アールズの王様
ラズラットが手綱を握り、向かうのはアールズ王が待つ王宮。
◇
馬車室内にて
石畳の街の中をかたんことんと馬車がゆく。
車窓から見える景色がいつもとは違って見えるから不思議なものだ、とルーフェリカは感じていた。
ルーフェリカとルーフェルメは隣り合わせに座り、ルーフェルメの対面にシルス、シルスの隣にアルシーアの並びで座っている。
「意外に乗り心地いいねえ。御者さんの腕にもよるってナルミさん言ってたっけ」
「馬車のグレードにもよるんじゃないのぉ?魔法付与の馬車なんて空飛んでるみたいに感じるらしいよぉ?」
ルーフェルメが向かい合わせに座るシルスをニコニコ笑顔で見つめながら言う。
「へー……そんな馬車あるんですねー。乗ってみたいですねえ」
「あんなもん、金持ちの貴族連中しか乗れねーだろ。あたしらには無縁だろうよ」
「シアシアはもー、夢がないなぁ」
他愛も無いお喋りをしながら馬車に乗る事およそ五分。
不意にアルシーアが思い出したようにシルスの肩に腕を回した。
「さてシルス」
「はいっ?」
「あたしのケツがなんだって?」
「えっ?いやあ、ぷりっとしてて上向きで、きゅっと締まってて、カタチの良いお尻だと思いマス!」
「ほほう、そうかそうかー。おっきいケツのことを巨尻っつったっけかなー?なかなかいいネーミングだよなー、巨尻」
「えっ?」
「巨尻」
「えっ?」
「巨尻」
「……えっ?」
「何回も言わせんなハズいだろっ!そこになおれっ!成敗してくれるわっ!」
「わあっ!シアさんっ!?」
アルシーアは語気荒くシルスを強引に引き寄せて自分の太ももの上に腹這いにさせた。
「シルスのズボンはピッチピチだなっ。ケツのライン丸出しじゃん!」
「スキニーパンツって名前なんですよおっ。そういうデザインなんですっ」
「好きにパンツ……やらしい名前だなっ」
ぺち!とシルスのお尻をはたくアルシーア。
「やらしくなんてないですよおっ!離して下さいいっ!」
「ダメだね。あたしは『シメる』って言ったよな?これがあたしのやり方だっ!巨尻上等!揉むとでかくなるっていうからなっ!オマエもでかくなれっ!」
そのままシルスのお尻をがし!と鷲掴みにしてこねくりまわし始めた。
「うりゃうりゃっ!こうだっ!」
「えっ!やだあっ!シアさんっ!?」
揉んでこねて、はたいて引っ張ってとシルスのお尻がアルシーアに弄ばれる。
「あひゃあああっ、やめてぇっ!」
ルーフェリカがその様子を見てポツンと一言。
「揉むとおっきくなるのってムネじゃなかったっけ?」
「食いつくのはそこじゃないですよルーフェリカしゃんっ!あいたたっ!助けてくださいようっ!」
「そうよぉ!ダメだよ、シアシア!」
「ルーフェルメしゃんっ!助け……」
「一人占めはダメなのっ!ルメちゃんも揉みたいのっ!」
ルーフェルメは我慢の限界を超えたようだ。
ルーフェルメの左手が未知の宝物に触れるように慎重にシルスのお尻に近づき……
ぺとっ。
と、手のひら全体で張り付くように触れた。
そのままマッサージするように、巧みに指と手首を動かす。
「はうう……これがっ、至福の時間……っ!」
「ルメの撫で方はなんかヤラしいなっ」
「いっ……」
「『美少女ハーフエルフを襲う魔女が二人。いたいけな少女の小さくて可愛い無垢なお尻をしっちゃかめっちゃかに揉みしだく。少女は未体験の感覚に戸惑いつつ、身体の奥から沸き上がる快楽に抗えないのであった。ああ、ダメ、ダメなのでも、このキモチはなにかしら……』」
「ルーフェリカしゃんっ!?変なナレーション入れないでぇっ!」
「ルメちゃんっ……頬ずりしたい、なっ」
はぁはぁと息遣い荒く、ルーフェルメはシルスのお尻にゆっくりと近づき……
