文に翠の彗星って言葉が入ってましたよね?翠の彗星は何日か前には見えてたみたいですけど……」


「翠の彗星か……アレはスゴい魔力波を放ってたよね。シルスちゃんは見たの?」


「残念なコトにこ(・)っ(・)ち(・)では見れなかったんですよー」


「ん?こっち?どっち?」


「あっ!いえっあのっ見れませんでした!見たかったんですけど……」


「そっかー。残念だったねー。シルスちゃんはハーフエルフだから、あの彗星の魔力は体験しておくと良かったのにね。マジックの呪文に入れたのはインパクトを与える為だよ。ただのカッコつけだね」


「えっ?カッコつけ……じゃあじゃあ、どうやって箱から箱に移動したんですかっ?」

 

「さっきの魔方陣の質問と関連してるんだけどね。箱の中に魔方陣が描いてあったでしょ?簡単な転移魔法だよ。あまりにもうまくいったから自分でもビックリしちゃったよ!」


「転移魔法……もしかして、シンディさん」


「うん?」


「転移魔法と時渡《ときわたり》の秘術は深く関わってたりしますか?」


「おっ!鋭いね、シルスちゃん!その通りだよ!『魔方陣から魔方陣へ転移する』これ、理屈で言うとだね……」


 ぐい、とシンディが顔を近付ける。


「今現在、この時代の魔方陣から、別の時代の魔方陣へと飛べるのでは?って考えてるんだよ」


「別の時代?」


「時を超えるってコトだよ!それには圧倒的な魔力が必要だって解ってるんだけどね。じゃあ、その魔力を何処から得るか?そこでやってきたのがあの彗星、つまりは巨大な魔力核!」


 マジックショーで見せたような大きな身振り手振りを交えて話を続ける。


「地面の下に埋まっている幾つもの魔力石。そのほとんどが宇宙隕石だって事は知ってるよね?」


「はい。色んな魔法に使われたり、家の暖炉に入ってたりしますよね」


「その中でもひときわ巨大なモノが埋まっていると推測される場所がある。それが『竜の巣』ってよばれてる大きな縦穴なんだ」


「竜の巣……?」

 

 シェラーラからすらも聞いた事のない、シルスが初めて聞く言葉だった。


「翠の彗星だって宇宙隕石の一つに過ぎない。という事は!竜の巣の巨大な魔力核が時渡《ときわたり》に匹敵するような魔力を持っている可能性は大いにある!とニラんでいるんだよ。ただ、それを利用する手立てが無いってのが現状なんだけどねー。竜の巣なんて危なくて近寄れたものじゃないしね!」


「えっと、それじゃあ!彗星が無くても魔力核の力が大きければ時渡《ときわたり》の秘術は使える、ってコトですかっ?」


「その可能性は大いにあるだろうね。他の方法として、転移魔法の魔方陣に何らかの細工をする、もしくは『記憶』を持つ魔力が宿っている物から物へ転移する、なんて事が……ん?待てよ?」


 魔方陣そのものを披検体に転写して、記憶を宿す物から物へ。

 未来から過去へ……過去から未来へ……

 シルスちゃん……もしかして……イヤ、そんなバカな……

 

 シンディは首を横に振って自分の考えを否定した。

 あまりにも非現実的な質問だ、今は聞くべき時ではない、と。


 シルスは未来へ帰れるかもしれない、という可能性に出会えた事に心が昂っていた。


「シンディさん!わたしっ、シンディさんに出会えて良かったです!シンディさんはステキな魔女シャンです!」


「……どしたの急に?私も結構ペラペラと秘密な事も喋っちゃったけど内緒にしててね。ま、こんな話を信じる人なんてそんなにいないだろうけどねー。シルスちゃんはなんでまたこんなコト聞きたいって思ったの?」


「それは……っ」


 ――未来から来ました!でも帰る方法がわからないんです!未来に帰る方法を探してるんです!なんて言えないよね……ここはっ!


「ナイショです!」


「え!?内緒なの!?」


「そうです!」


 あまりにも大胆な内緒宣言に、シンディは思わず破顔する。


「君は面白いね」


「よく言われますぅ」

 と、シルスもえへへと笑った。


「あ、そうそう。シルスちゃんに受け取ってもらいたい物があるんだけど、いいかな?」


「えっ?何ですか?」


 シンディは棚の小瓶から小さな赤い石を取り出し、シルスに手渡した。


「マジックショーに協力してくれたお礼だよ」


「キレイな石……これ、魔石じゃないんですか?」


「正解!さすがハーフエルフちゃん!やっぱり、魔力を感じてるんだね」


「そんなっ!大切な物なんじゃ……」

「いいのいいの!お礼なんだから!」


 シルスが手のひらの上で赤い小さな魔石を転がしてみると、わずかな光を反射してキラキラと輝きを放った。


「ありがとうございます!大事にしますねっ。あの!シンディさんて魔女さん目指してるんですかっ?マジシャン目指してるんですかっ?」


「さっき言ってくれたじゃない。私は、魔女シャンだよ」


 シンディはニコッと笑顔でそう言って話を締めくくった。


「さて!アルシーア達が退屈して待ってるよ!行ってあげないとね!」



 ◇ シンディのマジック探求日記 ◇


 今日、ストリートパフォーマンスで新作の『時空マジック』を披露した。

 結果を先に書くと『大成功!』だ。


 当初、時空マジックにはミケルを使う予定だった。

 使い魔での転移魔法実験は何度も成功してるし、いつかはヒトで、って思ってた。

 でも人体実験なんて危険すぎる。

 失敗なんて死に直結するだろう。


 そこに現れたハーフエルフちゃん!

 

 ハーフエルフだから失敗しても構わないとかじゃない。

 あの娘の身体の魔法紋様。

 私(・)達(・)が研究している魔法紋様にそっくりだ。

 そしてハーフとは言え、強い生命力を持つエルフであるという事が重要なポイント。

 これなら、この娘なら。

 特別な魔法紋様を持つこの娘なら。

 結果、私の考えに間違いは無かった。


 あの娘は、シルスちゃんは、おそらく類い希な血の持ち主なんだろう。

 全く何事も無く転移魔法の魔導圧力に耐えたのだから。

 実験じみたマジックに付き合わせてしまった事は申し訳なく思うよ。ごめんねー。

 でも今は感謝の気持ちでいっぱいだよ。ありがとうねー。

 最後の口紅は即興の思いつき。

 ミケルにも感謝感謝!

 シルスちゃんにあげた魔石が何かの役に立ってくれたらいいな。


 シルスちゃんに聞きたかったけど聞けなかった事を書いておこう。

 この日記を読み返した時に、この日記を読んだ未来の私がどう思うのか楽しみだ。


 シルスちゃん。

 君は、時を超えて来たのかい?



 シルスはシンディから貴重な情報をゲット!


 次話『初めての路上ダンス!』


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