アールズの王様……!?
この作品は『ノベルアップ+』にも掲載しています。
「おおー、よく来てくれたねえ!『熾炫』のお三方とハーフエルフちゃん!」
一つだけポツンとあった籐の椅子から立ち上がり、大袈裟に両手を広げてアールズ王、ヴェンデルヴァイツが四人を迎えた。
カラフルな薄い半袖シャツに金のネックレス。短パンにサンダル。
垂れ目がちのぎょろっとした大きな目は、アルシーア達に興味津々だ。
肩にかかるくらいの長めの茶髪に、浅黒く日焼けした肌。片方だけに光るピアスがよく目立つ。
玉座に座るよりも、街の一角で若い女の子をナンパしている方がよほど似合う容姿である。
王に向かって右側からアルシーア、シルス、ルーフェルメ、ルーフェリカの順に並び対峙する。
ディロンとラズラットは王の両脇に立ち『お役目』を忠実に果たしていた。
シルスの目に映るアールズの王様は『どこにでもいそうなチャラいおニーサン』だ。
「え……王様、なんですか?」
と、シルスがこそっとルーフェルメに耳打ちする。
馬車の中でもみくちゃにされたお尻が少しひりひりするのは、シルスだけの秘密だ。
「凄く若く見えるけど、五十歳超えてるんだよぉ。若い女の子のエキス吸ってるから若さ保ってるってウワサなんだよぉ?」
「えきす、ですか。へー」
――シルスちゃん、なんのコトかよく解ってないなぁ?おぼこいなぁ。カワイイっ!
「静かに!王の御前であるぞ!私語は慎むように!」
大きな声でディロンが二人を窘めた。
「構わないよー。うるさいのはディロンの方だよ。あ、王なんつっても、大したコトないからね。村長みたいなもんだから。小さな島なんだからさー」
「王よっ!アールズの指導者、支配者としての自覚をお持ち下さい!」
「ディロンはおっかないなあ、もう。イヤー、熾炫の皆さん初めまして!急に呼び出したりしてすまなかったねえ。あ、立ったままでいいからね。
実は前々からファンだったんだよ。
『赤髪のアルシーア』『栗毛の双子』!
アルシーア君は今日は赤髪じゃないんだねー。金髪もいい!三人共に間近で見るとカワイイし将来は美人確定だね!サイン貰ってもいいかなっ?」
「アールズ王よ」
「ヴェンデルヴァイツさんへ♡って書いて欲しいなー」
「アールズ王よっ」
「出来ればキスマーク入りでっ」
「アールズ王よっ!時と場所をお選び頂きたい!!」
「声でかっ!ディロンはうるさいなあ」
「王たる者が下民に対してそのような態度では、王としての威厳を損ねますぞ!」
「はーい」
「王よ!もっと威厳と尊厳というものをお考え下さい!」
「はーい」
――チャラいなー……ファイスさんとルディフさん足して倍にしたくらいチャラいかも……
ディロンとヴェンデルヴァイツは二十歳近くの年齢差がある。
端から見ればディロンの方がよほど落ち着きがあるし『風格』というものも備わっているように見える。
「あ、でもねー。民に上も下も無いからねー。下民なんて言っちゃダメだよ。元を辿ればみんな兄弟姉妹だっていうじゃない?」
「……はっ」
ヴェンデルヴァイツの言葉に畏まって頭を下げるディロン。
忠誠心の塊のような奴だ、とアルシーアは思う。
同時に『ヘコヘコすんのは好きじゃない。あたしは絶対騎士になれないなっ』とも。
「今日は来てくれてありがとうね。ディロンに聞かされたと思うけど、みんなに竜退治に行ってもらおうと考えてるんだよ」
「考えてる?命令じゃなくて?じゃあ考え直そう!」
「あ、命令だった。書状に書いたんだった」
アルシーアが即答すると、ヴェンデルヴァイツも即答で返してきた。
二人の間に一瞬おかしな空気が流れ、目には見えない火花が飛び散る。
「あたし達はただの踊り娘だよ?竜退治なんて出来るワケないじゃん!」
相手が王でもアルシーアの態度は変わらない。とことんマイペースな娘である。
