初めてのマジックショー
この作品は『ノベルアップ+』にも掲載しています。
「さーって腹ごしらえも済んだコトだし、シンディさんでも探してみっか!」
「ナルミさんに聞かないと何処にいるかわかんないんじゃない?あ、天気いいから道ばたで小銭稼ぎしてるかなー?」
「あ、それあるかもなっ。ダメ元でホコ天に行ってみよう!」
「シルスちゃんとデートっ!行こっシルスちゃん♡」
ルーフェルメが手を繋ぐよう求めるが、シルスはすっと立ち上がると何事も無かったようにスルーした。
「もう!シルスちゃんのいけずぅ!」
「すねてないでいきましょう、ルーフェルメさん!置いてかれちゃいますよっ!」
道ばたで小銭稼ぎ、と聞いてシルスがぱっと思い浮かんだのは『大道芸』だ。
――マジシャンて言ってたから、やっぱりマジックだよね、きっと。ちょっと楽しみかも!
アールズの街には幾つかの大通りがあり、1から10の数字が通りの名に付けられている。
シルス達がやって来たのは、大通り3番。
今日は馬車の乗り入れが禁止の日になっており『歩行者天国』となっていた。
通りには幾つもの出店が立ち並び、多くの人で賑わっている。
粉を練って薄く焼いたもの、かき氷やリンゴ飴。
串焼き、焼き栗、焼きモロコシ。
シルスには目に映るもの全てが美味しそうに見えてしまう。
――ぜんぶ美味しそう!後で買えるかなっ?
出店通りから少し歩くと、数名の大道芸人達がある程度の間隔を空けて、互いの邪魔にならないよう配慮しながらパフォーマンスを繰り広げていた。
見た事のない楽器を演奏している者、小猿に芸をさせて笑いを取る者、玉乗りしながらナイフでジャグリングをする者、似顔絵を描いている者などなど。
「うわー!みんなスゴいですねえ!」
「シルスちゃんは、こーゆーの好きぃ?」
「好きですよー!初めて見るものばかりだから面白いし楽しいです!」
過去に来ている筈なのに、シルスの目には見るもの全てが新しい。
当たり前のようにシルスの隣に並んで歩くルーフェルメも楽しそうだ。
「シンディさんはいないかなー?」
「見えないねー。場所取れなかったとか?」
アルシーアとルーフェリカが背伸びをして辺りをキョロキョロと見回すが、目当ての人物は見当たらない。
「人気が無いとメインはツラいだけかもなー。もうちょい先行ってみよう!」
人気のある大道芸人は当然のように集客力があるし、それなりの稼ぎを得られる。
駆け出しの新人やあまり人気の無い芸人、いわゆる『売れない芸人』は、メインストリートから少し離れた場所で腕を磨く、というのが暗黙のルールとなっている。
通りの先を少し行くと……
「あ、いたいた。やっぱここにいた!」
「相変わらず売れないんだねえ、でも頑張ってるよねー!」
「おーいシルスー!ルメー!こっちこっち!」
先を行くアルシーアとルーフェリカが、シンディの姿を見つける事が出来たようだ。
大きな声で二人を呼び手を振り、手招きをする。
「シアシアは声おっきいよねえ、おっきな声で名前呼ばれるのって恥ずかしくない?シルスちゃん」
「ちょっと……イヤ、だいぶ恥ずかしいかも……周りの知らない人達に名前知られちゃいますもんね」
メインストリートに比べて、人通りはやや少ないが、他にも何人かの大道芸人がパフォーマンスをして客からの賛辞の声や拍手を浴びている。
そんな路上の一角で、シンディがストリートマジックを披露する準備をしていた。
肩にかかるくらいの髪を無造作に束ねマジシャンらしい円筒形の黒い帽子をかぶり、メイクは控えめに、服装は清潔に。
パッと見若く見えるが、オトナの女性の落ち着きをその立ち振舞いが醸し出している。
どことなくナルミさんに雰囲気が似てるな、とシルスは思う。
「お疲れ様ですシンディさん!頑張ってますねー!」
「やあ、アルシーア。今日も三人お揃いで。新作マジックやるから見てってよ!その子は?新人さん?」
「新人じゃないよ。まだ知り合ったばっかだよ」
「初めましてシンディさん!シルスって言います!」
「元気だねー。ハーフエルフちゃんかあ。カワイイ耳だねー。触っていい?」
