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解明!写真の謎!

この作品は『ノベルアップ+』にも掲載されています。


「ろっぴゃくきゅうねん、はちがつ、にじゅうくにち……」

 

 シルスはふらふらしながら思考を巡らせる。


 巡星歴650年に飛んだシルスが未来に帰る予定日だったのは。


 巡星歴691年8月29日。


 現在は、巡星歴609年8月29日。


 日付は合っているが、さらに41年も逆行してしまうとは。

 最初に過去に飛んだ時は何故か10日もずれてしまったが、無事に41年後に飛べた。

 

 特に何もしていないが、元の時代に帰還する手順に何も問題は無かった筈である。


 ただ一つ引っ掛かるのは『ぅあいてっ!』と、おそらく切り株親分の野太い声が聞こえた事だ。


 ――やっぱり、何かトラブルがあったんだ……!どうしよう……未来に帰る方法って『時渡《ときわたり》』の秘術しか無い、よね……支配人さんが言ってたっけ……彗星の年、って。

 650年に行った時って、彗星が出現する前に転移出来た……というコトは、今はまだ彗星は出てないのかなっ!?

 それなら、まだ帰れるチャンスがあるのではっ!?


「ああああにょあにょっ!アルシーアさん!彗星って、ワグランの翠《みどり》彗星ってまだ出てないんれすかっ!?」


「なんだよ急に。彗星ってアレだろ?人のタマシイかっさらっていくっていうバケモンみてーに気持ち悪いほうき星のコトだろ?」


 なんて歪んだ考え方を、と思うが口には出さない。


『昔には昔の考え方、思想というものがある』


 シェラーラの言っていた事にはよくよく納得させられる。


「シアシアのは曲解だよー。彗星が見えてたの10日くらい前だったかなー。毒ガスでみんな死ぬとか、毒ガスでみんなゾンビになるとか、毒ガスでみんなバカになるとかおかしな噂が広まってさー。

 大騒ぎしてある意味お祭りだったよ。面白かったよー?結局何も起きなかったけど!アタシはキレイなほうき星だと思ったよ?」


 と、ルーフェリカが明るく言う。


「10日前……彗星は、もう見えない……?」


 と、言うことは。


 彗星の魔力を主軸とする『時渡《ときわたり》』の秘術は使えない、という事である。


 シルス成す術無し、進退窮まれり。


『彗星って足が早いからねー。見えてても2~3日かな』


 旅立つ前、メレディスが言っていた事を思い出す。


「これはっ……なんとかっ、ならないのではっ……」


「シルスちゃんはぁ、もしかして彗星に乗ってルメちゃんに逢いに来たのかなぁ?だったらロマンチックよねぇ♡」

 

 するするっとシルスの腕を絡めとるルーフェルメ。弾力の良い大きな胸をシルスの肩にぽよよんと押し付ける。


「……シルスちゃん?大丈夫ぅ?」


「えっ!?あ、ハイ!ダイジョブれす!」


「大丈夫に聞こえないよぅ、それ」


 ルーフェルメが心配そうに、心ここにあらずのシルスをじっと見つめる。


 シルスも、ルーフェルメの翠の瞳を見つめ返す。


「ルーフェルメさん……そんなに優しくされると、わたし……」


 困窮するシルスの心にルーフェルメの優しい心遣いが染み込んでいく。

 柔らかくて、温かくて、いい匂いがして。


 見つめ合う二人。


「……シルスちゃん……♡」


 すうっ、と自然に、あたかもそれが日常のようにルーフェルメがシルスの唇を奪いにいく。


 あともう少し、の所で、はっ!と我に返るシルス。

 しゅっ!と自身の唇を右手の指でガードすると、ルーフェルメの柔らかな唇が人差し指と中指の爪の辺りに触れた。


 すぱっ!と、瞬時に、勢いよくルーフェルメから離れる。


 ――ぎっ、ぎりぎりだったっっ!危なっ!ルーフェルメさんっガチ勢だっ!シュレスさんもヘンタイさんだったけどっ、キスしようとまではしてこなかったっ!


