宿泊所での一夜 風呂場にて
この作品は『ノベルアップ+』にも掲載しています。
脱衣場に入るとすぐにぱぱぱっと服を脱ぎ捨てるアルシーアとルーフェリカ。
ルーフェルメは自分の脱いだ服をきれいにたたむ。
普段の生活っぷりが簡単に想像がつく行動と光景である。
「ルメはキチョーメンだよなー。どーせ洗うんだからいーじゃん」
「日頃の習慣が心を磨く、ってナルミさんも言ってるでしょぉ?シアシアの脱ぎっぱの服はシワシワになっちゃうんだよぉ?シアシアのココロも服もシワシワだよぉ?」
「あっ、ウマイですねそれっ」
「シアシアがシワシワ……ぷっ」
「笑ってんなよリカっ」
「シワシワのシアシア想像したら笑えた♪」
「さー、フロフロー♪アっタマもっ、カっラダもっ、キレーイさっぱーりぴっかぴかー♪」
「アタマがぴっかぴかはイヤだなー」
と、ルーフェリカ。
アルシーアは全裸で片手のタオルを振り回しながら浴室に向かう。マイペースな娘である。
シルスは自由に振る舞うアルシーアを見て思う。
――顔がそっくりだからファルナルークさんのイメージが崩れそうだなあ……あんまり見ないようにした方がいいのかもっ!
だが。
なかなかそうはいかないと、シルスは身をもって体験する事になる。
◇
男女別々の浴室にはシャワー付きのカランが五つ。湯上がり用のシャワーが二つ。湯船は広く軽く十人は足を伸ばして入れそうだ。
どこにでもあるような飾り気のない浴室だが、ヒーリングとリラクゼーションの効果を含む柑橘系の香りがふわりと漂っている。
心も身体も癒されるような配慮をされている浴室である。
しかし、アルシーアにそんな事は関係ない。
「誰もいないなっ!いやっほーう!」
アルシーアは前を隠そうともせずに広い湯船に突進し。
「ざっぱーん!」
セルフ効果音と共にお尻から湯船に飛び込んだ。
飛び散るお湯と舞い上がる湯けむり。
「もー、お子ちゃまかっ!」
「シアシア、誰もいないとコレやるよねぇ」
いつもの事に二人は諦め顔の呆れ顔だ。
「シルスも飛び込んでみなっ!キモチいーからっ」
「いえ、わたしはエンリョします」
何故かここはきっぱりと断るシルス。
静かにかけ湯をし汗を流してから、そっと湯船に入る。前を隠していたタオルは、もちろん湯船には入れない。
「おー、マナーがバッチリだね、シルスちゃん」
「このくらい当然です!お風呂の精霊さん達がビックリしちゃいますからねっ」
「だってさっ、シアシア!」
「う……わーったよ。次からやんないよ」
「おー、素直だねー。しおらしくてカワイーじゃん」
「うっさい。カワイーってゆーなっ」
やんわりと湯船に浸かってほっとひと息つく四人。
ルーフェリカとルーフェルメは髪をほどいてアップにまとめているが、アルシーアは長い髪を背に流したままである。
湯船にゆらゆらとたゆたうアルシーアの長い髪を見てシルスが問う。
「シアさん、湯船に髪つけると傷んじゃいますよ?」
「んあ?後で洗うからいーじゃん」
「えー……湯船って意外にいろんなゴミとか浮いてますよー?気にならないんですか?」
「ゴミって、インモーのコトか?」
「ファルナルークさんの顔でなんてコトを口走るんですか……っ」
「この顔はあたしのだっ。ファルナルークなんて知らんっ」
ばたばたした一日からようやく抜け出せたような気がするシルスだったが、気のせいだったかもしれない。
顔がそっくりなだけに、いろんな場面でアルシーアとファルナルークが重なって見えてしまう。
――シアさんはガサツなシアさん、ファルナルークさんはキレイなファルナルークさん!
これだけはっ!ハッキリキッパリ分別しないとっ!
