やっぱりアルシーアは……
この作品は『ノベルアップ+』にも掲載しています。
――みんな楽しそうで良かった……初対面で、ほんの数時間でこんなに仲良くしてくれるなんて……
そう言えばファルナルークさんは初対面の時ツンツンだったなー……
シルスは、写真機『動くんです!』の横にあるベンチに腰かけ右手の包帯に触れながら、初対面時のファルナルークの事を思い出していた。
――おしぼりを剣みたいに構えて『そこへなおれっ』て言ったっけ……薄ピンクの給仕服似合ってたなー……
いきなりの剣幕に驚きはしたものの、給仕服姿のファルナルークを見れたのは幸運だったのかもしれない。
ファルナルークとの出会いの場面は、今ではシルスの中で良い思い出となっている。
ふとアルシーアが、ぼんやりと思い出に浸るシルスのくたびれた包帯に気付いた。
「シルスの包帯、汚れてるなー。取り替えてやるよっ」
「えっ?ダイジョブですよっ。まだキレイですよっ」
「シャワーする時も、メシ食ってた時もずっとそのままだったろ!?包帯取り替えないと傷口化膿して腐って手首ごともげるんだぞっ」
「もげ……っ!?手首ごと!?」
「ほれ、手ぇ出しなよ。リカ、救急用具貸してくれ」
「はいよー」
ルーフェリカがカバンから小箱を取り出しアルシーアに手渡し、アルシーアがベンチに座るシルスの前に膝を付く。
「それ、いつも持ち歩いてるんですか?」
「踊りやってるとねー、ちょいちょい怪我したりするのね。コワイのは捻挫とか骨折なんだけど、転んで擦りむいたりとか、何かにぶつけて切ったりとか珍しい事じゃないからねー」
「怪我は勲章!でも怪我するヤツはヘタクソなんだからなっ」
「そう言うシアシアが一番ケガしてるんだけどねー」
「うっさいなー。練習でケガしても公演中はケガしなかったろっ」
ルーフェリカと喋りながら、アルシーアは手際よくシルスの右手の包帯を外すと消毒し軟膏を塗り、新しい包帯をくるくると巻いた。
器用なものだ。
これと全く同じ光景をシルスは思い出していた。
アールズの街の中でいつの間にか手を切り、ファルナルークに傷の手当てをしてもらった事を。
あの時と同じように、ファルナルークと同じようにアルシーアが膝を付いて包帯を取り替えてくれている。
長い睫毛がまばたきをする度に前髪を揺らす。
金色の髪からはいい香りがする。
しなやかで長い指。
キレイに磨かれ整えられた爪。
ファルナルークよりもやや幼い顔立ち。
ほんの数日前の出来事が繰り返されているような、不思議なループ感。
シルスは直感する。
その血で感じ取る。
――……絶対、間違いない……シアさん……ファルナルークさんのおばあちゃんだ……わたしとも……繋がってるんだ……
手当てを終えたアルシーアが顔をあげると、空色の瞳に自身の姿が映っているのが判るくらいの至近距離で目と目が合う。
一瞬、どきん!と胸が高鳴り顔が熱くなっていく。
「傷口はキレイに塞がってるから、次はもうホータイ要らないだろ」
そう言うとアルシーアは、ぽんぽんとシルスの包帯に軽く手を触れた。
『早く怪我が治りますように』
この島に住む者なら誰もが知る、おまじないの意味合いが込められている仕草だ。
ルーフェリカはにこやかに二人を見ているが、ルーフェルメは少し妬いているようだった。
「あ、ありがとうございますっシアさん!」
新しい包帯は、ファルナルークに巻いてもらった時と寸分違わぬ巻き方である。
「これはもういらないだろ?汚いしくっさいし」
「あっ!捨てないでぇっ!」
ゴミ箱に投げ入れられる寸前でシルスは包帯をアルシーアから取り戻した。
先ほどまでの胸の高鳴りも、火照った顔の熱も一気に冷める。
「なんだよ、要るのか?それ」
「大事なものなんですっ!」
「そっか。まあ、いーや。さてと、帰ろうぜ!明日からの残り少ない短い夏休み満喫しないとなっ!」
――はっ!夏休み……そうだった……
未来に帰れなくなっている厳しい現実を思い出し我に返るシルス。
――……どうしよう……このまま、この時代で生きていくしかないのかな……
シルスは思い詰めた顔で、汚れた包帯をきゅっと握り締める。
「なんだよ、そんなカオすんなよ。そんなに大事なホータイだったのかー?」
「え、イヤ、ちが……っ」
「シルスは何処に泊まってんだ?暗くなってきたし送ってってやるよ」
「あのっ、わたし……っ、行くトコロが無いんですっ」
「え!?」