「ダメですぅ!」
すっとシルスの前に出たのはルーフェルメだ。
「冗談だよう。ルメちゃんの彼女なら手出ししないよー」
「違います。カノジョじゃないです」
間髪入れないシルスの即答。
ルーフェルメは何か言いたそうにシルスをじっと見つめるが、シルスは気付かないフリをしてスルー。
「ん?んん?」
ふと何かに気が付いたように、シンディが目を細めてシルスをじーっと見つめ始めた。
「え、なにか……?」
「あー、ゴメンゴメン!後でじっくり話そう!マジックやるから見てってよ!」
シンディの不可解な視線が少し気になるところだが、今は目の前で初めて見る大道芸マジックにワクワクするシルスであった。
◇
「さあさあミナサマ寄ってらっしゃい!見てらっしゃい!ここでしか見れないストリートマジックの始まり始まりぃ!」
シンディの軽やかな弾む声に、何人かの客が足を止めマジックに興味を示す。
建物を背に扇状に広がる数名の客からパラパラと拍手が贈られた。
「『時の魔女』シンディがお見せしますは時空マジック!」
「時の魔女っ!?」
と、驚くシルス。
「その名も『時渡』!」
「時渡っ!?」
と、再び驚くシルス。
「おおう、ハーフエルフのお嬢ちゃん、ノってくれてありがとう!あたしのやる気も増すってもんだよ!ミナサマ言っておきますが、あのカワイイ娘はサクラでは無いですよー!」
周囲からクスクスと漏れる笑い声。
シルスは思いがけず目立ってしまった事が恥ずかしくなり、顔を赤らめた。
――時の魔女って!時渡って言った!なんでなんで!?マジシャンじゃないのっ!?魔女さんなのっ!?
「ではではミナサマご注目ぅ!タネも仕掛けもございませえん!なーんて言ってホントはタネも仕掛けもあるんですけどねー!」
表情豊かに、身振り手振りを大きく大袈裟な動きで客の視線を惹き付ける。
「さっきのそこのハーフエルフのお嬢ちゃん!ちょっとお手伝いしてもらっていいかなっ?」
「えっ!?あ、ハイっ」
「大丈夫大丈夫!この箱に入ってじっとしてればそれでいいから!ワルいようにはしないからぁ♡」
ワルいようにはしないからと言われてロクな目に会った事が無いような気がするが、シルスはこの時空マジックに興味が湧いた。
――マジック参加初体験!どんなかなっ?
「こちらにある何の変哲もない箱からから、そちらにある何の変哲もない箱の中へ!このカワイイハーフエルフちゃんが移動しまあす!さらにさらに!ちょっとオトナに変身しまあす!」
シンディが披露するのは、どうやら瞬間移動マジックのようだ。
箱から箱への移動。その間は歩幅が三歩程度の距離である。だが、ちょっとオトナに変身、とはどういう事か解らない。
シルスは言われるままに箱の中に収まった。小柄な身体は、膝を抱えて丸くなっても箱の中に余裕がある。
「いいって言うまで絶対動かないでね。死んじゃうから。合図したらパって立ち上がるだけだからね。簡単簡単!」
「えっ!ちょっ……」
聞き捨てならない言葉を残し、シルスが質問する間も無く箱の蓋を閉じられてしまった。
シルスの心に期待と不安が入り乱れる中、箱の外からシンディ軽やかな声が聞こえてくる。
「ここに降臨せし三つの魔剣!
この剣が突き刺さるとこの箱の中に時空の扉が現れて、さらに呪文を唱えるとさっきのカワイイカワイイハーフエルフちゃんがあちらの箱に移動しまあす!
そう!箱同士、中で繋がっているのでえす!どこかの別の箱に移動しちゃうんじゃないのって?そういうツッコミは無視でえす!」
ひゅひゅん!と剣の風切り音。
「それではいきますよー!カウントダウンをミナサマ、よろしくぅ!5!4!3!2!1!」
数名の観客の声の中ににアルシーア、ルーフェリカ、ルーフェルメの声が混じって聞こえる。特にアルシーアの声が大きく。
「0《ゼロ》!」
シンディの時空マジックは成功するのか!?
次話『シンディは魔女?マジシャン?』
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