「舞台終わったし髪切ろっかなー。ショートカットにしてみっかなっ」
「「「えええっ!?」」」
アルシーアがぽろっとこぼした言葉に驚いた三人の声が浴室に響いた。
「染めた赤髪が見映えするのは髪長いからだよ?舞台のコト考えたら切っちゃダメでしょー!」
と、ルーフェリカ。
「そうだよぉ。ルメちゃんはシアシアの髪で遊……髪をセットするのが楽しみなんだからぁ。切っちゃダメなの!」
と、ルーフェルメ。
「ショートにしちゃったら、ますますファルナルークさんに寄っちゃうじゃないですかっ。これ以上、ファルナルークさんのイメージが崩れるのは許せません!切っちゃダメです!」
と、シルス。
三者三様の意見はあれど、全員一致で反対なのは間違いない。
「ルメの『遊』ってのが引っ掛かるけど、三人揃ってダメってなー。」
「「「ダメです」ぅ」っ」
三人の声が見事にハモる。
「わーったよ。じゃー切らないよっ」
「ハイ!それがいいです!」
――なんとかファルナルークさんのイメージを守れそうですっ!
シルスは手を組み、ファルナルークに祈りを捧げるようにそう思うのだった。
アルシーアの『髪切る』発言は、シルスにとって問題だったようだが、まだそれ以上に大きな問題を抱えたままだ。
未来に帰れない。
これは現時点ではどうにも解決できそうにない案件である。
――んんんー……会話からきっかけを掴め!かあ。何かいい情報聞き出せるといいけど……
つくづく、シェラーラの言葉が思い浮かぶ。小さな会話からでも、思わぬ種が飛び出すものだ、と。
――よし、まずは世間話から!
「シアさん、15歳ってコトは学生、ですよね?」
「あたしら同じ学園の同級生なんだよ。シルスだって学生だろ?どこ中だよ?」
「エドール中等部、です。夏休み利用して旅して回ってるんですよー」
ウソは言っていない。
ここで変に誤魔化すと、後々苦しいような気がする、とシルスは思う。
「エドールって……どこ?めちゃめちゃイナカじゃねーのか?」
「アールズみたいなおっきな街と比べたらダメですヨー。東の方にあるイナカ町です」
「へー。遠いとこから一人旅かー。なかなか根性あるじゃん」
「そうです!ちっこいけど、なかなかやるのです!」
「明日はどうすんの?なんか予定あんの?」
「えっ、イヤ、なにもない、です」
「だったらさっ、この街案内してやるよっ。あたしらも舞台終わったからヒマだしさ!」
「え、いいんですかっ?」
「いいよな?リカ、ルメっ」
「全然オッケーだよん!」
「シルスちゃんとデートっ♡楽しみぃ!」
「じゃー決まりな!若干1名オカシイのがいるけど気にすんな!あたしがはたいてやるからなっ!」
「シアシアは自虐的だねぇ。自分で自分の事、オカシイなんてぇ」
「オカシイのはオマエだ、ルメっ」
「えー?ルメちゃんはオカシクないですぅー」
ぷう、と頬を膨らませるルーフェルメ。
「はいはい、かわいいかわいい」
「シアシアは褒め方が雑すぎるよぉ」
「さーてとっ!ぱぱっと洗ってさっさと寝るかっ!」
「公演の反省会はー?」
すらりと長い脚を湯面から出しストレッチをするルーフェリカがアルシーアに問う。
「反省?良いとこもあれば悪いとこもあった」
「……え、終わり!?」
「反省会なんて毎日やったじゃん。結果出てんじゃん?」
「まあ、ねー。出たよねー。ぽん!って」
二人はそう言うと示し合わせたようにシルスの方を見た。
「あーゆーサプライズが足りなかったんだ、ってな。シルスのおかげでわかったよ」
「いい勉強になったよ、シルスちゃん!」
思わぬ誉め言葉に、シルスはえへへと照れ笑いする事しか出来ない。
無理もない。
何故、舞台に飛び出したのか?
何故、もっと昔に逆行してしまったのか?