「竜退治と言っても、実際に竜がいるかは判らない。誰も見た事が無いからね」
「えっ?じゃあ、何しに行くんですか?」
「竜退治という名の調査だね」
思わず問い返したシルスの言葉にも、事も無げにさらっとヴェンデルヴァイツが答えた。
「そんなの、騎士団がやりゃいーじゃん!騎士団ムリなら冒険者とかさ!」
「それでは面白く無いだろう?踊り娘が竜退治!ワクワクするではないか!名付けて『竜の乙女隊』!どうだ!?カッコイイだろうっ?ワクワクするだろうっ!?」
「わかる!ワクワクします!」
「しないわっ!バカか、シルスっ!」
「あー!バカって言っちゃダメなんですよー!バカっていう方がバカなんですー!」
「にゃにお、このちんちくりんがっ」
「今はちっちゃくても、わたしもファルナルークさんみたいにオパイぼいーん!てなるもん!お尻は少々控え目がいいです!」
「オマエの尻の事なんか知るかっ!またファルナルークかよ、名前覚えたからなっ!」
「私語は慎むように!!」
空気が震えんばかりの大声に四人、いや、アールズ王を含めた五人がびくっと肩をすくめた。
ラズラットだけは平然と立ち『いつものこと』と涼しい顔だ。
「……えーと。ハーフエルフの君、シルス君、だったかな?」
「あっ、はい!シルスです!13歳です!えっと、べんでるばいつ様っ」
「ヴェンデルヴァイツって発音しにくいでしょー?『べんでる』ってちょっとイヤだからヴァイツって呼んでくれて構わないよ?」
「はいっ。じゃあ、ばいつ様!」
「君はどうやってあの魔方陣から飛び出したんだい?」
「えっと、それが……よく解らないんです」
「解らないの?」
「ハイ……スミマセン……」
「王の御前での隠し事は国家反逆罪とみなされる故、三人も肝に命じておくように!」
ディロンが厳しい声で四人に呼び掛けた。
アルシーアは露骨にイヤそうな顔をし、ルーフェリカ、ルーフェルメの双子は畏まって頭を下げた。
国家反逆罪という言葉に場の空気が重苦しくなる。
それを打ち破ったのは、ヴェンデルヴァイツだった。
「じゃあ、みんなのスリーサイズを教えて……」
「王よ!!」
「わーかってるよ、もう。冗談通じないなあ」
魔方陣から飛び出したのがハーフエルフでは無ければ、ヴェンデルヴァイツは四人を呼び寄せなかった。
『召喚』『ハーフエルフ』『踊り娘』この三つのキーワードが揃った為に、竜退治という名の調査を画策したのだ。
「シルス君の謎も気になる所だけど、本流は『竜退治』だからね。ここにいるディロンとラズラットをお伴にして竜退治に行って欲しいんだ。二人とも手練れだから頼りにしてくれていいよ?」
「あたしら四人と騎士二人だけ?人数少なすぎない?」
「大所帯で行くと宣伝の意味が無くなってしまうからねえ」
「宣伝?なんの?」
「ぶっちゃけると、街の宣伝の為だよ。騎士団が竜退治とか、なんにも無さすぎて面白くもなんともないでしょ?舞台で踊る三人を観ながら考えてたんだよね。インパクトのある街の宣伝とは?ってね。そこに現れたハーフエルフのシルス君!これだ!って思ったね!」
アルシーアの素朴な質問に、身振り手振りを交えて表情豊かに語るヴェンデルヴァイツ。
「例えるなら登山かな。たった独りで険しい山に挑むのと、大人数で挑むのとではその価値が違うと思わないかい?」
「山登りなんて誰が登ろうが同じだろ。独りで危ない目に合うくらいなら、大人数で行った方が安全だし楽しいし賑やかでいーじゃん?」
「解ってないなあ、アルシーア君。それではロマンがないんだよ。男のロマン、ってヤツだよ」
再び二人の間に見えない火花。
見解の相違、という火花が飛んだ。
「無論、報酬は出すよ。金銭の他に姓を授けよう。婚姻後、姓を変更する必要は無いよ。国からも証明書を発行するから、堂々と名乗ると良い。竜退治の報酬としては充分過ぎる価値だと思うけど……どうかなっ?