ぴとっ。
と頬をくっつけた。
「ここがっ、ルメちゃんのっ、天国、かも……っ♡」
「ルメのヘンタイっぷりには勝てねーなー!はははっ!」
「いっ……」
いやああああ、と悪ノリ大好き三バカ娘のいいおもちゃにされるシルスの悲鳴が馬車室内に響いたのだった。
御者台に座る二人は静かに前を向いていた。
「ディロン様」
「なんだ?」
「後ろが騒がしいですね」
「まったく、女三人寄れば姦しいと言うが……四人ともなると収集がつかんな……じきに着く。放っておこう」
◇
彗星の魔力を利用した秘術『時渡』で、元いた時代に帰る筈だったシルスが何らかのアクシデントでたどり着いたのは、巡星歴609年。
609年と言えば、フェルナンド島にある三つの大きな街が島の覇権を争い、武力行使とまでもいかないにしても『ちょっとした』小競り合い程度なら珍しくなかった時代である。
西の街、アールズ。
最南端の街グラム。
東南の街レーヴェル。
西の街アールズは、シルスが元いた時代の691年では『アールズファスト』と名を変えてフェルナンド島の首都として不動の王都になり島を治めている。
しかし、609年の『今』現在では、あそこの境界線はオカシイだの、あの山は我が街のものだのと小さな揉め事が起こるのは珍しい事ではない。
アールズは山脈の北側、グラムとレーヴェルは南側に位置している。
フェルナンド島を東西に連なる山脈が北の街と南の街を隔て、それぞれが独立した自治体のように機能する要因の一つとなっている事は疑いようのない事実である。
最南端の街グラムは南部の島々との交易が盛んで『海の都』の異名を持つ。
海抜が低い為に水難の災害が少なくなく、その度に経済的被害を受け復興に時間を費やす、といった憂き目にあう事を余儀なくされる事が多い為、口の悪い者は『海難の街グラム』などと言う。
東南の街レーヴェルは、グラムとの距離が近いという事もあり交流が盛んではあるのだが、『隣の芝は青く見える』心理が働くのか、交流の断絶と再開を繰り返し時には小競り合いを起こしながらも大きな争い事は避けて現在に至っている。
二つの街が合併すればアールズよりも強く大きな都になる事は明白であるのだが。
どちらが主導権を握るのかで揉める事もまた明白な事実なのだ。
三つの大きな街がそれぞれに独立した運営を成り立たせ『王政とはかくありき』といった固定観念が無い一風変わった島。
フェルナンド島の『絶対的主導権』『首都としての権力』を得る為の争いが起こりそうで起こらない。
小さな島で戦争など馬鹿げていると、誰もが思うが故の風変わりな勢力図が描かれている。
それが609年現在のフェルナンド島の実情である。
◇
アールズの王宮は贅の限りを尽くしたような豪華絢爛な建物ではなく、一見すると『少し豪華な博物館』のような外観だ。
代々、城を建てずに現在に至るのは『王』とはあくまでも『民』の一人であり『神』では無いとの思想からくるものだ。
民衆と表裏一体となり、支配ではなく敬愛で街を支える礎となる。
それがアールズ王、ヴェンデルヴァイツ=フォルクロッド=アールズの理念であり信念である。
シルス達四人が騎士二人に案内されたのは王宮の一角。
机も椅子も何も置いていない広々とした簡素な部屋だった。
謁見の間や玉座の間では無い、ごく普通の会議室のような部屋だ。
その部屋に唯一人、側近も給仕もつけずにアールズ王、ヴェンデルヴァイツが待っていた。
アールズの王様との御対面!
次話『アールズの王様……!?』
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