「わたしにはっ!ファルナルークさんって想い人がいるんですっ……だからっごめんなさい!」


「……え、なに?今、ルメちゃん、フラれたのぉ?」


「みたいだなっ。残念だったな、ルメ!さっきのあたしと同じだなっ!」


「シルスちゃん……好きなひといるんだ……でもルメちゃんは諦めないよ!遠くの恋人より近くのセフレって言うじゃない!?」


「せっ、せふれっ!?」


「スフレだよスフレ!ふわふわの食いもんのコト!ルメっ!シルスに変なコト吹き込むなよっ!」

 ぺち!

「あいたっ!」


 またも後頭部をはたかれるルーフェルメ。


「さっきからずっと、誰なんだよ、ファルナルークって。まあいいや。いい響きの名前だからメモっとこう。リカっ、ペン貸してくれっ」


 アルシーアはルーフェリカからペンを受け取ると、写真の裏にサラサラと走り書きで『ファルナルーク』と書いた。


 これで写真の人物と名前が一致しない謎が解けた。


 写っているのはアルシーアなのに、メモ代わりとして『ファルナルーク』と写真の裏に書いたものだったのだ。


 ――えっ……?待って待って!?うん、待つ!わたしはもっと過去に飛んじゃって、知らない場所に出ちゃって、知らない人達と一緒に行動して。

 でも、知らない人じゃなくって、写真の人がファルナルークさんじゃなくって、アルシーアさんで、650年からさらに41年前に……

 かーさんは写真見てファルナルークさんて言ったケド、ファルナルークさんじゃなくって。

 でもファルナルークさんは、わたしのおばあちゃんってコトは判ってて。

 アルシーアさんは、ただのそっくりさんじゃなくって……!

 年齢的に考えて……おかあさん、ていうよりも……

 アルシーアさんが……ファルナルークさんで……え……つまり……ファルナルークさんの……っ


 おばあちゃん!?


 ぐるぐると思考が迷走し、たどり着いた答えはそれだった。


 ファルナルークが語っていた。

 厳しくて、優しくて、おおらかで、おおざっぱなおばあちゃんだったと。

 

 まさに当てはまる。『優しくて』が、ちょっとひっかからないでもないが。


 ――アルシーアさんがファルナルークさんのおばあちゃん……つまり、わたしの、ひいひいおばあちゃん、ていうコトだよね……


 アルシーアがひいひいおばあちゃんであるという証拠は無い。

 ファルナルークは写真を見ていないし、祖母の名前を言っていない。

 何か一つでも確信出来るものがあれば。


 ――でも、わたしと血が繋がってるって解ったところで何も解決しないよね……

 

 そうは思っても、一度気になってしまうとモヤモヤが残ってしまう。ファルナルークが語っていた事を必死に思い出してみる。

 

 ――なんか教わったって言ってたようなっ!なんだっけっ……

 

『剣術と体術はおばあちゃんから教わったんだよ』


 ――これだっ!剣術と体術!


「あのあのっ!シアさんて剣術と体術、どっちが得意ですかっ?」


「なんだいきなり?剣術はこれから習うつもりだけど、体術ならそこそこ強いぞっ!」


「それって『流転空《るてんくう》』ですかっ!?」


「へー、シルス、『流転空』知ってるのか。なかなかマニアックだなー。聞いて驚け!あたしは流転空三段だ!これのおかげで踊りのキレも増したからなっ!」


 シルスは、これで状況証拠的にまた一歩核心に近付いたと考える。


 アルシーアはファルナルークの祖母である。と。


 ――こんなことって、あるっ!?