アールズの街の活性化に是非是非、ご協力を!僕を助けると思ってさ!」
この時代、姓を持たない者は珍しく無い。名前だけで十分事足りるし、あまり意味が無いと考えられている為だ。
だが少しずつではあるが人口が増えている今、同じ名を持つ者との判別化、トラブル防止の目的も重ね、姓を付ける流れとなりつつある。
全ての民に姓を、とヴェンデルヴァイツは政策の一つに掲げている。
「報酬……また金かよ……チッ……キツネヤロウと同じ事言うなよなー」
アルシーアは不満そうにプイッと横を向く。
「ふむ。無理矢理というのは僕の流儀に反するからねえ。三択にしよう。僕の妾になるか、国家反逆罪で打ち首か、竜退治かの三択だよ」
「じゃあ竜退治で」
「早っ!シアシア早っ!」
と、ルーフェリカがツッコミを入れる。
「このトシでメカケになんてなってたまるかっ!さっさと竜退治行って報酬もらってオサラバだっ!で?いつ行けばいいんだ?」
「明後日からだよ」
「早っ!」
と、アルシーアも即ツッコむ。
「君達、学生だからねえ。じきに夏休みも終わりでしょ?学業を疎かには出来ないからね。今日はこれで解散して、明日は装備品や食料品の買い出し。ディロンとラズラットをこき使ってくれていいよ」
「へーえ。女子の買い物におっさん二人使っていいんだー?いい荷物持ちになってくれそうじゃーん?担ぐの得意みたいだしなっ」
アルシーアが口の端をつり上げてニヤリと笑う。
特にディロンの方を見て。
シルスはパーティーを組んでの『竜退治』にワクワクしていた。
――竜退治……竜の調査かあ……旅っていうより、ホントの冒険みたいだっ!『竜の乙女隊』って響きがカッコイイ!
ん?……竜の乙女隊……?竜の乙女……って……
――その身を犠牲に竜と相討ちに……それが原因で『大隆起』が起きて……
「えっ!?あれっ!?」
シルスはようやく気が付いた。
『時の事象』の渦の中に自分達が巻き込まれている事に。
――でもでもっ!竜退治に行ったのはスゴく強い魔法少女とその使い魔のハズ……騎士さん二人とわたし達だと『竜の乙女』のお話とはつじつまが合わないよね……誰か別の人が『竜の乙女』ってコトかな……?
「明日はお買い物だねぇ、シルスちゃん!」
「えっ!?あっ、ハイ!楽しみれす!」
考え事をしていたシルスにルーフェルメが顔を覗き込むように問いかけると、シルスは、はっと我に帰った。
「明日の買い出しはもちろん全額僕が負担するからね。この冒険に必要だと思う物は遠慮無く買っていいからね!」
「やったっ!王様太っ腹ー♪」
「ホントは僕も行きたいんだけどなー。ポニテリカちゃんは僕の『推し』だからねー」
「わ!王様、アタシのあだ名ご存知なんですかっ?うれしーです!」
「王よっ!雑談の場ではありませんぞっ!」
ディロンの大きな声にまたもびくっとなる四人。いや五人。
「あー……ゴホン。それでは今日はこれにて解散とする。皆、大儀であった!」
アールズ王がその場を締めると四人の緊張感がふっとほどけた。あまり緊張していない者が若干名いたが。
緊張の糸がほどけたのは四人だけではなかった。
「お仕事終了!じゃあじゃあ!サイン欲しいなっ!ヴェンデルヴァイツさんへ♡って書いて欲しいんだっ!」
用意した数枚の色紙をどこからか取り出し、ディロンの冷ややかな目も気にせずにヴェンデルヴァイツが一人のファンとして三人にサインを求める。
軽くてチャラいアールズ王に若干戸惑いながらも『熾炫』の三人は営業スマイルでサインに応じたのだった。
竜の乙女って、わたし達!?
どうなるシルス!
次話『楽し、やかまし、わちゃわちゃタイム!』
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