シルスなりの推察
この作品は『ノベルアップ+』にも掲載しています。
「あー、面白かったし美味かった!」
「ごちそうさまでした、シアさん!」
「いいってことよー!トシウエのオネーサンだからなっ」
「アタシらチョコアイス食べに来ただけだっけ?なんか予定立てるんじゃなかったっけ?」
「ルメちゃんとシルスちゃんは、もう他人の仲ではなくなったの……」
頬に手をあてうっとりとシルスを見つめるルーフェルメ。
またしても話の主軸からズレてしまう。
「ルーフェルメさん!?誤解されるようなコト言っちゃダメですよっ」
「ルメちゃんね、シルスちゃんが舞台に現れた時思ったの。ああこれは運命だ、って!運命の人だ!って」
「運命ってそんな……どうしてこうなったのか、わたしもよくわかってないんですよー?」
「シルスは舞台の魔方陣から涌いてでたんだよな?」
「涌いてって、また、もう、虫みたいに言わないでくださいよー……」
どたばたのわちゃわちゃで忘れそうになるが、シルスが舞台上に飛び出したのは昨日のことである。
そもそも何故アルシーア達の舞台に突然飛び出したのかは、全くの謎だ。
ヴェンデルヴァイツに問われても全く答えられなかった。
「あの魔方陣描いたのシンディさんなんだから、一度は話聞きに行った方がいいんじゃない?」
「それもそうだなー。じゃー行ってみっか!で?何処にいんの?」
「さあ?ナルミさんならシンディさん何処にいるか知ってるかもねー」
と、ルーフェリカ。
「ルメちゃんも知らないよぉ?」
と、ルーフェルメ。
シルスは『シンディ』という名に確かに聞き覚えがあった。
なかなか記憶の引き出しからスッと出てこないのは、わちゃわちゃ時間が多く集中力が散漫している為だ。
額に手をあてて、むむむと思考を巡らせてみるシルス。
――シンディさん……?どこかで聞いたような……誰だっけ?んん?シンディさん?シンディさんー……んっ?確か…メレディスさん、メレディスさん……そうだっ!メレディスさんの……っ……
「おしょうさまっ!?」
「和尚?誰が?」
「何処かの国の僧侶のコトだよね?」
アルシーアとルーフェリカがシルスに向き直り不思議そうな顔をする。
「シルスちゃん、いきなりどうしたのぉ?」
と、シルスの横にピッタリくっついて座るルーフェルメもキョトンとしている。
「その歳で出家でもする気かー?」
「えっ!?そうなのぉ?シルスちゃん!?」
「違いますよぉっ!いい間違えただけですっ!『おしょうさま』じゃなくて『お師匠様』って言いたかったんですっ」
恥ずかしさのあまりシルスは顔を真っ赤にして言い間違いを訂正した。
「わたしの遠い知り合いにメレディスさんて魔女さんがいて、そのっ、メレディスさんがシンディさんに色々教わって師匠だ、って言っててっ」
シルスは両手をパタパタさせて取り繕うが、イマイチ三人には事情が飲みこめない。
「あのあのっ、シンディさんも魔女さんなんですよね?」
「魔女さん?マジシャンの間違いだろ?」
「えっ?」
「シンディさんは魔女じゃないよ。マジシャン。手品師やってるんだよ。売れないけどね」
「売れないマジシャンっ!?」
占いを生業としていたメレディスを『売れない小屋のメレディスって覚えておくといいよ』と、シェラーラが言っていた事を思い出す。
師弟そろって『売れない』とは。
「え、でも、魔方陣描いた、って」
「デタラメに描いたって言ってたなー。舞台の演出の為にさ、ちょっとでも見映え良くしたいじゃん?それで頼んだんだよ。魔法の勉強してた事があるらしいから、それっぽいの描いてもらったんだ」
「デタラメ魔方陣……」
デタラメとは言え、そこが『召喚口』となったのは間違いない。
なんらかの繋がりが必ずある筈である。
シルスは舞台上に飛び出した事を思い出してみた。
――切り株親分さんの声が聞こえて、ぐるぐるってなって……そこで『流れ』が変わったんだ、きっと。
本当は、元の時代の子分テーブルに戻る筈で……
……ん?