シルス自身にも判らない事ばかりである。
この先どうなるのか不安しかない。
だが俯いていては前が見えない。
未来に帰る方法を自分で見つけなければいけないのだ。
「明日に備えて、さっさとアタマとカラダ洗おうぜっ!」
「シアシアは遊びの事には全力だよねー」
「遊びも舞台も全力で!じゃないと楽しめないだろっ!」
「そこはシアシアのいーとこだよねー」
四人揃って湯船から出ると、それぞれが小椅子に腰かけ髪と身体を洗い始めた。
ルーフェリカは髪から、アルシーアは鼻歌まじりで身体から。
ルーフェルメは……
「シルスちゃんはスベスベだねぇ♡」
「ひ……っ!」
すいっと音も無くルーフェルメがシルスの背後に回る。
「お背中、お流ししまあす♡」
「えええエンリョしますよっルーフェルメしゃんっ!」
「えー?でもぉ、手に包帯してたら髪も身体も洗えないでしょぉ?もーエンリョなんてナシナシぃ、ね♡」
ぽよん。
と、シルスが背中に感じる柔らかな感触は……
――うわー……柔らかな手……じゃないっ!?
「おっ!オパっ!?るるっルーフェルメしゃんっ!?」
「暴れるとぉ、おフロの精霊がビックリするんでしょお?お静かに、ね♡」
ルーフェルメが大きな胸をシルスの背中に押し当てて上から下に、下から上に滑らせる過激なボディ洗い。
「シルスちゃんは華奢だよねぇ♡ルメちゃんはちょっとおでぶだから羨ましいなぁ」
「しょんなことはナイれすよっ!ルーフェルメしゃんスタイルいいれすよっ!?」
あたふたする姿を楽しむように、ルーフェルメが豊かな胸を押し付けてシルスの肩甲骨をなぞるようにするすると上下する。
さらに。
「ハーフエルフちゃんの耳……カワイー♡♡」
「みみみみはぁ、らめれすってぇあひゃあああ」
背後から柔らかな胸を押し付けられ、耳元で囁かれるとシルスはふにゃふにゃになっていた。
「こらルメっ!」
がぽん!
「あいたっ!」
ルーフェルメは洗面器でアルシーアにはたかれた。
「風呂場でちちくりあってんじゃねえっ!そーゆーのは部屋でやれっ!」
「いたいなぁ、もー。部屋でならいいのねぇ?じゃあ……お部屋で、ね?シルスちゃん♡」
「ね?じゃないですよおっ!お風呂の精霊しゃんがビックリしますからあっ!お静かにぃっ!!」
一番うるさいのはシルスちゃんだよ。
ルーフェリカはつっこまない。
面白いからである。
髪を洗いながらニヤニヤ笑みが止まらない。
「アタマはあたしが洗ってやるよっ!うりゃっ!」
アルシーアはそう言うと洗面器一杯のお湯を勢いよくシルスの頭にぶっかけた。
ざぱあっ!とお湯が飛び散る音と共にシルスの視界が一瞬、無くなる。
「ぷぁっ!?」
次いで洗髪料を手に取り泡立て、シルスの髪に揉みこみ洗い始めるアルシーア。
わっしゃわっしゃと豪快な音を立てて両手を前後左右に動かすと、シルスの頭が取れそうな勢いで揺れ動いた。
「シアさ、んっ!首がもげっ、そうっ、れすっ!」
「え?あー悪い悪い。じゃーこんなもんだろっ」
――悪いって思ってないですよねっ!?
シルスがそう思った時。
ざぱー!と再び洗面器のお湯をぶっかけられ、「わぷっ!」と軽く溺れそうになり手足が一瞬ばたついた。
――これはっ何かの修行ですかっ!?
洗面器に張ったお湯のぶっかけ。
それを三度繰り返す。
シャワーを使えばよいのだが、アルシーアは洗面器のお湯を頭からかぶるのを習慣にしているのか、すすぎに一度もシャワーを使わなかった。
洗髪所要時間、およそ2分。
雑で手荒いが早い。だが早いだけで快適ではない。
「こんなもんだろ。キレイになったじゃん」
ずぶ濡れになった猫のように、シルスの髪は頭の形に沿ってぺったんこになっていた。
「あ、ありがとーごじゃいましゅ……」
とりあえず礼はするが、二度と洗ってもらうまいと心に誓うシルスであった。
わちゃわちゃする女子四人。
これからどうなるシルス!
次話『宿泊所での一夜 四人部屋にて』
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