 呆然と立ち尽くすシルス。


「ホラホラ!今度はオマエ達な!時間ないみたいだから、ぱぱっとな!」


「アタシらは髪型変えるだけだからねー、カンタンカンタン!」


 ルーフェリカはポニーテールをツインテールに、ルーフェルメはツインテールをポニーテールに髪型を変える。

 双子だけあって顔は同じだが、胸の大きさでどちらがどちらかの見分けはつく。


「なんでリカの方がねーちゃんなのにムネちっさいんだろーなっ!」


 アルシーアが意地悪そうな顔で言う。


「いつも言ってるでしょー?ルメに栄養吸い取られちゃったんだ、って」


「おかげでルメちゃんは肩が凝るのですぅ。どうどうシルスちゃん?久々のポニーテール♪」

 

「えっ、あ、とっても似合ってマス!」

「むふー♪うれしいっ!」


 二人が並びポーズを取るとやはり、見映えが良い。劇場での歓声の大きさも頷けるというものだ。 


「これ、静写真《ストップ》も撮れるんだよねー。ルメ、一緒に撮ろうよ!」


「シルスちゃんもぉ、ねっ!」

「えっ!わたしも?いいんですか!?」


「もちろん!楽しい思い出だもん」


「なんだよ、仲間ハズレかよ!アタシも入れろっ!」

「えー?シアシアもー?狭いのにー」


「あたたっ、シアさん、押さないで下さいよぉ」

「わちゃわちゃしてて楽しいねえ♪」


「よーし撮るぞっ!キメ顔しろよっ」


 アルシーアがシルスの真横に場所をとり、至近距離で肩を並べる。


 ――近くで見てもやっぱり、似てるなあ……


「シアシアは、もうちょいお胸が欲しいトコだよねー」


「そういえば……ファルナルークさんの方が胸おっきいかも……」


「あ!?ぶるんぶるんしてるだけで踊りのジャマだ、あんなもん。将来、ゼッタイ垂れるし!なあ、ルメ!」


「ルメちゃんのおムネは癒し系なんですぅー。邪魔なんかじゃないですぅー。ふわふわのぽわぽわだから垂れたりしないんですぅー。ね、シルスちゃん♡」


 狭い写真室《フォトルーム》の中で四人が密着すると身動きが取れない。

 ルーフェルメの大きな胸を横顔に押し付けられる格好になり、小柄なシルスは動けない。


「おっ、オパ……っ」

「シルスちゃん、やっぱりカワイイっ♡」


 シルスを真ん中に、右側にアルシーア、左側にルーフェルメの並びになる。ルーフェリカはわずかに空いた上のスペースに逃げている。


「シルスちゃん、つぶれないでねっ?」

「うっ、動けましぇん!」


『撮りますよ~♪こっち向いて笑ってね~』


「ホラ、笑えってさ!」

「はい!シルスちゃんもにっこり~♪」


 ウィーン、カシャ!


 狭い写真室《フォトルーム》からようやく解放されて、ほっと一息つくシルス。

 しばらく待つと写真が現像されて出て来た。


 写真に写るのは、シルスを真ん中に右側にアルシーア、左側にルーフェルメ。

 シルスの頭に顎を乗せ乗て、にかっと笑うルーフェリカ。

 アルシーアの肩とルーフェルメの大きな胸に顔を挟まれて、上からはルーフェリカに顎を乗せられ動けないシルスの姿。

 ぷふふと吹き出す三人は笑顔だが、シルスはちょっとだけ不満そうだ。


「おー♪いいもの出来たよねぇ」


「面白いよな、こーゆーの。毎日のこんな小さな事が友情のエサになるんだなっ!」


 シルスは、何気なく言うアルシーアの言葉を聞いて、別れの夜にファルナルークが言っていた事を思い出す。


 ほんの小さな出来事が友情や愛情を育むのだと。それは、おばあちゃんから教わったんだよ、と。


「シアシア良いコト言ってるのに、エサって。なんか台無しだよねえ」


 アルシーアが喋る度にシルスの中のモヤモヤが晴れていく。


 ――シアさんがファルナルークさんのおばあちゃんかあ……ガサツな性格がファルナルークさんに移らなくて良かったなー……


 写真を眺めながらしみじみと思うシルスであった。



 次話『やっぱりアルシーアは……』


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