子分さん……別の時代の、別の子分さんっ?
大きなケヤキの木だったから、テーブルだけじゃなくて色んな素材に使われた、とか!
それが劇場の舞台に使われてたとしたらっ!?
「あのあのっ!劇場って、エンデルード劇場って新しい建物なんですかっ?」
「シルスはいきなり話が飛ぶなー。そんなに新しくもないよ?」
魔方陣の話から劇場の話へジャンプするシルスを不思議に思いつつも、アルシーアが答えた。
「木造建築ですよねっ?なんの木が使われてるんですかねっ?」
「木の種類?わからんっ。シルスは建築に興味あるのか?」
「いえっ、そーゆーワケじゃないんですけどっ」
アールズの街はレンガ造りの建物と昔ながらの木造の建物とが入り交じっている。
多くの建物は白く塗られている為に、一目見ただけでは素材までは判らない。
「劇場って、音の響きとかも考えて造られてるからいい素材使ってると思うよ。東門出てちょっと行った場所に森があってね。木造の建物って、そこの木を素材に使う事が多いかなー」
――東門の上の丘!切り株親分さんと同じ場所だ!
650年には伐採が進み森ではなくなっているが、これで出所は掴めたと考えてもいいだろう。
「あっ、ルメちゃん聞いたコトあるよぉ。なんの木かはわかんないけどぉ、この舞台の木は新月の木なんだよ、って」
「新月の木……!」
「新月の木ってぇ、長持ちするとか魔力が宿るとか言ってたぁ」
十中八九間違いない、とシルスは思う。
切り株親分の子分達が舞台に使われている、と。
テーブルだけではない、舞台の羽目板や家屋の壁材などにも使われ『子分達』として活きているのだと。
691年から650年に『飛んだ』時は、子分テーブルから子分テーブルへ転移した。
シェラーラが施してくれた『時守』の魔法紋様の補助もあり『他の場所の別の子分』に出てしまうという心配もなかった。
ただ、今回の場合。
650年から609年に『飛んだ』事はなんらかのアクシデントがあったとしか思えないが、エンデルード劇場の舞台上に出てしまった謎は判明したように思える。
切り株親分の子分が素材の舞台。
そして、描かれた魔方陣が目印となって舞台上に飛び出したのだろう、と。
「はー……やっと謎が解けましたよー……」
推察の域を出ないとは言え、舞台上に飛び出した謎に辿り着いた事に息を吐く。
思いもよらない所から謎が解けた事にシルスは不思議な感覚を覚えていた。
「あたしにはナニが謎だったのかわからんけど、まあ、よかったなっ」
そう言ってアルシーアが、にかっと笑う。
ファルナルークが少女だった頃はこんな笑顔だったのかも知れないなとシルスは思う。
だが、口にはしない。
目の前にいるのはアルシーアなのだ。
どんなに顔が似ていてもファルナルークではない。
「シアさんのおかげです!」
「えー?アタシはー!?」
「ルメちゃんはっ!?」
「あっそうですねっ。皆さんのおかげです!」
「なんの謎だか知らんけど一件落着って事で!で?次、何するんだっけ?さっき何のハナシしてたっけか?」
「んー?お買い物?」
「シルスちゃんとデートっ!」
「違いますよぉっ!シンディさん探しに行くんですっ」
「あれ、そーだっけ?」
あっけらかんと言うアルシーア。
「そーだったんだー」
と、軽く言うルーフェリカ。
「シルスちゃんとデート……」
と、ルーフェルメが寂しそうに呟いた。
舞台上に飛び出した謎は判明したかも知れないが、それだけでは何も解決しない。
だが『未来に帰れない』という現実に風穴を空ける事に繋がるかも知れない。
「一歩前進!たぶん!」
シルスはクヨクヨと俯いたりしない。
顔をあげて前を向き、ほんの少しの可能性からも未来へ帰る方法を探し出すしか無いのだから。
推察の域を出ないにしてもシルスなりに頑張りました!
次話『初めてのマジックショー』
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