さすがのアルシーアも予想しない回答に思わず声が出た。
「行くとこ無いって、どういうコトだ?」
「夏休みを使って旅してたんですけどっ、その、手違いで行き先間違っちゃってココに出ちゃって……あのっ、今晩寝る場所も無いんです……」
「ふーん。詳しい話は後でいーよ。暗くなってきたしさ、あたしらの宿泊所来なよ。メシも風呂もあるし。打ち上げ会場であんまり食えなかったんだろ?いいよな?リカ、ルメ」
アルシーアのおおらかで大雑把な性格。
細かい事を気にする者なら、シルスは何者なのか、何処からどうやって舞台に現れたのか問い質す所だろう。
「ルメちゃんは全然オッケーよん♡カワイーシルスちゃんなら、うぇるかむ♡」
ルーフェルメは両腕を広げる身振りつきでシルスを歓迎する。
「アタシも構わないけど……一つだけいいかな?ちょっと聞きづらいんだけどさー……シルスちゃん……家出少女じゃないよね?」
ルーフェリカは慎重に、真剣な顔つきでシルスに問うた。
「家出じゃないですよう!ちゃんと両親の許可は取ってあります!」
「まー、そんなナリじゃな。薄汚れた旅服で汚いリュック抱えたハーフエルフって家出娘に見られてもモンク言えないだろ。はははっ」
ひとまず今晩寝る場所は確保出来たが、最初に転移した時にシュレスに問われた事を再び聞かれてしまった。
そんなに家出少女に見えるかなー、と汚いリュックを手に思うシルスであった。
◇
アールズの街の14番区は、演劇場や歌劇場、娯楽施設やショッピングモールが並ぶ繁華街となっている。
シルスが以前訪れた事のある17番区はオシャレな感じの街並みだったが、それとは別の様相を呈している。
時代は違えど、同じ街でもこうも違うものかとお上りさんよろしく、辺りをキョロキョロと見回すシルス。
――さらに41年前……やっぱり街の感じがちょっと違うなー……別の街に来たみたい……
先程と同様にするするっと、そうする事が当たり前のようにルーフェルメがシルスの腕を絡め取る。
「あの……ルーフェルメさん」
「なになにシルスちゃん?」
「肩がおムネにめり込んでます」
「知ってる。わざとだもん♡」
――やっぱり、わざとデスカ……
アルシーア達劇団員が泊まる宿泊所までは徒歩10分ほどだった。三階建ての小綺麗な建物。アールズの街並みのイメージカラーに合わせて白く塗られている。
行く先も寝る場所もないシルスはとりあえず一晩、ここに泊めてもらうことに。
4人部屋の内、空いた一つのベッドをシルスが使う事になったのだが。
見つかったら怒られちゃうんじゃないですか、とのシルスの問いにアルシーアは、
「公演中ならダメだっただろうけど、終わったし!その時はその時だよっ」
と、おおらかに大雑把に答えたのだった。
「シャワーしかしてないからぁ、おっきなお風呂に入りたいなあ。シルスちゃんも、ね?」
と、ルーフェルメが提案すると。
「みんなで入るか!ここの風呂はでっかいからなっ」
「いつも一緒に入ってるけど、今日はシルスちゃんいるからねー。いーじゃん、ハダカの付き合い!」
アルシーアとルーフェリカが事も無げに賛同し、シルスにとっては半ば強制的に入浴タイムとなる。
だがシルスは、これは一つのチャンスなのではと気持ちを切り替える事にした。
数名で入る風呂は、ほんのわずかな時間の間に思わぬ情報が飛び出すコミュニケーションの場でもある。
どんな小さな事でもいいから何かを得られれば、とシルスは思う。
荷物を部屋に置き着替えを持って、四人は早速、風呂に向かった。
ルーフェリカが着替えを貸すが、小柄なシルスにはサイズが合わない。
シルスはとりあえず上着だけ借りる事にした。
浴室へ向かう通路で、ルーフェルメはニコニコ笑顔でシルスの横にピタリと並ぶ。
「あの、ルーフェルメさん……」
「なになにシルスちゃん?」
「お風呂ではお静かにお願いしますね?」
「わかってるよう。ルメちゃんの方がシルスちゃんよりおねえさんなんだから、ね?」
不安しかない。
だが、言えないシルスであった。
ルーフェルメに対して若干の、いや、大きな身の危険を感じつつ、シルスは自分なりに情報収集に挑戦してみる事にした。
とりあえずアルシーア達と行動を共にするシルス。
この先どうしたものか?どうするシルス!?
次話『宿泊所での一夜 風呂場にて』
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